「聖書外典」天使と悪魔の記述。古代ギリシアの哲学をどう見たか

ファンタジー色が強い

 聖書という書物が成立する過程で、関連する文書と思われながらも、正典から外されたとされている外典の数々。
しかしキリスト教成立から間もないくらいの時代には、むしろこれらは、今正典 と呼ばれているものよりも民衆の人気が高かったとされている。

 内容的には、少しファンタジック色が強いものが多いような感じがする。
「旧約聖書」創造神とイスラエルの民の記録、伝説

歴史書として。第一マカベア書

 ──内乱によってセレウコス朝(紀元前312~紀元前63)が弱体化すると、エジプト王プトレマイオス6世フィロメトル(紀元前186~紀元前145)は、大軍を集めて、海に戦艦を走らせ、好計を用いアレクサンドロス王(?~紀元前145)をおさえた。そしてパレスチナ、シリアの領地を占領し、領土拡大を狙う。あるいはアンティオコス4世(紀元前215~紀元前163)との戦いによって奪われた失地回復を目論んでいたのかも──

 この第一マカベア書は、完全に歴史書みたいな感じで書かれている。聖書自体、そういう面はあるが。
新約聖書と同じように、旧約聖書に比べると、比較的近代の歴史と言えよう。ただ、神があまり関係ないような。

悪魔と天使が普通に。トビト書

 ──メディアのエクバタナの街では、ラグエルの娘サラが、父の女中たちにはずかしめを受けていた。サラはそれまでに7人の男に次々に嫁いだのであるが、そのつど、夫婦になる前に、悪魔アスモデウスが夫を殺したために結婚できなくなってしまったのである。
悪魔の炎 「悪魔学」邪悪な霊の考察と一覧。サタン、使い魔、ゲニウス
 トビトとサラの祈りは、大いなる栄光の前で聞き入れられた。そして天使ラファエルが2人をいやすために遣わされたのである。
「天使」神の使いたちの種類、階級、役割。七大天使。四大天使。
「兄弟アザリアよ、あの魚の心臓と肝臓、胆嚢は何の役に立つのですか?」
天使は答えた
「心臓と肝臓はね、悪魔や悪霊に取り憑かれて悩んでいる人がいた場合に、その人の前でいぶして煙を出すと、二度とあくまで悩まされなくなるのだ。胆嚢の方は、目に白い膜のかかった人を治すのに使う、目に塗ってあげれば治るのだ」

 天使はなおも彼に言った
「サラは君の妻になるのだ。悪魔のことは心配しないでよろしい。婚礼の部屋に入ったら、まだ火のついている香灰をとり、その上にあの魚の心臓と肝臓の一部をのせて煙を出しなさい。そうすれば悪魔は、その匂いを嗅いで逃げ出し、決して二度と帰ってくることはない。そして彼女に近づいたならば、2人で立ち上がって、あわれみ深い神に呼ばわりなさい。そうすれば神はあなたがたを救い、あなたがたをあわれんでくださる。恐れてはいけない、サラは永遠の昔から君の妻になるように定められているのだ」──

 この物語の中で、悪魔や天使は、まったく普通に存在するものとして扱われている。
天地が語る、民間伝承の魔法のような話も、わりと具体的。
またここでは、明らかに、すべてがあらかじめ決まっているかのような話などもあり、そこは本家同様、いかにも古い宗教ぽい。
今現在の我々が、脳科学の研究とかから、自分の意識、自由意思というものが、どこまで存在しているのか、リアルとしてありえるか、ということに悩むように、古い時代、万能なる(人間のための)神を信じていた人が多かった頃にも、「自分はどこまで自分の意識で生きているのか」ということに悩んだりしたろうか。
コネクトーム 「意識とは何か」科学と哲学、無意識と世界の狭間で

恐竜の話か。ベールと竜

──バビロニア人はベールという名の偶像を祀っていたが、この偶像に供える毎日の供物は大へんなもの。

 王は言った
「お前にはベールが生きた神様だと思えないのか? ベールが毎日どれだけ食べたり飲んだりするかを見ていないのか」
ダニエルは笑い出して王に言った
「王様、騙されてはなりません。この像は中身は粘土で、外側に土をかぶせたものです」

「どうか床をごらんください。このたくさんの足跡は誰のものかをご注意願います」
王は答えた
「なるほど、わたしの見るところ、多くの男、女、子供の足跡に違いない」
王は激しく怒り、祭司たちと、その妻や子供を捕らえた。彼らは隠し扉のことまで、白状しなければならなくなった。

 バビロニア人の崇拝していたもう1つの神は、巨大な竜だった。王はダニエルに言った
「いくらお前でも、この竜こそは生きた神様であることを否定はできまい。龍神を礼拝しなさい」
ダニエルは言った。
「わたしは主なる私の神を礼拝します。けれども王様、もしお許しがいただけるのでしたら、剣も棒も使わずに、この竜を殺して目にかけます」
王は言った
「よろしい。許可しよう」
ダニエルはピッチと脂肪と毛髪を混ぜて煮たものを団子にして、竜に食わせた。すると竜はそれを食べて、腸が張り裂けてしまった。
「見ろ、君たちの礼拝してきたものはこんなものだったんだ」──
「西洋のドラゴン」生態。起源。代表種の一覧。最強の幻獣
 ダニエルは、正典のダニエル書に出てくるダニエルで、この話はその番外編みたいなものだ。
バビロニア人の信仰していた、インチキ神様のトリックを見破る話もなかなかだが、特に竜に関する話は興味深いだろう。
描写的には、この竜はあまり強くはなさそうだが、そういう点も含めて、ちょっとダビデとゴリアテの戦いに似てるか。
これが、恐竜のような生物だったのではないか、と考える者もいる。恐竜でなくても、大型のトカゲとか。
恐竜 「恐竜」中生代の大爬虫類の種類、定義の説明。陸上最強、最大の生物。 河 アカンバロの恐竜土偶、カブレラストーン、謎の足跡「恐竜のオーパーツ」

ギリシア哲学の影響。ソロモンの知恵

──お前たちの生の迷いで、死を見出さぬようにし、手の業で滅びを招かぬようにせよ。なぜなら神は死を造りはしなかったし、生ける者の滅びを喜ばれぬから

 不虐な者は手と言葉で死を招いた。死を友と思ってこれに憧れ、彼らは死と契約を結んだ。なぜなら彼らは死の分たるにふさわしいから

 神が私に許し給うように、知識に従って語り

 存在の偽りなき知識を彼こそわたしに与え、世界の秩序と諸元素の動き、時の始めと終わりと真ん中、冬至、夏至の転換と季節の変化、年の循環と星辰の位置、動物の性質と獣の気質、諸霊の力と人の推論、植物の種と根の効用をも彼は知らせた
隠れたもの、顕なもの、みなを私は知った
万物の計画者なる知恵がわたしに教えたから

 あなたの全能の御手は、形のない質料から世界を造り、クマの群や、獰猛なライオンを彼らに送ることができ、今まで知らなかった新しい獣、烈しく怒り、火のような息を吐き、臭い煙を出し、眼から恐ろしい火花を放つ獣を送ったそれらの獣は、実際に彼らを殺すだけじゃなく、見ただけで恐ろしく、人を滅ぼすことができた

 彼らは迷いの道よりもさらに遠く迷い出て、獣の中でも一番下等なものを神として崇め、愚かな幼児のように騙された。
それ故、悟りのない子供に対するように、あなたは嘲りのために裁きを送った。

 神を知らず、眼に見うる善きものから存在者を知ることが出来ず、その業に目を向けてその作者を認めない、すべての人間は生まれつき空しい。
その代わり彼らは、火や水や風や星辰のめぐり、荒ぶる水、天の光を宇宙の支配者たる神々と考えた。
しかしもし彼らがそれらのものの美を楽しみ、これを神と思ったのなら、これらのものの主はずっと勝った方であると、彼らはするべきなのである。
美の創作者が彼らを創ったのだから。

 諸元素は彼らの間で配列を変えるだけである。このことは起こったことを正確に観察すれば推し量ることができる。
陸上動物が水中動物に変わったし、水に泳いでいた動物が陸に移った。火が水の中でその力を増し、水がその火を消す性質を忘れた。
逆に炎は朽つべき生物がその中を歩いても、その肉を滅ぼすことがなかった──

 ソロモンの知恵というか、どちらかと言うと、ギリシア哲学の、(当時の)キリスト教的解釈と思われる。
世界の原理をどのように考えるとしても、結局すべてを作った神が一番偉いのだろう。究極的にはそういう解釈でいいように思う。

 影響を広げていたのだろう、ギリシャの哲学者たちが考えた世界観が、どのように考えられていたのか。そういうことを知るヒントにもなろう。そういう意味で、宗教的意味合いだけでなく、これは単に歴史認識的にも有用かもしれない。
「ある動物が、ある動物に変わった」というのは、最も注目すべきところか。
「ダーウィン進化論」自然淘汰と生物多様性の謎。創造論との矛盾はあるか

神の望んでいるもの。第四エズラ書

──私がここに来て見ると、数えきれないほどの悪があるではありませんか。

イスラエルの他にあなたを知る民があるのですか。また、どの民族が、ヤコブの諸部族のように、あなたの契約を信頼したというのですか。それでもなお、ヤコブの子孫たちは、何の報賞も受けず、彼らの苦労は果を結びませんでした。

ウリエルという名の神の使いが答えた
「よいかね、火の重さを測ってみよ、風の分量を量ってみよ、あるいは過ぎ去った日を呼び戻してみよ」
私は答えた
「地上に住む者の中、誰1人として答えることができないような問いです」
天使はなおも言葉を重ねた
「わたしの聞いたのは、火と風と過ぎ去った日のこと、つまりお前が日常を欠くことのできないものについて聞いただけではないか。それでもなおお前は答えることができなかった。どうしてそんな小さな力量で、至高者の道を悟ることができよう」

「たった1つの悪の種子がこれほど多くの不実を生じさせたとすれば、無数の善の種子が巻かれた場合の収穫はどれほど大きいものか」

「それではあなたの審判を早くするために、みな一時に創造することはできなかったのですか」
「創造のわざは、創造主よりも早くできないし、この世界は造られたすべてを一時に受け入れることはできないのだ」

「よく考えて判断してみなさい。たくさんあるものと少ししかないものと、どちらが高価な物であろうか」──

 これはコヘレトの書にも少し近いような気がするが、特異性は低いように思う。
「なぜ、この世界の中で善人は少数派で、救われないのでしょうか」という疑問に、天使が答えている。
しかし、数が多かったら特別性が薄れる、という発想はなかなか危険な印象もある。
創造の技に関することや、神はやはりイスラエルの神であるかのような情報もある。

天使たちの描写。エノク書

──エノクの祝福の言葉。災いの日に生き残る、選ばれた義人たちを祝福した言葉。彼は例えを用いて語った。

 わたしに示された異象はこうである。幻の中で雲がわたしを招き、霧がわたしを呼び出した。星と稲光の軌道がわたしの動きを速め、幻の中の風がわたしを飛ばせて上にひきあげ、天へと運び去った。わたしは天に入って水晶で作られ、火の舌に囲まれた壁の近くまで行った。

 天井は星や天体の通る道のようであり、その間には火ともいえるケルビムがおり、彼らの上の天は水のようにすきとおっていた。

 わたしは主の御声を聞いた
「義人エノクよ、義の書記よ。おそれなくてもよい。近くよってわたしの声を聞け」──

 天使に関して、いくつも貴重な情報が記述されていることでも、よく知られるエノク書だが、実は天使どころか主(神)まで登場する。

 天上世界の世界観の描写も、非常に興味深いか。
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