「妖精の国」夢の楽園か。時空間次元の異なる領域か

妖精の国はどこにあるのか。どのような存在なのか

 自然のあちこちに、本当は妖精が潜んでいるという信仰がある。
しかし、そうした場所で我々が遭遇する妖精たちは、こちらの世界に現れた妖精たちであり、彼らは我々の世界とは異なる妖精の国からやってきた。という説もある。
妖精「妖精」実在しているか。天使との関係。由来、種類。ある幻想動物の系譜  だが妖精の国なんてどこにあるのだろうか。地球上のどこかに存在しているのであろうか。それとも全く別次元の領域なのか。
基本的に、それは異なる次元の世界といえるが、しかしすぐ近くにありもすると考えている神秘家が多いようである。

フェアリーリング。妖精の環

 妖精は現実世界に痕跡を残すことがある。それらは、妖精の世界が現実にもたらした影響跡なのであろうか。
『フェアリーリング(Fairy ring。elf circle。妖精の環)』は有名であろう、草木が茂る場所に現れる謎の模様である。一般的には、単にリング状に繁殖した菌類だろうとされている。
ミステリーサークルと呼ばれる現象と関連付けることもある。こちらは、人間のいたずらだった事例が多い。
「ミステリーサークル」悪戯者たちの真相。第五の定理は本当に存在したか  伝承的には、フェアリーリングは、妖精たちが踊った場合にできる。
実際にその現場に遭遇した者は、素敵な音楽と、楽しそうな雰囲気に、参加したくなる衝動にかられることもあるだろうが、そこで足を踏み入れてしまうと、次には妖精界に連れ去られてしまう。という話もよくある。

フェアリーパス。妖精の道

 妖精が妖精の世界からやってくる、あるいはそこに帰る時に利用されるような『フェアリーパス(Fairy path。妖精の道)』が現実に現れることもある。
そうした道はたいてい、どこからかいつのまにか始まっていて、いつのまにかと途絶えているような道である。あるいは、何でそんなところに続いているのか意味がわからないような、岩とか、木とかへと続いている。
それは妖精の国への通り道になるだけでなく、その道の途中でも、妖精を見つけることは容易だとされている。フェアリーパスは、この世界と妖精の世界とが交差する領域ともされる。

魔法の食べ物を食べた影響

 古くから妖精の世界の食べ物を食べたものは、霊性的に妖精に近づいてしまい、あるいはその不思議な感覚に魅了されて、妖精の世界に永遠に囚われてしまうともされている。

 妖精の食べ物をなぜ食べてはいけないのか。
これに関しては、妖精が必要とするエネルギーと、人間が必要とするエネルギーは、その質が異なっているから。栄養を与える食物に関しても、まったく異なる物理構造だから、というような説がある。
あるいは妖精の食べ物というのは、魔法のかかった何かであって、人間がそれを食べると、その人間自身が魔法の影響を受けて、妖精に近づいてしまう。
妖精の食べ物を口に含んだ瞬間にでも、何かその異質性に気づくというケースもあるようだ。草とか石とかが魔法によって食べ物の姿になってる場合もあるのである。そういうわけで、妖精の食べ物は毒だという説もある。

 妖精が、自分に親切にしてくれた人間に対して、お礼にケーキなどをプレゼントする場合がある。そうしたプレゼントの食べ物に関しては、普通に人間が食べて大丈夫なようである。

まったく別の時空間がそこにあるのか

 妖精の世界のおける時間の流れ方が、我々の世界と異なっているという伝承は数多くある。

 妖精の国に迷い込んだ人間が、わずかな時間をそこで過ごした後、元の世界に帰ってきたら、すでに何年も経っていた、ということもある。
日本においては、浦島太郎の昔話は有名であろう。
ある日、亀を助けたことをきっかけに、海底の領域、竜宮城に招待されることになった浦島太郎。彼はそこで数年過ごした後、地上が恋しくなって、帰ることを決意。しかし、帰ってきた後、開けてはならない玉手箱を開けたために、そこに封じられていた長い長い彼の時間が解き放たれ、彼は一気に白髪の老人となってしまう。
そのような物語は、妖精の世界に迷い込んだ人の話として、かなり典型的な感じである。

 逆に、妖精世界で長い時間を過ごしたはずなのに、現実では大して時間が経っていなかったということもある。
ウェールズのペンブルクシャーで、羊の番をしていた若者の話は、また典型的。
フェアリーリングに足を踏み入れ、妖精の世界にやってきてしまった彼は、そこで妖精たちと楽しく何年も暮らした。しかしある時、飲んではいけないと言われていた泉の水を飲んでしまい、その瞬間、たちまち現実に彼は戻った。
彼がこの世界から消えていたのは、ほんの数分程度であったという。

ティル・ナ・ノーグ。ダーナ神族が消え去った常若の国

 ケルトの伝承において、西方の海の彼方の楽園とされている、常若とこわかの国『ティル・ナ・ノーグ(Tír na nÓg)』こそ、妖精の国だという説がある。少なくともこれは、妖精の国の1つである可能性は高い。

 純粋のアイルランド人の先祖らしいミレシア族(Milesians)の前に、アイルランドを支配していたというトゥアハ・デ・ダナーン(Tuatha Dé Danann。ダーナ神族)は、アイルランドから追い出された、あるいは旅立った後、水底の世界に移住したともされる。
ダーナ神族が移住した世界こそ、ティル・ナ・ノーグだと考えられることも多い。
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吟遊詩人オシーンと、妖精ニアヴ

 常若の国と呼ばれているように、そこでは全てが、いつまでも若々しいとされている。
かつて、オシーン(Oisín)という吟遊詩人がそこに入ったことがあるという。
彼は魔法の白馬に跨って放浪し、美しい妖精ニアヴ(Niamh)と波の上で揺られた。そうして長い年月を過ごした後、彼は昔の仲間を探すために元の世界へと帰ってきた。
だが、その足がこちらの世界の大地に触れた瞬間、封印されていた歳月が一気に降りかかったかのように、彼はほとんどなんとか生きているだけの、ひどく腰の曲がった老人となった。

 オシーンは、しかし自身が死んでしまうよりも前に、聖パトリック(Saint Patrick)に、ティル・ナ・ノーグでの自分の体験談を語ったという。
聖パトリックは、後にはアイルランドの守護聖人となった、5世紀頃の宣教師とされている。
聖人「守護聖人とは何者か」キリスト世界の殉教者たちの基礎知識

アストラル領域の、四大元素都市

 ティル・ナ・ノーグは、普通は地上に近い世界とされているが、それは妖精の国としては少し特例的である。
妖精の国は、実際には霊的世界の階層の中でも、かなり高いところに存在している場合もある。しかし多くは、地上と、高い階層の霊的世界の中間的な領域に、妖精の国は存在しているという。
やや中途半端的といえるかもしれないが、それでも霊的世界であることに違いはない。それは『アストラル界(astral world)』、『アストラル領域(astral realm)』などと呼ばれる、精神の感情が動く領域に近しいともされる。
自分の意思でそこを訪ねようという魔法使いは、自らをアストラル体、または霊的状態へと変えなければ、そこを訪問することはできないかもしれない。

 『アストラルの階層(Astral plane)』は、人間の精神活動、創造活動にも強い影響を受ける。そして長い時代、我々の思想大系に深く根付いていた、空気、火、水、地の四大元素の妖精都市が、そこには存在しているという説もある。
それらが、人間の想像力のために生成されたものなのか、あるいはもともと妖精たちが住む世界としてそこにあったのかは、意見が分かれるところではある。
各都市には住人たちがいるらしいが、それらはその世界に定住した人間たちなのだろうか。

 東西南北の方位とも結びついているとされる、その四大元素都市は、四大元素それぞれのエネルギーが、人間世界の階層に現れる場合の、入り口的な役割を果たしているとも言われる。

ゴリアス。空気の都市

 東の方位に対応する空気の都市ゴリアス(Gorias)は、高くそびえる峰が並び、そこからの流れ落ちる滝は、澄み切った川に通じている。それらの綺麗な川は、緑の谷の合間を流れていく。

 街は、長方形の白い建物が時々建っている山々に囲まれていて、それらの白い建物では、様々な色の三角旗が永遠の風で揺れている。

 ある谷間には、純金の屋根の四角い屋敷が一軒あるが、その中には美、恐怖、魔法を描いた刺繍が壁に飾られている。また、奥の部屋には、右手に剣を、左手に花を持った妖精の教師の像が立っているという。教師の剣は無知を切り裂く強烈な知性。花は知性のあまりの鋭さを和らげる優しさを示しているようだ。

ムリアス。水の都市

 西の方位に対応する水の都市ムリアス(Murias)は、 西の海の岸辺に築かれている。港には美しい船が停泊している。また、果物や、見事な布地の商人たちの街でもあるという。
赤いレンガの建物の合間に木々が茂っていて、それらの葉は褐色だったり、黄金だったりする。

 低い丘が連なっているところには雨風が吹きつけていて、丸石を敷き詰めた道は黄昏の光にきらめく。
丘の上には大聖堂が立っていることもあり、薄暗いその中は、彫刻などで豪華に飾り付けられている。 

フィニアス。火の都市

 南の方位に対応する火の都市フィニアス(Finias)は、夜というものが存在しない、永遠に太陽が照り続ける灼熱の砂漠世界。

 時々オアシスがあって、そこには古代遺跡のような建物が並んでいる。それらのアーチ門から届いて行く道は砂漠へと伸びているのだが、途中から瓦礫ばかりになる。

 街の中心の方の古い屋敷には、少し心地よい感じがあって、渦巻き模様が描かれた床の上に立った場合、踊ることで生命の糸と絡まりたい、というふうな衝動にかられたりもする。

ファリアス。地の都市

 北の方位に対応する地の都市ファリアス(Falias)は、漆黒の闇に包まれていて、空に伸びる金属の塔の先端の宝石が、周囲を照らす強い輝きを放っている。中心にある巨大な塊は隕石という説もある。

 そこは現実の世界の都市の青写真と言われることもあるようで、地の世界観はもっとも我々の理解に近いのかもしれない

ケルト伝承における四都市と、四つの秘宝

 この4つの元素の都市も、元々はケルトの伝承から出た話とされる。
ティル・ナ・ノーグは、アイルランドを追われたダーナ神族が去った国だが、四都市は、彼らの元いた場所という説もある。
あるいはダーナ神族は、それら4都市が存在していた4つの島を順に巡った後に、アイルランドにたどり着いたのだとも。

 ノルウェーの方の島、あるいはアイルランドの北部にあったという、ムリアス、ゴリアス、ファリアス、フィニアスの4つの都市。
文書によっては、『暗い雲(dark clouds)』に囲まれた『空飛ぶ船(flying ships)』に乗ってやってきたというダーナ神族は、上記4つの都市から、それぞれ1つずつ、(魔法の)秘宝をアイルランドに持ってきていたとされる。
すなわち、ゴリアスの『ルーの槍(Lugh’s lance)』、ムリアスの『ダグザの大釜(Dagda’s cauldron)』、フィニアスの『ヌアザの剣(Nuada’s sword。The Sword of Light。Claíomh Solais。クラウソラス)』、ファリアスの『ファルの石(Fal’s Stone。stone of destiny。Lia Fail。リア・ファル)』である。

 ルー、ダグザ、ヌアザは、それぞれ、ダーナ神族に属する神の名前。ファルは、王や統治者の意味を有する古アイルランド語とされる。
古い時代の記録には、ファルの石以外の宝の言及はないと推測する向きもある。

 ファルの石は、代々のスコットランド王が、その上で戴冠式を行ってきたという、伝統的な『スクーンの石(Stone of Scone)』という文化遺物と、同一視されることもある。

フィンドホーン。20世紀に始められた妖精村

 妖精という存在、あるいはそれと関わる現象に興味のある者にとって、スコットランドの『フィンドホーン自然村(Findhorn Ecovillage)』は、特別感が強い。
その『インテンショナル・コミュニティ(intentional community。目的共同体)』を始めた『フィンドホーン財団(Findhorn Foundation)』は、英国全体でも、最大規模の神秘思想系コミュニティとされる。

 フィンドホーン財団を創設したドロシー・マクリーン(Dorothy Maclean。1920~2020)と、友人であったアイリーン(Eileen Caddy。1917~2006)とピーター(Peter Caddy。1917~1994)の夫妻は、1962年頃に、フィンドホーンにあった村近くに定住するようになったようである。
その土地は地質的に、不毛なシルト(細かな粘土より大きいが、砂よりは小さい土)の土壌に覆われていたようだが、これは古い時代の地主が悪魔に魂を売り渡したためだという噂があった。
冬が寒く厳しかったが、春になると、ピーターは土を耕して作物を植えた。
ドロシーは習慣的に瞑想を行っていたのだが、おそらくは自然の妖精から、自然の力と調和するようにというメッセージも受けるようになった。どうやら高位の精霊が、下位の自然霊に命じて助けてくれるようだ。ドロシーは、自らが交信するその妖精をデーヴァと呼んだ。
それからフィンドホーンの菜園は実りを迎え、スピリチュアルに関心のある移住者も増えてきて、現在に至っている。

 フィンドホーンの話は、自然の力が今でも人間と一緒に生きることができるのか、それを確かめようとした妖精たちの試験計画だったという説もある。