忍術書、万川集海
かつて、戦国の時代に活躍した忍者たち。
彼らが駆使した忍術とはいかなる技であったのか。
ここでは、現代に残る数少ない忍術書『万川集海』に書かれた、単なるイメージとは違う、本当の忍術について紹介したいと思う。
「川が集まりて、海となる」
その名が示すように、万川集海は、かつて忍者という集団の二大総本山であった伊賀、甲賀地方で学ばれてきた、49もの流派の忍術の極意を集大成させた指南書である。
暗号術。五色米、即席ペン
優れた忍者が忍者である事を見破るのは容易ではない。
彼らは隠密を第一とする。「忍者」技能と道具、いかにして影の者たちは現れたか?
たいてい誰かに仕える忍者は、その仕える誰かと文書をやりとりする場合に、暗号文を使う。
流派によって様々な暗号体系があるが、基本的に忍者の用いる暗号文は、暗号文である事すら見破れないように書かれる。
つまり忍者が書く暗号文は、普通に読んだ場合にも、しっかりと意味が通る文章になっているのだ。
それに加え、優れた忍者は、知られて問題ない部分はあえて暗号化しない。
仮に同じ流派の忍者が解読にかかったとしても、容易に隠したい真の情報には辿り着けないわけである。
忍者はその時その場にある物で文を書く。
水、火、灰で書ける。
だがその方法は口伝のみ。
また、紙の文字でなく、特定の置き方、並べ方などで、仲間にメッセージを残す道具に『五色米』がある。
これは名の通り、着色した米だが、米などで非常食にもなる。
着色しているのは、実用性的な意味より、野性動物に食べられない為の対策的な意味合いが強いという。
潜入。どんな警備でもすり抜けるための方法
忍者は、何らかの施設に潜入する達人である。
優れた忍者ともなれば、ネズミ一匹通れぬような館でも、あっさりと潜入し、好き放題に暗躍出来るという。「ネズミ」日本の種類。感染病いくつか。最も繁栄に成功した哺乳類
参差(かたたがい)の術
あらかじめ敵を観察し、その服装から仕草、性格までを完璧に把握する。
その後、把握した姿を真似て、堂々と敵地に入り込む術。
当然コピー対象を事前に捕らえるなどしておけば、より成功率は上がる。
妖者(ばけもの)の術
普通、成り済ませるとは考えられにくい、芸達者な専門家に成り済まし、敵への接近を図る術。
もちろん怪しまれないよう、プロと変わらぬ芸の技術が必要となるが、上手くすると正体をかなり隠しやすい。
水月の術。(驚忍(きょうにん)の術)
水月の術は、囮などに敵の目を向けさせて、その隙に潜入などを行う術。
この術は、参差の術と相性がよく、組み合わせれば効果は増大する。
あるいは状況によって切り替えるのも有効である。
例えば、潜入したい城の前で騒ぎをお越し、人が大量に出てきたところで、潜入を試みる(水月の術)。
しかしこの時、予想外に厄介な城の自動トラップを前に、一旦潜入を断念したとする。
そこで、とりあえずは、城から出てきた人達をよく観察しておき、後日その姿を真似て潜入したりするのである(参差の術)。
また、大きな音など、驚かせて気をそらさせる水月の術を、特に「驚忍の術」と言う。
谷入の術
戦闘中にわざと捕まったり、混乱に紛れたり、仲間と一芝居演じたりして、敵に取り入る術。
潜入系の術の中でもかなり基本的なものだという。
桂男(かつらお)の術。(袋飜(ふくろがえし)の術)
敵になりそうな者、敵になる可能性がある者の周辺に、あらかじめ近づいて、あるいは味方の忍者を近づけて、信用を得ておく術。
この術を普段から上手く使っていれば、どんな戦いも、戦う前から勝利しているようなものである。
桂男の術中で、敵に取り入り、活躍の機会を待つ者を『蟄虫』という。
蟄虫には、忍者としての技術はそれほど必要でないが、容姿に優れている事が望ましいとされる。
しかし、敵に情が沸いた蟄虫忍者が、そのまま裏切って二重スパイになってしまわないか、という懸念もあるかもしれない。
だが忍者とは何よりも本当の主君や仲間への義を第一とする者たちである。
よって、仮に敵に情が沸こうとも、実の味方を裏切るような奴は、(三流とかですらなく)忍者ではない。
また、桂男とは、月に住む伝説の仙人らしい。
蟄虫とは、土の中などで冬を越す虫の事である。「昆虫」最強の生物。最初の飛行動物
普通、桂男の術は、忍者である事を隠して行う。
しかし相手によっては、あえて忍者として従うふりをする場合もあり、その場合は『袋飜の術』と言われる。
如景(じょけい)の術
桂男の術の上級版とも言える術。
謀反の兆しを素早く察知し、その計画に全く自然に同調する(ふり)などして行う桂男の術。
また偽の妻子を用いて行う桂男の術を「仮女仮子の術」という。
偽の妻子ももちろん忍者であり、主に2パターンある。
偽の妻子を人質として、取り入る相手の信用を得るパターン。
それと、人質として、出した偽妻子を蟄虫とするパターンである。
くノ一の術
「くノ一」という言葉は女という字を分解したもの。
つまりくノ一の術とは、女性を敵方に潜入させる術である。
女というだけで油断する者は、男にも女にも多い。
勘違いされがちだが、実は最大のターゲットは男ではなく、男性嫌いの女である。
山彦の術
自分の失態をひどく責められ追放されてしまう。
というような一芝居を仲間たちと打って、敵側に下ったりして、潜入する術。
不幸を情に訴えたりするが、もちろんそんな不幸もでっちあげだったりする。
隠簑(かくれみの)の術
隠身の術ではない。
隠簑の術は、潜入系の忍術の中でも、秘伝中の秘伝。
いわば究極の潜入術である。
口伝のみで伝えられるもので、その詳細は一切不明。
しかし、敵に自分の事が完全に知られていようとも、一切関係なく、潜入する事が出来る術らしい。
情報操作。忍者たちが活躍するための最大の舞台
情報戦こそが、忍者が最高に活躍する場である。
忍者は様々な偽情報を駆使して、敵を混乱させ、破滅や弱体化へと導く。
弛弓(しきゅう)の術
潜入していた忍者が、ここぞという(もう隠密行動が必要ない、あるいは出来なくなった)タイミングで、正体を明らかにし、本来の陣営に戻る術。
もちろん敵の動揺や、味方の士気のアップも狙える。
蛍火の術
潜入先にて、あえて自分がスパイだとバレるように仕向け、拷問などに屈したふりをして、偽情報を白状する術。
自分以外にもう一人、別のスパイに、自分を密告させるのも、(それで別スパイの信頼度は上がるので)有効である。
里人の術。(身虫(みのむし)の術)(天睡(てんすい)の術)(虜反の術)
敵の一部を、金や名誉などを餌に引き抜き、スパイに変える術。
通常、あまり優れた敵将は対象に出来ず、むしろ引き抜いた敵の下っぱをコネとして、自身の潜入などを容易にするのに使われる事が多い。
自らは手を下さずに、引き入れた相手に、敵に潰させる場合は、里人でなく、腹から食い破る虫という事で、「身虫の術」と呼ばれる。
自分たちに取り入ろうとした敵スパイを、味方にひき込む場合は、「天睡の術」となる。
また、引き込むのが捕虜ならば『虜反の術』となる。
先考の術
行動しやすい平時において、いざ戦いとなった時に役立つあらゆる情報を収集しておく術。
特に、すぐにでも潜入出来る経路や、潜伏できる場所、変装できる相手を確保しておく。
違(たがい)の術
敵陣営などで、全く嘘の掛け声を上げる術。
東に逃げた味方を逃がす為に「西に逃げたぞ」などと叫んだりする。
あるいは自分が敵から逃げる時にも、「北へ逃げたぞ」と言いつつ南へ逃げたりすると効果的。
隠れる。敵から自分を見えなくするには
もちろん忍者と言えば忍ぶもの。
当然、隠れるための忍術は多い。
隠笠(かくれがさ)の術
藪や林、橋の下やトイレ、屋根の上や、時には人混みの中に、隠れ潜み、見聞きで情報を集める術。
忍術が情報を得る基本手段。
除景(じょけい)の術
明かりと暗闇がある場所で、暗闇に潜む事で、姿を隠す術。
視覚の次に誤魔化すべきは、もちろん聴覚である。
風や水たまりを上手く利用して音を誤魔化したりするのが基本。
鏡なども注意である。
観音(かんのん)隠れの術。(鶉隠れの術)
壁際などに立ち、顔を片目を除いて服の袖で隠し、じっと息を潜め、通りがかる敵などをやりすごす術。
とりあえず落ち着くたちに、心ではひたすらお経などを唱える。「仏教の教え」宗派の違い。各国ごとの特色。釈迦は何を悟ったのか
聴覚に自信があったり、精神力に自信がない時は、背中を敵側に向ける。
忍術書にも不思議と書かれてるほど不思議なのだが、まあまあ上手くいくらしい。
慌てて下手に逃げるより、ずっと効果的だという。
もちろん事前に掴んだ情報から、服の色などを、壁などに溶け込みやすいものにしておくと、効果的であろう。
また、体を小さくうずめて、敵をやりすごす場合は、「鶉隠れの術」となる。
狸隠れの術(狐隠れの術)
狸隠れの術は、木に登り、その上に潜む術。
草木が生い茂った木なら、相当に見つからない。
狐隠れの術は、水の中に潜む術。
呼吸のために、水中から顔だけだすのが基本だが、もちろん、そこは藻や木の葉などを被り、目立ちにくくする。
木登りが狸なのはともかく、なんで水中が狐なのかというと、昔猟師を、水中に潜んでやりすごした狐がいたという伝説かららしい。
万川集海について
万川集海。
この書の内容は、他に武器や専門道具、軍法、それに忍者としての心構えや精神論、術や技術のより具体的な使用例などとなっている。
特に心構えなどに割かれたページは多く、いかに忍者にとって心が大事だとされるのかがよくわかる。
また万川集海には、天気や吉兆を知る技として、陰陽五行などの、魔術めいた知恵も紹介されている。
しかし、フィクションで描かれるような、五遁の術などは紹介されていない。「忍法の一覧」火遁、水遁とは何か。分身は本当に可能だったか
かろうじて狐隠れの術が水遁の術っぽいだけである。
やはりあんなのは忍術(リアル)でなく、忍法(フィクション)にすぎないのであろうか?