「ネズミ」日本の種類。感染病いくつか。最も繁栄に成功した哺乳類

ネズミ

日本人とネズミ

 日本人にとってネズミは身近でないようで身近な動物だった。
 古く弥生時代の遺跡には、ネズミ対策の防犯器具である『ねずみ返し(rat guard)』が備え付けられていたという。
 さらに数学好きな日本人達は、ネズミの高い繁殖能力を意識して、「一定期間にネズミがどれだけ増えるか」を計算する術として、『ねずみ算』を発明した。
 江戸時代には、愛玩動物として、ネズミを飼う文化もあったという。

哺乳類として、齧歯類としてのネズミ。ネズミでないネズミ

 ネズミ、つまり齧歯類は、最も繁栄に成功している哺乳類である。
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 齧歯類は、その名の由来である一対の切歯を持ち、それを巧みにつかい食事をする。
齧歯類には普通、ネズミと言われるようなネズミの他に、リスやカビパラ(最大の齧歯類)も含まれる。
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 ネズミの形態はどうも哺乳類のスタンダードフォルムなようで、似たような他系統哺乳類が多い。
そして、メンデルやダーウィンやワトソンとクリック以前。
つまり我々が、遺伝子も、進化も、DNAも知らなかった頃。
まだリンネが生物の分類という技術を確立して間もない時代。
 それらネズミでないが、ネズミに似た生物の多くは、ネズミと名付けられてしまい、今に至っている。
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他にもハネジネズミなど、実はネズミでないネズミもけっこう多い。

ネズミ科。キヌゲネズミ科

 ネズミ類とよく言われるのは、主にネズミ科(muridae)730種ほどと、キヌゲネズミ科(cricetidae)680種ほど。
合わせて1400種くらいであり、齧歯類自体は2300種ほどとされてるので、齧歯類の60%くらいがネズミという事になる。
 人里に適応した種として、ハツカネズミやドブネズミやクマネズミなどが知られるが、これらはネズミ全体の一部にすぎない。

 外来種も含め、日本にはネズミ科が15種ほど。
キヌゲネズミ科が7種ほどと、割合的にはかなり少ないという事がわかっている。
しかし9種ほどが固有種であり、固有種の割合は高い。

マウスとラットの違い。実験動物としてのドブネズミ。ハツカネズミ

 日本では、ネズミはネズミだが、英語では、ネズミを指す言葉として、マウス(mouse)、ラット(rat)。
それにややマイナーなボル(vole)がある。
 マウスは「小型のネズミ」。
 ラットは「大型のネズミ」。
 ボルは、眼球や耳が小さく、尾の短縮したハタネズミやヤチネズミなどに使う呼び名である。

 実験動物のラットは、ドブネズミから、マウスはハツカネズミから飼育下での意図的な世代交代を得て、実験動物化されたもの。

日本のネズミの一覧

アカネズミ。ありふれた野ネズミ

 日本に生息するアカネズミ属は4種。
北海道に生息するハントウアカネズミ(Apodemus peninsulae)。
尖閣諸島の魚釣島に生息するセスジネズミ(Apodemus agrarius)。
それに日本の固有種であり、森林環境ではかなりよく確認される、アカネズミ(Apodemus speciosus)とヒメネズミ(Apodemus argenteus)。

 アカネズミはヨーロッパからアジアまで広く分布し、日本では、一部にしか生息してないハントウアカネズミやセスジネズミも、外国も含めたら、けっこう幅広く分布する。
 また、アカネズミとヒメネズミは、日本の野ネズミ研究のモデルとして、よく研究されている。

 4つの遺伝子を分析した研究で、固有種としてアカネズミとヒメネズミが、日本に現れた時期は、中新世(2300万年前~500万年前)の後期らしいという事が判明している。

カヤネズミ。韓国とお仲間

 東アジアからヨーロッパに生息しているカヤネズミ(Micromys minutus)は、日本でも本州、九州、四国などに、広く分布する。

 休耕地(機能を停止させた耕地)や河川敷などに、イネ科植物などを使い、球状の巣を作り、住みつく。

 遺伝的に、韓国の個体群からの分化が小さいという研究結果があるという。
 また、同じような分布域を持つ他の哺乳類と比較し、種内の変異が少ない。
これは比較的新しい時期に、この種が生息地を広めた事を示している。
 日本・韓国の種とヨーロッパの種の分岐が8万年前。
日本と韓国の種の分岐が3万年前と推定されている。
だがこの推定が正しいなら、時期を考えると、ネズミはを越えなければならないと思われる。

ハツカネズミ。クマネズミ。人間に近しい種

 ハツカネズミ(Mus musculus)とオキナワハツカネズミ(Mus caroli)が知られている。
 ハツカネズミよりかなり尾が長いオキナワハツカネズミは、台湾や東南アジアにも生息している。
謎なのが、沖縄の種は遺伝的に、台湾より、東南アジアの個体群に近しい事。
 これは台湾の種は、古くから独自に進化してきた種で、沖縄のは、もっと新しい時代に、大陸から移住してきた種だからという説が有力。

 クマネズミ属の3種、ドブネズミ(Rattus norvegicus)、クマネズミ(Rattus rattus)、ポリネシアネズミ(Rattus exulans)は、いずれも、日本列島に人為的に移入させられたと考えられてる。

トゲネズミ。ケナガネズミ。性染色体の謎

 沖縄の島に生息する。
針のような堅い毛を持つのが特徴で、かつては一種とされていた。
 アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)、トクノシマトゲネズミ(Tokudaia tokunoshimensis)、オキナワトゲネズミ(Tokudaia muenninki)が知られる。
 特筆すべき事として、アマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミの性染色体の謎があろう。
通常、哺乳類の性別を遺伝的に分けるのは性染色体という物質。
性染色体はX、Y、Z、W、O(染色体なし)などのさらに細かな分類があり、基本それらがいくつか対となり存在する。
多くの哺乳類は、性染色体の一対が、オスがXXのところで、メスがXYとなっている。
 ところがアマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミは、普通は雌雄で別れてるところが共通して、性染色体がXOなのである。
 さらに本来はY染色体上に存在し、性別決定に関わるというSRY(sex deter mining region Y)遺伝子の転移もなく、欠損している事までわかっている。
こいつらの性別がどのように決定しているのかは謎。
 一方でオキナワトゲネズミは、Y染色体をしっかり有するだけでなく、なぜかXと共に、巨大化しているらしい事が判明している。

 ケナガネズミ(Diplothrix legata)も沖縄の種で、大型。
分子系統学的研究から、琉球列島への侵入が、トゲネズミより後である事が示唆されている。
名前通り毛が長いという。

キヌゲネズミ科

 ヤチネズミ属のタイリクヤチネズミ、ムクゲネズミ、ヒメヤチネズミ。
これらは北海道に生息する。
 ビロードネズミ属のヤチネズミ、スミスネズミ。
どちらも固有種とされる。
 それにハタネズミやマスクラットなどの種が知られている。

ネズミと感染症

 2011年に中国で初めて報告されたSFTSV(重症熱性血小板減少症候群ウイルス。Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus)というウイルスは、マダニというダニから人間に感染する。
このマダニが成長する栄養源としているのがネズミの血液である。
 SFTSV以外にも、ライム病ボレリア症(Lyme borreliosis)、日本紅斑熱(Japanese spotted fever)、ツツガムシ病の感染経路において、ネズミは重要な立ち位置にいるとされている。

 ネズミから人間に直接感染する病原菌としては、急激な高熱などを引き起こすハンタウイルスなどが知られている。
ハンタウイルスは、ネズミの体内にまず入り、そのネズミの体液や排泄物などが混じった埃などから人間に感染するという。
 リンパ球性脈絡髄膜炎(lymphocytic choriomeningitis)を引き起こす、アレナウイルス科アレナウイルス属のウイルスも、ネズミから人間に感染する病原菌として知られる。
 他にも、ネズミに直接噛まれたり、ネズミに汚染された食べ物を摂取する事で、感染する病気を鼠咬症(そこうしょう。rat-bite fever)と言う。

 また、特に野ネズミは、クリプトスポリジウムなどの寄生虫を有している場合もあり、それらも病原菌のように危険である。

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