猫又、鎌鼬、送り狼「動物、獣の妖怪」

カラスの妖怪

猫又。長く生きすぎた猫の伝承

 長く生きすぎた猫は、猫又ねこまたという妖怪になるという話は、古くからあるそうである。
典型的なパターンが二つあって、山奥の野生の猫がなる場合と、人に飼われている猫がなる場合があるらしい。

 また、古くから伝えられる有名な妖怪なだけあり、 様々なバリエーションの伝承がある。

 妖怪猫の話は中国にもあるが、日本においては、鎌倉かまくら時代の藤原定家ふじわらのさだいえの「明月記めいげつき」に書かれたものが、現存する最古の記述とされている
それによると、「猫又は山に住み、目はネコのごとく、体は大きい犬のよう」との事である。
猫跨病ねこまたびょう』なる病気の記述もあるため、狂犬病にかかった獣がその正体ではないか、とする説もある。

送り狼。守り神か、ケダモノか

 送り犬の場合も、あるいは、送りいたちという場合もある。
送り犬のイヌは、ヤマイヌの事で、やっぱり狼なのかもしれない。
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 いずれにしても性質は同じで、夜道を歩く人の後ろにひたすらついて来る。
しかしついて来るだけで、他には特に何かをするわけではない。

 ついてくる理由としては、ふたつの説がある。
ひとつは、送り狼は、危険な獣や怪異がいる事も知らずに、危険な道を行く人を、守ってくれているという説。
もうひとつは、その前を行く人を食ってやりたい、と隙をうかがっているという説。
後の方の説の場合、もし転んだら、すぐさま狼は襲いかかってくるのだとされる。

鎌鼬。疾風に乗り、切り裂いていく

 風が吹いてきたかと思えば、人や物を切り裂き、傷つける妖怪。
つむじ風に乗った、化けイタチだと考えられている。
鎌鼬かまいたちの鎌とは、その鋭い爪のことともされるが、実際に鎌を持っているのだと考えられる事もある。

 鎌鼬に切り裂かれる時には痛みがないともされている。
そのために傷つけられた人は、その流れる血を、他人に指摘されるまで気づかないということもある。

 3柱の神のようなものだとされることもある。
どうも、最初の神がつっかかり、次の神が斬り、そして三番目の神が(痛みがなくなるように)薬をつける。

 古くから、そもそも妖怪ではなく、特殊な風なのだという説も知られているらしい。

鬼熊。年老いて化けたクマ

 クマは年老いると、鬼熊おにくまになるのだという説がある。
鬼熊は、夜更けに時たま、人里にやってきては、牛や馬などの家畜を食べるために、小屋から奪い去るらしい。

 古くはこの鬼熊を捕まえたり、退治したりした、という話があったようだが、いずれにしても、これは凄まじい怪力の持ち主であり、武器を持った数十人がかりでの仕事だったようである。

 熊を殺してしまったら、その熊の住んでいた山が必ず荒れるという伝説もある。
アイヌ民族の間でも、クマは非常に特別視された動物神であった。
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異獣。猿みたいだが猿でない

 異獣いじゅうは、山道を行く人の前に、時折現れるという、奇妙な獣。
猿に似ているが、決して猿ではない。
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頭の毛が長く、てっぺんが白い。
人を襲う事はあまりないようだが、あまり馴れ馴れしいという事もない。

 昔、越後えちご(新潟県)の山で、竹助たけすけ という人が、この獣に遭遇した。
彼は道中、石に腰かけ、焼きご飯を食べていた。
すると突然、猿みたいだが、猿でない奇妙な奴が現れ、焼きご飯をくれ、とばかりに指さした。
竹助がそれを投げてやると、そいつは嬉しそうにそれを食い、お礼のつもりか、竹助の荷物を持って、歩くのが楽な道を案内してくれたという。
その後、竹助と別れたその獣が去っていく時の速度は、疾風のごとし速さだったそうである。

覚。人の心を読む獣

 このさとりはまた、猿に似た姿とされる妖怪で、森や山で、人前に現れては、その考えていることなどを言い当て、隙あらば、とって食ってやろうとするのだという。

 典型的な話として、「お前は怖がっているな」、「お前は逃げようとしているな」、「お前はもう諦めたみたいだな」
というふうに、考えていることを次々言い当てるのだが、偶然、砕けて飛んできた木の破片などに打たれて、逃げ去っていく、というものがある。
つまり、予測できることより、予測できないことの方が恐い、というオチなわけである。

以津真天。いつまでもつきまとう怪鳥

 食糧不足などの際に、見捨てられて餓死した者が、この妖怪鳥になるとされる。
その姿は、猛禽のようである。
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以津真天いつまでんとは、自分を見殺しにした者たちに「いつまでも」つきまとうという事で、そう呼ばれるようである。
あるいは死者が、放置されている自分の遺体を見て、「いったい「いつまで」ほっておくというのか」という怒りに由来するという。

 死にゆく仲間を見捨てた人が、その仲間の恨みを思い、心を痛めた時、そこからこの妖怪は誕生するのだとも言われる。

波山。熱くない火を吐く鳳凰妖怪

 婆娑婆娑ばさばさ犬鳳凰いぬほうおうなどとも呼ばれる波山ばさんは、巨大な鳥妖怪。
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 人里の近くで バサバサと羽ばたく音を立てるともされるが、人前に姿を現すことは滅多にない。
赤色の鶏冠とさかを持ち、真っ赤な火を吐くとされるが、この火は熱くなく、物を燃やすこともないという。

 基本的に、人前に姿を見せた場合でも、危害を加えてくることはないようである。

海和尚。海坊主と混同されがちな亀

 古くは神秘的な動物とされていたカメの妖怪。
体はカメだが、顔は確かに人間の和尚さんというような描かれ方をする事がある。
海で死んだ人たちの怨霊という説もあるが、 一方で地域によっては、かなり神格化されており、良き妖怪とされている。

 海坊主と同一視されることもあり、その場合は、海坊主がカメの姿になったのが、この海和尚なのだとされる。
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片耳豚。影のない子豚

 片耳豚かたきらうわは名前通り、片耳のない子豚妖怪であり、両耳のない、耳無豚みんきらうわというのもおり、片耳だけないか、両耳がないかの違いで、その性質はほとんど似たようなものだという。
どちらにしても影がないとされ、 唐突に現れては人の股をくぐろうとするとされる。
その時に股を閉じれば、この豚妖怪は諦めて去るが、もし股をくぐられてしまった場合、その人は災難にあうとされる。
死ぬ場合もあれば、子を成せなくなってしまう場合などもあるそうである。

件。予言してすぐ死ぬ

 牛が時々この妖怪を生むのだという。
一見はただの子牛だが、突然人の言葉を喋り出す。
そして何を言うかと思えば、的中率100%の予言をして、その後は死んでしまうのだという。

 くだんという名は、人と牛の漢字を合わせたものとされる。
古くは半人半牛の姿とされ、牛の体に人間の顔とされる場合もあれば、人間の体に牛の顔とされる場合もある。

 絶対予言の子牛妖怪というイメージは、 幕末頃から登場し始めたものらしい。
また、大きな災いが起こる少し前に誕生し、様々な予言をして、その災いが終わった時に死ぬ、という説もある。 

大旅淵の邪神。竜宮のような存在の神か

 昔、土佐とさ(高知県)に、穴内赤割川あなないあかわりがわと称された川があって、そこに、大旅淵おおたびぶちと呼ばれた深淵しんえんがあった。
その大旅淵には、邪神じゃしん が住むと噂されていて、機嫌を悪くすると、暴風雨を起こすということで、人々に恐れられていた。
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 ある時、一人の若者が、淵に釣りに出かけた。
するとどうか、次々に魚が釣れて、大喜びで家に帰ったが、大量の釣った魚は、全て木の葉に変わっていたという。

 また、ある男が、淵には魚が豊富だという話を聞いて、という鳥を利用して魚を捕る、「鵜飼うかい」を行おうとした。
しかし放った鵜は、水中に没したまま、帰ってこない。
不審に思った男が水中に潜ってみると なんと水底みなそこには、立派な殿閣でんかく(宮殿)があり、鵜は、そこではたっていた美しい女のもとに止まっていたのだった。
男に気づくや、女はすぐに言った。
「ここは人間の来る場所ではない。早く帰れ」
男はあわてて、鵜を放ったことをびて、急いで逃げ帰って行った。

 さらに、力自慢で有名な力士の男が、この深淵のかたわらに通りがかった時、そこに巨大な蛇が横たわっていた。
男は、「通れないからどいてくれ」と頼んだが、蛇はなかなか動かない。
イライラした男は、近くの松の木を引き抜いて、蛇の体を打った。
すると蛇は退しりぞいた。
だがそれから、夜な夜な邪神が、男の枕元に現れては、苦悶くもんを訴えるようになった。
そしてある時、男はついに高熱をだして、もだえ死んでしまった。
その体には、蛇の鱗のようなものが残っていたという。

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