海はなぜ塩水なのか?地球の水分循環システム「海洋」

海洋

海洋とは何か?

コンティキ号

 天体物理学者のカール・セーガン(Carl Edward Sagan。1934~1996)はかつて言ったという。
「歴史を見れば明らかなように、我々は本質的に冒険者だ」
その通り、人間の歴史はずっと冒険の歴史だった。
それは間違いない。
「世界地図の海」各海域の名前の由来、位置関係、歴史雑学いろいろ  しかし広大な海洋が冒険の舞台となったのは、いつからであろう。
イカダ(rafts)を作った時から、というのは、かつてはあまり有力な説ではなかった。
ユーラシア大陸の人がアメリカの存在を知らなかったのも、地球が丸いというのが当たり前になるまで時間がかかったのも、広大な海をわたれるような船がなかったからであろう。
もっともな説明だ。

 しかしノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダール(Thor Heyerdahl。1914~2002)が、我々の愚かな思い込みを、見事にさらけだして見せた。

 ヘイルダールには、ポリネシア諸島の人々の起源が、南米の先住民であるという自説があったが、南米先住民にはイカダの技術しかなかったという事実が問題であった。
彼はやってくれた。
実際にイカダの船コンティキ号で、太平洋を渡りきり、海を隔てた冒険はイカダでも可能だという事を、文字通り命懸けで証明したのである。

大航海時代

 地球の表面の中で、海(sea)や海洋(ocean)と呼ばれている、水に満たされた領域の初期の研究は、その分布の研究であった。

 海だらけのこの星に、どのように大陸が分布しているのか、つまり海が広がっているのかが、高い精度で明らかになってきたのは、15~17世紀くらいの時期、いわゆる『大航海時代(Age of Discovery)』にあたる頃である。

 ディアス(Bartolomeu Dias de Novais。1450~1500)、コロンブス(Christopher Columbus。1451~1506)、ガマ(Vasco da Gama。1460~1524)、マゼラン(Ferdinand Magellan。480~1521)らのような冒険家たちの航海は、当時ヨーロッパに知られてなった未知の大陸をいくつも明らかにした。

 見方を変えれば、こうも言える。
彼らは、陸地と陸地を、海洋がどのように隔てているかを明らかにしていったのである。

ニュートンとダーウィン

 肝心な事は、船乗りたちが、この地球上の隅から隅まで冒険しつくした事で、海や陸地がより物質的なものになった事である。
つまり昔の多くの人が考えていたように、海洋はどこまでも広がっているわけではない。
それは、宇宙というより、広大な3次元以上の空間の中で、球体として固まっている地球の表面の70%ほどを占めているだけの、明らかに有限のものなのである。

 17世紀にはニュートン(Isaac Newton1642~1727)が万有引力の定理を発表し、地球が球体の形を維持しているのは、その質量から発生した重力が原因であろう事もわかってきた。
リンゴの木「ニュートン」万有引力の発見。秘密主義の世紀の天才  19世紀には、ダーウィン(Charles Robert Darwin。1809~1882)が進化論を提唱。
ダーウィンの家「ダーウィン」進化論以前と以後。ガラパゴスと変化する思想。否定との戦い進化の分かれ道「進化論」創造論を最も矛盾させた生物学理論 これは、生物を神が不思議な力で作ったという考えから比較的遠い。
ユダヤの寺院「ユダヤ教」旧約聖書とは何か?神とは何か? だがそれはある大きな謎を生む。

 恐竜などの化石種は昔の生物。
恐竜「恐竜」中生代の大爬虫類の種類、定義の説明。陸上最強、最大の生物。 それはそうだ。
問題はその化石種のいくつか、明らかに同じ種が、海洋生物はともかく、陸地の生物まで海で隔てられた世界中のあちこちで見つかる事だ。

 昔、この理由を説明するのは簡単だった。
つまり神様が、陸地Aに創られた生物を、陸地Bにも創られたのだ。
それで十分な説明だった。

 だが違う。
進化論によると、生物の変化は環境ごとに自然に、しかし長い時間をかけて発生する。
別々の大陸で、それぞれ同時期にそっくりな生物が現れる可能性はあまり高くないと思われる。
しかし海に隔てられながら、ご丁寧に絶滅時期まで似たように思われる、同種の陸上化石動物は多い。
いったいどういう事か。

プレートテクトニクス

 答を出したのは、ヴェーゲナー(Alfred Lothar Wegener。1880~1930)だった。
彼は、大陸というのは地球の歴史の中で、少しずつ位置を変えてきたのだろうと主張。
今では彼の説は完全に核心をついていた事がわかっている。

 地球表面はプレートと呼ばれる、スライド出来るパズルのような構造となっている。
という考えを基本とした、プレートテクトニクスと呼ばれる理論によって、地球表面の事に関する知識は飛躍的に高まっていった。
プレートテクトニクスは、ヴェーゲナーが自ら大陸移動説と呼んだ説のマイナーチェンジ版みたいな理論である。
プレート地図「プレートテクトニクス」大陸移動説と地質学者たちの冒険  プレートテクトニクスが明らかにした事はいくつもあるが、肝心なひとつが、プレートとプレートがずれた時でなく、押し合った時に発生する沈み込みのサイクルだった。

 生物の死骸や土砂などがひたすらに積もっていってるはずなのに、なぜ海底はいつまでも海底であるのか。
それはプレート同士の境界で、堆積物が地球の底に沈み混んでいっているからなのだ。
そして沈み混んだ堆積物は強い圧力と高温によってマグマに溶け、吹き出るなどして大陸に還元されるのである。

世界地図の変異

 プレートテクトニクスは、この地球において、ずいぶん昔から機能していたらしい。
長い時間をかけて、それは大地の高低差を、時には変えた。

 水は流体であるから、高い所から低い所に流れるとは想像しやすい。
流体「流体とは何か」物理的に自由な状態。レイノルズ数とフルード数 大陸と海が、長い目で見れば入れ替わってたりもする。
現在、陸地であった場所が、昔は海だったという事もある。

 世界地図、つまり大陸と海の分布は不変では決してない。

地球誕生シナリオ

 17世紀からの原子論の研究が明らかにした事は、水と、他の地球上の物質との違いは、素材の違いに過ぎないという事である。
実験室「原子の発見の歴史」見えないものを研究した人たち化学反応「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か  20世紀には量子論が、その素材をも分解し、あらゆる物質の違いを、単に基本素粒子の組み合わせの違いにすぎない事を示した。
量子「量子論」波動で揺らぐ現実。プランクからシュレーディンガーへ素粒子論「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ  また、天体物理学の分野で、原理的に恒星は、超新星爆発という凄まじい爆発をする事があると知られる。

 そうして、現在そうだと考えられている、地球誕生のシナリオが出来た。

 昔、後に太陽系と呼ばれる領域に、超新星爆発によって、物質の構成粒子がばらまかれた。
太陽系「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性「ガンマ線バースト」残光の謎、超新星爆発の威力、宇宙最強の爆発現象 もちろん爆発直後、その領域は高温であったが、徐々に冷えて、原子は固まっていった。

 ただし、特に質量の多めだったある場所が、重力により、広まった原子のほとんどを引き寄せ、独占。
それが新たな恒星、太陽となった。
そして太陽の重力を上手く回避した、残りのわずかな原子も、いくつか重力によって惑星となった。
地球はそうして出来た惑星のひとつ。

生命誕生

 太陽系のどの星も、気体原子、つまりガスが集まって出来た。
その経緯については謎が多いが、水はかなり早い段階で地球表面に溢れたようである。
ついでに生命もすぐに産まれた。

 かなり高い確率で生命のものと思われる痕跡は、すでに地球誕生から10億年くらいの時期にはあるという古生物学者も多い。
太陽系初期の情報を残していると思われる隕石の研究などから、地球(と太陽系)の年齢は46億年くらいとされている。
若干怪しいが、すでに44億年前の生命体の痕跡が見つかっているという話もある。

海洋の惑星?

 地球は海洋の惑星と言われる。
確かに、この星の表面はほとんど海だが、その海を構成する水というのも、単に素粒子の、ある組み合わせにすぎない。
そう考えると、海洋は地球の置かれた環境。
恒星からの距離や、回転速度、合計質量など様々な要素の組み合わせ。
つまり状態である。
地球は「海だらけ状態」なわけである。

 この状態は、もしかしたら生命体によって維持されているのかもしれない。
生命体は海がないと生きれなかった。
だから海を守っているのかも。
宇宙プログラム「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性  つまり海洋とは、宇宙のある領域に出来た、特別(と少なくとも我々は考えている)物質の状態である。
また、海洋の研究の試みのいくつかは、地球なる惑星を海という観点から探る研究なのである。

海水はなぜ塩辛いのか

海水の塩分濃度

 水は、水素(hydrogen. N1)と酸素(oxygen. N8)の化合物である。
では海洋の水、『海水(ocean water)』はどうか。
あれは、川水や沼水や飲料水とは明らかに違う。
全部を舐めればわかる。
海水は塩辛い。
地球の水「地球の水資源」おいしい水と地下水。水の惑星の貴重な淡水  我々が料理などに使う塩は、塩素(chlorine. N17)とナトリウム(sodium. N11)の化合物である。
海水は普通、重量の96.5%ほどは水だが、残り3.5%ほどの大半がその塩素とナトリウムである。
だから塩辛いのは当然である。
塩が混じっているからだ。

 一定量の海水中の塩分(と極わずかなその他)の濃度を表す場合、『ppt(parts per thousand。千分率)』、あるいは『‰(パーミル)』というのがよく使われる。

 なぜ海水の3.5%と言われるのかと言うと、適当な海水サンプルの塩分は平均的に35pptほどだからである。
pptの値から、%を出すには、1000で割ればいい。
すなわち35pptなら、35/1000になるから、3.5/100→3.5%なわけである。

 また、ppmは1000/1000スケールでの単位だが、より細かい比率を示す為の100万/100万スケールでの『ppm(parts per million)』。
10億/10億スケールの『ppb(parts per billion)』
1兆/1兆スケールの『ppt(parts per trillion)』などもある。

保存性イオン、非保存性イオン

 海水に溶けている成分は、溶けてる成分中の85%以上は占めると言われる塩素、ナトリウムを初め、多くの物質がイオン状態で存在している。

 イオンとは、物質粒子でありマイナス電荷を持つ電子の数が多いか少ない為に、結果的に物質が電荷を持っている状態。
雷「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係  海洋は長期間、その溶けた主要成分の比率を維持する傾向にあり、その事は海洋の『保存性イオン(conservative ion)』と言われる。

 一方、光合成などの生物活動によって、放出されたり、海水から離される成分は、海水中の比率が安定しないので『非保存性イオン(nonconservative ion)』と言う。
光合成「光合成の仕組み」生態系を支える驚異の化学反応

塩分のややこしい定義

 海水の塩分(salinity)の計測方として一般的な方法は、単に海水サンプルを蒸発させて、後に残った固形物と、元のサンプルとを重量比較するというものらしい。
しかし、そんな方法で正確な方法が得られるのかは怪しい。
だが簡単なこの方法を手放したくない海洋学者たちは、まさに発想の転換。
このような測定で問題ないように、海水塩分というのを定義した。
「海水中の全ての炭酸塩を酸化物に変換し、臭素(bromine. N35)とヨウ素(iodine. N53)を塩素で置き換え、全ての有機化合物を480度の熱で酸化させた時の、1kgの海水中に溶けている全ての物質の総量」という、わりとややこしい定義である。

 ただ、単に「1kgの海水中に溶存する塩の重量」としても、実用的にはあまり問題ないという。
 
 サンプルを蒸発させるのは、古くからの方法であり、現在はCTD(電導率、熱、深度計測器。Conductivity Temperature Depth profiler)という、電気の伝導率、温度、水深を観測する装置を使う場合が多い。
CTDは、電気電導率、水温、圧力から塩分を計算する事も可能なのである。

 単に電気電導率から塩分を測る塩分計(salinometer)というのもある。

一定比率の法則

 世界中の海洋で調べられた結果として、どうやら世界中のあらゆる海水に含まれる塩分の主要成分の比率は、塩分の量に関係なく一定比率であるという。

 それで『一定比率の法則(principle of constant proportion)』、あるいは『一定組成の法則(principle of constant composition)』と言うのだが、これを利用する事で、塩分はより簡単に求められるようになった。
主要成分ひとつの濃度さえわかれば、後は比率の計算から、塩分全体の濃度を導き出せるのだ。

 塩分中の主要成分とは、85%ほどの塩素とナトリウムに加え、硫酸、マグネシウム(Magnesium. N12)、カルシウム(Calcium. N20)、カリウム(Potassium. N19)。
基本的には、海水の塩分の重量の99%がこれらの成分である。

 CTDや塩分計などで、電導率から塩分を計れるのも、一定比率の法則があるからだ。

塩分のサイクル

 海水の塩分は河川などから流れ込んでくる水に含まれる、溶かされた泥や岩石と、海底の火山から噴出されるイオンだと考えられている。
火山噴火「火山とは何か」噴火の仕組み。恐ろしき水蒸気爆発 河川から海へのルートで流入する年間の物質量はわりと大きい。
2.5×10^15グラムから4×10^15グラムの間くらいらしい。

 年間それほどに様々な物質が海水に溶けてるが、同じくらいの量、消費されてもいるという。
そもそも水に溶け込める物質量には、温度や圧力条件ごとの限界があり、その限界を超え、過飽和な状態になると、塩分は固形の堆積物として、海底に落ちる。
そうなったら、後はその内にプレートに沈み混んで消える。

 海水は毎年かなりの量、蒸発するが、風などで、陸地に吹き飛ばされた海水が蒸発したら、塩分は陸地に残され、海洋からは失われたも同じ。
生物が取り込んだ塩分ごと死骸となり、堆積物になる事もある。

 他にも塩分の由来、消費する機構はいろいろあるが、それらの事を海洋学者は、『ソース(供給源)』と『シンク(除去先)』と言う。

 塩分量のサイクルは実に上手く回っているようで、15億年前から、海洋の塩分は大きく変化していないらしい(コラム)
このような、海洋の塩分の供給と除去のバランスが安定している状態を『定常的平衡状態(steady state equilibrium)』と呼ぶ。

(コラム)やはり生命が鍵?

 15億年前というと、時期的に多細胞生物の出現時期とかぶらないだろうか。
だから何だって思うかもしれないけどさ

水分循環システム

 太陽の熱などで蒸発した海水は、大気に混じり、雨や雪となって再び地上に降り注ぎ、海に帰ってくるか、結局は海に帰ってくる川に帰るか、川に溶かされる大地に染み込む。
温度「気温の原因」温室効果の仕組み。空はなぜ青いのか。地球寒冷化。地球温暖化雲「雲と雨の仕組み」それはどこから来てるのか? 結局海に帰る、土に帰る陸上動物に取り込まれる場合もある。
つまり結局は海に帰る。

 また、堆積物となってプレートと共に地球内部に沈みこんだ塩分は、火山活動などにより、やはりマグマとして地球のどこかで吹き出し、冷やされて岩石となる。
 
 海洋とはまるで、地球の循環システムのセンターポイントである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA