地域住民には古くから知られた中国の猿人
類人猿系の未確認動物の中で、中国の野人(イエレン)は、おそらくヒマラヤのイエティ、北米のビッグフット(サスカッチ)に次ぐくらいに有名である。
野人の噂は、1940年代から広く流れ出したとされている。
また、生息域の住民にとっては、古くからよく知られていて、対策として、腕に竹筒を装着することが推奨されている地域もあるという。
これは野人には、人を襲う時、腕を掴みに来るという習性があるかららしい。
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野人の科学的調査と、その結果
どんな生物か。雑食か
1980年5月には増加する野人目撃をうけて、 中国科学院武漢分院と、湖北省科学委員会が共同で、本格的な調査を実施。
彼らは調査対象として、野人を以下のように推測している。
「2mかそれ以上の身長。密生した茶色か灰色の毛。長い髪の毛。褐色の肌。赤く充血した目に、突き出し気味の唇。やや前かがみのニ足歩行。足跡は最大45cm。主な出没地域は四川から湖北にまたがる地域。地域住民の言い伝えでは、野人はニワトリや犬も食べるというが、肉食の証拠はなく、むしろドングリやクリを好んで食している形跡が見つかっている。1970年代以降は、人間を襲って食べたという話もある」
糞、住居跡、毛髪
1980年以降の調査によって、29〜48cmくらいまでの、多くの足跡が発見された。
どの足跡も、親指と他の指との間が大きく離れていた。
さらに歩幅は、最大のもので2.68mもあったという。
足跡のすぐ近くには、野人の糞らしきものが発見されることもしばしばあった。
糞の中には、タケノコ、どんぐり、果実、動物の毛などが見つかった。
頭髪らしきものも発見され、最長のものは69cm。
また、野生人の住居跡らしきものが発見された。
それは、へし折った竹を数十本束ねて積み上げたもので、背もたれのない長椅子のような形。
内部には、雑草や落ち葉が厚く敷かれて、柔らかかった。
その構造からおそらく、野人の知能は、10歳前後の人間くらいだという。
さらに、1983年には、野人の毛髪の鑑定結果が公表された。
現代人の毛髪とよく似てはいるが、色素に関する特徴が異なっていて、テナガザルなどの霊長類のものとも、クマやヒツジなど、他の哺乳類のものとも明らかに違っていたという。
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調査隊の二度の遭遇
1981年2月28日。
調査隊の一人が、原生林の中で、野人と実際に遭遇。
雪に刻まれた足跡を追った末に、2mほどで、赤褐色の体毛に覆われていた野人と、40mほどの距離まで接近した彼は、その足に銃を撃とうとしたが、不発に終わってしまった。
そして彼の気配を察した野人は、すぐさま姿をくらませてしまったという。
後日、その調査員は、もうひとり、別の調査員と、今度は二人で、再び同じ場所を捜索。
再び、雪上の足跡を追った先で、野人と遭遇する。
それに気づいた時、250mほど離れた岩の上で、野人は座って、何かを食べているようだった。
しかし、険しい岩山に苦戦し、近づくのに手間取っているうちに、野人はまた去ってしまった。
野人が去った後の岩の上には、剥がされた地衣類が散乱していたという。
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農婦が撲殺した怪物
1957年5月26日の、中国の松陽新聞には4人の農婦らが、野人と思しき謎の怪物を撲殺したという内容の記事が載ったという。
それによると、「その怪物は、直立して1.5mほど。四肢と頭部は人間に似ている。しかし手が短く、足が長い」
イエティは、足が短く、手が長いという目撃談が多いようで、対照的である。
怪物と遭遇した日は、記事となる3日前の23日で、その日の午後に、今にも襲いかかってきそうな怪物と遭遇した農婦らは、棒で必死に、その怪物を滅多打ちにしたのだという。
その後、その怪物の手足を調査した動物学者のシュウ・グオシャンは、正体は大型のマカク類、つまりニホンザルやタイワンザルのグループに属する動物だったと断定した。
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手を伸ばしてきた大男
1974年5月1日。
農村部に存在した人民公社という組織の一部隊の副隊長が芝刈りの最中に、野人と遭遇。
彼は、何者かが近づいてくる気配には気付いていたが、別に気にもせず、芝刈りを続けていた。
ところが、 何気なく顔を上げた彼の、すぐ前まで迫っていたのは、長い毛を生やした大男であった。
その野人らしき大男は、笑いながら、彼を捕まえようとしているかのように手を伸ばしてきた。
彼はとっさに、持っていた鎌で攻撃したが、野人はひょいとそれをかわすと、逃げ去ったという。
この時、野人は、気味悪い叫び声をあげたという。
黒い目の野人。妊娠したメスか
1976年5月。
中国共産党の幹部ら6人が、野人を目撃した。
彼らは夜中の1時頃に、車で、湖北省の奥地にある神農架の山道を走っていた。
現れたのか、そこにいたのか、目撃された野人は、 車のライトに驚いて山林の中に逃げ込んでいたという。
彼らによると野人は、「身長は2mほど。全身、灰色の毛で覆われていて、尾がなかった。顔は長く、下顎が広めだった。黒い目が、ライトがあたっても、黒いままだった。鼻は大きいがくぼんでいて、耳は人間のものよりも先端がやや尖っていた」
なかなかに詳細である。
それほどじっくり見る余裕があったのだろうか。
一説によると、この野人は明らかに腹が大きく、妊娠していたメスの可能性があるという。
メスと言えば、野人のメスは、人間の男を異常に敵視するらしいという話もある。
オナガザルだった野人
1985年冬。
野人が、ついに生け捕りにされたというニュースが流れた。
その捕獲場所は、湖南省の山岳地帯。
着物を着た女の子に近づいてきたところを、村人達に捕らえられたのだという。
捕らえられた野人は、大道芸人に売り渡され、見世物にされていたが、しっかり調査されると、結局これはオナガザル類であったようである。
この、生け捕り野人がオナガザルだった事件は、世間に大きな影響を及ぼし、以降、野人の目撃例は激減してしまう。
野人論争の再熱と、先入観の問題
オナガザル事件で、落ちついた野人騒動だが、1993年9月に、湖北省で、地質調査団の人達が、3人の野人を目撃した事で、再びよく目撃されるようになった。
目撃された野人は、 普通の大人の人間と同じくらいの身長で、目が大きく、動きがかなり俊敏であった。
とりあえず、明らかに猿でなく、猿人か原人の類であったのは間違いないという。
人間の中に、猿っぽい奴がいるように、猿の中にも人間らしい奴がいるのは、おそらくおかしくない。
猿でないと思ってる人が、見れば、オナガザルでも野人に見える事は、あるだろう。
逆に、しょせんはオナガザルだと考えている人が、(野人かはともかく)未知の類人猿を見て、オナガザルだろうと結論付けてしまう事もあるのかもしれない。