「ダークマターとダークエネルギー」宇宙の運命を決めるモノ

ダークな世界

4%の私達

 この宇宙の全質量の23%ほどが『ダークマター』、つまり暗黒物質。
そして73%が『ダークエネルギー』、つまり暗黒のエネルギー。(もちろん相対性理論より、エネルギーと質量は、結局は同じものである)

 それらは「ダーク(暗黒)」と呼ばれてるものの、黒いとか、暗いとか、そういう類のものではない。
それらはつまり未知なるものである。
残り4%の我々には見る事も、触れる事も出来ないらしい何かである。
と考えられている。
素粒子論 「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ

アインシュタインの宇宙定数

 1916年に発表された一般相対性理論により、重力の正体が時空の歪みであると理解されてから後、我々には関知不可なエネルギーが宇宙にあると最初に示唆したのは、相対性理論を提唱したアインシュタインその人であった。
時空の歪み 「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙 「アインシュタイン」人類への功績、どんな人だったか、物理学の最大の発明家
 『宇宙定数(cosmological constant)』と呼ばれるその未知なるエネルギーは、重力場の式に加えられたが、アインシュタイン自身がすぐに訂正した。

 どういうことかというと、一般相対性理論は、宇宙が膨張しているか、収縮している事を示してしまっていたのである。
ただの思い込みなのだが、アインシュタインはそんな事あるわけないと考えた。
そこで彼は、必ず起きてしまう宇宙の膨張か収縮を止める力として、宇宙定数を自身の宇宙観に取り入れたのだ。
ところが、間もなく、1929年にエドウィン・ハッブルが、遠くの銀河ほど、早く遠ざかっているという観測結果を得る。
それは宇宙が膨張しているらしい、確かな証拠であった。
ビッグバン 「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要  
 そういう流れで、最初に定義されたダークエネルギーは幻となった。

フラットな銀河

星はなぜ動くの?

 ヴェラ・クーパー・ルービンは幼い頃に、父親と一緒に望遠鏡を自作した。
彼女は星を見るのが好きだったが、同じ星を追えないのが不満だった。
そして気づけば不満は、疑問に変わっていた。
「なんで星はじっとしてないのかな?」

 ニュートンの万有引力でも、アインシュタインの相対性理論でも満足せず、真相を自ら突き止めようと、ヴェラは天文学の道を進んだ。

ビッグバン・ムーブメント

 1963年に、実は遠方の巨大質量ブラックホールである『クウェーサー』が発見された頃、天文学者たちの目は遠くに向いた。
ブラックホール 「ブラックホール」時間と空間の限界。最も観測不可能な天体の謎
1964年に、ビッグバン初期に発せられたと思われる電磁波の名残『宇宙マイクロ波背景放射(cosmic microwave background。CMB)。
つまりビッグバン理論の証拠が観測されてからは、理論物理学者たちの関心もだ。
科学者たちはほとんど誰もが、宇宙の始まりの答を求めた。

 しかしもちろん誰もが乗るブームなどない。
ヴェラ・クーパー・ルービンは、友人のケント・フォードと共に、クウェーサー研究初期に、それに関する論文すら書いたものの、さっさとその研究から遠のいた。

 宇宙の遥か遠くを満足に観測出来るほどに、精度の高い望遠鏡など限られる。
ルービンは呆れていたとされる。
「最初の観測者、発見者」という英雄になるべく、高精度望遠鏡を奪い合う人たちに。

アンドロメダ銀河

 それで彼女は、取り合わなくてもいいレベルの望遠鏡で研究出来る対象を求めた。
結局、彼女が研究対象にしたのは、我々自身が住む『天之川銀河(Milky Way galaxy)』を除けば、もっとも身近な銀河である『アンドロメダ銀河(Andromeda galaxy)』であった。

 彼女にはまた、子供の頃に抱いた疑問がずっと残っていた。
今なら、太陽系の惑星は太陽を巡り、太陽系は銀河中心を巡っている。
太陽系 「太陽と太陽系の惑星」特徴。現象。地球との関わり。生命体の可能性
あの近くの銀河はどうなっているのか。
回転してるのだろうか?
今ならきっと確かめられる。

回転の観測

 ルービンとフォードはアンドロメダ銀河の星々の回転運動について徹底的に調べた。
1969年に、彼らは100以上の観測結果を論文として発表もした。

 ただ、明らかな問題があった。

 銀河の星々は一番外側に至るまで回転していた。
これは特に大した問題でもない。
むしろまったく予想通りである。
問題は、彼らの観測結果が、銀河の外側の回転速度と、内側の回転速度とに差がない事を示していた事。

 ニュートンの万有引力の定理より、太陽の惑星は、太陽から遠い惑星ほど公転速度が遅くなる。
リンゴの木 「ニュートン」万有引力の発見。秘密主義の世紀の天才
実際にその通りで、太陽系の惑星は、太陽から離れてるほど速度が鈍い。
普通は、銀河系規模でも同じに思えるであろう。
ルービンらもそうだった。

 しかし実際に観測された結果によると、銀河の中心から遠い天体ほど、速度が遅いなんて事はなかった。
銀河の星々の回転速度は、中心からの距離に関係なくフラット(平坦的)だったのだ。

銀河の外にまで、何かある?

 とりあえずルービンとフォードが、夢を見てたり、頭がイカれてたり、観測のやり方を間違えてるのでないのは、すぐにわかった。

 彼女らの成果を知った、アメリカ国立電波天文台のモートン・ロバーツが、「見せたいものがある」と連絡してきたのだ。
偶然にも、同じくアンドロメダ銀河の回転を調べていた彼が見せてくれたのは、可視光でなく、電波で捉えた銀河の回転であった。
電波 「電波」電磁波との違い。なぜ波長が長く、周波数が低いか
 もちろん彼が見せたいものとはその観測結果だった。
彼が観測した水素ガスの分布は、ルービンらの観測した範囲よりさらに銀河外に伸びている。
そして回転速度は全範囲でフラット。

 居合わせた学生のひとり、サンドラ・フェーバーは告げたという。
「問題は全く解決してないって事じゃない」
その通りでもない。
今や問題はよりはっきりとした。

 ロバーツの結果は、銀河の完全に外、星など全然ない領域のガスすら、銀河系内部と同じ回転速度を持っている事を示していた。
ルービンらはアンドロメダ銀河の特殊な性質などを疑っていたが、おそらく答は、関知できない未知の何か、多分重力を発する何か、質量を持つ何かだった。

「銀河の質量と、質量対光の比率」

銀河を安定させるには

 銀河系の天体の回転速度は、中心からの距離に関係なくフラットな値となる。
この驚くべき事実を聞いた、アメリカニュージャージー州、プリンストン大学のエレミア・オストライカー、宇宙背景放射発見にも関わったジム・ピーブルズに協力を要請。
 
 彼らの計算は、そもそも巨大円盤として銀河系が安定するには、見えない質量が必要だという事を示していた。
やはり、何か、つまりダークマター(暗黒物質)があるのは間違いなさそうである。
それもそれはかなりの、少なくとも確認できる銀河系以上の莫大な量が存在しているようだった。
オストライカーとピーブルズは、1973年に論文を出した。

 ダークマターはわりと古くからある概念である。
しかしそれは、神がいるかどうかとか、宇宙が始まる前には何があったかとかいうような、いわば哲学みたいなものであった。
神はいるか 「人はなぜ神を信じるのか」そもそも神とは何か、何を理解してるつもりなのか
 だが、今やダークマターは、科学の領域に現れつつあった。
それも有名なふたりが、論文として出したために、ダークマターの問題は急速に関心を集める事となった。

一様でない宇宙

 オストライカーとピーブルズの論文を誰よりも歓迎したのはもちろんヴェラ・クーパー・ルービンとケント・フォードであった。
ふたりは、アンドロメダ銀河以外にも、回転速度がフラットな銀河を次々と観測。
それはモートン・ロバーツも同様であった。

 また、ルービンとフォード、それにルービンの娘ジュディスらは、銀河に関する新たな疑問に取り組んでいた。

 昔から大した根拠もなく、宇宙の景観は一様だと仮定されてきたが、それは本当なのかどうか?

 すでに局所的には、銀河は一様でないような場合がある事は、ルービン自身が論文としてまとめていた。
今度はもっと広い範囲で、それを確かめようとしたのだ。

 彼女は74個の渦巻型銀河の距離を比べて見た。
結果はどうであったか。
明らかに銀河の分布は一様ではなさそうだった。

ルービンーフォード効果

 ルービンらは、「少なくとも銀河系の周囲1億光年以内にある銀河の運動には、宇宙膨張に由来しない、特異な運動がある」とした。
その銀河系の特異な運動は『ルービンーフォード効果』と呼ばれるようになる。

 そしてダークマターが間違いなく現実の存在だと、多くの人に確信させたのが、ルービンらの研究成果をまとめ、比較、検討した『Masses and Mass to light ratios of Galaxies(銀河の質量と、質量対光の比率)』という論文であった。
論文の著者はジョン・ギャラガーと、誰あろう、サンドラ・フェーバーであった。

 結論はこうだ。
「全ての観測事実は、この宇宙には見えない質量の方が多い事を示している」

宇宙の結末

ビッグクランチ、ビッグチル、ビッグリップ

 宇宙にはどのくらいの質量があるのだろうか?
かつてニュートンはある聖職者から、「万有引力の定理により、宇宙の全ての物質はやがて潰れるのではないか?」と質問され、答を神任せにしたという。
 
 アインシュタインの相対性理論では、神など持ち出す必要はない。
もちろん宇宙定数も必要なかった。

 宇宙はビッグバン以降、膨張を続けている。
しかしそれは永遠に続くであろうか?
それは宇宙全体の質量がどのくらいかによる。
森の扉 「無限量」無限の大きさの証明、比較、カントールの集合論的方法
 宇宙の全質量がある値以上であれば、やがてその重力により、万物と時空は収縮に転じ、おそらくは特異点に帰る。
これが『ビッグクランチ』と呼ばれる、宇宙の終焉シナリオのひとつである。

 逆に質量が少なければ永久に膨張は続くであろう。
しかし膨張を続けるにしても、その膨張速度により結末は異なるとされる。
膨張が遅いなら、宇宙は冷えて、ただ暗闇の中に、時たま孤独な恒星が輝くだけの状態となる。
膨張が早いなら、宇宙中の全てはそれにより、粒子レベルで引き裂かれ、ただひたすら無惨なだけの状態になる。
膨張が遅いパターンは『ビッグフリーズ』、あるいは『ビッグチル』。
膨張が早いパターンは『ビッグリップ』と呼ばれる。

なんてこったい!

 銀河系、クウェーサー、超新星、20世紀に次々と発見、定義された天体の観測研究は、宇宙全体の観測研究へと繋がっていった。
もちろん宇宙全体といっても、あくまでビッグバン以降、光が届く範囲での宇宙という意味であるが、しかしそれにしたって、ニュートン、アインシュタイン、ハッブルの頃から考えても、凄まじい進歩と言えた。

 コンピューターの登場も、もちろんデータの解析研究をおおいに前進させた。
コンピュータの操作 「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械
 そうして1990年代に、いくつかの観測チームから、宇宙の結末に関する答が出された。
彼らはみな、宇宙の終演がビッグクランチなのか、ビッグフリーズなのかを知ろうとしていた。

 結果はビッグフリーズ。
後にはビッグリップの可能性が高いとされた。

 宇宙は加速膨張していた。
だが問題はそんな事ではなかった。

 我々を見よ、地球を、太陽系を、銀河系を。
莫大な質量がある。
それにそれよりもずっと多くの暗黒物質がある事もわかっている。
どう考えてもこの宇宙に質量は溢れている。
だが、どの観測チームも、宇宙の膨張加速度から、宇宙の質量に関してある結論を出した。

 宇宙全体の質量は、おそらく負の値であった。
 
 マイナスの質量、あるいはこの宇宙にはあるのだ。
我々と、ダークマターの重力を軽く打ち消してしまうほどの、見えないダークエネルギー。
つまり宇宙定数は存在したわけである。

「You’re kidding!(なんてこったい)」

真にダークなのかどうか

 実際にダークエネルギーが宇宙「定数」なのかすら、現在はまだ明らかでない。
「現在で」ではなく、未来永劫かもしれない。
 
 もちろんダークマターについても、かなり謎である。
ダークマターとダークエネルギーに何らかの関係があるのかも、全然、謎。

 ある意味、我々はニュートンが万有引力の定理を公表したばかりの頃のようになっている。
つまり、そういうのがあるのはわかっているけど、それがどういう原理かは説明できない。

 ある意味でダークマターとダークエネルギーは、ビッグバンモデルの欠点と言えるのかもしれない。
我々が観測可能な、つまりビッグバン以降、光が地球まで届いている範囲は、おそらくは宇宙全体の中でごく一部という事も、謎に拍車をかけている。
答は、真にダークなのか、単に我々のテリトリーの外にあるのかすらわかっていないという事だ。

 正直、いかにも操作性を感じる。
もう一度、我々は神に歩み寄るべきなのだろうか?
それとも……。
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