「チンパンジー」人間との比較、ニホンザルとの比較。どこに違いがあるか

チンパンジーの足跡

チンパンジーと人間。男と女の違い

 これは、サルの研究に限った話ではないかもしれない。
だがサルの研究でよく聞く話である。
それは人間の男の目と、女の目に捉えられやすい、社会の違い。
あるいはサル側の、人間の男に対する反応と、女、あるいは女子供に対する反応の違い。

今西錦司とサル学、最初のニホンザル研究

 日本におけるサル学、あるいは霊長類学という分野を確立したのは、生態学者の今西錦司(いまにしきんじ。1902〜1992)とされる。
彼が始めた日本でのニホンザル研究は、一時期、ブームと言っていいほどの広がりを見せ、サルという生物について、それまで知られていなかった様々なことを、明らかにしていったという。
 しかし初期のニホンザル研究において、いろいろと明らかになったのは、主にオスの習性だった。
サルの社会では、とにかくオスが優位のものだというイメージは、この頃に広まったと思われる。
例えば、群れを支配するオスのボスザルがいて、残りは彼のハーレムのメス達と、それにボスになれなかったオス達という構図である。

 しかし後に、一概に、猿の社会は男優位なのではない、という説も唱えられたした。
あるひとつの群れの中で、メスにもそれなりに権限があるということが判明してきたのである。
例えば、ボスザルだろうが、下位のオスだろうが、デートの拒否権は完全にメス側にあるらしいという調査報告もある。

人それぞれ。サルそれぞれな恋愛の形

 当たり前の事なのかもしれないが、メスに関する初期の報告は、女性研究者によってもたらされたものが多い。
むしろメスの視点に立って、さら群れを観察すると、群れを支配しているのは、オスではなくメスの方ではないだろうか、というような印象を持たれることもあるという。 

 面白いのが、サルは、異性同士で、パートナーのような関係を気づくことがあるらしい。
これは、群れ内での順位は、そんなに関係してないらしい。
とにかく、オスとメスが一対一で仲良くなるのである。
 だがこれは、少なくともたいていの人間が思うような恋愛とは違っている。
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なぜなら、 そのようなカップルは定期的に離れるからだ。
そういう時、メスは見境なく他のオス達の方へ行く。
そして時期が過ぎると、再びメスは、カップルのオスのもとへ戻る。
 このような行動は、オスが了承しているメスの浮気なのだろうか?
それよりも、猿の認識においては、恋愛と生物学的欲求は別々のものなのだろうと考えた方が、いいようにも思う。
例えば我々の多くが、恋人が全然関係ない誰かに魅力を感じてしまったら。嫉妬してしまう。
生物学的本能を、恋だと認識しているともいえる。

ジェーン・グドールのチンパンジー研究

 日本で、ニホンザルの研究が、ある一段落つくと、 次にサル学者達は、 もっと人間という種に近いとされる、チンパンジーやゴリラのような霊長類に目を向けるようになった。
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 チンパンジーの研究に関しては、女性学者のジェーン・グドールが、多くを明らかにした。
彼女の調査報告の中でおそらく最も衝撃的だったものが、チンパンジーが道具を使うことであったろう。
手の入らないシロアリの巣の中に、棒を突っ込んでシロアリを捕るのである。
この行動は、アリ釣りとか呼ばれることもある。
 衝撃的なのは、道具を使うこと自体より、そのアリ釣りのような方法が、チンパンジーの親から子へと受け継がれていることである。
つまり、チンパンジーは、文化の伝承を行うのである。

 ところで、彼女に負けじと、日本も探検隊をアフリカによく派遣したらしいが、なかなか餌づけに成功できなかった。
これに関しては、男性ばかりが行くからダメなんだ、女性の研究者を行かせるべきだというような声があったという。
 実際、霊長類は、男よりも女子供の方が馴れやすいとされている。
人間の方は、オスとメスの霊長類の違いがわからない場合も多いと思われるが、サルの方は、しっかり人間のオスとメスを識別できるらしい。

道具を使う、作るサル。特徴、食べ物、言語認識の謎

 チンパンジーは、人間に最も似ている類人猿の一種される。
顔の皮膚は年齢とともに色が濃くなっていく。
表情は豊か。
かつて笑い顔だとされていた表情は、本当は恐怖を表してるのだという説もある。

 腕は足より長い。
足の親指が他の指と離れており、木の枝がっちり掴むことができる。
基本的に草食なのだが、他のサルや、小型のアンテロープ、鳥などを協力して狩って、食べることがある。

 道具を使うことはもちろん、作る能力もあるとされる。
手話を覚えた例があるが、ちゃんと言語としてそれを使っているかは、議論が絶えない。

チンパンジーの群れ。入れ替わるメス、メスを巡る抗争

なぜ群れがないとされたのか

 ジェーン・グドールはかつて、チンパンジーには群れという概念が存在しない。
母と子という関係以外に個体間の特別な結びつきはない、というふうに述べた。
これは普通に間違いであった可能性が高い。

 そもそも古くから、キリスト教圏の国は、人間を特別視する傾向が強いから、社会というような複雑な機構は、人間のものだという認識が強かったと思われる。
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生物学において、群れというものを社会として扱うようになったのは、日本のような宗教感の薄い国の研究者の影響が大きいのは、ほぼ間違いない。

 ちなみにチンパンジーの群れに関する研究の最初の論文は1968年とされているが、グドールはなかなか自説を曲げなかったという。
しかし1973年頃に、彼女も、チンパンジーに群れがある事を認めている。

オスが動くニホンザル。メスが動くチンパンジー

 チンパンジーは確かに、ニホンザルのように、常に群れで行動している訳ではない。
いくつかの小集団に分かれたり、単独で行動したりもする。
小集団も、その構成メンバーはしょっちゅう入れ替わるという。

 ただし群れのメンバーがしょっちゅう入れ替わるというのは、多くのサルに見られることである。 
サルの群れにおいて、別の群れに移動するのは、メスにふられたオスが多いと言われる。
オスザルは、自分を受け入れてくるメスザルのいる群れが見つかるまで、ひたすら、群れから群れへ移っていく。
 これはまた奇妙なことだが、チンパンジーの群れにおいては、主に移動するのはメスである。

群れが存在することの証明

 小集団は次々メンバーが入れ替わるし、小集団がひとつになって大集団を作ったとしても、そちらもすぐに分裂してしまう。
10頭以上の群れになると、1日も続かないのが普通だとされる。
そんなだから、チンパンジーには仲間という概念がないのではないか、と考えられたのも、そこまでおかしい話ではない。

 チンパンジーが群れ社会な事は、餌場に集まってくるチンパンジーの観察によって示された。
 餌場に集まってくるチンパンジーの観察をしていると、毎日毎日、少しずつ新顔のものが増えてくる。
しかしそれは一定数、たいていが数十頭ぐらいで、もう増えなくなる。
 そしてある日、突然にその餌場にはもう来なくなる。
次に、以前のグループにはいなかった新たなチンパンジーが現れると、それに続き、また次々と新顔のチンパンジーが現れだす。
だがその場合、前に集まっていたメンバーの者は、1頭もいないのだという。
 このような観察結果は明らかに、個々のグループの入れ替わりを示している。

複雑な順位社会。物乞い行動

 群れの中では順位があるが、ニホンザルなどに比べたら、その社会構造はかなり複雑とされる。
 例えばニホンザルでは、順位を確かめるのに特定の2匹の間に食物を投げればよい。
それをとった方が順位の高い者である。
 ところが、チンパンジーは順位が高かろうが低かろうが、食物を気にしなく取るのだ。
時には、順位が上の者の手の中にある食物を、下位の者が取ったりもするという。
その場合、手のひらを上にして、片手を差し出し、まるで人が「ください」とでも言うかのような行動を、とることがあるという。
その行動は『物乞い行動』と呼ばれている。
上位の者が、下位の者の食べ物を奪うこともあるが、その場合でも、下位の者が拒否に成功する場合もあるとされる。

上下関係。駆け落ち行動

 で、どうやって順位の上下関係を確かめるのかと言うと、順位の違う2頭で会った時の行動を見れば、すぐにわかるという。
声や姿勢、身振り、表情などに、順位関係が現れる。
 例えば上位の者が睨むと、下位の者は頭を低く下げて、喘ぐような声を出す。

 順位が高いオスは、実際的に何が有利かと言うと、優先的にメスと関係を持つことができる事らしい。
下位のオスは、メスと付き合うためには、上位の者の目を欺くしかないという。
そしてそういうことは、しょっちゅう起こっているらしい。

 また、気に入ったメスを誘って、一対一のオスメスが、駆け落ちのように群れを離れることもあるという。

グルーミング。毛づくろい行動

 チンパンジーは、主にメスが、群れと群れを移動していくが、これは群れを作る生物全体の中でも珍しいとされる。

 一方オスのチンパンジーは、全然群れを移動しない。
そのために、チンパンジーの個体間の結びつきは、母と子を除けば、大人のオス同士が一番深いとされる。

 注目すべきは、グルーミング、いわゆる毛づくろい行動である。
ニホンザルの場合は母と子、あるいはメスとメス、オスとメス同士の間でやることが多い。
つまりオスとオス同士がそれをやる事はめったにない。
 しかしチンパンジーの場合は、むしろグルーミングは、オス同士が行うことが圧倒的に多いという。
 群れの中で順位が最も高いオスが、最も多く毛づくろいしてもらい、また毛づくろいしてやるのだとされる。
人間が、偉い人に媚びを売るのと、似たようなものなのかもしれない。

 また群れが違うオス同士は基本的に仲が悪いが、同じ群れのオス同士はあまり争わない。
例外的に、メスを巡ったケンカはよく起こるという。

 ある群れの縄張りに侵入してきた、他の群れのオスは、さっさと出て行かないと、その群れのオスに命を狙われる事が知られている。

挨拶行動。握手、抱擁、キス

 チンパンジーは挨拶行動が非常に発達していると言われる。
挨拶という行動は、複雑な社会関係を調整する役割を持つという説もある。
 挨拶行動には、上下関係を伴うものと、対等なものがあるらしい。
握手や抱擁、キスなども確認されている。

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