地軸の動き
北極、南極、赤道
地球という星は、だいたい球体に見える楕円形であり、『自転(rotation)』している。
その『地軸(earth axis。自転軸)』の端を『極(pole)』といい、極の一方を『北極(Antarctic)』、一方を『南極(Antarctic)』として区別している。
さらに地球を、その各平面がちょうど地球に触れるようなサイズの立方体の箱の中に入れて、上下の平面が極にくっつくようにする(つまり箱の横の平面が極と直角を作るようにする)。
地球に触れてる箱の横平面のポイントを結んだ線が『赤道(equator)』である。
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歳差運動。北極星が変わる理由
「剛体(rigid body。周囲の力ではその形を変化させられない物体)」を回転させるとする。
そこに働く力の影響により、回転軸が引っ張られたりして、軸単体で見ると、紙に円を描くペンのような動きをすることがある。
オモチャのコマなどは、まさしく回転軸を地球の重力に引っ張られることによって、そのような動きをする。
こういう現象を『歳差運動(Precession)』という。
地球も、地軸が月や太陽の重力の影響を受けていることによって、歳差運動をしている。
その回転周期は2万5000年くらい。
地軸の延長した先に見える星は(その星にいる人から見て)空の特定位置で動かないから、「北極星(north star)」とか、「南極星(south star」とか呼ばれ、よい目印となる。
その北極星とかが、周期的に変わっていくというのはよく知られているが、それは地球の歳差運動のせいなのだ。
章動。慣性主軸の変化
例えば球体(平面上では円)が回転運動する場合、「半径(Radius)」が動くことになるが、そういう場合の動く半径を『動径(Radius vector。半径ベクトル)』。
その動径が、一定時間(単位時間)ごとに生じさせる角度の量を『角速度(angular velocity)』という。
それと静止している物体の「運動量(momentum)」は、基本的には「質量×速度(一定の重力下においては、重さ×速度)」で定義される。
これに物体の位置や形や、その回転に関係したベクトル量を考慮(ようするに乗算)すると、『角運動量(angular momentum)』というのが算出できる。
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また、仮に角速度をw、角運動量をLとして、「L=iw」という数式のiを「慣性モーメント(moment of inertia)」という。
角運運動量、角速度、慣性モーメントは、「行列(matrix)」という表記法で表すことができるが、その際に、いくらかの成分のまとまりとしての慣性モーメントの成分数を、(主慣性モーメントと呼ばれる)直交する3つの軸の成分だけに限定できる。
ようするに、どのような形をした物体であっても、3つの成分の値だけで慣性モーメントを決定できるということ。
そしてそれに関連した軸を『慣性主軸(axes of inertia)』という。
一般に慣性主軸が回転軸と重なっている(あるいはほぼ重なっている)物体の回転は安定する。
しかし地球のような、完全な球体とはなっていない物体が回転運動をした場合、慣性主軸が動き、回転軸からずれることで、それもある種の歳差運動を誘発する。
他の星の重力由来の歳差運動と区別し、軸ズレ由来のは「自由歳差運動」、あるいは「章動(nutation)」とか呼ばれ、区別される場合もある。
ポール・シフトとは何か
氷河時代という謎。極移動という発想
地軸は公転の軸(公転軸)に対して23.4度ほど傾いている。
この傾きの角度も、周期的にわずかな範囲で変化しているという説がある。
とにかく、理由はいろいろだが、地軸というのは周期的に動いている。
そこで、そうした地軸の動きが、地球の各地の日射量を少しずつ変化させて、長期的な気候変動をもたらすのだとする説も唱えられだしたのは、20世紀の最初の方らしい。
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しかしそれだけでは、地球にこれまであったようである大規模な氷河期を説明するのは難しい。
地球全土が氷に包まれた時期もあったのではないかと考えられるくらいに、『氷河(glacier。自らの重みなどで流動するくらいの量の氷の塊)』に覆われた時代があった痕跡は世界各地にある。
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地球において、極は寒い地域というのが一般的。
北極には氷の大陸があって、南極には氷で覆われた大陸がある。
ある時、このような、地球の気候の分布がこれまでの時間ずっと変わらなかったとして、極の位置が変化していたのではないかとする説が唱えられた。
それが『ポール・シフト(極移動)』という仮説である
大陸移動説と、いくつかのパターン
ポールシフト自体は、自転軸でなく、磁極の移動や、大陸自体の移動も含む広い意味を持たされることもある。
大陸自体の移動のポールシフトは、『大陸移動説(Continental migration theory)』と混同されがちだが、普通は区別される。
両説の違いは、結果はほとんど同じだが、過程が違うというような感じか。
やはり周期的に起きているようである地磁気の(地球におけるSN極の)逆転現象は、ポールシフトとは呼ばれない。
提唱者ではないようだが、ポールシフトという仮説を有名にしたのは、チャールズ・ハチンス・ハプグッド(1904~1982)という人である。
彼の唱えたポールシフトは、大陸(正確には地殻)移動形式だったという。
その公表は1958年くらい。
『プレートテクトニクス』が主流となっていく時期のほんの少し前であった。
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チャールズ・ハプグッドのシナリオ
動く地殻
自転軸のポールシフトは それらしき現象が確認されてはいるようだが、そんなものは、世紀の大地震が起きた時に数センチくらい動いているのではないか、というレベルだという。
大陸にしても現在は、長い時間をかけて動いてきたし、今でも少しは動いているという考えは主流となっている。
しかしそれも、せいぜい10万年ほどで数キロくらいの移動速度とされている。
ハプグッドのポールシフトは、大陸というか、正確には地球表面の地殻がズレることで、結果的に極に存在する大陸が変わるというもの。
しかも、長い時間でゆっくりとズレていくというわけではなく、 周期的に、相当な距離、一気にズレるのでないか、という感じらしい。
ハプグッドは最初、自説を紹介した『The Earth’s Shifting Crust(動く地殻)』にて、その原因は極地の氷河の厚みが増すことで、地球表面の重さのバランスが崩れることによって起こるのではないかと推測していたようだ。
だが、いくらなんでも地球全体から見れば、大したものでもない氷河の厚みが、大規模のポールシフト(地殻移動)を誘発するほどの重みになるかというと、かなり微妙であるので、後にはハプグッド自身も、原因は地球内部から働く何らかの未知の力だろう、と自説を調整したという。
最終氷河期末期のポールシフト
ハプグッドの説が激変説となったのは、彼が氷河期現象のすべてを、その自説のみで説明してみせようとしたからであった。
『最終氷河期(Last glacial period)』と呼ばれる時代は、1万年ぐらい前に終了したらしいことは、ハプグッドの時代にはわかっていた。
言ってしまえば、1万5000年くらい前には、まだ地球のかなり広い範囲が氷に包まれていたわけだ。
アメリカ大陸に人が移住できたのも、海に氷のルートができてたからだろうというのが通説だ。
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ハプグッドの考えたシナリオはこうである。
確かに2万年前には、現在は比較的温暖とされている多くの場所が氷河に覆われていた。
しかしそれらは、 地球上において現在とは異なる場所、極か、極に近い場所にあった。
そして、現在の北極や南極は、代わりに温暖な地域にあったのだという。
それが、(時期的にはおそらく)紀元前10000年くらいの時に、劇的なポールシフト(地殻移動)で、現在の位置関係に変わり、暖かい地域に移動した氷河は溶けて、極地に移動した大陸は、氷河に覆われていって、数千年も経つ頃(人が世界各地で文明を築きだした頃)には、今みたいな地球になった。
否定される激変説
南極に関して知られてきたこと
『激変的なポールシフト仮説(Cataclysmic pole shift hypothesis)』は、一般的に現在では時代遅れである。
ハプグッドが1958年に本を出版した頃は、南極の「ロス海」で採取されたサンプルが1万3000年くらい前に、川により運ばれたように思われる、という調査結果などがあって、そのくらいの時代に南極大陸は温暖な気候だったという説にも、それなりの説得力があったという。
ただし現在は、氷河もそのような粒子サンプルを運ぶことがあるという説が有力とされる。
そもそも氷の深い層に閉じこめられた灰などの年代調査により、南極の氷河は少なくとも何十万年は維持されてきたことが、かなり確実になっている。
むしろ調査が進むにつれ、最終氷河の末期以降、南極の氷はその量を減らしている可能性が高くなってきているとされる。
早い話が激変的ポールシフト仮説は、前提が間違っていたというわけだ。
マンモスは温暖な地域の生物だったか
シベリア地方で、 氷漬けのマンモスが発見されたりすることがあるが、マンモスはもともと暖かい地域に生きていた生物で、ポールシフトにより、シベリアが一気に寒くなったために絶滅した、という説もあるらしい。
しかし、そのような氷漬けのマンモスの胃の中から見つかったとされる植物は、寒帯に生息するものばかりで、 この生物が暖かい地域に適応していたとする根拠は全然ないという。
超古代文明支持者に人気な大災害説
もしも(多分、数百か、数千年くらいの)わずかな時間で、地球の地理分布を変え、暖かい地域にあった南極大陸を極地に動かしてしまうくらいの大異変が、ほんの数万年くらい前にあったというのなら、それは当時、それなりに高度な文明が存在していたとしても、一気に破壊し尽くすほど恐ろしい大災害になりえたはず。
そういうわけでハプグッドのシナリオは、 実は先史時代とされる時代に、現代にも負けていないぐらい高度な文明が発達していたという説の支持者には、現在でも普通に引用されたりするという。
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ただし、一般に大地震と呼ばれるくらいの(例えば街がそれによって発生した津波で流されるくらいの)地震でも、プレートを数十メートル動かすくらいのエネルギーしか発生しないとされる。
それを参考に、 そのような地殻の移動を発生させるほどの大災害があったというのなら、そもそも地球上の生物のほとんどが死に絶えてるだろうと考える者も多い。
しかし最終氷河の末期に、それらしき大量絶滅が生じた痕跡は見つかっていない。
だが、だからこそノアの洪水のような、実際に大災害があったことを信じる人たち(そもそもが、現在、存在している化石というものは基本的にその時の災害で生じたと考えている人たち)からは、やはりこの説は人気である。
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