ニシン目の硬骨魚類
イワシは、便宜的に「硬骨魚類(Osteichthyes)」という古典的分類に含められることが多い『ニシン目(Clupeiformes)』の魚である。
「魚類」進化合戦を勝ち抜いた脊椎動物の始祖様
ようするに硬骨魚類は、遺伝学的には厳密とはされてない、形体(見た目)などに基づく分類だが、現在でもけっこう便利だし、普通に使われることもある分類である。
イワシはとにかくニシン目。
ちなみに一般的な分類学的には、目は、霊長類(猿と人間)の階層。
イワシと呼ばれる種
基本的にニシンは、「浮き袋(Swim bladder)」と腸が連結していたり、脊椎骨(vertebra。背骨を構成する骨)の中央の孔などが解剖学的な特徴とされる。
正式には「鰾」と呼ばれる浮き袋は、硬骨魚類が持っている袋状の器官で、内部に入れた気体で浮力を得るためのもの。
魚類以外の脊椎動物の多くにおいては、この浮き袋は、肺とされる。
通常、ニシンの中でも、特にイワシと呼ばれるのは、ウルメイワシ(Etrumeus teres)、マイワシ(Sardinops melanostictus)、カタクチイワシ(Engraulis japonicus)だが、「~イワシ」なるニシン自体は、他にもかなりある。
ニシンには、食用として重要な魚が多いが、特にこのイワシ3種は、世界的にも重要度が高いとされている。
マイワシとカタクチイワシを並べると、マイワシは頭でっかちで、全体的にやや平べったいようだ。
一方でカタクチイワシは、 その体が細長い方で口が大きめだとされる。
大きさは、マイワシとウルメイワシが20センチ以上くらいになることがあるのに対し、通常カタクチイワシは15センチくらいがせいぜいらしい。
分類的には、マイワシとウルメイワシは、カタクチイワシより、やはり食用としてよく知られるコノシロ(Konosirus punctatus)とか、サッパ(Sardinella zunasi)とか、ニシン(Clupea pallasii)に近い。
これらは結局全部ニシン目で、見かけは似ている。
祖先種。フォリドフォルス、ディプロミスタス
ニシンは、現在の魚類の中では、最も新しい時代に現れたと考えられていて、最も繁栄もしている「真骨類(Teleostei)」に属している。
そしてその真骨類の中においては、形質的にニシンはかなり原始的な方とされ、おそらくはより原始的なフォリドフォルス(Pholidophorus americanus)にも、似た形質があることも時に指摘される。
フォリドフォルスはジュラ紀くらいの魚。
ニシンが姿を現したのはジュラ紀だが、繁栄は白亜紀からとされる。
特にエドワード・ドリンカー・コープ(1840~1897)が命名したとされるディプロミスタス(Diplomystus)などは、現在の日本や韓国くらいの地域において繁栄していた、イワシに近い種として知られている。
ニシンは基本的には海水魚であるが、ディプロミスタスは川などを 主な生息地とする淡水魚であったらしい。
海はなぜ塩水なのか?地球の水分循環システム「海洋」 「地球の水資源」おいしい水と地下水。水の惑星の貴重な淡水
マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシ
大きさによって違う呼び名
マイワシは「ななつ星」と呼ばれることもあるようだが、これは体の側面に並んだ、明らかに7つよりも多い数あったりもする斑点からの名称である。
この一般的に黒い斑点があるかどうかが、マイワシと他の2種のイワシを見分けるポイントでもあるとされる。
斑点がないマイワシも普通にあり、少々ややこしい。
マイワシは地方によっては、大きさでその名前が呼び分けられている場合もある。
20センチ以上くらいのが「大羽イワシ」。
15センチくらいのが「中羽イワシ」
10センチくらいのが「小羽イワシ」とか。
ごく小さいのはタツクリとも言う。
普通は25センチくらいで、かなり大きいマイワシとされるが、まれにその体長が30センチを超える個体も確認されたりする。
マイワシの寿命は普通8年くらいとされるが、もっと長かったという調査記録もあるようだ。
典型的な中では最も小型
イワシ3種の中では最も小さいとされるカタクチイワシは、最大でも中羽のマイワシくらいのサイズとされる。
上顎が下顎よりも前方に出ているのが印象的とされ、カタクチイワシというのはそこからの名前と考えられる。
どういうわけだか、地方によっては、シコイワシとかセグロイワシとか呼ばれたりもするという。
卵から生まれて間もない稚魚は、カエリとか、ボウズシラスとか呼ばれる場合もある。
そんなふうな、成長段階によるいくらかの名前分けは、おそらく食用として、食感とか、微妙な味とかが違っているからだろう。
それと、マイワシより寿命がかなり短いらしい。
なぜ眼が潤んで見えるのか
ウルメイワシは、名前どおりに大きな目が潤んでるような感じで、結構見分けがつきやすいとされる。
(おそらく余計な)脂肪が少なめで、他の2種より美味しいという人もけっこう多いという。
眼が潤んでるように見えるのは、それを覆う「脂瞼(Adipose eyelid)」のためらしい。
脂瞼とは、魚類、特に真骨類の多くの種に見られる、眼を部分的、あるいは全体に渡って覆っている半透明の膜構造。
それがどのような機能を果たしているのかは諸説あるが、おそらくは眼の保護か、視覚性能の拡張だろうとされている。
やはりマイワシよりもかなり短い寿命なようである。
日本の古い百科事典の分類
第60代醍醐天皇(885~930)の第5皇女である勤子内親王に頼まれ、源順(911~983)なる学者貴族が編纂したとされる「和名類聚抄」という古い百科事典がある。
「歴代天皇」実在する神から、偉大なる人へ
その和名類聚抄では、すでにイワシとカタクチイワシは区別されているという。
それからかなり後の江戸の時代には、もう各種イワシの分類は、かなり的確になされていたようだが、マイワシとカタクチイワシの分類はあまり明確には成されていないそうだ。
1697年頃の「本朝食鑑」
1712年頃の「和漢三才図会」では、マイワシとカタクチイワシ、ウルメイワシ、コノシロ、ニシンなどはしっかり区別はされているという。
イワシの産卵
たいていのマイワシにとって、散乱時期は冬から春(2~5月くらい)にかけてくらいらしい。
そしてその産卵の時期に備えて、春から夏の期間は、なるべく体に栄養を蓄積させる。
カタクチイワシはより器用で融通が利くらしく、また性成熟もかなり早かったりするようだ。
出産と初期の成長
マイワシの場合、1回の出産で生まれる卵の数は、個体の大きさにもよるようだが、だいたい体長20センチくらいのメスで、3~5万ぐらいとされる。
また、一度出産して終わりではなく、産卵期間中には複数回の出産があるという。
産卵のためには、その半年前から十分に栄養を蓄えたオスとメスが協力する必要がある。
その段階として、オスがメスを見つけ、追いかけ回し、その後に、メスが産んだ卵に、オスが精子を振りかけるのだという。
「胚発生とは何か」過程と調節、生物はどんなふうに形成されるのかの謎
魚の卵は、水中を漂う「浮性卵(floating egg)」と、沈んでいく「沈性卵(demersal egg)」に分けられるが、イワシの卵は、さらにバラバラに散らばっていく「分離浮性卵」である。
ちなみにあまり散らばらない浮性卵は「凝集浮性卵」と呼ばれる。
受精した卵は、栄養素である卵黄と膜との間に囲卵腔という隙間が生じ、 それがさらに大きくなることで卵自体の浮力が増す。
卵は海面まで浮上してくるが、通常は2日くらいで孵化するとされる。
孵化して数日ほどは、外部から餌を取らずに、卵黄の残りを吸収して生きる。
そして、生後3ヶ月ぐらいになると、ある程度遊泳能力も高くなり、群れをなして生活するようになる。
ただしある程度成熟するまでは、群れを作っても夜間には分散するらしい。
これはおそらく捕食者による大量の犠牲を防ぐための行動であろうと思われる。
イワシの群れの規模
イワシは群れを作るが、集める仲間をわりと選択しているとされる。
基本的には同じくらいのサイズで、かつ同じような生理状態にある仲間たちと集まるパターンが多いようだ。
これは当然、同じような能力を持った者が集まることによって、群れの結合力を高めているのであろう。
群れを作ることには、バラバラでいるよりも安全であったり、エネルギーを節約できたりといったメリットがあるという説がある。
また、普段から群れてれば産卵のためのパートナーを見つけやすいだろう。
「タコ」高い知能と、特殊能力。生態、進化。なぜ寿命が短いか
群れ同士がさらに集まり、より大きな軍団を作ることもあるようで、漁獲された群れの重さなどの調査から、その規模は何千億匹に達することもあると考えられている。
軍団は広がりも大きく、数十キロほどに及ぶこともあるという。