「結晶とはなにか」自然はなぜ簡単に規則正しく存在出来るみたいなのか

結晶

結晶と無定形個体

個体、液体、気体状態

 原子や分子のレベルで見ると、固体、液体、気体という物質の状態は、どれくらい原子や分子が密集しているかの違い。
気体は、個々の分子間の距離が、非常に大きい。
個体は、個々の分子がかなり近づきあっている。
液体は、その中間の存在。
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 分子が密集している状態が個体だが、その集合の方法は、大まかにふたつある。
つまり、きっちりとした図形を形作るように、綺麗な配列での集合。
単に、適当にくっつきまくってるだけの、不規則な配列での集合。

 分子の綺麗な配列の集合状態を、『結晶(crystal)』と言う。
また、不規則な配列の集合状態を、『無定形個体(amorphous)』と言うのである。

水晶とガラス

 同じ素材から出来ていても、結晶と無定形個体は、我々マクロな視点から見れば、まるで違う物みたいに扱われる事もある。
似てはいるが、違うものである。

 例えば水晶は、二酸化ケイ素(SiO2)の結晶であるが、その二酸化ケイ素の無定形個体が、ガラスである。

単位胞。単位格子。並進対称性

三次元の配列

 この空間は、おそらく三次元で、物質というのも三次元体である。
すくなくとも、分子が並ぶのは三次元の領域と考えるのは、今のところ一番理に適っているだろう。

 結晶を構成する規則正しい分子配列は、三次元における規則正しい配列。
では三次元的に規則正しいとはどういう事か。
つまりそれは、三次元的に、『並進対称性へいしんたいしょうせい(Translational symmetry)』を持つ物質に他ならない。

並進対称性とは何か

 対称性とは、例えば回転のような、変異や破壊を伴わない操作に、影響を受けない形の性質の事。

 分子はすでにいくつかの原子が集合したもの。
そして分子がさらに集合しているのが物質。
つまり物質は、分子という基本集合の集合とも、みなす事ができる。
そのような、分子の基本集合自体、ひとつの形となるが、そういう基本単位を、『単位胞たんいぼう(Unit cell)』、あるいは『単位格子たんいこうし』という。

 つまり、物質という形は、単位胞の集合と言える。
単位胞が、そのサイズ分を移動したとしても、その前後の形に変化がないような構成が、並進対称性。
そして結晶とは結局、その内部の領域において、分子の配列に、並進対称性が見られるような個体状態の事なのである。

結晶はどのようにして出来るか

なぜ個体だけが結晶になるのか

 結晶を構成するような規則正しい分子の配列とは、いくつもの分子が、並進対称性を形成しているようなパターンの事。
それは、物質を構成する、どの分子から見ても、隣り合う他の分子との距離が変わらないような構成の分子配列の個体とも言える。

 なぜ個体かも明らかだろう。
液体や気体は、分子同士の結合が弱いので、同じ形で存在しうる事が、普通はないからである。
つまり、仮に、偶然により、気体や液体が結晶を成したとしても、その状態が維持される事はないのだ(コラム)

(コラム)液体、気体の結晶

 しかし液体や気体が、結晶を構成する事はありうる。
原子ひとつひとつの動きをコントロール出来たとするなら、世にも美しいものを意図的に見れるかもしれない。

電磁気力。原子、分子が持つ力

 あるひとつの原子と、同じ原子番号が付された原子ひとつに、違いはないように思える。
例えば水素原子ひとつと、別の水素原子ひとつは同じものに思える。

 物の性質は、素粒子が持つ性質である。
原子同士、分子同士が引きつけ合う力は、電磁気力と呼ばれる力である。
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分子が大量に集まった重い塊をひとつの物質とみなした時、そこに働く重力も、物を引きつける力となるが、普通、分子程度の大きさ、重さでは、重力など微弱すぎて、あまり問題にならない。
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重い銅像を巨人とハエが協力して、強引に動かしている時、ハエがそこにいようが、いまいが、あまり関係ないだろう。

重なり、組み合わせが、物事を複雑にも、わかりやすくもする

 電磁気力の強さはある数の整数倍で表す事が出来る。
そしてある原子の電磁気力の強さは、決まっている。
またある原子の質量も、決まっている。
おそらく、我々のスケールで、原子の影響と言えば、電磁気力と質量以外は問題にならない。
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実際はどうかはともかくとして、同じ名前の原子一個一個は、同じと考えられるのはそのためだ。

 基本の力が少なくても、物質を層構造で考えるとするなら、我々の大きさまでには、様々な量の基本の力の、絡み合いがあり、まるであたかも、世界にはもっといろいろな力があるように思える。
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 しかし、もしひとつの原子だけなら、同じ力の積み重ねだけだから、話はシンプルになるだろう。
電磁気力は、場合により引きつけあう時と、離れようとする時があるが、引きつけあう、同じ種類の原子、分子だけ一定の空間に投げたらどうなるか。

自然は対称性を好む

 よく自然は、対称性を好むと言われるが、普通は純粋な一種類の分子ばかりが、ひきつけ合い密集していった場合、それは並進対称性を有するような規則正しい配列になる。
つまり結晶になる。

 不純物をなるべく取り除き、高密度になるよう、力を調整する(引きつけあう電磁気力が分子間に働いているなら、後は温度を下げるなどして分子の運動力を弱めればよい)。
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そうしたら結晶は、普通、出来る。

なぜ結晶は作られるのか

230のパターン

 三次元空間における結晶の配列パターンは230種類程度とされている。
これは物理というより、幾何学的な計算より導き出された、理論的に明白なパターン数である。

 どのような結晶も、確実にその配列パターンは230種類のひとつ。

なぜ自然は、対称性を好むのか

 引力と斥力のどちらにもなりうる電磁気力を、あらゆる分子が秘めている。
根本的な決まり事を突き詰めていくと、無限ループに陥るだろう。

 しかし、とにかく理由はともかく、分子間の距離が、一定以上に近づくと、分子同士は、引力がもっとも強く、斥力がもっとも弱くなるような、構成になろうとする。
それが結晶の配列パターンだから、自然は、まるで対称性(結晶)を好むのだと、考えられている。

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