「イルミナティ・フリーメイソン」世界を裏で支配する秘密結社陰謀説

基礎知識。イルミナティとは何か

 よく言われるように、秘密結社とされるイルミナティがフリーメイソンの一派閥、あるいは一派閥から始まったというのは誤解らしい。
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イルミナティは本来、1776年頃に、 神聖ローマ帝国のバヴァリア(後のドイツ、バイエルン)という地域のインゴルシュタットという街で、フリーメイソンを参考として興った組織だったようだ。

 つまり、あくまで参考にしていただけで、明確に繋がりがあったわけではない。

 また、イルミナティ(Illuminati)という名称だが、「啓蒙けいもう主義(Enlightenment)」というような意味があるとされる。
啓蒙とは、理性の力により、自分より愚かな誰かを正しい道へと導いてやることである。

フリーメイソンとの違い

 フリーメイソンは、基本的にはその内部で宗教や政治に関する話はしないことになっているという。
神への信仰が、入社のための条件としてあるようなのだが、どの宗教のどの神を信仰するかは自由であり、それについての議論などは特にしないというのが暗黙のルールとなっているらしい。

 しかしイルミナティは、 そのような宗教の問題を積極的に扱ったとされる。
これは比較的革命的な方法で、1783年には、ドイツ以外にも、イタリア、デンマーク、そしてほんとの革命の時が迫っていたフランスにも会員がいて、その総数は少なくとも600人ほどはいたという。
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フランス革命にはフリーメーソンが関わっていたという説もある。

 イルミナティはおそらくブームだった。
文学や哲学の分野で有名なヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ(1749~1832)やヨハン・ゴットフリート・ヘルダー(1744~1803)、クリストフ・フリードリヒ・ニコライ(1733~1811)、フリードリヒ・ハインリヒ・ヤコービ(1743~1819)。
「ティティウス・ボーデの法則」でよく知られた天文学者のヨハン・エラート・ボーデ(1747~1826)など、当時の多くの著名人がイルミナティに参加していると自称していたか、あるいは周囲に噂されていたともいう。
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少なくとも一時期のヨーロッパでは、イルミナティに所属しているのが一種のステータスになっていたのだと思われる。

バイエルン・イルミナティ

ヨハン・アダム・ヴァイシャウプト

 イルミナティ設立者は、インゴルシュタット大学で(特にキリスト教的思想に基づく)法律論を教えていた教授のヨハン・アダム・ヴァイシャウプト(1748~1830)とされる。
本来のイルミナティとは彼が、特にカトリック教会の男子修道会、いわゆる「イエズス会(Societas Iesu)」と関係を持った学生たちと作った、小さな私的サークルにすぎなかったようだ。

 一方で、彼はもともとフリーメイソンに所属していたが、異端とされて抜け、自分なりのフリーメイソンを新たに作ったというようなシナリオを語られる場合もある。

 ただこれも指摘されやすいが、イルミナティとフリーメーソンはかなり本質的に似ていなくて、参考にしているのだとしても、階級制度くらいだろうとする向きもある。

 よく、ヴァイシャウプトが始めた組織は「バイエルン・イルミナティ(Bavarian Illuminati)」と呼ばれ、後の時代に都市伝説として語られるようになったイルミナティとは区別されることも多い。
バイエルン・イルミナティ自体が、実はそもそも、以前からあった「起源イルミナティ(Origin Illuminati)」の真似事だとする説もある。

会員の数は本当はどれくらいだったのか

 バイエルン・イルミナティは、1778年頃から フリーメイソンのいくつかのロッジと関わりを持ち始めたとされる。
当時のフリーメイソンの上級幹部には、カリオストロのような錬金術師もけっこういて、イルミナティは、神秘主義に関する同盟的な相手として見られていたともされる。
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一方でイルミナティ側は、フリーメイソンの人脈を通じて、多くの会員を得ようとしていた節があるが、そうだとすると、その計画はおそらく上手くいっていなかった。
そして1780年に、フリーメイソンであったアドルフ・フライヘル・クニッゲ(1752~1796)が入会。
秘密組織の中において、野心溢れる若者だったクニッゲは、ヴァイシャウプトが想定していた以上に、組織の宗教色を強めようとしたため、やがて二人は対立していくことになる。

 イルミナティは1784年までに、フリーメイソンのいくつかのロッジを実質的にのっとっていたという話がある。
ヴァイシャウプトは、この頃の会員の数を2500人ほどと主張していたらしいが、それはおそらく、そのような支配下においているとしていたメイソンロッジのメンバーも含めてのもの。
実際、この頃に確かな数とされている会員数は、650人以上はいかないそうだ。
そして公式には、(バイエルン)イルミナティの会員数が、それ以上になることはなかった。

 最も、当然のことながらイルミナティはフリーメーソン同様、秘密結社の側面を有するため、外部には明かされることのなかった会員も大勢いたとは考えられる。

薔薇十字団との対立

 ヴァイシャウプトが最優先の極秘事項としていたことに、薔薇十字団の関与があるという伝説的な話がある。
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諸説あるが、最も一般的なものとしては、ヴァイシャウプトがフリーメイソンだけでなく、薔薇十字団を参考にしていたという話。

 薔薇十字団自体が実在したかどうかも怪しいような存在なのだが、一部で伝えられるところによると、当時、薔薇十字(思想?)は、ドイツにおいてはフリーメーソン内に、かなりの影響力を築いていたのだという。

 この時代の頃にフリーメイソンと関連して存在していた薔薇十字団という組織が実際に存在していたのだとしても、それはおそらく、もっと昔に存在していた最初の薔薇十字団ではないと思われる。

カトリックとプロテスタント、魔術と哲学

 イルミナティはカトリックよりだったが、薔薇十字団は明らかにプロテスタントであった。
しかも神秘的な要素の強い薔薇十字に比べると、イルミナティは哲学者が中心となっている合理主義の集団であり、両者の間に溝があるのも明らかだった。
そういうわけで、同じようにフリーメイソンへの影響が強くなったことで表に出てきたイルミナティと、薔薇十字団との対立は必然だったとも言われる。

 どうも薔薇十字側は、イルミナティを(おそらく当時の感覚では かなり悪いイメージだった)無神論者の集まりだとバカにしたらしい。

 また、イギリス女王のメアリー(1723~1772)の息子である、ヘッセンカッセルのチャールズ皇太子(1744~1836)は、「イルミナティ・アヴィニョン(Illuminés d’Avignon)」とも呼ばれていたフランスのアヴィニョンのフリーメイソンロッジのマスターの一人だったともされる。
イルミナティ・アヴィニョンが、最初のバイエルン・イルミナティと どの程度の繋がりがあったかは不明な点が多いが、とりあえずチャールズ王子は薔薇十字思想の影響を強く受け、イルミナティの合理主義を嫌っていたという説がある。

 フリーメイソンの薔薇十字派閥の有力者の一人であったヨハン・クリストフ・フォン・ヴェルナー(1732~1800)は、特別設計の部屋の中で薔薇十字団の魔法が本物であることを多くの人に証明して、理性なきはイルミナティの方であることを示したともされる。
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 対立はともかくとして、薔薇十字の方が先にフリーメイソンに浸透していたことは厄介な点だった。
結果的にその思想攻撃は、イルミナティのフリーメイソンへの合流を阻止する形となった。

 一説によると、1784年頃にヴァイシャウプトとクニッゲが決定的に対立した大きな要因は、クニッゲが薔薇十字思想に傾いたことなのだという。
そしてその年に、クニッゲはイルミナティからも追放されることとなった。

歴史からの消失

 クニッゲがいなくなってから、ヴァイシャウプトはより独裁的となり、イルミナティは政治的な色合いを強めていく。
さらに多くの国の王家や有力貴族がイルミナティに所属しているという(実際、噂でなかったかもしれないが)噂が広まり、あちこちで、彼らがヨーロッパ世界を支配しようとしているという陰謀論がささやかれるようになった。

 そうした状況の中、バヴァリア政府は 1785年に秘密結社の存在自体を禁止。
特に、それなりに有名でかつ、適度な規模だったイルミナティは見せしめのように解散させられることになった。
結社の有力者の内、ある者は投獄され、ある者は祖国から追放され、イルミナティは歴史から消えた。

三つの階級。学習者、職人、賢者

 イルミナティには三つの「位階いかい(Rank)」、つまり、決められた制度に基づくクラス(階級)があるという。

 基本的には、一番下がクラス1、「学習者(Nursery)」
真ん中がクラス2、「職人階級(Masonic grades)」
最も上がクラス3、「密儀的賢者(Mysteries)」

 さらに3つのクラスそれぞれにも、より階級が設定されている。

 学習者は、1「修道士見習い(Noviciate)」、2「ミネルヴァル級(Minerval)」、3「小賢者(Illuminatus minor)」。
ミネルヴァルというのは、おそらくはローマ神話に登場する、知恵、あるいは貿易の女神ミネルバのこととされる。

 職人階級は、1「通常職人(Ordinary)」、2「スコットランド職人(Scottish)」、3「スコットランド騎士(Scottish knights)」。
通常職人はさらに、「見習い職人(Apprentice)」、「一般職人(Companion)」、「親方職人(Master)」に分けられるともされる。
また、スコットランド職人は「大賢者(Illuminatus major)」、スコットランド騎士は「偉大賢者(Great Illuminatus)」と呼ばれたりもする。

 密儀的賢者は、1「祭司さいし(priest)」、2「君主代理(regent)」、3「魔術師(magus)」、4「王(king)」。
祭司と君主代理は「小密儀(Mysteries minor)」、 魔術師と王は「大密儀(Mysteries major)」と言われることもある。

 これらの階級は、ヴァイシャウプトや他の幹部によってなんども組み替えられたようだから、元々がどのようなものだったのかは謎である。

 イルミナティに関してよく、世界征服を狙っているとか、自分たちの唯一無二の宗教で世界全てを染めようとしているとか、いろいろと陰謀論が噂されているが、その真の目的は密儀的賢者に属している者のみが知るのだとされる。

 少なくともバイエルン・イルミナティの会員は自らを「完璧主義者(Perfectibilists)」と称したともされるが、それが特定の階級に属する者だけの通称だったのかは不明。

現代の陰謀論におけるイルミナティ

 妙な話だがイルミナティは実は現代にまで残っていて、世界をコントロールしているという陰謀論がある。

 陰謀論は基本的に、実は1785年の時、表向きは解散したイルミナティがフリーメーソンの中に完全に潜り込み、ついにはそれを乗っ取ってしまったという伝説から始まる。

 乗っ取ってしまったまではいかなくとも、フリーメイソンの中に潜り込んで、現在は政治(あるいは科学)部門を担当しているという説もある。
この説においては、薔薇十字団が魔術部門を担当しているようだ。

 それほど有名ではなかったイルミナティに関する陰謀論が、一般にもよく知られるようになった大きなきっかけは、ロバート・アントン・ウィルソン(1932~2007)という人気SF作家が書いた小説だったともされる。

ユダヤ人

 イルミナティの陰謀論には、ユダヤ人との関わりが示唆されることもある。
イルミナティの最終目標は自分たちという唯一の政府が全ての世界を支配するということらしいが、その自分たちというのはユダヤ人なのだという。
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 よくユダヤ人は賢い民族で、世界中の様々な分野で活躍しているとされるが、それらも基本的にイルミナティの活動の一環ともされる。

 仮にこの陰謀論が完全に創作されたものであるのなら、ユダヤ人をわざわざ持ち出す理由は、差別以外には考えにくい。
実態はそれほど危ない組織ではないとされるフリーメーソンもそうだが、昔のヨーロッパならともかく、現代ではそういう特定人種や組織に対して、直接的な陰謀論は展開しにくい。
そこでイルミナティという、空想の敵が設定されたのでないか、という説もある。

三百人委員会、13血統、新世界秩序

 イルミナティは現在、世界を支配している闇の勢力の頂点に存在する組織であり、さらにそのイルミナティの頂点に存在しているのが「三百人委員会(Committee of 300)」なる存在らしい。

 さらにその委員会のメンバーは、古代から続くという13の優れた血統の者から必ず選ばれるという。
13の血統に関しては諸説あるが、 18世紀に金融業で台頭したヨーロッパの名家ロスチャイルドが含まれるとはよく言われている。

 彼ら300人委員会が最終目標としているのは、自分たちを頂点とした「新世界秩序(New World Order)」と呼ばれる唯一の社会。
そしてさらに全てを統べる王となるのは13の系統のうち、最も偉大なるイエス・キリストの血筋の者という話もある。

 13血統の配下に300人委員会という説もある。

アルンブラドスは起源か

 実のところイルミナティという名称は、すでに15世紀後半くらいから使われていた記録もあるという。
これは特定の秘密組織の名前なのではなく、多くの啓蒙思想の組織が自称していたものらしい。

 イルミナティとは、理想的なキリスト団体として想定された、理想像としての架空の秘密結社だったのではないかという説もある。

 最初期にイルミナティを名乗った代表的な存在とされるのが、「アルンブラドス(alumbrados。光)」という、15~16世紀くらいに活発に活動していた、スペインのキリスト教的神秘主義者たち、あるいは彼らの特別な教義だったとされる。
このアルンブラドスのギリシャ語訳がイルミナティだったらしい。

 歴史家のマルセリーノ・メネンデス・イペラヨ(1856~1912)は、アルンブラドスの思想の起源が、4世紀くらいまで地中海の辺りで流行っていたグノーシス主義でないかと指摘していたようだ。 
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