ヘルツの送信機、受信機
今ではダイポール・アンテナと呼ばれているものを、ヘルツが作った時、まだアンテナという言葉は存在してなかった。
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彼は単に『送信機(transmitters)』、『受信機(receiver)』と呼んでいたようである。
当初ヘルツは、送信と受信を行う機器を、別々の構造としていたが、実験を繰り返すうちに、送信機、受信機ともに、同じ構造でも問題ないことに気づく。
アンテナは、可逆性のテクノロジーだった訳である。
世界はアンテナを介し知られている
アンテナという言葉は、かなり幅広いものに定義出来ると思われる。
我々が普通、アンテナと呼ぶのは、通信機器に備えられた小さなものや、幅広い地域に電波を送る巨大なもの。
それに宇宙からとか、遠い所からの電波を捉えるための、やはり巨大なものである。
しかし、アンテナを、電磁波を送受信している機器、と定義するならば、例えば太陽や蛍光灯やロウソクのよう光(電磁波)を放つものは、基本的に送信アンテナである。
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そして望遠鏡とかカメラのレンズ、我々の目も、電磁波を捉えているから、ある種の受信アンテナと言える。
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世界は、送受信で成り立っているとも言える。
よく考えたら、我々が世界というものを認識するための情報は、個々人がそれを得て、初めて意味を持つからである。
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我々が、得た情報を認識する事で、初めてこの世界は、この世界。
よって、プログラマーは、この世界の基礎的要素として、アンテナを設定したにちがいない。
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あるいは神が世界を作る順序としては、まず空間、エネルギー(物質)。
その後に、それらを受信する我々という意識、となるのかもしれない。
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マルコーニの無線通信。アンテナの意味
ヘルツが、電磁波の存在証明実験で利用した電波の周波数は、30〜300メガヘルツ。
波長は、1〜10メートルくらいであったとされている。
ヘルツより間もなく、電波を無線通信に利用しようと考えたのが、マルコーニ(1874〜1937)であった。
彼もまた、実験を続けるうちに、遠距離で通信するためには、低い周波数が有利であることに気づく。
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これは基本的に、地球の上空200キロメートルくらいの、電離層と呼ばれる、電子の層に、低い周波数の電波の方が、反射しやすいためである、と考えられている。
電波の性質上、当然、送信アンテナはなるべく高いところに設置する方が、遠くまで通信するのによい。
マルコーニが、大西洋横断無線通信に成功したのは、1901年のことだが、この時、放たれた電波の波長は960メートル。
アンテナは、凧を利用して、電線を地上120メートルの高さまで伸ばしていたそうである。
アンテナは『空中線(aerial)』と呼ぶ場合があるのは、歴史を重んじての事である。(コラム1 )
ちなみに、アンテナとは、触覚の事。
昆虫などは、文字通りアンテナを持っている訳である。
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(コラム1)風の精霊の空中線
アンテナ(触覚)より、エアリアル(空中線)の方が、かっこいい
と思う。
エアリアルは、元々は「空気」の意だが、シェイクスピアの戯曲(嵐)などでは、風の精霊の名としても使われている。
そういう意味でも、「風の精霊の空中線」なんて、かなりクールに思う。
八木・宇田アンテナ。電波を絞る構築
電波は、三次元のこの空間の中で、全方向に飛ばした場合、バラける分だけ、広がりと共に弱くなっていく。
また、あまり広く散らばる電波は、拾われやすいために、軍事目的などで使われる場合に、情報漏洩の危険が高まる。
そこで、電波の放出方向を絞るにはどうすればよいのかは、電波が実用化されてから、すぐに研究されるようになった。
第一次世界対戦を終えた、大正末期から、昭和の初期頃の日本。
この時代に、東北大学教授であった八木秀次(1886〜1976)は、波長が1〜10メートルの『超短波』の研究をしていた。
八木教授は、電磁気学の分野で有名なフレミングにも教えを受けた経歴を持つ人である。
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導体の長さと並べ方だけ。
実に単純な、導体の棒3つを適切な長さにして並べると、それは、より絞った電波を生み出す事に、八木の研究室の人達が気づいたのは偶然だったとされる。
そして、彼の発見に注目し、その研究をさらに発展させたのが、宇田新太郎(1896〜1976)であった。
そこで二人の手により開発された、特定方向に電波を強く放てるアンテナを、『八木・宇田アンテナ(Yagi-Uda Antenna)』と言う。
一般的には、八木アンテナと呼ばれているそうである。
八木アンテナは、骨格みたいな見た目で、特定方向からの微弱な電波を受信するのにも向いているので、テレビやラジオの受信アンテナとして、よく使われている。
利得。デシベル
同じ電力を消費した場合に、特定方向に、どれだけ効率よく電波を送受信できるかを、『利得』と言う。
そして、その単位としてあるのがデシベル(db)。
デシベルは、音の強さを表す単位でもあるが、電波送受信器の利得を表す単位としては、入力電力と出力電力の比を基準として、数値がわかりやすく小さくなるよう、対数という変換をしている数値。
だから4デシベルが、単純に2デシベルの倍という訳ではない。
利得の大きさは、ある意味で、アンテナの性能をまさに示す。
それが高いほどアンテナは、強い電波を放射できる。
また、弱い電波をキャッチできる。
八木アンテナは利得の高いアンテナタイプ。
ただし、例えば「地デジの受信には40〜80デシベルくらいがいい
」とか言われたりするように、利得はただ高ければよいという訳でもない。
なぜなら、それか高すぎると、余計なノイズとかまで受信してしまったりするから。
(注釈)ヤギって何だ?と欧米の人に聞いた日本兵
歴史の妙だが、八木アンテナは日本でなく、その特許権を買い取ったイタリアの会社により、最初に実用化されたとされる。
第二次世界大戦中、イギリス軍から押収した文書に、「yagiエアリアル」と書かれてたのを見て、日本軍兵士は、事もあろうに、捕虜に「ヤギってのは何だ?」と聞いたという話が残っている。
どうも、八木、宇田の電波技術に非常に早くから注目し、レーダー技術の発展に大いに利用した欧米に比べて、日本政府はなぜだか、その技術の性能に懐疑的だったようである。
代表的なアンテナ
ダイポールアンテナ。エレメントの数
まず八木アンテナはダイポールアンテナの一種である。
ダイポールアンテナは、ダブレットアンテナとも言い、針金とかの、普通は直線状の導体を左右対称に配置した構造のアンテナ。
おそらく最も単純と言える構造である。
導体はエレメントと呼ばれる。
前方から来る電波をより強力に受信するために、反射機も普通つく。
基本的には、エレメントの数が多いほうが、より弱い電波もキャッチしやすい。
パラボラアンテナ。望遠鏡の派生
『パラボラアンテナ』は、例えば電波塔からの電波とかでなく、人工衛星から放たれる衛星放送用電波などをキャッチするために、よく使われる。
これは、とにかく、遠方からの微弱電波をキャッチするのに向いている。
だから、遥か彼方の、例えばクウェーサーとかを捉えたりするのにも使われる。
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パラボラアンテナは、あの皿のような表面が、電磁誘導を起こしやすい、アルミニウムとかの素材。
それにより、皿の範囲に捉えた電波を中心の、『ホーンアンテナ』と呼ばれる部分に収縮させ、結果的に受信電波量を大きくしている。
実のところ、パラボラアンテナのような、光(電磁波)を収縮し捉える機構は、ニュートン式望遠鏡に近く、アンテナ技術としては、一番古くからあるものである。
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もちろんパラボラアンテナは、皿が大きいほど、微弱な電波を捉えやすい。
ホイップアンテナ。ケータイやICカードの内部に
例えばケータイからケータイに電話とかメールしたりする時、直接ケータイからケータイに電波が飛ぶのでなく、中継用の基地を介したりする。
ケータイには、アンテナなんてないようにも見えるが、内部にしっかりある。
通信可能な機器には何らかのアンテナが必ずある。
ラジオやテレビやカーナビなどのために、車にもある。
無線式ICカードにもある。
たいていケータイとかの、移動しまくるのが前提の受信アンテナは、全方向からの電波をカバーできる『ホイップアンテナ』の類である。
もちろんこれは、全方向をカバーしてるせいで、ダイポールやパラボラに比べたら、余計なノイズが混ざってきたりしやすい。
またICカードなどでは、例えば乗車券として使われる場合に、他の改札にまで、影響を及ぼしたらまずいので、あえて電波の届く範囲が狭くなるような設計がされている。