電気回路
電源、導線、負荷
『電気回路(Electric circuit)』というのは、『電源(power source)』、『導線(Conducting wire)』、『負荷(load)』から成る。
電気回路は、電源より発生する電気に、導線を辿らせ、負荷へと送る機構である。
負荷とは、つまり電気がかかる先、出力される先の事。
電源から導線に電流(電気の流れ)を発生させるには、電圧(電気量の不規則さ)を生じさせればよい。
電圧は、また、『起電力(electromotive force)』とも言われる。
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電流、電圧、抵抗。オームの法則
普通、電流は記号I、電圧は記号Vで表される。
また、電流の量の単位はアンペア(A)、電圧量の単位はボルト(V)である。
電気回路の電流の量に関わってくるのは、電圧の強さばかりではない。
導線の素材やサイズにより、それは電流をある程度妨害する。
その妨害する力を、電気抵抗、あるいは単に『抵抗(resistance)』と言い、記号Rで表す。
また、抵抗量の単位はオーム(Ω)である。
「1オームの抵抗は、1ボルトの電圧を加えた時に、1アンペアの電流が流れるような抵抗」と定義される。
また、「R=V/I」である。
これは『オームの法則』という。
ジュール熱。ゼーベック効果
抵抗が電流を弱める時、導体は熱を発する。
だから、ある意味、抵抗とは、電気エネルギーを、熱エネルギーへと変換する作用である。
また、そうして発生する熱は『ジュール熱(Joule heat)』と呼ばれる。
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熱で電圧を発生させる事も出来る。
電流というのは、電子のエネルギーの流れ。
熱は、その運動量、つまりエネルギーを高める行為。
電圧は、ある点と点の、電子のエネルギーの差である。
なので、例えば帯電した(つまり電気を帯びた)棒の片側の端だけを熱したら、電子のエネルギーのバランスは崩れる。
つまり電圧が発生するのである。
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これは『ゼーベック効果』と呼ばれるもの。
導体、絶縁体。電力
長さL、断面積Sの導線の抵抗は、「R=p(L/S)」となる。
pは導線の材質による抵抗の違いで、『固有抵抗(specific resistance)』、あるいは『抵抗率(electric resistivity)』という。
(金属など)多くの物の固有抵抗は、温度によって変化する。
固有抵抗が低い(ゆえに電流をよく流す)ものを『導体(conductor)』。
一方で固有抵抗が高い(電流が流れにくい)ものを『絶縁体(Insulator)』。
また、抵抗の弱さを『導電率(conductivity)』という。
1秒間の電流と電圧の積を『電力(electric power)』と言い、その量の単位はワット(W)である。
すなわち電力をPとして、「P=VI」である。
キルヒホッフの法則
電気回路において、かなり基本の法則。
以下の2つの法則からなる。
・第1法則。
ある一点に流れ込む電流と、その後そこから流れ出す電流の量は等しい。
・第2法則。
閉じた回路内においては、起電力と電圧降下は等しい。
電圧降下とは、抵抗により消費される電力である。
そもそも電気とは、エネルギーである。
なのでエネルギー保存測的に、キルヒホッフの法則は、かなり当たり前の事である。
直流、交流、周波数
電流には『直流(direct current。DC)』と『交流(alternating current。AC)』の2種類ある。
直流は、一定方向に流れるだけの電流。
交流は、大きさや流れる向きなどが、一定の周期で変化する電流である。
交流が、変化を繰り返す速度は早い。
その1秒間の変化の数を『周波数(frequency)』といい、その量の単位はヘルツ(Hz)である。
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電子回路と素子
電気回路と電子回路の違い
電気回路などの部品、あるいは特に重要な部品は、『素子(Element)』、あるいは『回路素子(Circuit element)』、『電子デバイス(Electronic device)』と呼ばれる。
しかしデバイスとは「装置」の事なので、部品(パーツ)の意味で使うのはおかしい。
回路素子は、部品なので、単独で役割を完結するだけの物は、基本的にない。
必ず、他の素子に何らかの影響を与えるか、あるいは他の素子からの影響を受ける。
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主に影響を与える素子(能動素子)として、『ダイオード(diode)』や『トランジスタ(transistor)』や『IC(integral circuit)』がある。
影響を受ける素子(受動素子)としては、『抵抗器(resistor)』や『コンデンサ(capacitor)』や『コイル(coil)』などがある。
電気回路と『電子回路(Electronic circuit)』というのは同じものを指してるようだが、一応は区別される。
一般に能動素子を含まない回路が電気回路。
含む回路が電子回路である。
電磁誘導とコイル
磁界(磁場)とは、磁石の力(磁気)の影響下にある範囲である。
この磁界の変化が、電流を誘発する現象を『電磁誘導』という。
これはファラデーの発見である。
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この電磁誘導を利用した電源素子が、コイルである。
コイルとは、棒などに、針金などをぐるぐる巻きにした物を指す言葉だが、電子回路においても、だいたいそのようなものである。
これに磁石を近づけ、コイルを磁化させ、さらに磁石を動かすなどして、磁界を変化させ、電流を生じさせる。
ただコイルによく使われる銅線などは、抵抗があまりないので、もしコイルに直流電流を繋いだら、大きな電流により、コイルは焼ける可能性が高い。
交流電流とコイルを繋ぐ場合。
コイルの発生させる電流は、磁界を通すためにタイムラグがあり、結果、コイルは流れてくる電流に逆らう電圧を発生させ、電流を制限出来る。
コンデンサ
主に電気を貯蔵(充電)出来る素子が、コンデンサである。
その構造は、向かい合った金属板などの間を絶縁体で区切ったもの。
コンデンサの板を区切る絶縁体は『誘電体(dielectric)』と言う。
コンデンサの金属板片側にマイナス電荷を、もう片側にプラス電荷を帯びさせる。
すると金属板の間にも電位差(電圧)が生じた事になる。
しかし誘電体による妨害があるので、それらはそれぞれの金属板に留まり続ける。
コンデンサは直流電流に対しては、(電気を貯めるだけなので)電流を阻止する。
しかしプラス極、マイナス極の方向が変化する交流に対しては、充電と放電を繰り返す、いわば電流の中継点となる。
抵抗器。IC
抵抗器は、回路を流れる電流の量を、調整するのに欠かせない。
ただし、抵抗力もそうだが、発生するジュール熱に耐えるための、それ自体の耐熱性も重要である。
ICは、様々な、素子をひとつのチップに集めたもの。
高いレベルのコンピューターなら必要な素子は膨大になるので、ICは基本のごとく使われる。
半導体とは何か
シリコン。ゲルマニウム
導体と絶縁体の特徴を併せ持つ『半導体(semiconductor)』というのがある。
原子の内部構造は、プラス電荷を持つ原子核の周囲を、マイナス電荷を持つ電子がいくつかの軌道で回っているというようなものとされる。
電子が、軌道と、別の軌道の間を回る事はない。
各軌道には、定員があり、また内側の軌道ほど強い拘束力があり、定員の空きの限り、電子は内側の軌道へとつきやすい。
各軌道の定員は、2n^2個とされている。
nは軌道番号とか主量子数とか呼ばれるもので、最も内側を1として、外側の軌道ごとに、2、3……と増えていく。
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最も外の軌道電子は価電子(valence electron)と呼ばれるが、半導体としてよく知られるシリコン(ケイ素。Silicon. N14)やゲルマニウム(Germanium. N32)は、その価電子が4つとなっている。
複数の原子の、これらの価電子が結びついた状態を『共有結合(covalent bond)』、あるいは『価結合(Valuation bond)』という。
その価結合の状態が維持されている時は、固有抵抗は大きくなる。
しかし価結合自体は、あまり強い結合でなく、例えば熱などで、簡単に結合は途切れる。
結果、抵抗は弱まる。
そういうわけで、それらは半導体たる性質を有する。
pn接合。電位障壁
シリコンやゲルマニウムの中に、価電子が5個の原子を少量、例えば1000個内に1個とか混ぜると、価結合に参加できない電子があぶれ、それは動きやすい電子となる。
そのような5価原子を混ぜた半導体を『n形半導体(N-type semiconductor)』と言う。
また、3価電子を混ぜて、シリコン側の電子に影響を与える事も出来る。
そのよう3価電子を混ぜた半導体は『p形半導体(P-type semiconductor)』である。
nはnegative(負。マイナス)。
pはpositive(正。プラス)の事。
n形とp形の半導体を組み合わせると『pn接合(PN junction)』と呼ばれる状態となる。
すると接合直後は、余計なプラス電荷がpからnへ、余ったマイナス電荷がnからpへわたる。
それを繰り返す内に、n側とp側それぞれの接合部に貯まった同符号の電荷が、後からくる電荷を反発し、pとnの接合部には、電荷の移動を防ぐ『電位障壁(potential barrier)』、あるいは『空乏層(depletion layer)』という壁が出来る。
ダイオード。アノード。カソード
pn接合した半導体に、適切な電圧を加えて、強引に電位障壁を破る事で、一方向の電流を生じさせられる。
そうして、交流を直流に変換する事ができ、そのことを『整流(rectification)』という。
また、そのような用途の、pn接合半導体をダイオードというのである。
ダイオードのp形領域を『アノード(Anode。プラス極)』。
n形領域を『カソード(Cathode。マイナス極)』と言う。
ツェナー電圧。ブレークダウン
ダイオードに一方通行の電流を発生させるには、普通、アノードにプラス極、カソードにマイナス極の電圧をかける。
そのような電圧を『順方向電圧(Forward voltage)』という。
ダイオードのような半導体は、オームの法則に従わず、わずかな電圧で大きな電流を流せる。
逆にアノードにマイナス、カソードにプラスの電圧を加えると、電流は全然流れず、電位障壁が広がっていく。
そのような電圧を『逆方向電圧(Backward voltage)』という。
しかし、逆方向電圧を強くしていき、『ツェナー電圧(Zener voltage)』と呼ばれる電圧量に達した時、『ツェナー効果(Zener effect)』、あるいは『ブレークダウン(breakdown)』という現象が起こる。
つまり、急に大きな電流が流れ出す。
これは電位障壁内の原子の電子が、剥ぎ取られる事で起こる現象とされる。
シリコンダイオードは優秀とされるが、それは熱に強いのと、ツェナー電圧が大きいからである。
つまり逆方向電圧のかけすぎで、ブレークダウンを起こす危険性が少ないのだ。
トランジスタ
3本足の半導体と言われるトランジスタは「npn」、あるいは「pnp」と、p形とn形を3つくっつけている。
それぞれの足(半導体)は、それぞれに『エミッタ(emitter)』、『ベース(base)』、『コレクタ(collector)』と呼ばれる。
ベース(土台は)はまさに土台であり、エミッタは「放出する役割」、コレクタは「集める役割」を持つ。
やはり適切な電圧をかけると、エミッタからベース、ベースからコレクタへと電流を流す事が出来る。
トランジスタとは結局何かというと、これは増幅装置である。
エミッタからベースへと流れる電流を『バイアス電流(Bias current)』といい、増幅したい量、例えば音などを電気信号に変換し、ベースへと繋ぐ。
すると、バイアス電流と合わさり、コレクタに、増幅された信号が現れる。
その信号を、再び取り出して発生させる事で、音などの(厳密には合成と言えるだろうが)増幅を実現出来るのである。
また、ベースに電流を流す事で、コレクタに発生する『コレクタ電流(Collector current)』の有無が決まる。
これはスイッチなどに応用される。
サイリスタ
pnpnのような四重構造の半導体素子が『サイリスタ(Thyristor)』である。
サイリスタは構造上、順方向電圧でも、逆方向電圧でも、電流が流れにくい。
しかしブレークダウンさせて、一度電流を流れ出させると、止まりにくいというメリットがある。
また、順方向電圧によるブレークダウンは、『ブレークオーバー(breakover)』と言われる。