「戦闘機」種類の基礎知識。コックピット、ステルス、追跡ミサイルの仕組み

戦闘機というのはどのような航空機か

 『戦闘機(Fighter)』とは通常、射程距離がそれほど長くない武器で、同じような航空機を相手に、『空対空戦闘(Air-to-air combat)』を行える「軍用機(Military aircraft)」と定義されている。

 軍用機とは、その名称通り、軍事的な目的に使用される航空機である。
戦闘機以外の軍用機としては、例えば「爆撃機(Bomber)」や「偵察機(Reconnaissance aircraft)」、「輸送機(Transport aircraft)」などがある。

 歴史的には初期の軍用機はすべて偵察機だったとされる。
そもそも航空機で戦闘を行うというようなイメージがそれほどなかったらしい。
しかし偵察に飛んだ航空機は敵に接近するわけだから、爆弾でも持っていけば、それを敵の頭上から投げて攻撃することができる。
そういうふうに攻撃してくる爆撃機が増えてくると、今度はそれに先に攻撃を加えて撃退するための戦闘機が考案された。
というような流れで、対空戦闘を得意とする戦闘機は開発されたのだという。

エンジン。レシプロ、タービン、ジェット、ロケット

 最初、戦闘機は「レシプロエンジン(reciprocating engine)」だったが、第二次世界対戦の末期くらいからは「ジェットエンジン(jet engine)」のものも登場した。

 レシプロもジェットも熱エネルギーを利用する熱機関である。

 レシプロは基本的には、熱エネルギーの圧力で、ピストンと呼ばれるような往復運動をする機構を介し、歯車などの回転の力学的エネルギーの推進力(つまりプロペラ)に繋げるというようなもの。

 熱エネルギーで直接回転運動を発生させるようなものは、タービンエンジンとかロータリーエンジンと呼ばれる。

 ジェットは、文字通りに熱エネルギーで、取り込んだ空気を燃焼させたりして生成したジェット(噴射)による加速を利用する。
レシプロのプロペラに比べて高速を出しやすく、速度を重視するような戦闘機においては、かなりスタンダードである。

 燃焼させるための空気を取り込むのでなく、あらかじめ内部にある化学物質を使ったりするジェットは、ロケットエンジンと呼ばれる。

ガソリン、灯油、ケロシン

 戦闘機に使われる燃料は、レシプロの場合はガソリン、ジェットエンジンの場合は灯油を使う。
ただ他のたいていの用途よりも、普通は過酷な環境下で使うことになるので、求められる規格(標準)は厳しい。
ただし最低条件が狭く、ある程度、製法や素材が限定されがちなだけで、基本的にレシプロのガソリンは地上を走る車のもの、ジェットエンジンの灯油はストーブなどに使われているものとそう変わらないとされる。

 ジェットエンジンに使われる灯油は、日本では、特に「ケロシン(灯油)」と呼ぶ。

分類。主翼やエンジンの数。任務の違い

 まず、レシプロエンジンのプロペラ機か、ジェットエンジンのジェット機か、という分類がある。
ジェット機構を利用してプロペラを回す航空機は、普通はジェット機でなくプロペラ機とされる。

 エンジンの種類による分類は当然、ジェットエンジンができてからのものである。
それ以前によくあったのは、主要なエンジンの数か、「主翼しゅよく(main wing)」の枚数での分類。

 主翼は基本的に、機体を空中へと浮かび上がらせるための力、すなわち「揚力ようりょく(Aerodynamic lift)」を発生させるための翼である

 エンジンがひとつなら「単発機たんぱつき(Single engine)」、ふたつなら「双発機そうはつき(Twin engine)」とされる。

 また、主翼の枚数が1枚なら「単葉機たんようき(monoplane)」、2枚以上なら「複葉機ふくようき(Biplane)」である。
複葉機といっても、普通は2枚であり、2枚の場合のみ複葉機とする場合もある。
その場合は3枚なら「三葉機さんようき(Triplane)」、4枚以上なら「多葉機たようき(Multiplane)」と呼ばれたりする。

多用途戦闘機

 主な任務により呼び方が使い分けられることもある。
例えば戦闘空域で敵と戦う機体を「制空戦闘機(Air superiority fighter)」。
自軍基地を防衛したりするための機体を「要撃機ようげきき(Interceptor)」という。
今は、いろいろ高機能で幅広い用途に使える「多用途戦闘機(Multirole fighter)」、いわゆる「MRCA(Multi-Role Combat Aircraft)」も一般的であるが、 古くは、そもそも設計段階から、どのような任務につくかを想定することが基本であった。

敵に見つからないようにするための工夫

迷彩デザイン、カウンターシェーディング

 戦闘機の色というのは、基本的に機体の上面が暗い色で、下面が明るい色であるのが基本らしい。
普通に、高いところを飛んでいる時は空に溶け込むように、低い高度を飛んでいるときは海とか地面とかに溶け込むような感じの色合いが好ましいとされているようだ。

 夜間に飛ぶ戦闘機は全面真っ黒に染められる場合もある。

 ようするに敵になるべく発見されないよう「迷彩めいさい(camouflage)」の効果を狙っているわけである。

 1980年代くらいのアメリカでは、光が当たりやすい出っ張った部分を暗く塗って、その他の影になりやすい部分を明るく塗ることで、視覚的な(グラデーションによる)違和感を誤魔化す、「カウンターシェーディング(Countershading)」の迷彩も採用されるようになっている。

ステルス性能の基準、RCS

 「ステルス(stealth)」とは、レーダーに捕捉されづらくなるための機構である。
レーダーは、電波をターゲットに反射させて、その反射して帰ってきて電波を再び捉え、時間差や方向などから、敵の位置情報を知る技術である。
電波 「電波」電磁波との違い。なぜ波長が長く、周波数が低いか
ステルス戦闘機は、電波が反射する際に散らばりやすいような形状や、そもそも跳ね返さないように吸収できるような素材を採用したりしている戦闘機のこと。

 ステルス性能の高さを表す基準として「RCS(Radar cross-section。レーダー反射断面積)」というのがある。
これは基本的に、電波の反射のしやすさであって、低い方がステルス性能が高い。

 RCSとはなんであろうか。
まず完全に導体な球体(つまりこの世界で最もレーダーに捉えられやすいようなボール)を想定する。
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そしてある物体が、電波を反射してしまう割合はそのままに、そのような球体に置き換えたとして、その場合の球体の断面積がRCSとされる。
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まったく何もステルス性というものを考慮していない、比較的大型の戦闘機は、これがだいたい6平方メートルくらいとされている。
一方で、高いステルス性能を持つとされるF22ラプターなどは、0.0036平方センチメートルくらいと言われる。
これはだいたいミツバチのそれと同じくらいらしい。
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レーダーでF22ラプターを捉えるのは、1匹の昆虫を捉えるくらいで難しいということだろう。
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コックピットとパイロット

1人乗りか、2人乗りか

 戦闘機は基本的に小型の航空機である。
そして用途的にも、乗り込んでいる人数は少なければ少ないほどよいだろう(無人機が一番いい)。

 戦闘などに関しては、乗っている人数は関係ないし、むしろその数を増やすのは撃墜された時のリスクが増えるだけ。

 そういうわけで初期の戦闘機は基本的に1人乗りが基本であったが、実用的なレーダーが搭載されるようになってからは、メインの操縦を行う者と、レーダー操作係の2人乗りもよく見られるようになっていった。

 大型の戦闘機であれば、簡易トイレや電子レンジがついていたりする場合もあるようだが、通常の戦闘機においては、搭乗中は食事やトイレを我慢しなければならないのが普通。
また眠気覚ましに、大声で歌ったり、(二人の場合)世間話をしたりするらしい。

キャノピー。HMD、HUD

 レシプロでもジェットでも、操縦席(コックピット)は、 キャノピーと呼ばれる透明な天蓋てんがいおおわれているのが基本。
複数人乗りの場合、座席は前後に配置されているのが基本であるが、並列配置のものも(練習機など)なくはないらしい。

 さらに様々な情報を、キャノピー前とかにつけられた透明なディスプレイ(表示装置)に投影する「HUD(Head-Up Display。ヘッドアップディスプレイ)」の機能がつけられている。

 また一般的にもVR技術でお馴染みの「HMD(Head Mounted Display。ヘッドマウントディスプレイ)」も使われる。
HMDは機能的にHUDとほぼ一緒だが、ヘルメット自体の内部に様々な情報、データを視覚化して投影するものだから、利用者の向いている方向とかに左右されないというメリットがある

パイロットの装備

 初期の戦闘機においてはコクピットが外部にむき出しであるため、一定程度以上高い高度を飛ぶ場合かなり寒いため、ものすごい防寒具で頑張っていたという。

 1930年代くらいからは、電熱線を仕込んだ専用の飛行服や、外部の音に邪魔されにくい無線機なども開発される。

 さらに音速を超えるようなジェット戦闘機が登場してからは、高い加速度(G)の 影響による、血の巡りの悪さのための失神などを防ぐために、体を圧迫し、脳への血液供給を促す「耐Gスーツ(Anti-G Suit)」も実用化した。

空の戦い、ドッグファイト

敵の背後を取るための様々な旋回テクニック

 戦闘機同士の戦いは、攻撃側、防御側が明確に分かれることが多いとされる。
基本的には、攻撃側が相手の回避行動を抑えるように動き、防御側が相手の攻撃を回避して、逆に攻撃側に回るための動きをする。

 攻撃側にとって理想的な状態とは、相手戦闘機の背後を飛んでいる状態である。

 敵に背後につかれた防御側がよくやるのは「ブレイク」と呼ばれる技、ようするに急旋回である。
そうして攻撃側に自分を追い越させてしまうわけである。
攻撃側も対抗してブレイクしてきた場合にすかさず反対側にまた急旋回したりするのは「シザーズ」という。
他にも旋回しながら降下する「スパイラルダイブ」や、 急上昇して反転する「インメルマンターン」など、 様々なテクニックがあるとされる。

 いろいろ名前はついているが、どれも基本的には、どこかの方向への旋回である。

 そしてそれらのような技を使い、お互いがお互いの背後を追いかけ回そうとするような行動が、追いかけあっている犬っぽいから、戦闘機同士の戦いは『ドッグファイト』と呼ばれるわけである

BVRはかくれんぼ、WVRは鬼ごっこ

 古くは全ての攻撃が、簡単な照準機とパイロットの勘を頼りに行われていたが、現在はレーダーや、「射撃統制しゃげきとうせいシステム(fire control system。FCS)」など、便利なものが増えている。

 FCSとは、主に探索や攻撃用のレーダー、HUDなど、敵を補足し、効率的な攻撃を行うためのサポート装置の総称である。
これを使う場合、基本的に パイロットはHUDに投影される情報に従い行動する。

 通常は、「視界外射程しかいがいしゃてい(beyond-visual-range。BVR)」、つまり肉眼では確認できないくらいの距離で、レーダーを使って戦う「BVR戦闘」が今は主流。
しかし気象条件や地理条件、敵の耐レーダー性能などにより、レーダーが使えない場合は、現在でも「目視内射程もくしないしゃてい(Within Visual Range。WVR)」での「WVR戦闘」が行われもするという。

 ドッグファイトというのは、通常はWVR戦闘とされる。

ロックオンされても回避できるか

 レーダーが敵機を補足して、攻撃準備ができた状態をロックオンという。
この状態になると、後はミサイルなどの攻撃を放てば、急激なドッグファイトの最中でもない限り、たいていはターゲットにあたってくれる。
しかしロックオンされた事を素早く察知できれば、回避する方法もなくはない。

 通常、「空対空ミサイル(Air-to-air missile)」というのは、 戦闘機の排気ノズルから発する赤外線を感知するセンサーや、普通にレーダー性能などによってホーミング(追跡)性能を実現する。
どちらにしても電磁波を使っているので、それを妨害するためのシステム、「ECM(Electronic Counter Measures。電子対抗手段)」により、ホーミングを無効化できる。

 普通、ホーミング性能がないミサイルは「ロケット弾」であり、ミサイルとは言われない。

 また、目視で互いが確認できるようなWVR戦闘でなく、BVR戦闘の場合は、 先に見つけた者勝ちなところがあり、何が何だかわからないまま、突然に撃墜されるということもありうる。
当然のことながら、レーダーの適用範囲が、相手の方が広いなら、その時点で負け戦みたいなものである。

赤外線センサーとフレア

 赤外線ホーミング式は、放った後は勝手に、戦闘機が発する赤外線をミサイルがキャッチして追いかけてくれるから、自機をすぐに その場から回避させることができる。

 これに対抗する術としては、火薬の燃焼などによってより高い赤外線を放つ、「フレア(flare)」というECMデコイ(囮)がある。
現在のセンサーは 熱源を広範囲的にとらえるために、フレアも複数が同時に放たれるのが普通。

 また、赤外線センサーの精度があまりよくなかった頃は、太陽に向かって飛んだあと、急旋回し、擬似的なデコイとした太陽の方へミサイルを誘導させて、かわすというテクニックもあったとされる。

レーダーによるアクティブホーミング

 レーダーを使うホーミングは、フレアに強い。

 これが使われだした当初は、ミサイルを放った自機側のレーダーを利用した「セミアクティブ式」だったが、これは必然的に、逆に反撃されやすくもあった。
そこで、あらかじめ入力されている指令や、ミサイル自体についているレーダーなどに頼る「アクティブ方式」も開発された。

 赤外線センサーに対するフレアのように、レーダーをジャミング(妨害)して、セミアクティブ、アクティブホーミングのミサイルをごまかすための、「チャフ(chaff)」というECMデコイもある。

 現在の戦闘機は、ホーミングミサイルが放ってくるレーダー波をキャッチした時点で、即座にオート(自動)でチャフを射出したりするようだから、BVRでもある程度対応可能だという。
事前対策されやすいのは、一度はターゲットに電波をあてる必要があるレーダー式の難点である。

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