「燃料電池の仕組み」水素を利用する原理。種類。開発小史

燃料電池

燃料電池とは。乾電池、蓄電池との違い

 燃料電池は、たいてい水素と、空気中の酸素の化学反応により電気を作り出すための物である。
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水素以外にも、天然ガスやメタノール(アルコールの1種)などを燃料として利用できる。

 電池は電気を発生させる装置であるので、燃料電気の役割も、当然、電気を発生させる事である。
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 ところで、普通、一般に電池と言えば、『乾電池』か『蓄電池』であろう。
 乾電池は、亜鉛や酸化マンガンなどの化学物質の化学反応により、電気を発生させる電池である。
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ただし乾電池は、内部の化学物質を反応に使いきると、もう新たに電気を起こせなくなる。
 一方で蓄電池は、逆の反応を起こす化学物質を併用し、充電を行い、再利用を可能にした乾電池である。

 燃料電池は、化学反応を利用して電気を起こすのは、乾電池や蓄電池と同じ。
しかし、燃料電池は、外部から取り入れた燃料と空気などを使い、電気を発生させる装置である。
外部から燃料を送り続ける事で、長期の発電も可能。

燃料電池のメリット

発電効率が高い

 燃料電池はまず、発電効率がよいとされる。
我々がエネルギーを利用するには、いくらかの過程をどうしても踏まないといけない。
 例えば火力発電なら、水を熱エネルギーで沸かし、蒸気を発生させ、タービンを回す事で、熱を運動エネルギーへと変える。
そしてタービンの動きなどにより電磁誘導を起こし、運動エネルギーを電気へと変えて利用する。
 しかしエネルギーを利用する為の変換過程は、それを行う度に、使えるエネルギー量を少なくしていってしまう。
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 燃料電池は基本的に、ただ一回の化学反応で発電を行うので、エネルギー変換過程で、失われる利用不可エネルギーを少なくしやすい。

コージェネレーションシステム。コンバインドサイクル

 熱力学的観点から、どのような燃料電池でも、100%のエネルギーを燃料から引き出す事は出来ない。
しかし、冷却水などを用いる事で、多少の熱を排熱(不要な熱)として取り除き、発電効率を上げる事も出来る。
 さらに熱で高温となった冷却水を、冷暖房や給湯などに活用する事で、総合的に無駄になるエネルギーをかなり減らす事が出来る。

 電力や熱など、発生する2つのエネルギーを利用するエネルギー活用システムを『コージェネレーションシステム(共同発生システム)』と言う。
さらに、2つのエネルギーをいずれも発電に使う事を『コンバインドサイクル(複合的発電)』と言う。

 燃料電池は、排出される高温ガスでタービンを回すなどして、コンバインドサイクルを行いやすいのも利点。

環境に優しい

 多くのエネルギー利用システムが、温室効果があり、多量だと毒でもある二酸化炭素などの有害な物質を、地球にもたらしてしまう。
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 だが、水素を利用した燃料電池は、原理的に水しか発生しないので環境に優しいとされている。
 天然ガスや石油などの化石燃料から水素を取り出して利用する場合は、二酸化炭素を生じさせてしまう場合もあるが、その場合でも、燃料電池はエネルギー効率が高いので、結果的には二酸化炭素の排出量軽減に繋がる。

燃料電池開発

 燃料電池の原理は、最初の電池と言われるボルタ電池発明よりたった3年後の1801年。
ハンフリー・デービーにより発見されたという。
 彼はファラデーの師であり、電磁気楽や化学の分野で大いに活躍した人である。
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 しかし当時の技術では、実際に発電させるのは難しく、燃料電池で実際に電気が作られたのは1839年だったという。
それを実現させたのは、ウィリアム・グローブという人だったという。
最初、彼は、水素と酸素を用いた燃料電池を直列に26個接続して、水を電気分解させて見せたという。
 彼の使った燃料電池は、希硫酸(普通、比較的低濃度な硫酸の水溶液)の入った容器に、水素が入った管と、酸素が入った管のそれぞれを浸し、それらを電極で繋いだもの。
その燃料電池は、現在では『グローブ・エレメント』と呼ばれている。

 また、1889年に、fuel cell(燃料電池)という名称を発案したのはチャールズ・ランガーとルドウィグ・モンドだったようである。

 さらに実用的な動力源としての燃料電池の開発は、1932年頃からのフランシス・トーマス・ベーコンによる研究に端を発するとされている。

 アメリカのONSI社による、初の商用燃料電池は1991年。
ドイツのダイムラーベンツ社による、初の燃料電池自動車の発表は1996年とされる。

水素燃料電池の原理

 我々が利用している電気とは、電流であり、電流とは電子の流れである。
 電池には、内部の反応物質と外部の装置を繋ぐ、最低2つの電極がいる。
外部に電子が出ていく側の電極をアノード(負極)。
逆に電子が入ってくる側の電極をカソード(正極)と言う。
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 水素燃料電池において、燃料の水素が供給されるのは『燃料極』とも呼ばれるアノードである。
またカソードには空気(酸素)が供給されるので、そちらは『空気極』と呼ばれる。 

 希硫酸のような『電解質』と呼ばれる液体は、イオンは透過させるが、単体の電子はあまり通さないという性質を持つ。
燃料電池のアノードとカソードは、この(空気と燃料が直接混ざってしまったりしない為に)電解質により隔たっている。

 水素は、アノード上で、電子を放出し、水素イオンとなる。
水素イオンは電解質をすり抜けカソードへ。
電子は外部回路からカソードへ流れる。
そして水素イオン、電子は、カソードが取り込んだ空気中の酸素と反応して、水となる。

 このような一連の化学反応により、燃料電池は、電気エネルギーを取り出す。

燃料電池の種類、特徴

 燃料電池には『4方式』と言われるタイプ分類がある。
これらの主な違いは、用いる電解質の違いである。

アルカリ形燃料電池(AFC)

 しかし最初に実用的な利用をされた燃料電池は4方式でない『アルカリ形燃料電池(AFC)』というもの。
 電解質にアルカリ性の水溶液を用いたもので、水溶液を使うがゆえに、作動温度は高く出来ず、運用には触媒(化学反応を促す物質)がほぼ必須。
 常温で機能させれるなどの利点もあるが、水溶液は、酸性物質などで中和されてしまいやすく、材料に複合分子を使いにくい(たとえば二酸化炭素などを含む空気をそのまま使いにくい)ので、材料確保が困難。 
なのでAFCは、宇宙開発など、かなり限定的な分野でしか、あまり使われない傾向にある。
 ちなみにAFCは、アポロ計画などでも動力源に利用された。

固体高分子形燃料電池(PEFC)

 電解質に高分子のイオン交換膜(陰イオン、陽イオンのいずれかを濾過させる為の膜)を用いたのが、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)。
 高分子の膜の両面に、アノード、カソードをそれぞれ重ね、さらにカーボン製のセパレータ(切り離すもの)で挟み込んだ構造。

 電解質の保守が容易な上に、抵抗も少なく、小型が作りやすい。
また作動温度も、低温にしやすく、プラスチックなど、安価な材料を利用しやすい。
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 ただし、普通、イオン交換膜の電解質は、湿ってないと機能しないので、水分管理が必要。
 

リン酸形燃料電池(PAFC)

 電解質にリン酸水溶液を用いるのが、リン酸形燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell)。
 リン酸は酸性なので、二酸化炭素などの酸性物質で中和されない。

 日本での開発開始は、1981年の旧通産省工業技術院のムーンライト計画が始まりであり、日本では最も古くから開発に着手されている燃料電池。

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)

 電解質にアルカリ金属の炭酸塩などを用いたのが溶融炭酸塩形燃料電池(Molten Carbonate Fuel Cell)。
 主要部品として使われる金属材料は、量産が容易なので、低コスト化がしやすい。

 水素と炭素の特性の違いにより、水素だけでなく、天然ガスや石炭ガスも燃料としやすい。

固体酸化物形燃料電池(SOFC)

 電解質にイオン伝導性を持つセラミックスなどを用いるのが、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell)。
 1000度以上と、燃料電池の中でも、作動温度が最大級に高い。

 電解質が個体なので、液漏れの心配などがない。
耐久性やメンテナンス性にも優れ、様々な形状に加工も出来る。
しかしセラミックスはわりともろく割れやすいという特徴もある。

バイオマス燃料電池(BFC)

 これも4方式でない。

 食物などからエネルギーを取りだすという、生命体のシステムを応用した燃料電池である。
 微生物や植物の光合成システムなどが用いられる。
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特に、光合成を利用したものは、『太陽光バイオ燃料電池』とも呼ばれる。

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