「忍法の一覧」火遁、水遁とは何か。分身は本当に可能だったか

水遁の術

遁法忍術について

 典型的なイメージにおいても、忍者ものの創作においても、『忍法(ninja art)』といえば、むしろ『忍術(ninja technique)』と言えばこれである。
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よく陰陽五行説より、『火遁かとん(fire-escape)』、『水遁(water-escape)』、『木遁(wood-escape)』、『金遁(metal-escape)』、『土遁(land-escape)』の五遁などと言われる。
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 一般的に、遁術とは隠れる術だったとされている。
例えば火遁は、火を使って敵を引き付けたりして、隠れたりする術であったのだという。

 『地遁十法(Ten arts of earth-escape)』、『天遁十法(Ten arts of sky-escape)』、『人遁十法(Ten arts of creature-escape)』と十遁が三つで全30もの遁術があったという説もある。

 地遁十法は、地形や自然環境、人工物を使うもの。
天遁十法は、雨や雷などの天候を使うもの。
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人遁十法は、人や動物を使うもの。

 上記の分類では、五遁は地遁十法に含まれる。

 また、忍法と、いわゆる忍術の違いは、普通は起源が、創作か実際の記録かの違いと言われる。
実在した忍者がどのような存在であったかはともかく、彼らが自分たちの持つべき技能としていたのが忍術である。
一方、忍法は、創作などに登場する、実際にはありえないような魔法のような忍術の通称である。
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地遁十法

火遁の術(Art of fire-escape)

 火薬などを駆使して、隠れたり逃げたりする術だったようだが、単に火薬の知識や技術が、火遁だったとも言える。

 忍法ならば、火を操る術。
五行説において元素である火は、自然の真の理を知る者ならば、定められた手順で、利用できたろう。
五遁の術が一般的なのは、簡単だったからかもしれない。

 よく創作で出てくる「火を吹く火遁の術」は現実に可能だろうか?
火を吹くでなく、息を使う火炎放射なら可能かもしれない。

 こういうのはどうであろう。
可燃性の気体を閉じ込めた特別製の容器がある。
その気体は、専用のパイプなどを通し、息を吹きかけた勢いで放つ事が出来る。
放ったそれが燃えるのもいいが、それはちょっと危なすぎるから、燃えるきっかけとなる素材を、放った気体に投げて、火を上げるとか。 
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水遁の術(Art of water-escape)

 実際に利用されたという「狐隠れの術」のように、水中に潜んで、敵をやり過ごす術のイメージが強い。
実際には、単に水中にものを落とした音を利用したり、とにかく水に関連した技は全て水遁でよかったかもしれない。

 忍法ならば、水を操る術。
水も五行説では元素成分であるから、自然の理を知るなら、それで使えたかもしれない。

 水は、火よりは安全に扱えるかもしれないが、逆に攻撃には使いにくいと考えられる。
ただし、それは個人を相手にした場合である。
実際の歴史上の戦いにおいて、塞き止めておいた川の流れをタイミングよく一気に解放する事で、敵軍に多大な被害をもたらした例は普通にある。
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木遁の術(Art of wood-escape)

 木々を利用し隠れ潜む術。
おそらく木の上に昇る事で隠れる「狸隠れの術」は、これに含まれると思われる。

 忍法ならば、木を操る術。
やはり木は五行説における元素だが、この木というのが何なのかは、五行元素の中でも最もつかみにくい。
まあ、おそらく植物を作る基本成分的なものなのであろう。

 木々の成長を促せるなら、便利である。
更地よりも森の方が、隠密活動を行う忍者にとっては仕事しやすいだろう。
だから森がなければ、まさに作るのが木遁なのではないだろうか。

金遁の術(Art of metal-escape)

 お金や金属などを利用して隠れる術。

 忍法ならば、金を操る術。
当然、金も五行的に元素である。
そして単なる鉄とかを黄金に変えられるなら、これは西洋における錬金術と同じ類のものかもしれない。
自らの体を改造して強くなるなら、金属がよいだろう。
直接的な打撃や防御などの為に手などに仕込んだ金属も、金遁かもしれない。
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土遁の術(Art of land-escape)

 土を利用し隠れ潜む術。

 忍法ならば、土を操る術。
土は五行元素の中でも、特に戦場においては、一番身近な元素かもしれない。
なので戦闘における実用性はかなり高いのではないだろうか。

 普通にモグラのように地下を掘り進む事が出来るならば、開けた野外でもこっそりターゲットに近づける凄い技であろう。
また、土の粘りなどの性質を変えたり出来るなら、即席の落とし穴も作れると考えられる。
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その他の地遁忍術

 五遁以外の地遁は、いずれも五遁のいずれかと被っていて、マイナーチェンジ版とも、特化版、あるいは劣化版ともとれる。
会わせ技の可能性もある。

『煙遁(smoke-escape)』
煙を利用。火遁と被る。
熱で気化する水や木や金と組み合わせたもの?。

『湯遁(hot water-escape)』
湯を利用。水遁と被る。
火遁で温度を高めてる?

『草遁(grass-escape)』
草を利用。木遁と被る。
合わせなら、何との組み合わせだろう?土?

『屋遁(building-escape)』
建物を利用。ちょっと微妙だが、金遁と被る。
木や土も建物の素材になるので、それとの組み合わせ?

『石遁(stone-escape)』
石を利用。土遁と被る。
石を砕いたり、加工したりする金との組み合わせか?あるいは余計な添加物を洗い流す水との組み合わせ?

天遁十法

 実態は、嵐に紛れてとか、天体の位置などから時刻などを把握、程度の忍術だっと思われる。
しかし天を操るなんて、忍法としては、とりあえずスケールが大きい。

天体を利用する術

『日遁(Sun-escape)』
太陽を利用。
しかし現代的観点から言えば、太陽と言えば、エネルギーの源である。
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ソーラー発電はある意味、これかもしれない

『月遁(Moon-escape)』
月を利用。
昔は月の薄明かりが、真っ暗な夜を照らしてくれる、ありがたいものだった。
オカルトなしかつ忍法として解釈するのが難しい。
偽の月を使うとか?

『星遁(star-escape)』
星を利用。
月同様、オカルトなしでの忍法解釈は難しいが、こちらの方が言葉的に、自由にしやすいかも。

『雲遁(cloud-escape)』
雲を利用。
どちらかというと天候の方に入るかもしれない。

天候を操作する術

『雨遁(rain-escape)』
雨を利用。

『雪遁(snow-escape)』
雪を利用。
もし仮に、天遁系忍法が、天候を変える魔法のようなものなら、雨遁と雪遁は、同じ機構の技で、単に気温によるヴァージョン違いなのかも。

『霧遁(fog-escape)』
霧を利用。
雨遁との違いが微妙。

『風遁(wind-escape)』
風を利用。
西洋の四大元素説における元素であるが、忍法は五行説と関連が深そうだから、違う解釈のはずである。

『雷遁(thunder-escape)』
雷を利用。
強力な避雷針使えば、かなり恐ろしい術かもしれない。

『電遁(electricity-escape)』
電気を利用する。
雷 「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係
雷ではないかという意見もあろうが、時代を考慮すると仕方ないだろう。
アメリカでフランクリン(1706年~1790) が、雷が実は電気だと示したのは、ようやく18世紀になってからである。
電気実験 「電気の発見の歴史」電磁気学を築いた人たち
むしろこれは現代の忍術ではなかろうか?
つまりコンピューター忍術である。

人遁十法

 わりと現実的かと思われる。
忍術としてはリアリティーあるが、忍法として物足りない。
かなり非現実的だが、忍法として考えるなら、『変化の術(Art of transform)』というのが、これなのかもしれない。

『男遁(man-escape)』
男を利用。

『女遁(woman-escape)』
女を利用。

『老遁(old-escape)』
老人を利用。

『幼遁(young-escape)』
子供を利用。

『貴遁(noble-escape)』
貴族を利用。

『賎遁(poor-escape)』
卑しい身分の者を利用。

『禽遁(bird-escape)』
鳥を利用。
多分コウモリも鳥扱い。
風切り羽 「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応 月夜のコウモリ 「コウモリ」唯一空を飛んだ哺乳類。鳥も飛べない夜空を飛ぶ
『獣遁(beast-escape)』
陸上動物、主に哺乳類を利用。
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『虫遁(insect-escape)』
虫を利用。
実は虫とは、爬虫類や両生類を含んだ分類だったらしいのは注意。
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『魚遁(fish-escape)』
魚を利用。
多分魚というか水生生物。
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分身の術(Art of avatar)

 素早く動く、あるいは敵の視線を惑わし、術者があたかも分身したかのように見せる技。

 幻や残像でない場合もあるが、そうなると、意志があるのだろうか?
もし意思まであるならば、本物とは、実在とは、というような問題になりうる。
例えばあなたが誰かの分身だとして、本体から「もう用はすんだから消えろ」と言われたらどう思うか想像してほしい。
あなたには多分「お前が消えろ」と言う権利がある。

 あるいはあらかじめプログラム通りに動くロボット的なものなのかもしれないけど。
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変わり身(空蝉)の術(Art of alternate(empty))

 敵に丸太などを術者だと錯覚させる技。
あるいは身近な物と瞬時に入れ替わる技。
フィクションなどでは、まるでテレポーテーションによる緊急回避のように描かれる事が多い。
 
 入れ替わなければならないでよいなら、なぜかわすだけでなく、変わり身になる物をわざわざ自分のいた場所に置くのか?
普通におちょくっているようにしか思えない。
案外、挑発的な技?あるいは敵の精神への揺さぶりとか?

 また、服など身に付けていた物を使う、あるいは残す変わり身の術を、『空蝉うつせみの術』という。

その他の忍法

『影縫いの術(Art of shadow stitch)』
よくわからないが、敵に暗示をかけた上で、その影を武器で打ち、敵の動きを止める術。
『金縛り(binding hand and foot)』とも、『催眠術(hypnotism)』とも呼べそうな忍法。

『影分身(Art of shadow avatar)』
分身の術の派生か、別名かが微妙。
派生だとして、虚像でなく、実体に分身するのが影分身とする説。
(例えば鏡に映る姿など)媒介を利用する分身の術だという説などがある。

『口寄せの術(Art of order)』
動物などをその場に出現させる。
単に別の場所からの場合と、異世界や別空間からの場合がある。
ループ量子空間 「ループ量子重力理論とは何か」無に浮かぶ空間原子。量子化された時空
ほとんど召喚術。

忍者は超人であったのか?

伝説の起源

 現実的に忍者という連中を解釈するならば、昔の諜報機関というような感じだったのではないだろうか?
戦いにおいて情報戦が大事なのは言うまでもない。
手裏剣 「忍者」技能と道具、いかにして影の者たちは現れたか?
しかしフィクションでなく、真面目に忍者について書いた本でも、単なるスパイなどでなく、忍者を超人か魔法使いのように記述しているものがけっこうある。

 実際のところ、忍者について調べた人の大半が抱く真相はこうである。
「つまり、戦国の忍者の超人的な活躍は、後世の平和な時期に就職難な忍者が、自分たちのアピールのために、大袈裟に語った」
どういう事かというとそういう事だ。
争いが絶えない戦国時代には、引く手あまただった情報戦のスペシャリストたちも、太平な江戸時代には需要がなくなってしまった。
江戸の街 「江戸の生活文化の雑学」江戸時代とはどんな時代だったか
そこで就職難な忍者たちは、懐古主義に走ったわけである。
忍術を、手品のように披露したりして、「先代はもっと凄かった」などと熱く語ったわけである。

 忍者超人伝説の始まりはそのような感じだったろうとされている。

忍者たちの神秘主義

 そもそもよく指摘されるように、忍者の役割は潜入任務などが主であり、武芸訓練の時間は武士よりずっと少なかったはず。
なのに武士にも勝るくらいの高い身体能力など、本当に持っていたはずがない。

 注目すべきは忍者というのは、集団であり、教えられるものであった事。
つまり真の忍術というのは、適切な教えを受け、真面目に学んだなら、多くの者が身に付けられた可能性が高いという事。

 一方、魔法めいた忍法は、ただのフィクションであろう、と考えるのは容易い。
だが忍者が真に裏の裏まで読む情報のスペシャリストならば、基本的な技(忍術)を隠れ蓑に、秘密の奥義(忍法)を会得していたとは考えられなくもないであろう。

 世界中の様々な文化に神秘主義はある。
ヨーロッパには、悪魔や天使との契約。
中国には、道教。
月夜の魔女 「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか 「道教」老子の教えと解釈。タオとは何か、神仙道とはどのようなものか
忍法も実は同じようなものだったのではないだろうか?
つまり忍術を学ぶ者たちの間に生まれた、独自の神秘主義。
それこそ今、忍法と呼ばれるものだったのではないだろうか。

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