「ペンギン」鳥なのになぜ飛べないのか、なぜ泳ぐのか

ペンギン

最も水中に適応した鳥類

あまり巨大化はしなかった

 ペンギンは、冷たい海を好む、半水生的な鳥である。
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哺乳類の鯨のように、ずっと水中で生きる道を選ばなかったのは、卵生である事が関係しているかもしれないとも言われる。
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 それでもペンギンは少なくとも、鳥類では、最も水中に適応している。
水中に適応しすぎて、飛行能力を失ったほどである。

 しかし、せっかく重力の影響を浮力により軽減出来る水中に適応したのに、ペンギンはあまり巨大化しなかった。
 まあペンギンが水中に対応する進化を始めた時、すでに水生巨大生物のニッチは埋まってしまってたのであろう。
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水中を飛ぶ

 ペンギンの肌には、厚い脂肪の層があり、さらに密生した3層の羽に、空気を閉じ込める事が出来る。
そうしてペンギンは、寒さに対しての耐性を高めている。
 さらに、脚部の血管を流れる血液には、常に熱が渡るようになっており、氷の上でも、長時間、平気で立ってられる。

 ペンギンは水中で獲物を捕らえるので、泳ぎは上手い。
その速度だが、コウテイペンギン、ケープペンギン、アデリーペンギンで、時速5~10キロくらいとされている。
体重を考慮に入れた相対的な速度は、イルカくらいである。
 翼も飛ぶのでなく、泳ぎ向けに特殊化し、『フリッパー(ヒレ。潜水用具)』と呼ばれている。
つまりペンギンの翼は、羽ばたくよりも、掻くのに適している。
 体もまた、クジラなどと同様に、泳ぎに特化した魚類的な流線型である。
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 その泳ぎは、まさしく「水中を飛ぶがごとく」と表現されたりする。

 また、ペンギンの足は短いながらも、人間のような直立歩行が出来るようになっている。

南半球にしか生息しない

 現生のペンギンは、18種ほどとされている。
ペンギンと言えば南極のイメージだが、基本的に南極に生息するのはアデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)とコウテイペンギン(Aptenodytes forster)の2種だけ。

 ただしどの種も、野生種が分布するのは南半球である。

 アデリーとコウテイを初め、南極でなくとも寒い地域の種には、脛に羽毛がある。
これも体温調節の為と考えられている。
 羽毛はそれぞれ固めで、先が曲がっている。

防寒具にも、冷却機にもなるフリッパー

 防寒に特化したペンギンにとっては、寒さよりずっと熱の方が危険である。
南極でも、真夏なら0度を越える事もあり、それで、もうそこのペンギンにとっては暑いのである。
 フリッパーは、冬には体を寒さから守る防壁になる。
そして夏には、持ち上げて体から離し、熱を放射する冷却機として使われるという。

 体に対してのフリッパーの相対的な大きさは、シュレーターペンギン(Eudyptes sclateri)が最大。
マゼランペンギン(Spheniscus magellanicus)が最小とされている。
 シュレーターペンギンは、ニュージーランドのバウンティー諸島や、アンティポーズ諸島の種。
岩石の上などに営巣する為に、太陽光に照らされやすく、フリッパーは冷却機として重要となる。
 一方でマゼランペンギンは、温帯の種ではあるのだが、亜南極のわりと寒い地域まで移動したりもする。
防寒具としても、冷却機としても、あまりフリッパーを必要としてない種なのだと思われる。

最大のペンギン

 現生種で最大のペンギンは、コウテイペンギンである。
相対的な体積と表面積の関係により、体が大きい方が熱は失われにくい。
なので、南極暮らしのコウテイペンギンが大きいというのは、当然の進化である。

 しかし同じくアデリーペンギンは、南極の種なのに、小型な方である。
アデリーペンギンは長い羽毛により、皮膚上の断熱用の空気の層を厚くする事で、その小型サイズを、寒い地域でも維持している。

 化石種のペンギンは巨大な種が多い。
しかし、彼らはむしろ、現生種よりも暖かい地域に生息する者が多かったようである。
 そういう訳で、巨大な化石種は羽毛量が少なかったのではないか、とする説もある。

潜水能力と海水

 ペンギンは種によっては数十秒から数分くらいしか潜水しないが、コウテイペンギンなどは20分くらい潜れるらしい。
 ペンギンはしばしば、石を胃袋に入れる。
これは消化を助ける以上に、深く潜る為の重り代わりであると考えられている。

 ペンギンはまた、血中の過剰な塩分を鼻から噴出する事で、海水を普通の飲み水として飲む事も出来る。
ちなみに、アホウドリなど、海洋上を飛び、魚を捕らえる鳥も、同じ機構を持ち、海水を飲める。
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ペンギンと人間の関わり

ペンギンとキリスト教

 ヨーロッパには、既に古代ギリシャより、博物学のような概念はあったろうが、ペンギンという生物が知られるようになったのは、16~17世紀くらいからとされる。

 飛べない鳥というのは、奇妙に思われていたが、ペンギンはさらに、泳ぐという点で、より奇妙であった。

 1620年、ビューリュー提督という人が、ペンギンを、足と羽毛を持った魚だと記録している。
 他に、もっと生物に詳しいと自負する者達は、この生物は、鳥と魚の中間の生物であるなどと主張した。

 このペンギンを魚だとする考えは、特にキリスト教の信者達によって支持され、とりあえず支えられた。
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 なぜキリスト教かというと、どうも「金曜日には肉を食べてはいけない(しかし魚はセーフ)」という決まりが、広まっていたかららしい。
みんな、金曜日にも肉を食べたかった訳である。

 また、ペンギンを実際に確認した昔の探検家には、この鳥を、ちゃんと鳥だと認識した例も、わりと多いという。

初期の記録

 17世紀中頃。
ウィテ・ランジオラという人が、ポリネシア人達と共に、南極にて、
南極のペンギンと遭遇した。
 これが、南極における、人間とペンギンの初か、少なくともかなり初期の例であった。

 ニュージーランドや南アフリカや南アメリカの先住民らには、古くから知られていたこの鳥を、ヨーロッパの人達が知るようになってから、まだあまり経っていない頃だ。

 ペンギンという生物自体が、ヨーロッパ人に記録された最初期の例は、ヴァスコ・ダ・ガマの船に乗っていたという(偽名らしい)アングラーデ・サン・ブラズによるものらしい。
16世紀の初期頃の記録である。
 彼ではないにしろ、最初にペンギンを見たヨーロッパ人が、スペイン人かポルトガル人である事はほぼ間違いないという。

ペンギンという名前

 「ガチョウくらいの大きさ。ロバのような鳴き声。飛べない」
というようにアングラーデが書いたのは、南アフリカのケープペンギンの事であろうとされている。

 それよりは後。
1519年には、イタリア人の学者、アントニオ・ピガフェッタが、南アメリカのペンギンについて記録している。
 マゼランの船に乗っていた彼は、その航海日誌に、
「飛べない鳥、ペンギンの大群を見た」
という風に書いているという。

 ペンギンという名は本来、北半球に生息していたウミスズメ科やアビ科の鳥の呼び名であるという説がある。
それらの鳥は、どうも太っているようなので、「太っちょ」という意味の『ペングウィゴ(penguigo)』と名付けられた。
 そして後に、南半球で発見された似たような(と思われていた)謎の鳥達も、ペングウィゴと呼ばれ、それが訛ってペンギンとなったのだという説である。
 他にも、ウェールズ語起源説など、様々な説があるようだが、一番説得力あるのが、ペングウィゴからの訛り説らしい。

保護されるペンギン

 極地において、ペンギンは現地調達可能な貴重な食料となった。
非常に大量のペンギンが殺されたという。
 悲しい事に、極度の寒さという環境で、飛行して逃げねばならないような外敵は少なく、ペンギンは飛行能力を犠牲にして、その高度な水泳能力を手に入れる事が出来た。
それは常識破れの素晴らしい進化であるけど、人間という恐ろしき進化に勝るものではなかったのである。

 しかし時代も、人の心も変わるものだ。
 18世紀にリンネが分類学を確立すると、ペンギンも、ペンギンというより、ペンギン種として認識されるようになっていく。

 現在では動物園の人気者であるペンギンも、一般大衆にあまり馴染みなかったこの頃は、むしろ下品なイメージすらあったらしい。
「飛べない太っちょの鳥」という説明しか聞けず、実物を見た事ない人も多かったろうから、まあ仕方ないであろう。

 19世紀には、あらゆるペンギンが保護の対象とされ、現在まで、南極大陸は(ペンギンに限らず)国際的な野生動物保護区みたいな扱いになっている。

 そして今や、ペンギンは人気で、鳥類界のアイドルとなっている。
この海を泳ぐ鳥は、我々を魅了して止まない。

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