「レイライン」直線の意味。未知のエネルギーの通り道か、交易路か

写真家、アルフレッド・ワトキンス

 アルフレッド・ワトキンス(1855~1935)は、 食品工場やホテル業などで裕福になった、一家の生まれ。

 ワトキンスは優れた写真家だった。
彼はカメラを自作するほど、 この分野に関しては強い拘りを持ち、彼のカメラは、サイズが小さいわりに性能が良いと評判であったという
彼はまた、写真のために光の強弱を測定する露出計ろしゅつけいの優れたものを開発したりもしている。
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 1910年には、 世界最古の写真家コミュニティーの一つされる「英国王立写真協会(RPS。Royal Photographic Society of Great Britain)」から、「プログレスメダル(Progress Medal。進歩メダル)」を授与されてもいる。
このメダルは、写真や画像の科学的、技術的発展に重要な進歩をもたらした発明や研究の功績を称えるためのものである。

 ワトキンス一家は1820年頃に、イギリス西部、ヘレフォードシャーという自治州の州都であるヘレフォードに引っ越してきて拠点にしている。
アルフレッドは(おそらく仕事の関係で)その故郷であるヘレフォードシャーのあちこちをよく旅行していた。

 そして1921年の夏のある日。
ヘレフォードシャーのブラックウォーダインという村を訪ねようとしていた時に、地図を見ていて、彼はふと「レイライン(Ley line)」の着想を得たのだとされている。

古代の交易路か

なぜ「レイ」ラインか

 最初にワトキンスが気づいたことは、いくつかの古代遺跡が建てられている丘の頂上が、地図上では一直線に並んでいるように見えることであった。

 さらにいくつか伝統的な古い建築物、例えば教会や城や墓地などまで、そのような直線で結ばれているのではないかと、彼は推測した。

 ワトキンスは、そのような古い建物を結んでいるように見える直線を、レイラインと名付けた。
この名は、最初それを確かめた時の地図に書かれていた、直線が通る地名に「~ley」という場所が多かったかららしい。
leyという単語には、聖地とか、古い道的なニュアンスもあるようで、まさにぴったりだったろう(これらの意味はレイラインからかも知れないが)。

 Ray line(光の道)ではない。
英語圏以外では、そうだと勘違いした人も、かつてはけっこういたらしい。

技術的な話で、神秘的な話ではなかった

 後には、レイラインはオカルト研究家から注目を浴びて、何か特殊なエネルギーの通路なのではないかとか、一個の生命としてのガイアの血管的なものではないかとか、少し神秘的な意味合いを授与されることも増えた。
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しかし、ワトキンス自身は、それについてオカルト的な意味は考えてなかったようだ。

 ワトキンスは、レイラインを実用的な交易路だと考えていたらしい。
地図の上でなくても、我々が立つ地球上のこの地面は平面である。
そして平面上における2つの地点を結ぶ最短の繋がりは直線。
だから食料などをなるべく早く、低コストで運ぶためには、普通は直線がよい。
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 それと、そこで生活を営む人とか、旅人とかが通るための道がしっかり認識されているのは、防犯などにも役立ったはず。

 ワトキンスの考え方では、レイラインにそって建物が建てられていたのではなく、建物がレイラインを作るために建てられていたということになる。
これは、レイラインそのものに少しでも神秘的な要素を入れたら成り立たない考えであろう。

 ただ、後にはワトキンス自身も、レイラインをある程度神秘的なものとして捉えるようになった、という話もある。

古代遺跡は文明人の技か

 ワトキンスはレイラインに関して、自分の考えを「古い直線路(The Old Straight Track)」という本にまとめ、それは1925年に出版された。

 ワトキンスの1925年の本は、世間の注目はあまり集めもせず、肝心の考古学者たちからの評価も低かったとされる。
ただそれはあまりにもオカルト的だから受け入れられなかったとかではなく、単に、古い遺跡を作ったような人たちに、広い範囲で直線のネットワークを意図的に構築できるような技術力が本当にあっただろうか、とかそういう話だった。
当時は紀元前の石器文明なんて、とても野蛮なものだとするのが普通であったから。

 ワトキンスはレイラインを根拠に、ストーンヘンジなどを作った人達は、野蛮人なんかではなく、しっかりとした工学技術もある程度持った文明人だったのではないかと指摘もしたそうだ。
レイラインが真実かはともかく、これに関しては、今はワトキンスの方が真実に近かったと考える者も多い。

 特にキリスト教世界では、それに対する崇拝のあまり、それ以外のものは文明でないかのように考えるような傾向は強かったとされる。
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それに関して最初からあった批判

 まず最初にワトキンスが確かめた地域がそうらしいが、古い遺跡とか施設とかが数多くある地域というのは、本当に文字通り数多くあるので、地図上では大量の点となる。
平面に適当に配置した点の3つ以上が直線で繋がる可能性は低いだろうが、点が大量にあるならば、低い可能性でも十分だろう。

 古い建物なら何にでも注目したのも問題であった。
一口に古い遺跡と言っても、その製作年代はバラバラである。
キリスト教の教会であるならば、まず間違いなく紀元後のものだが、有名なストーンヘンジのような石造りの遺跡には、紀元前のだとされてるものがいくらでもある。
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特に教会が大量に点在しているような地域では、教会ばかりで形成されているレイラインというのもあるようだが、それはやや例外的なものとされる。
通常、レイラインとされるものを形成している各モニュメント(記念碑)がそうであるように、紀元前の石の遺跡と、中世の城などが混在した図式なんてどれほど真面目に検討できるものであろうか。

 それとそもそも彼が見つけたレイラインの中には、間に丘や山があって、道だとしたらおかしいという指摘もある。

本当に道か。古代遺跡は再利用されたか

 ワトキンス自身、特にその直線が単なる偶然ではないか、という疑問には悩んでいたらしい。
彼は3つの点を結ぶ線なら偶然かもしれないから、4つ以上を結ぶ線を重要視していたとされる。

 モニュメントの年代がバラバラであることに関しては、ワトキンスは古代の聖地は様々な時代において再利用されることがよくあると反論していたらしい。

 ようするに、かつて古代人は石の遺跡のみでレイラインを完成させた。
しかしそのいくつかの遺跡が、後の時代には壊れるか壊されるかして、そこに、後の時代の聖なるものとして教会などが建てられた。
そうして、様々な時代のモニュメントが構成要素となるレイラインが現代に残った。

 この説はけっこう説得力があるだろう。
初期のキリスト教は、各地の古い宗教や伝統をわりと取り入れていたらしいから。
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 道のはずなのに途中で明らかに障害物があるという問題もまた、ワトキンスを悩ませたろう。
しかしこれはオカルト的な説を採用する者にとっては、大した問題ではないだろう。

 ワトキンスがそう考えていたかは定かでないが、レイラインの構築は宗教的の理由によるもので、死者の道のように考えられていたのだったとすれば、途中にどんな障害物があろうが、どうでもよくなるだろう、という指摘はある。

レイハンター。レイハンティング

 ワトキンスの説に影響を受け、特に自分に馴染みある地域などでレイラインを探す者たちを「レイハンター」。
それを探す行為自体を「レイハンティング」と言う。

 レイハンティングはたいていが、地図の上の探索から始められる。
疑り深いハンターなら、3つか4つほどのポイントを結ぶ直線を見つけた時点で、実際の現地のその直線を歩いてみたりもする。
そして現地を歩いてみたところ、地図からは省かれていた、その直線上にある新しいポイントが見つかるということもあるらしい。

 地図に載っていないポイントまで見つかるというのはけっこう強烈な印象なのだろう。
特に、実際には直線でないことを証明しようとした懐疑論者かいぎろんしゃが、逆に信じる側に回るということもあるという。

 それと、そもそもそれが偶然でなく、レイラインかもしれないと考えるための最低限の構成ポイントの数は5だともされる。

オカルト的な説明

 普通に考えて、レイラインなる、古代人たちが意図的に用意した直線が本当にあるのだとして、それにオカルト的な説明を持ち出す必要など まったくない。
この事は、信奉者しんぽうしゃよりのレイハンターにも、指摘する人がけっこう多いようである。

 もちろん、それが作られた理由が宗教で、(実際はどうあれ) それを用意した人たちが、そこに特殊な道筋を想定していた可能性は当たり前にあるだろう。
だが上記でいうオカルト的な説明とは、そう思われていたとかではなくて、現実にそうであるというような話である。

 レイラインが、交易路だというよりも、何らかのエネルギーを輸送するための線だという説の影響は大きく、ワトキンス自身も、「実際に確かめてみた一直線上に並んだ各モニュメントは、かすかに光っているように見えた」と語ったなどという逸話まで生まれた。

ダウジングによるエネルギーの検出

 おそらくレイラインに関しても、アトランティスの科学文明伝説のように、神秘主義者などによる脚色があった。
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 例えばレイラインは、 自然現象などに関わる気の流れを、 様々な 建物の配置などでコントロールする、古代中国の「風水ふうすい」と関連付けられることがある。

 また、棒や振り子などで、地下水脈や金鉱などを探知するという、魔術的技術「ダウジング(Dowsing)」により、レイラインから、知られざる大地のエネルギーを検出したというような報告は結構あるのだという。
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もともとこれがエネルギーの線だというふうに主張し始めたのも、ダウザー(ダウジングする人たち)らしい。

ダウジングは信用できるか

 ところでダウジングは中世のヨーロッパでは普通に行われていたらしい。
ダウジングに限らず、そのような占いの類で、レイラインのエネルギーを検出したというような話の問題点は、そういう方法で検出できるなら、明らかにレイラインそのものを見つけるより先に、その大地エネルギーとやらなどが検出されていたはずということだろう。
そして(多分)そこからレイラインの線はとっくに見つかっていたはず。
だがレイラインの発見者は棒を持った占い師ではなく、地図を見ていた写真家である(注釈1)。

 ただ、何か未知のエネルギーの線があり、もしかしたら現代よりも知覚能力に優れていた古代人たちが、 意識的あるいは無意識的にそれに引き付けられ、そのルートに沿ってモニュメントを配置していった。
というような考え方自体は、辻褄は合ってるし、そうおかしな話でもない。
ちょっと非現実的なだけだ。

(注釈1)以前のレイライン?

 古代の聖地が意図的に整合するように建設されているかもしれないという説自体は、ワトキンスよりも古くからある。
例えば1846年に、熱心な考古物愛好家でもあったらしいエドワード・デューク(1779~1852)なる牧師は、「ウィルト州のドルイド寺院(The Druidical Temples of the County of Wilts)」という本で、その事について自説を展開した。
彼は古代遺跡が、太陽と太陽系の各惑星の位置に対応するように配置されていると考えていた。
しかし彼の計測は結構いい加減であり、地球に対応するらしいポイントのほうが、水星よりも太陽の近くにあるなどという無視しにくいミスもけっこうあるという。
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 線の繋がりに関しても、ウィリアム・ヘンリー・ブラック(1808~1872)が1870年に、古代遺跡の配置には線形的な繋がりがあるかもしれないと主張している。
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また、1909年には、ウィルヘルム・テイト(1860~1942)という人が、高度な古代ゲルマン文明は、宗教的、あるいは天文学的な機能のための直線配列、すなわち「聖なる線(Heilige Linien)」を構築していたという説を出した。

 ワトキンスが彼らから影響を受けていた説もある。

 太陽系と関連していると考えられるレイラインを、デュークラインと呼ぶレイハンターもいる。

ゴーストハンターの振り子ダウジング

 考古学者が本業でありながら、オカルト研究家としても知られたトーマス・チャールズ・レスブリッジ(1901~1971)は、振り子ダウジングの第一人者として知られる。

 彼は心霊現象が、土地や物質などに記録されたなんらかのメモリーデータであるとかいう自説を持ち、どちらかというとレイハンティングというより、ゴーストハンティングの分野で有名な人である。
その彼だが、蓄積されたゴーストデータであれ、地下水脈であれ、金山であれ、振り子の振れ幅によって探知できるという信念を持っていたらしい。

 そして彼は1950年代の末くらいに、コーンウォール州のストーンサークルにて、石同士の間を流れる電流(あるいはそれらしきもの)の存在に気づいたのだという。
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石に発生していた電磁気

 妙な話だが、特にレスブリッジ以降、レイラインが地下水脈と関連していると考えるダウザーと、電磁気に関連していると考えるダウザーとの間でも、けっこう激しい議論があるらしい。

 電磁気に関しては、もっともらしいと考えた者もわりといたようだ。
遺跡を構成する巨石に螺旋状のエネルギーが発生しているというダウザーの報告があり、実際にそれをガウスメーター(磁力の測定器)で調べてみたエドアルドという物理学者もいた。
そして巨石は、強い磁界に囲まれているということが判明したという。

 しかし後の更なる調査によって、おそらくガウスメーターが関知したエネルギー現象は、夜明けの太陽の影響によるものだということになった。

UFOのエネルギー線か

 それが未知のエネルギーの線というだけでもかなり飛躍的と言えようが、ここにさらにUFO現象を関連付けるオカルト学者もいるという。

 UFOはマシンで、乗組員は地底人という説があり、この場合において、レイラインはUFOに供給されるエネルギーの線などとされる。
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あるいは、レイラインは地球上に張り巡らされた仮想的な線路のようなものであり、UFOというのは実は、その仮想線路に沿って進む列車のような乗り物なのだとという説もある。

オルソテニー。天空のレイライン

 レイラインとUFO現象が結びつけられるようになったのは、有名なフランスのUFO研究家エメ・ミシェル(1919~1992)が提唱した説が始まりだろうか。
彼は自国の、UFOの目撃情報を収集し、それらの現象が地図上では一直線上でばかり起こっていることに気づいた。

 ミシェルはそのUFO出現ラインを「オルソテニー(orthoténie)」と名付けた。
この言葉の由来はギリシャ語で、どうも「火を誘導する線」というような意味らしい。

 ミシェル自身は、直線上に現れるUFOの出現位置はランダム性が強く、少なくともそれは飛行経路ではないだろうと語った。
だが、オルソテニーは基本的にはUFO(未知のエネルギー?)の道筋、天空のレイラインとして、多くの人に受けいれられることになった。

 後には、ミシェルの集めたデータにはでっちあげの事件が多いことが判明して、そもそもオルソテニー自体が怪しいということになる。
だが、凄まじい速さでオカルト研究家たちに浸透していった、レイラインはUFOの誘導線という説には、何の問題もないようだった。

ズレの許容範囲。どこまでが意図的か

 そもそも地図とかは、実際の領域をわかりやすく収縮させたもの。
早い話が、実際は10メートルくらいズレているけど、地図上ではほとんどズレていないというようなことは、全然ありうることだ。

 どのくらいのズレまでなら許容できるかということに関しては、様々な意見があるようだが、ワトキンスは4メートルくらいとしていたらしい。
これは彼が、古代の交易路だとして妥当だと考える長さだったようだ。

 統計学的には、許容できるズレの長さを大きくすれば、レイラインのような直線が偶然できる確率は当然高まっていくとされる。
人によっては100メートルくらいまで許容できるというような場合もあるようだが、仮に100メートルもズレがあるようなレイラインなら、それが偶然でないと証明するのはかなり難しい。

 また有名なストーンヘンジとかはまさにそうだが、遺跡自体が、数十メートルとか数百メートルとかぐらいに大きいと、適当な線がそれをかすめる可能性は高くなるだろう。
これに関しては、とりあえず許容するレイハンターが多いようだ。
しかし、これが交易路だというのならそれでも問題ないような感じがするが、エネルギーの通り道とかだと、遺跡の中心を通るようにしていないのは、ちょっと妙な感じがしないでもない。

悪魔の矢と聖ミカエル

 イギリス、ヨークシャーには「悪魔の矢(Devil’s Arrows)」などと呼ばれる、巨石が3つ、直線上に配置されているストーンサークルがあるが、この直線を延長すると他にも様々な巨石と繋がるという話は、けっこう有名である。
そこに現れるレイラインの長さは、少なくとも18キロほどにはなるという。

 しかしこの悪魔の矢のレイラインは、各遺跡同士が明らかに直線からズレていることでも有名である。
この時点でたいていの人が、これはならレイラインとやらではないのだろうと考えるが、 それでもなぜかこのレイラインはやけに人気である。
特にレイラインを風水と関連付ける者の中には、このズレもまた意図的なもので、そこに何らかの意味を読みとこうという試みまであるという。

 レイラインブームの火付け役ともされる本「アトランティスの記憶(The View Over Atlantis)」を書いた作家ジョン・ミシェル(1933~2009)が発見した、聖ミカエル教会と、ドラゴン伝説に関連する土地で構成された、600キロを越えるらしい、 超巨大レイライン「聖ミカエルのレイライン」も、各ポイントが大きくズレていることで有名である。
2キロほどズレてるポイントもあるのだという。

 悪魔の矢は、聖ミカエルに比べると、本物かもしれないとする意見は多い。
それのズレは、それこそ技術的な問題にすぎず、実際に直線を作ろうとした可能性も十分にあるともされる。

 ただしそれが確かに直線上に配置されたと考えている者でも、それをレイラインと呼ぶべきではないとする人がけっこういる。
この言葉には、エネルギーの線というような意味合いか、でなくとも古代の道というイメージがやはり強い。
実のところ、直線上に配置された遺跡というのは、単にそういうデザインなだけかもしれず、道と解釈する必要性などないからだ。

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