「幹細胞」ES、iPS細胞とは何か。分化とテロメア。再生医療への利用

細胞の構造と分裂

 一般的に生物の定義は、「細胞構造(Cell structure)」を持っていることだとされる。
この基準的には、ウイルスは生物ではない。
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 細胞には大まかに、『真核細胞しんかくさいぼう(eucaryotic cell)』と『原核細胞げんかくさいぼう(Procaryotic cell)』という分類がある。
2つの細胞の大きな違いの1つは「核(cell nucleus)」と呼ばれる構造の有無である。

 生命体の設計図にも例えられる、有名な生体分子『DNA(デオキシリボ核酸)』は、真核細胞の場合、その細胞核の中に収まっているが、 原核細胞の場合は細胞構造内において剥き出しの状態となっている。
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 DNA以外には、細胞の形質を決める『細胞膜(cell membrane)』や、 構造体そのものの部品のような存在である『タンパク質(protein)』などが、真核、原核の両方に共通した要素となっている。
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一般的に真核細胞の要素として語られる、例えば「リボソーム」とか「ミトコンドリア」とかのような『細胞小器官(organelle)』と呼ばれるものは、原核細胞にはない要素である。

DNAと染色体

 DNA は鎖状の長い分子が練り合わさって、二重螺旋らせん構造を形成しているような感じとされる。
それを構成する分子の鎖は、4種類の単位分子、「アデニン(A)」、「チミン(T)」、「グアニン(G)」、「シトシン(C)」の連なりとなっている。

 螺旋構造の各繋がりの部分は、必ずアデニンとチミン、あるいはグアニンとシトシンの対構造(セット)となっている。
4種類の分子は全部、「塩基えんき(base)」と呼ばれる種類の分子だから、ひとつひとつの対は、「塩基対」と呼ばれる。

 ヒトの場合、ひとつの細胞内のDNAは24個の線として分断され、それぞれ『染色体(Chromosome)』と呼ばれる構造の中に入れられている。
分断されたDNA染色体の内、最も大きいものは2億5千万塩基対、最も小さいものが5500万塩基対とされる。

 DNAは核の中で漂っている時は、細すぎて、光学顕微鏡ではなかなか確認できない。
しかし細胞分裂の際には、折りたたまれることで、全体的には太くなり、顕微鏡で見えるようになる。
このためにかつては、染色体というものは分裂の際にのみ生じるものだという説もあったようである。
ただし、そのようなDNA構造が折りたたまれた構造を染色体と定義するならば、それは確かに細胞分裂時にのみ形成されるものである。

 DNAは折り畳まれる過程として、まず「ヒストン」 と呼ばれる球状のタンパク質に巻きつく。
この巻き付いた状態(構造)を「クロマチン」といい、 クロマチンが連続して繊維状となり、 さらに絡まり合って太いヒモ状になり、それが畳まれたものが染色体とされる。

 DNAがヒストンに巻きついている構造は「ヌクレオソーム」と呼ばれる場合もある。
その場合、それが繊維状態にまとめられている構造を指して、クロマチンという名称が使われたりする。

 分子構造がDNAと似ているが、螺旋構造を作らず、生体内のより広範囲に役割を持っているらしい『RNA(リボ核酸)』というのもある。
DNAに比べると、構造的に生成が容易なかわりに、不安定だとされる、このRNAは、例えばDNAが保持している遺伝情報の伝達などに利用される生体分子とされる。

細胞の種類。原核生物、真核生物

 細かく考えるなら、細胞は様々な種類として分類できる。
多細胞生物は、その体のあちこちに、他の部位には見られない個性がある。
それらを作るのは様々な種類の細胞である。
例えば、 皮膚を作る「皮膚細胞(Skin cells)」。
神経系を構成する「神経細胞(neuron)」。
心臓を構成する「心筋しんきん細胞(cardiac muscle cell)」など、様々である。

 しかし、生物全体の中で大きく二分するなら、やはり真核細胞と原核細胞である。

 多細胞生物を構成する細胞は基本的に真核細胞である。
1個の細胞からできている単細胞生物には、原核細胞の種である『原核生物(prokaryote)』と、 真核細胞の種である『原生生物(Protist)』とがいる。

 比較的よく知られた原核生物としては大腸菌だいちょうきん(Escherichia coli)や藍藻類らんそうるい(blue-green algae))などが知られる
一方で原生生物としては、厄介なカビとか、発酵食品などに利用される酵母こうぼ(yeast)などが馴染み深いと思われる。

 全ての多細胞生物と原生生物は、『真核生物(eucaryote)』と呼ばれる。

 ミトコンドリアのような独自のDNAを有する細胞小器官の存在から、真核細胞というのは、原核生物が共生した結果、誕生したものであるという仮説が有力である。

 核の起源に関しては、大型の共生構造を作った原核細胞のDNAが一箇所に集合して融合し、周囲に膜を形成したのだろうと考えられている。
そうだとすれば、基本的に原核生物よりも真核生物のDNAの方が長い傾向にある理由を説明しやすい。

真核細胞の構造

 細胞の外側を包ん膜は細胞膜と呼ばれる。
植物の場合は、細胞膜のさらに外側に「細胞壁(Cell wall)」という膜がある。
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細胞膜には、膜自体を構成する分子の他にも、様々な種類の分子が挟み込まれていて、いろいろな反応を行っている。
さらに挟み込まれた様々な分子は、必要に応じて、膜内を移動したり、離脱したりもするという。
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 基本的な膜の役割は、原形質の崩壊を防ぎ、また異物の混入を防ぐことであろう。
しかし時には、膜の隙間を通ることもできない養分を吸収したり、あるいは老廃物を捨てたりしなければならない。
その場合に、膜の隙間に凹みを作り、その凹みに目的の物を包み移動させる『サイトーシス(cytosis)』という機能がある。
基本的に、細胞に取り込むのを「エンドサイトーシス」。
細胞から放出するのを「エキソサイトーシス」。
また、細胞を通り道として、その内部を輸送されるような場合もあり、その場合は「トランスサイトーシス」と呼ばれるという。

 核や細胞小器官も含めた、細胞膜以外の細胞の部分すべてを「原形質げんけいしつ(Protoplasm)」。
さらに原形質の内の核以外の部分を「細胞質(cytoplasm)」。
そして細胞質の細胞小器官以外の部分(主に水を主成分とする各種物質からできたゲル状物質)を「細胞質基質(Cytosol)」という

 核は「核膜(nuclear membrane)」と呼ばれる、二重の分子の膜に覆われている。
この核膜は、基本的には細胞膜と同じ類のものとされているが、タンパク質などが出入りするための「核膜孔かくまくこう(Nuclear pore)」と呼ばれる穴があちこちにあるという。
核は一般的にはDNAを収容する容器のように考えられる。
核の中で特に分子密度が高くなっている部分を「核小体(Nucleolus)」というが、RNAの転写(生成)や、 細胞小器官であるリボゾームの構築は、ここで行われるとされる。

 細胞小器官としては、核の次に大きく、細胞内において、エネルギー生産の役割を担っているというミトコンドリア。
RNAの情報に基づきタンパク質を合成するリボソーム。
タンパク質に「糖(Sugar)」を付加させたりなどする「ゴルジ体」。
リボソームで合成されたタンパク質を、一時保管した後ゴルジ体にわたす「小胞体(Endoplasmic reticulum)」。
細胞内の物質の貯蔵や輸送を行う「小胞(Vesicle)」。
細胞内で不要となった物質を消化する役割を担い、特に単細胞生物においては消化器になっている「リソソーム」などがある。

体細胞分裂、減数分裂

 細胞分裂は、1個の細胞が2つに分裂することである。
単細胞生物の場合のそれは、文字通り自身という存在の分裂である。
多細胞生物の場合は、1つの細胞の分裂は、単に存在や成長の過程のひとつにすぎない。

 細胞分裂の際、分裂前の1個の細胞を「母細胞」。
分裂した後の2個の細胞を「娘細胞」という。

 分裂にも、主に「体細胞分裂」、「減数分裂」という、2つの種類がある。

 体細胞分裂は、母細胞は分裂の結果消滅し、代わりに母細胞と分子構造的に全く同じ2個の娘細胞が誕生するというもの。
分裂の際には、まずDNAがコピー(複製)される。
それから他の部分(原形質)がコピーされるが、真核細胞の場合は、当然ながら核の分裂もこの段階となる。

 減数分裂は、DNAを複製せず、半分ずつにした染色体(DNA)を2個の娘細胞に分け与える分裂。
この分裂時に、半分ずつの染色体が、いくらか遺伝情報を交換することもあり、それは「乗り換え」や「交差」などと呼ばれる。

 精子や卵子のような生殖細胞は、基本的に減数分裂で作られたものである。
受精とは、精子と卵子の持つ、体細胞のそれの半分ずつの染色体の合体でもある。
子供が母親と父親の遺伝子を半分ずつ引き継ぐわけである。

女性と男性を決めるもの

 ヒトの場合、体細胞分裂の際に発生する染色体は、「相同染色体」と呼ばれる22本ずつの同じものの対。
さらにX、Yと分類される2種類の性染色体の対がある。
つまり合計では23の染色体対があり、染色体自体は46本ある。
性を決定する染色体は、女性の場合はXとX、男性の場合はXとYとされる。

 相同染色体の1本ずつ。
ようするに性染色体以外の染色体を「じょう染色体」という。

 減数分裂の場合、常染色体は1本ずつ。
XかYの性染色体も1つとなり、染色体数の合計は23本である。

 分裂の際に複製された「染色分体」と呼ばれる2本が接している部分は、「セントロメア」と呼ばれる。

細胞分裂の限界。テロメアの謎

 細胞が分裂するなら、なぜ多細胞生物は、いつまでも新しい体細胞を確保して、永遠に生きることができないのか。

 様々な年齢層の人から採取した細胞を調査してみると、明らかに若い人ほど細胞の分裂頻度が高いとされる。
さらに、人工的な培養で、ヒトの皮膚細胞の分裂を繰り返させ、その総分裂回数を調べてみると、環境にかかわらず、総分裂回数は 60回ほどなのだという。

 そこで、細胞は自身がどれだけ分裂した存在なのかをしっかり記憶しており、その決まった回数の後はもう分裂をしないのではないか、という説が出てくる。

 若い人のDNAの末端部分には「TTAGGG」という塩基記号で表現されるユニットが大量に繋がっているという。
DNAは複製、分裂を繰り返すわけだが、この「テロメア」と呼ばれるユニットはどうやら決まった個数、再生しない。
そしてこのテロメアを失ってしまった細胞は、分裂をしないし、無理に分裂をしたとしても遺伝子に異常をきたしてしまうのだという。

 テロメアの塩基配列は生物種によって異なるという。
どうもTTAGGGというのは、哺乳類のテロメア配列らしい。
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 原核生物やミトコンドリアのDNAは、ループする輪の形であり、テロメア(末端)を持たない。
よってこれらは、少なくともDNAの寿命的な意味では不死であると考えられる。
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テロメラーゼ

 遺伝的に、通常よりも歳をとるのが早くなってしまうという「ウェルナー症候群」という病気の原因は、テロメアの減少速度の異常だとされる。

 生殖細胞は体細胞に比べて、分裂回数の上限がかなり多いとされる。
また、他の健康な細胞を死に追いやってしまう、異常をきたした細胞、つまり「ガン細胞」に関しては、ほぼ無限と言ってしまってもいいくらい、細胞分裂を行うことができる場合があるという。

 生殖細胞やガン細胞には、「テロメラーゼ」と呼ばれる、テロメアを増産することができる「酵素」が働いているようである。
酵素とは、生体の化学反応を促す役割を持つタンパク質のこと。

 そういうわけなので、不死の研究とは、遺伝学的にはテロメアの研究と言っていいかもしれない。
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幹細胞。本当に万能細胞なのか

 通常、多細胞生物の個々の部分を構成している細胞は、 分裂時に他の細胞として変化することができない。
例えば人の目を構成している細胞は、皮膚を構成している細胞に変化(というより分化)することはできない。

 「幹細胞かんさいぼう(stem cell)」と呼ばれる細胞は、分裂する際に、別種の細胞になれる細胞のこととされる。
基本的に、ある用途(例えば再生医療)のために必要なすべての細胞に変化することができる肝細胞は、『万能細胞(Versatile cell)』と呼ばれる。

 また『分化』とは、幹細胞が別種の細胞に変化分裂することをいう。

対称分裂、非対称分裂

 我々に最も馴染み深い幹細胞(むしろ万能細胞?)と言えば、とりあえず受精卵であろう。
受精卵は、ただ多くの回数、分裂するというだけでなく、多細胞生物の各部分を構成するための様々な細胞に分化することができるから、我々という存在も発生できるわけである。
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 通常の体細胞分裂は、実質的に母細胞と同じ娘細胞が2個作られることから、『対象分裂』と呼ばれる。
一方で、ある細胞が他の細胞を生み出す分裂は『非対称分裂』と呼ばれる。
非対称分裂の場合、核とDNAは均等(対称的)に分裂するが、細胞質に関しては不均等になり、娘細胞の片方はやはり母細胞と同じものになるが、もう片方は別の細胞となる。

エピジェネティクス

 しかし非対称分裂によって生じたばかりの2つの娘細胞は、基本的にほとんど同じである。
最終的な変化は、誕生後の成長過程の違いにある。

 対称分裂にしろ非対称分裂にしろ、共通していることとして、母細胞と同じDNAがコピーされることがある。
最終的には母細胞とはまったく異なったものとなる予定の細胞であっても、それは変わらない。

 DNAが同じ、つまり2つの娘細胞の遺伝情報は同じであるというのに、なぜそれは結果的に別々の細胞になるのか。
DNAの全遺伝情報はけっこう膨大で、特定の細胞を作るのにすべてを使う必要はない。
細胞というのは基本的に、DNAの必要な場所のみから、必要な遺伝情報のみを使う。
利用される必要部分の鍵はクロマチンが握っている。
DNAのヒストンへの巻き付きが強い部分は解読が困難であり、通常、巻きつきが緩い部分が、遺伝形質として実在のものとなる。

 上記のような、DNAの必要情報だけを使って、細胞を意図通りに成長させたりする(DNA の配列全体の状況に関係ない)遺伝変化システムは『エピジェネティクス(Epigenetics)』と呼ばれる。

メチル基というストッパー

 受精卵の対称分裂と非対称分裂を繰り返し、多細胞生物の形態を作っていく。

 分化はわりと後戻りのできない変化である。
人の場合は発生のある段階で、「外胚葉」、「中胚葉」、「内胚葉」 と呼ばれる部分を作るが、それらはそれぞれ将来に、体のどの部分になるのかがすでに決まっている。
外胚葉は皮膚や脳や感覚器。
中胚葉は骨格や血管や心臓や生殖器。
内胚葉は消化管、肝臓、肺などを作る。

 それから細胞が、眼の細胞とか心臓の細胞とかに詳細に分布してしまうと、もはやそれらの細胞は、他の役割をもつ細胞に変わることができない。

 しかしDNAにはすべての細胞の遺伝情報が含まれているはずである。
どんな細胞になってしまってもDNAはそのまま持っているわけだから、他の細胞の遺伝情報を抜き出して利用して変化することはできないのだろうか。
これに関しては、分化した細胞は、必要のなくなったクロマチンの部分に「メチル基(CH3)」という化学構造(原子構成)をストッパーとして付けてしまうのである。
この構造はDNAが分裂してもしっかり復元される。

 メチル基のストッパーは、まず確実に余計な構造が作られるのを防ぐためのもの。
例えば、本来は手ができるところに目ができてしまったりすることを防ぐためのシステムである。

成体幹細胞

 万能でなくとも、例えば心臓の特定の部位(の細胞)に分化できるものなども幹細胞であり、そういうものは、普通の細胞と比べて総体的には珍しいが、普通、誰でも多少は持っているものなので、そういう意味では珍しいものではない。

 体の組織にはたいてい、大量の専門細胞の中に、(数万個に1個とかのレベルとされる)ちゃっかり『成体幹細胞(Tissue Stem Cell)』という幹細胞がある。
とても万能とは言えないが、その組織内では十分だろう多分化機能を持っているこの幹細胞は、成長や組織再生の際に、新細胞を用意するためのものとされる。

ES細胞

 いわゆる『ES細胞(Embryonic Stem Cell。胚発生幹細胞)』とは、 受精卵が生物の最初期段階に移行した状態、すなわち胚から分離された細胞のことである。
これは基本的には、その生物を構成するどんな要素の細胞にも変化することが可能な万能細胞である
普通に考えたらまずそうである。

 実際的には、胚から抽出された後、多能分化性を保ったまま増殖させた場合、つまり実用的な状態にして初めてES細胞と呼ばれる。

 初めて、動物の発生初期段階から抽出したサンプルから、ES細胞を培養するのに成功したのは、1981年のこととされる。
それは、イギリスのマーティン・エヴァンズ(Martin John Evans)、マシュー・カウフマン(Matthew H. Kaufman。1942~2013)のグループによって最初に発表された。

 Embryonic Stem Cellという名前は、マーティンらにやや遅れて、しかしほぼ同時期にそれに成功した、アメリカのグループを率いていたゲイル・マーティン(Gail Roberta Martin)の命名らしい。

 細胞培養の際に、その細胞の分裂をサポートするための栄養素細胞を「フィーダー細胞」という。
幹細胞培養にも、最初はフィーダー細胞が利用されたが、現在では、フィーダー細胞なしでも、培養できるようになったようである。
幹細胞ごとの種類により、最適な培養地は市販もされているという。

iPS細胞

 ES細胞は、普通には生物となる予定の胚を使って作るもののため、倫理的な問題がけっこう厄介だったりする。

 体細胞から作られる、(おそらく史上最初の)人工幹細胞である『iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell)』は、2006年に、京都大学の山中伸弥やまなか しんやによって作られた。
彼はマウスの表皮細胞に、4つの因子(山中因子)、c-Myc、Oct3/4、Klf4、Sox2の遺伝子を導入することで、分化を逆行、すなわち『初期化(リプログラミング。formatting)』させることに成功したのだとされる。

 つまりiPS細胞とは、すでに分化した後の細胞を初期化させることで得たES細胞的な幹細胞である。

 山中教授は早くも2007年には、人の細胞からiPS細胞の作成に成功している。

 ちなみにiPSの最初の文字が小文字なのは、当時流行っていた音楽プレーヤーiPodにあやかったらしい。

再生医療について

 幹細胞はその性質から、当然のことであろうが、再生医療に利用できないかと研究が続けられている。
実際にそれによる医療の成功例もある。

 万能なES細胞が注目されがちだが、特定部位の再生に利用するなら、成体幹細胞で十分だと考えられていることも多い。

 具体的な再生医療でなくても、例えば遺伝子疾患の患者の細胞核を幹細胞に移植して増殖させ、患者が苦しむことになっている形質の原因を確かめる研究などにも利用できたりするという。

 しかし人工的なiPS細胞を使う場合はもちろんのこと、自然的に発生しうる生体内の化学反応を大きく変化させることには違いないだろうから、何らかの異常が発生するかもしれないという懸念は常に付きまとう。

クローンの胚の利用

 ES細胞の場合は、胚段階の細胞を使うわけだから、普通に利用する場合は、患者以外の細胞から作る必要がある。
そうなると当然、(少なくともいくらかの)多細胞生物が基本的に有する、異物を拒む「免疫作用」という機能が問題になってくる。

 クローン技術によって発生させた胚を使えば、おそらく免疫の問題は解決できる。
もちろんiPS細胞を使う場合も、本人の細胞が使えるので、免疫はおそらくあまり問題にならない。

最初の問題点はどう解決されたか

 iPS細胞に関しては、最初、必要な因子に発ガン性遺伝子であるc-Mycが使われているのが問題となったが、 後には発がんの危険が低いL-Mycなど別の因子に置き換えれることが判明したそうである。

 また因子を細胞に導入するための「ベクター(運び屋)」として、最初はウイルスが使われたらしいが、それではウイルスが余計な遺伝子を細胞内に仕込む危険がある。
そこで後には、プラスミドと呼ばれる、染色体に取り込まれる心配のない輪状DNAが使われるようにもなった。
DNAを介さず、タンパク質を直接送り込む方法も、今はあるという。

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