「モグラ」目を退化させて手に入れた謎だらけの生態

モグラ塚

モグラという生物

身近にあって、隠された生態

 モグラという生物に関して、特に不思議なのが、モグラが身近な生物であるという事である。
日本においても、モグラは全国に分布している。
都内にすら、公園などで生きてたりするらしい。
だというのに、モグラが目撃される事はあまりない。
やはりこれは、モグラが地中生活を営む種であるからだろう。

 モグラは分類学上は、『哺乳類(Mammals)』の『トガリネズミ(Soricidae)』の仲間という事になっている(注釈1)
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 そういうわけでモグラは、地中生活を営むトガリネズミとも言える。

(注釈1)たくさんのネズミでないネズミ

 別にモグラはネズミと近縁というわけではない。
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 普通、単にネズミという時、それは齧歯類げっしるいという哺乳類のグループを指す。

 そして哺乳類には齧歯類ではないけど、姿は齧歯類ぽい他種がたくさんいる。
そういう連中は、よく勘違いで、「~ネズミ」と名付けられた。
そのため、分類研究が進み、別々にされた今でも、「~ネズミ」という名なのに、ネズミでない哺乳類はけっこういる。
トガリネズミもその一例である。

光なき世界で生きる

 完全な地中生活に対応したので不要になったためと思われるが、モグラの目はかなり退化している。

 動物の子はたいてい産まれたばかりの時、目は閉じている。
しかし母の体内から出てきた赤ん坊はすぐに目を開き、溢れんばかりの光を受け入れる。
ところがたいていのモグラは、この産まれた時の「閉じられた目」を生涯にわたって維持し続けるのだ。

 また、ヨーロッパなどには目を開くモグラもいるようだが、その視力はかなり低いという。

 光に弱いというわけではない。
昔はそうだとされてたみたいだが、これは珍しく地上に出てきたモグラが、猫などの天敵に対し無防備なために、たいてい殺されるからである。
しかし、モグラの体臭はクセが強く、結局食われはせず放置される事もけっこうあるのだという。
人が見つけるのは、そうして放置された哀れなモグラが多いために、「モグラは光の照らす地上に出てきたら死ぬ」という迷信が生まれたようである。

硬い体に、茶色ではない毛色

 がっしりした骨格に、分厚い皮膚と、モグラの体はなかなか硬い。
基本的に、普段は掘ったトンネルで暮らすモグラだが、いざという時に、土の圧力に耐えれるようにだろう。

 トガリネズミは、防御力の高さで有名なハリネズミと近縁だから、案外この系統の共通先祖が守備重視を目指してたのかもしれない。
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ただしもちろんモグラの毛は、緊急時にトガったりはしない。
むしろふんわりという感じの手触りらしい

 またその毛は、イラストなどではなぜか茶色く描かれる事が多いが、実際は黒か、灰色っぽい色が多い。

 毎年、春と秋に毛は生え変わるが、秋の毛の方が長めだという。
まず間違いなく、冬の寒さ対策だと思われる。
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地中でも寒いのだろうか?

地中生活に特化したサーチ器官と、ショベルの手

 モグラの鼻は長く、先端には、『アイマー器官(Eimer’s organ)』という小さな感覚器が備わっているが、これは地面を伝わる震動を感知するためのもの。
この器官の名前は、それを最初にはっきり認識したとされるドイツの動物学者テオドール・アイマ―(Gustav Heinrich Theodor Eimer。1843~1898)の名に由来。

 それと鼻には、毛がなく皮膚が分厚くなっている部位もあるが、この部分で土を押しのけたりするのだという。

 短い尾は特殊な毛を通し、強い感覚を有するようで、地下トンネルを進む際に、あちこち探ったりなどする。
そしてその手は、体に対してかなり大きく、指の骨の辺りに鎌状の構造があり、穴掘りに特化している。

モグラ塚

 あまり余裕があるようには見えない、トンネル内での移動速度は早く、反対向きに、も前進時とほぼ同じ速度で進む事が出来る。
そして反対向きに疾走してたかと思えば、分岐点で器用に体を返すのだが、それがまた速いそうである。

 ただしすでに掘られたトンネルを移動するのは速いが、穴を掘りながら進む場合は、さすがに速度もかなり落ちるという。
また穴堀りに特化しすぎているため、周囲の土が剥ぎ取られたら、もう致命的に鈍くなってしまう。

 そういう事情により、基本的に地上に顔を出す事はないモグラだが、穴を掘った際の余分な土が、地上に押し出されてくる事がある。
そうして出来た土の山は『モグラ塚(Molehill)』と呼ばれ、普段は見る事のないこの生物を、我々に認識させてくれる。

日本のモグラ

アズマモグラとコウベモグラ

 日本でも全国に分布してると、最初に書いたけど、実は北海道には生息していない。

 日本で確認されてる種は6種で、特に東日本に分布する『アズマモグラ(Mogera imaizumii)』と、西日本に分布する『コウベモグラ(Mogera wogura)』が代表的。
共存は無理なようで、この二種が共に見られる地域はかなり珍しい。

 また、アズマモグラは16センチくらい、コウベモグラは20センチくらいと、コウベモグラの方が大型で、力関係もコウベモグラの方が上のようである。
毎年少しずつ、アズマモグラの生息圏が、コウベモグラに奪われていっているらしい。

 しかし力では劣っていても、穴堀りの技能はアズマモグラの方が上との事。
コウベモグラがなかなか住めない、硬い土が多い山地などでも、アズマモグラはトンネルを作り、暮らす事が出来るのだという。
実際、西日本でも、そのような土が硬い場所などでは、アズマモグラが生息している場合がある。

 二種のモグラの勢力争いが最終的にどう転ぶかは、まだまだ神のみぞ知るところである。

変わり者のミズラモグラ

 アズマモグラとコウベモグラに比べると、日本の残り4種は、ごく狭い地域に生きている、地味な存在である。

 新潟県の佐渡島さどがしまに生息する『サドモグラ(Mogera tokudae)』。
同じく新潟県の越後平野えちごへいやの『エチゴモグラ(Mogera etigo)』。
中国地方から、東北地方までの範囲の標高高い山地などに生息する『ミズラモグラ(Euroscaptor mizura)』。
それに尖閣諸島せんかくしょとう魚釣島うおつりしまにて、確認されている『センカクモグラ(Mogera uchidai)』。

 この中でもミズラモグラは、日本の他のモグラに比べると、小型かつ、尾が長めで、歯の数が多く、東南アジアの種に近い系統だと考えられている。
また、ミズラモグラはあまり定住を好まないようで、捕獲が難しいともされる。

地上のモグラ、ヒミズ

 日本には先に紹介した6種の他に、実はもう2種類、モグラ科に属する生物がいる。

 それは『ヒミズ(Urotrichus talpoides)』と呼ばれる。
日本の固有種で、本州、四国、九州に広く分布するヒミズと、標高高い山地に生息するヒメヒミズの2種である。

 このヒミズは、見た目はかなりネズミに近く、落ち葉の層の下に溝を通り道に使ったりするだけの、半地中暮らしをする。
いわば、ある程度地上で生活するモグラである。

 原始的な種であり、地中から出たモグラではなく、地下に完全に適応する以前のモグラ種だと考えられている。

モグラの生活史

人工的な住居を使った研究

 地中で生活する野生のモグラを直接に観察するのは至難の技である。
そこで研究者たちは、金網やビニールなどで人工的に作った、透明な疑似住居に、モグラを飼育して観察するという荒業を考えだす。
実際にその方法はモグラ研究の主流であり、そこから多くの知見が得られている。

食生活

 モグラはかつて虫食類と呼ばれていた事がある。
もちろんそれは、モグラの主食が虫だからなのだが、彼らは特にミミズをよく食べるのだという。
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 モグラは、植物質の物は食べないとされているが、ヒミズは飼育下で、与えられた木の実を食べたりもするらしい。

 野生でのモグラは、睡眠の時間を除いて、1日のほとんどは、住居であるトンネルを動き回る。
そして鋭い感覚で、トンネル近くを通るミミズなどを関知する。
後は、強引にミミズをトンネル内に引きずり込んだりして、その身を美味しくいただくのである。

縄張り意識と恋愛

 モグラは孤独を好むようで、基本的にトンネルで築かれた巣に1匹だけが単独で暮らしている。

 縄張り意識は非常に強いようで、近くに他のモグラを察知すると、歯軋りのような音などを発して、相手を威嚇するのだという。
そして、繋がったトンネル内での遭遇した場合など、引っ掻きあったり、噛みつきあったりと、争いとなる。
しかもたいていは、どちらかが死ぬまで決闘は終わらない。

 そこまで自分の殻に閉じ籠りあうモグラたちだが、彼らも性別のある哺乳類である。
恋愛はどうするのかというと、実は研究者にとっても長年の謎らしい。

 色恋沙汰に関する野生での観察例はなく、飼育環境で、モグラの雄と雌をお見合いさせても、結局どちらかが死ぬまでの争いを始めるだけなのである。
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モグラの寿命は3~4年くらいのようだから、その期間のいずれかには雄雌が出会うタイミングもあるはずなのだが。

出産と子離れ

 雄雌が仲良くしてるところの観察例はないが、妊娠中のモグラが捕獲された事はある。

 子は一度の出産で3~6匹産まれる。
そして子供たちは、数ヶ月くらいの期間は、母の元で暮らす。
ある程度育った子モグラたちは、母の元を去るが、この時、新しい住居を求め、モグラたちは一旦地上に出てくる事もある。

 モグラの出身は春と決まっているみたいで、子離れの時期も、ほぼ安定して6月くらいだという。
この子離れ時期は『分散期』と呼ばれていて、例によって地上にモグラの死骸がよく見られるのもこの時期らしい。

 なのでモグラが生涯の内、地上に姿を出すのは、母から離れてしばらくの間だけだと推測がつく。

センカクモグラと尖閣諸島の領土問題の件

 モグラはよく知られているけど、知られていない生物である。
穴を掘って地中に暮らす動物だとは多くの人が知っている。
しかし、その生態は、専門の研究者にとっても謎だらけだ。

 この世界には身近で、しかもその気になれば簡単に調べられそうなのに、誰も興味がないせいで知られてない生物が案外いるという。

 しかしモグラに限っては、その気になっても簡単には調べられない。
地中の生活は、あまり人間には知れないから。

 だが、ここにきて、ようやくその分厚いヴェールも少しは外れそうになってきてるのではないだろうか?

 また、日本のモグラの内、センカクモグラなんかは全く研究がされてないようだが、これはどう考えても、尖閣諸島の領土問題のせいで、誰もこの島々に入れないからであろう。

 もしこうした状況が続き、研究が始まる前にセンカクモグラ絶滅なんて事になったとする。
そうなったら、日本と中国の政府は、研究者はもちろん、モグラに興味、関心を持つ全ての人に土下座すべきだと思う。

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