そもそも猛禽類とは何か?
主にタカ目、ハヤブサ目、時にはフクロウも含めた、鳥類のグループ。
鋭く強靭な鉤爪と嘴が特徴的で、比較的大型が多い。
その飛行性能は、「野生の戦闘機」と称されるほどに高い。
その飛行速度は、我々に衝撃を与え、凄まじい伝説まで妄想させてきた。
その高い狩猟能力は、かつて稲作を始める前の人類に畏敬の念を抱かせ、文明の時代になっても、ハンターは狩りの成功を願い、タカの羽を帽子などに飾り付けた。
「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応
ワシ(鷲)
タカ目の鳥で、特に大型の種をワシ(鷲)と言う。
ただしこの大型の基準は、その地域での最大級という意味合いに近い。
例えば八重山列島地域では、最大級のタカであるカンムリワシは、ワシである。
そして、九州以北では、イヌワシ(Aquila chrysaetos)などより小さい為に、クマタカはタカである。
だが実際は、カンムリワシよりクマタカの方が大きいという。
ワシは、その巨体を風に乗せ、あまり羽ばたく事なく、グライダーの如く飛ぶ。
神話のワシ
ワシは、その威厳ある姿から、古来より人々から畏敬の念を抱かれてきた。
世界最古の文明候補であるバビロニアでは、ヘビを地を這う悪の象徴。
ワシを天を舞う善の象徴としていたという。
「ヘビ」大嫌いとされる哀れな爬虫類の進化と生態
このワシとヘビという組み合わせは、どうもしっくりくるのか、よく見られる。
例えば、メキシコでは、「サボテンに立って、蛇を咥えたワシ」という絵が、国のシンボルであり、国旗にも描かれている。
「メキシコ」文化、明るい音楽と舞踊、要塞化した教会
また、インド神話の世界でも、大蛇ナーガと戦う巨大猛禽類ガルーダは、おそらくワシであろうとされている。
金のワシ。連携プレーの狩り。寿命。兄弟の恐ろしい争い
普通、単にワシと言った場合、それはイヌワシを指す事が多い。
イヌワシは黒褐色の大型で、世界中に6つの亜種が分布している。
イヌワシは、背中辺りが、金色になっている事から、海外ではゴールデンイーグルとも呼ばれている。
また、その威厳ある姿から、人気も高いという。
典型的なイメージ通り、草原や山頂などの開けた場所で、上空から急降下して、獲物を狩るが、ペアや、親子による連携プレーを行う場合もあるという。
巨体で強く、自然界に天敵はいないとされるが、それはあくまで成体のイヌワシの話で、4年以上生きる事は少ないと考えられている。
寿命は、飼育下では46年生きた記録があるようである。
先に生まれた雛は、後から生まれた雛を攻撃し、親から配給される餌を独占する事がある。
この行動は『イヌワシの兄弟殺し』と言われ、高確率で餌を食べれなかった雛は死ぬ。
我々の感覚としては恐ろしいが、そのように死んだ雛は、丁寧に埋葬されたりはせず、新たな食料として食われてしまうという。
これらはまず間違いなく、厳しい自然界を生き抜く為に身につけた習慣である。
また、人間を襲う事も希にあるという。
イヌワシは、なぜ日本では「イヌ」ワシなのか
日本に生息している亜種のA chrysaetos japonicaは、亜種6種の中で最も小型であるが、それでも体長80cmほど。
翼開長は2mくらいあるという。
しかし海外ではゴールデンなどと呼ばれるこのワシも、日本ではなぜかイヌワシ。
犬の鷲?
日本において、狼は古くは、神として崇められていた事もある。
「日本狼とオオカミ」犬に進化しなかった獣、あるいは神
一方で犬もまた、人類の最良の友。
「犬」人間の友達(?)。もっとも我々と近しく、愛された動物
しかし南総里見八犬伝などでも、はっきり書かれてるように、いくら可愛かろうが、(少なくとも江戸時代くらいの日本では)犬はしょせん畜生であり、人より劣った存在とされてきた。
実は犬という言葉が、前につく言葉は、犬的な何かを指す場合もあれど、犬死にのように、少々蔑むようなニュアンスの場合も多い。
イヌワシは、安土桃山時代には、既にイヌワシと呼ばれていたようだが、なぜそのような名前で呼ばれたのか。
実は、飛ばした矢の安定性を保つ為に付ける矢羽として、イヌワシの黒い羽はあまり好まれず、下級品とされていたのである。
そこから、このワシ自体も、大したワシではないと、見なされていたのだという。
一方でその巨体からか、江戸時代には、このワシは、クマワシとも呼ばれていたらしい。
また、兄弟殺しは、特に日本の種でよく見られる現象であり、森林の多い日本が、ワシには厳しい環境である事を示していると言えよう。
神隠しとワシ
かつて神隠しという現象は、ワシが子を誘拐している為という説もあったという。
これは別に荒唐無稽な話という訳でもなく、イヌワシなら、本当に幼児を連れ去る事もあるかもしれない。
日本には古く、こんな話がある。
大化の改新の2年前。
皇極天皇2年3月の事。
「歴代天皇」実在する神から、偉大なる人へ
現在の兵庫県の辺りの山近くの村で、とある一家の幼い娘が、ワシに連れ去られたという。
それから7年後。
娘の父親は、旅先で「鷲の食い残し」といじめられている女の子を見かける。
なんでも話を聞くと、女の子は鷲の巣の中で泣いているのを、里親に見つけられ、育てられた子なのだという。
なんとその子が見つけられた日は、彼が娘を連れ去られた日と同じであった。
その子こそ、7年前にワシにさらわれた我が子だったのである。
このような伝説的な話はけっこうあるという。
タカ(鷹)
タカ目の内、ワシと呼ばれない者は全てタカ(鷹)である。
タカは、人間とけっこう関わりが深い。
「鷹」という漢字は、「屋内で人と共に暮らす鳥」という意味合いがあるのだという。
日本において、タカは古来より、狩りに使われるのはもちろん、その猛々しい気性などが、武士に好まれたのだとされる。
その為に、家紋などにも、よく描かれた。
クマタカ
カンムリワシなど、一部のワシよりも大きいクマタカは、日本で最大のタカである。
翼開長は1.5mを越えるという。
タカとしては本当に巨大なようで、英語名はMountain hawk eagle(山タカワシ)。
中国では鹰鵰(タカワシ)とも呼ばれている。
結局これはワシなのかもしれない。
日本においては、熊鷹という名は、平安時代にはあったらしい。
この国では、とにかく大きい生物には、頭にクマが付けられるようである。
自然界において、唯一の天敵がイヌワシと考えられている。
トビ(鳶)
日本産のタカとして、最もありふれた種と言われる。
「ピーヒョヒョロ」というような擬音で表現される鳴き声が有名。
他にトンビとも呼ばれる。
トビ(鳶)は屍肉食者として知られ、元気な獲物はあまり狙わない為に、タカの中でも格下扱いされやすい。
平安時代に書かれたとされる「枕草子」には、「カラスと共に観賞する人も、鳴き声を聞きたがる人も、この世にはいないだろう」とある。
カラスと共に、酷い評価である。
「カラス」都会に紛れ込む生態系。ガーガーカーカー鳴く黒い鳥
平凡な両親から、優秀な子が生まれる事を「鳶が鷹を生んだ」と言うが、これはほんとに酷い。
そもそもトビは、タカ(の一種)である。
ハシブトガラスやハシボソガラスとの餌を巡る争いが時々起こるらしい。
ハヤブサ(隼)
かつてはタカ目に含まれていたハヤブサ(隼)だが、DNA解析によって、むしろインコ目やスズメ目に近い事がわかってきたこの鳥は、現在はタカから独立し、ハヤブサ目として独立している。
ハヤブサ目ハヤブサ科ハヤブサ属のハヤブサは、ハシボソガラスくらいの大きさ。
ハヤブサという名はかなり古く、奈良時代にはあったようで、本来はハヤトブサだったのが訛ったらしい。
ハヤは「速い」で、トブサは「翼」らしい。
この鳥はとにかく速いイメージが強く、古代エジプトにおいて、最も速い光の神ホルスと同一視されていとされる。
そしてこの鳥は本当に速い。
狩りの際の急降下時の速度など時速200キロ以上。
瞬間的には350キロ以上という観測記録もある。
これは、(時速100キロでも超速いと言われる)自然界でも、最高速度である。
亜種が18種ほどもいるとされ、世界中に分布しているという。
フクロウ(梟)
夜の猛禽類として有名なフクロウ(梟)。
視力が重要であろう飛行生物界において、夜の世界というニッチは、わりと盲点なのだと思われる。
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フクロウは、弱い月明かりの下でも、わずかな光を、その大きな目に捉え、高い精度で立体視も出来る。
ただし、さすがのフクロウも、完全な暗闇では物を見る事は出来ない。
しかしフクロウは、(音だけでも立体認識可能なほどに)聴覚もかなり発達しているので、完全な暗闇ですら、行動できない事はない。
獲物が被る事のあるトビ以上に、フクロウとカラスの不仲は古くから有名で、民話などの題材として取り扱われたりもしてきた。
ただカラスの方が、極端にフクロウを嫌っているという見方も多いという。