モラーグ、リーンモンスター、ドバーチュ「ブリテン諸島の湖の怪物たち」

プレシオサウルス?

ブリテンの水生モンスター

 ブリテン諸島(イギリスとアイルランドの島々)。
特にスコットランドとアイルランドの湖は、典型的な未確認水生獣。
あるいは怪物の宝庫である。

 古より語り継がれるドラゴン伝説などの影響もあるのかもしれない。
「西洋のドラゴン」生態。起源。代表種の一覧。最強の幻獣
ただし、現在、最も典型的と思われるプレシオサウルス(首長竜)形の怪物が目撃されるようになったのは、基本19世紀以降である。
プレシオサウルス 「首長竜」恐竜時代の海の覇者。種類、進化、化石の研究記録
それ以前に最も目撃が多かった、湖の未知生物は、おそらく水馬(Water horse)。
(プレシオサウルス的)怪物が登場してからは、影が薄くなったものの、それ以前の伝承においては、よく水馬が目撃されていたという湖は結構あるとされる。
妖精 「妖精」実在しているか。天使との関係。由来、種類。ある幻想動物の系譜 「妖精一覧リスト」小人と巨人。黒妖犬と水棲馬。モンスター種

モラーのモラーグ。精霊なのか、彼女なのか

 スコットランド、「モラー湖(Loch Morar)」の怪物モラーグ(Morag)が、人々に目撃されだしたのは19世紀半ばからだとされているが、その名が有名になったのは1930年代くらいからだという。
1930年代と言えば、同じくスコットランドの「ネス湖(Loch Ness)」のネッシーが話題となった時期なので、間違いなくその影響はある。
ネッシー 「ネス湖のネッシー」愛されしスコットランドの怪物の正体
 ちなみにネス湖とモラー湖は100キロくらいの距離。
この湖の面積は26.7平方キロメートル、最大水深は310メートルほど。
ブリテンで最も底が深い湖ともされるモラー湖は、岩壁に囲まれ、泥で濁ったネス湖とは違い、水は綺麗に澄んでいるという。

 また、例によって、そもそもモラー湖には古くから怪獣の伝承があるという話もある。
モラーグという名は、湖に住む精霊の名前らしい。

 多くの目撃証言から、この怪物も、ネッシーのようなプレシオサウルス的な生物だと思われる。
しかし興味深い事に、「湖から陸に上がってきた」とか、「陸から湖に飛び込んだ」とかいった、陸での目撃証言が(ネッシーに比べたら)多いとされる。

謎の声、何かが確かにいる

 1893年の夏のある日の朝。
ウエスタン・アイルズに住むウーイン・マクミランという人が、湖の水面に謎の黒い影が映っている、あるいは黒い物体を目撃したという話がある。
薄気味悪い声のような音も聞こえてきて、気味悪くなったマクミランは、慌てて逃げたという。
特に初期の目撃証言には、このケースのように、謎の声を伴う場合が多いとされる。

 アウター・ヘブリディーズ (Outer Hebrides)とも呼ばれる、ウエスタン・アイルズ(西の島々)は、その名前通り、スコットランドの西側の諸島。
スコットランドに32存在する地方行政区画のひとつ。

 最初の目撃は1887年ともされるが、詳細はなぜか謎。

糸を引っ張った何か

 1931年。
後の1964年に、グレンデボン卿(Lord Glendevon)という貴族階級を授与される事になる政治家のジョン・ホープ(John Hope。1912~1996)は、モラーグを直接目撃はしなかった。
しかし彼は、モラー湖には未知の巨大生物がいる事を思わせる、興味深い体験をしている。

 9月のある日。
ホープは、兄弟や友人、それに地元のガイドと共に、モラー湖にボートを出した。
モラー湖の特に深いエリアで釣りを楽しむためである。
しかし彼がトラウトロッド(マス釣りに最適な釣竿)でマス釣りをしていた時、何かが彼の釣糸をつかみ、素早くそれを真下へと引っ張った。
そして数秒後には、糸は全て、それを引っ張る何かと共に消え去った。

姿を見せる怪物

 モラーグが陸で目撃されだしたのは1930年代以降とされている。
この頃の典型的なモラーグのイメージは、プレシオサウルスでなく、竜脚形類の恐竜だったのかもしれない。
恐竜 「恐竜」中生代の大爬虫類の種類、定義の説明。陸上最強、最大の生物。
水しぶきを上げていたとか、象よりもでかかったとかいう証言があるという。
象か?
水浴びする像 「象」草原のアフリカゾウ、森のアジアゾウ。最大級の動物
 1969年の目撃のいくつかは重要とされやすい。
7月20日。
小舟に乗っていたジョン・マクバリッシュ(John MacVarish)は黒い首を1.5メートルほど水上に出したまま泳ぐ巨大生物を目撃。
10分ほどで、怪物は水中に消えたという。
怪物と最も近づいていた時の距離は270メートルくらいだったらしい。
 
 同年8月16日には、漁をしていたウィリアム・シンプソン(William Simpson)とダンカン・マクドネル(Duncan McDonnel)が、首の長さが1.5メートルくらいで、胴体の長さが15~20メートルほどもあったという怪物と遭遇。
怪物の背中にはいくつかコブがあり、水上には突然現れたという。
しかも姿を見せるや、怪物は2人の船を襲撃。
散弾銃を食らわせてやると、怪物は去ったという。

 モラーグにはコブがあるという目撃証言は、初期の頃からあるらしい。
なのでシンプソンとマクドネルが遭遇したのは典型的なモラーグに思える。
しかしでかすぎやしないだろうか?

古い民族学者の記録

 モラーグというのは、伝統的な女性の名前でもあるので、モラーグはしばしばShe(彼女)と呼ばれる。
あるいはネス湖と比較的近いことから、ネッシーの姉(あるいは妹)と冗談めかして言われることもあるようだ。

 スコットランドの民族学者で、古生物学者でもあったというアレクサンダー・カーマイケル(Alexander Carmichael)は、民俗学者らしく、多くの民間伝承などを収集してまとめたが、そこにはモラーグの話もしっかりあるという。

 カーマイケルの記録発掘のきっかけは「エジンバラ大学図書館(University of Edinburgh library)」が始めた「カーマイケル・ワトソンプロジェクト(Carmichael Watson project)」だそうである。
これは、カーマイケルが残した、あるいは彼が関わる大量の記録文書をあらためて整理するという計画らしい。

 カーマイケルの記録でとても興味深いのは、明らかに我々が知ってるようなプレシオサウルス型の怪物などではない、モラーグの伝承である。
モラーグは時に、鮮やかな髪の人魚として描写され、ある時は、誰かが死ぬ前兆を告げる死神として描写されている。

 カーマイケルは「モラーグは常に、誰かが死ぬ前、溺れる前に、その姿を見せる」とも書いているという。
ただし、その誰かとは、モラー湖と関わりのある血筋の人間に限られるとも。
1898年に、アイネアス・マクドネル(Aeneas Macdonnell)という人が亡くなった時にも、モラーグは現れたそうだ。

 最も日付が新しいとされる、モラーグ記録では、「彼女は、他の水の神々と同じく、半分人間で半分が魚。女性の体だが胸は小さく、長い黄色い髪に、真っ白な体」としている。
いずれにしても、プレシオサウルスと間違われるような何物かとはとても思えない。

アーカイグの怪物。地下水道ネットワークの噂

 「アーカイグ湖(Loch Arkaig
)」は、ネス湖とモラー湖の間に位置する細長い湖である。
面積16平方キロメートル、最大水深90メートルほど。
もちろん当たり前のように怪物(Loch Arkaig Monster)の目撃の噂がある。
それによると、この怪物は長い首に、広い体、それに4つのヒレを持ち、かなり典型的にプレシオサウルスらしい。

 アーカイグ湖の怪物は、ネス湖のネッシーと同種だと考える研究者も多く、これらの湖は繋がっているという可能性もよく示唆される。
別に水で繋がってなくとも、ネッシーには陸上で移動していたという目撃証言もあるので、問題はあまりないとも言われる。

 さらにアーカイグ湖、ネス湖、「ドックフォー湖(Loch Dochfour)」、「オイホ湖(Loch Oich)」、「ロッキー湖(Loch Locky)」など。
インヴァネスという都市からフォート・ウィリアムへ続くという、約100キロメートルほどの峡谷「グレートグレン(Great Glen)」の近場の湖群を各点とした、怪物が行き来する、大規模な地下水道ネットワークが存在しているという説もある。
本当なら、まさしく怪物ロードネットワークである。

 ドックフォー湖は、長さ1.6キロメートルで、幅が最大のところで350メートルくらい。
オイホ湖は、長さ6.5キロメートル、最大幅1キロメートル、最大水深47メートル。
ロッキー湖は、表面積16平方キロメートル、最大水深162メートル。

リジー、ウィーオイチー

 また、ロッキー湖で目撃されるプレシオサウルス系怪物はリジー(Lizzie)。
オイホ湖のはウィーオイチー(Wee Oichy)と呼ばれることも多い。

 それと、ロッキー湖とは、やや距離があるような気もするが、スコットランド、ロッホアーバー、フォートウィリアムの「コイック湖(Loch Quoich)」で噂される怪物も、リジーと呼ばれることがあるそうである。

マリーのムク・シェイルチェ。毒まき事件

 ムク・シェイルチェ(Muc-sheilche)、あるいはマックセルキーは、スコットランド、「マリー湖(Loch Maree)」に生息するらしい怪物。
ネッシーやモラーグとは違い、シーサーペント(オオウミヘビ)というイメージのようである。
『シーサーペント』目撃談。正体。大海蛇神話はいかに形成されたか
 マリー湖は、表面積28.7平方キロメートル、最大水深112メートル。

 1850年代の頃に、バンクス(Banks)という人が、怪物を殺してやろうと湖に毒を撒いたが、効果はなかったという。

 バンクス氏が妄想壁のある危険人物であったのか、この湖の怪物が毒を使わせるほどに恐ろしい存在とされていたのかは謎である。

シールのシーリアグ。雑食巨大ウナギ

 スコットランドで4番目に長い湖らしい「シール湖(Loch Shiel)」の怪物シーリアグ(Seileag)、あるいはアントシーリアグ(Ant-Seileag)は、20メートルほどの長さで、3~7つのコブを持つという。

 シール湖は、表面積19.6平方キロメートル、最大水深120メートル。

 シーリアグの古い記録は1870年代に遡るともされるが、はっきりしない。
その名称は、スコットランドゲール語の、Seile(細い魚)とSìolag(ウナギ)の組み合わせともされる。 

 クリル・ディックホフという司祭が聞き継ぎ、1970年までに書いた記録には、船に乗った複数人が、謎の生物が水面を破裂させるのを目撃した、とあるらしい。

 また、1997年には、4体の怪物が目撃されたという話もあるようである。
複数人の目撃はよくある事だが、複数体の目撃はけっこう珍しい。

 スコットランド西岸に広がる「ヘブリディーズ諸島(Hebrides)」の民間伝承では、シーリアグは時に人も食べる雑食巨大ウナギで、通常は海に生息しているのだが時々、湖にやってくるのだという。

ローモンドの怪物。巨大なワニか

 「ローモンド湖(Loch Lomond)」はスコットランドでも最大級の広さに、体積もネス湖に次ぐくらいに巨大な湖である。
表面積71平方キロメートル、最大水深190メートル。
地元住民の目撃例は、数世紀も前からあるが、全体的にはこの怪物(Lomond monster)が目撃される事は珍しいようである。

 この怪物を信じる者の中には、この怪物が先史時代の生物の生き残りであり、スコットランド中の湖にいるのだという意見もあるという。

 この怪物について特筆すべきは、その外見である。
湖の怪物としては珍しく、プレシオサウルスでもオオウミヘビでもなく、ワニのような生物らしい。

 1997年の複数人による目撃によると、4メートルくらいのワニのような生物であったという。
アヒルをむさぼり食っていたとの事。
単に、でかいワニなのではないだろうか?

アウェの巨獣。12本の足を持つウマウナギ

 スコットランドはアーガイル・アンド・ビュートの「アウェ湖(Loch Awe)」の怪物(Beathach mór。Big beast)は、現在はほとんど忘れ去られているともされている。
2001年にフレミング(Fleming)という人が、この生物に興味を持って、地元で情報収集をしたようだが、特に目撃者などは見つけられなかったそうだ。

 マス釣りのスポットとしてもよく知られるというアウェ湖は、表面積38.5平方キロメートル、最大水深93.5メートル。

 一般的にこの生物は4メートルくらいの体長で、ウマに似ているとも、ウナギに似ているとも言われるが、特筆すべき特徴として、足を12本持つという。

 ティモシー(Timothy Pont)という人が、この生物の目撃情報を年代順に記録したらしい仕事が知られているが、彼はこの生物をウマくらいの太さのウナギとしていたとされる。

リーンのリーンモンスター。キラーニーの三つの湖

 アイルランド、ケリー州、キラーニーには、「リーン湖(Lough Leane)」、「マックロス湖(Muckross Lake)」、「アッパー湖(Upper Lake, Killarney)」の3つの湖がある。
その中で最大のリーン湖に生息するとされる怪物が、(そのまま)リーンモンスター(Lough leane monster)である。

 リーンは、表面積19平方キロメートル、最大水深60メートル。
マックロスは、表面積2.7平方キロメートル、最大水深75メートル。
アッパーは、表面積1.7平方キロメートル。

 リーンモンスターはプレシオサウルス型で、2本の角があったという話もある。
1981年8月にパット・ケリー(Pat Kelly)という人に写真をとられているが、胴体がかなり長めに見える。

 実はそのパット・ケリーという人は、悪名高い魔術師、あるいは詐欺師のエドワード・ケリーの子孫という噂がある。
水晶占い 「ジョン・ディーとエドワード・ケリー」天使たちとの対話。エノク語の発明
 この生物に関して伝えられる情報は少ない。
未確認動物研究家として有名なマッカル(Roy P Mackal。1925~2013)も、この湖を調査したことがあるようだが、特に有益そうな発見はできなかったという。 

マックロスのマッキー。ソナーが探知した巨大生物

 マックロス湖の怪物には、「湖の怪物」系の未確認生物としては珍しく、古くからの民間伝承などがない。
マッキー(Muckie)は、おそらくはネッシーなどの影響より、考えられるようになった怪物である。
名前はまさにその影響を見受けられよう。
もちろん目撃者の証言的には、この生物もプレシオサウルス型らしい。

 2003年に科学者のチームが、ソナーを用いたスキャンで、この湖の魚の個体数を調べようとした。
すると巨大生物らしき何かがスキャンされ、科学者チームは、怪物の存在を確信したという。

リーの怪物。司祭たちの遭遇

 アイルランドのほぼ中央の「リー湖(Lough Ree)」の怪物(Lough ree monster)は、司祭たちによる複数目撃例がある事が有名な未確認生物である。

 リー湖は表面積105平方キロメートル。

 1960年の5月18日(あるいは28日)。
ダブリンから来た3人の司祭、クイグリー(Richard Quigly)、マレー(Daniel Murray)、バーク(Matthew Burke)が、この湖で釣りをしていた時のこと。
ボートからわずか1メートルほどの距離で、彼らは、水中を出入りする巨大なヘビのような生物を目撃。
怪物は水上に出ていた部位だけで、2メートルくらいあったという。

 気になるのが、司祭らの目撃より2ヶ月ほど前に、ガンリー(Patrick Ganley)とジョセフ・クイグリー(Joseph Quigly)という2人の漁師が、網にかかった謎の生物と力試しをしたという報告があること。
その生物は、馬みたいでもあり、2メートルくらいの水柱をあげ、水中へと消え去ったという。

 また、この湖においては、やはり2メートルくらいの巨大なカワウソが射殺されたという記録もあるという。
怪物と何らかの関係があるのだろうか?

ナフーインの怪物。一家7人による目撃

 アイルランド、ゴールウェイ、クラダダフにある「ナフーイン湖(Lough Nahooin )」の怪物(Lough nahooin monster)は、巨大なウナギのようだという。
しかしウナギにはないふたつのコブを背中に持ち、頭部はチョウザメに似てると言われる。

 ナフーイン湖自体は、それほど大きくもない湖らしい。

 1968年に、この怪物を目撃したスティーヴン・コイン一家は、怪物のサイズは4メートルくらいだったと述べている。
首が長く、頭部がヤカンのような形で、クジラのようなヒレを持っていたという。
思い込みから、ややプレシオサウルス型に寄せられてしまった可能性はある。
ただし、この目撃は一家7人による複数目撃である。
クジラとイルカ 「クジラとイルカ」海を支配した哺乳類。史上最大級の動物
 この生物は、ウナギやチョウザメとは違い、上下に体をくねらせて泳ぐそうだが、この点はシーサーペントぽい。

イーチー。古い記録では人型

 イングランド北部の方とスコットランドのいくつかの湖を生息域とするらしいイーチー(Eachy)は、特に、イングランドの「ベセンスウェイト湖(Bassenthwaite Lake)」と、「ウィンダミア湖(Windermere)」という2つの湖でよく見かけられるという。

 ベセンスウェイト湖は、表面積5.1平方キロメートル、最大水深21メートル。
ウィンダミアは、 表面積14.73平方キロメートル、最大水深67メートル。

 イーチーの最初の目撃報告は1873年とされる。
初期の頃の目撃証言として多いのが、この生物は人型であったというもの。
しかしネッシー以降、プレシオサウルス型が有名になってからは、人型として報告されるケースはまれになったという。

 他に3つの首を持ってたとかいう話もある。
以上の怪物イメージの不一致性は、この生物の多くの目撃証言は信用できないか、1種の生物のみが目撃されてるのではない事を示していると思われる。

ウィンダミアのボウネッシー。子供にも人気

 ウィンダミア湖では、おそらくイーチーとは別種となる怪物が存在している。
あるいは、人型でないイーチーのどれかであろう。
その怪物は、近場の町であるボウネスにちなみ、ボウネッシー(Bownessie)と呼ばれているという。

 シーサーペント形とも、プレシオサウルス形ともされ、イーチーほどでないが、はっきりしない。
地元ではわりと人気者のようで、子供向けの絵本のキャラクターになったりもしているという。

ドバーチュ。カワウソたちの王

 古くはアイルランド中の湖で見られたともされるが、現在ではほとんど絶滅してしまい、しかしメイヨー州の西にあるアキル島の「スラヒーンズ湖(Sraheens Lough)」に生き延びているとされる謎の生物が「ドバーチュ(Dobhar-chú)である。

 この生物は、キングカワウソ(King Otter)とも呼ばれ、 その名前通りに巨大なカワウソというような生物らしい。
湖の怪物の正体候補として、カワウソの名が挙げられることは多いが、実際にカワウソそっくりな怪物と満場一致で言われるのは、こいつくらいかもしれない。
そもそもDobhar-chúという名前自体、「カワウソ」を意味する、古いアイルランド語から来ているという。
あるいはこの名前は「水の犬」を意味しているという。

 リートリム州グレネードのコンウォール墓地で、おそらくは17世紀にらドバーチュにより殺された女性の墓石が発見されている。
墓石には、その姿らしきものが彫り描かれているとされるが、カワウソというより、イヌに似ていると言われる。
残っている記録によると、地元の湖で洗濯をしていた彼女の悲鳴を聞いて、彼女の夫が駆けつけたが、すでに手遅れだった。
夫が見たのは、ドバーチュと、血まみれの彼女の遺体。
夫は怒りに任せドバーチュを殺したが、ドバーチュは死の後に、 口笛のような音を出して仲間たちを呼んだ。
壮絶な戦いにより、彼はそのドバーチュたちもみな殺したそうである。

モーゴウル。ブリテンの海の怪物

 イギリス南西部コーンウォール地方のファルマス湾の付近で、時折目撃されるという怪物がモーゴウル(Morgawr)である。
この名前は地元の言葉で「海の怪物」の意味らしい。

 つまりは、おそらく湖の怪物というわけではない。

 その体長は4~18メートルくらい。
首が太く長く、かなり毛深いともされる。
一般的には、その胴体がとても大きめなプレシオサウルス形らしい。
ナメクジに似ていたという証言もある。

 目撃証言のいくらかにおいては、浮上してきた潜水艦の見間違いではないかという指摘がある。
そもそもこの生物は、目撃証言があまりにも一致しない傾向にあるようだから、複数の生物が1種類として間違えられていることは、ほぼ間違いないとされている。

 地元では古くから噂のある生物らしいが、ちゃんとした目撃例は1970年代からとされる。

トニー「ドク」シールズの怪物創造芸術の噂

 芸術家でマジシャンで、ついでにフォーティアンでもあるらしい作家トニー「ドク」シールズ(Tony “Doc” Shiels)という人は、今現在、普通に噂されるいくつかの怪物の伝説を、でっち上げたエンターテイナーの可能性があるそうだ。
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 特にモーゴウルは怪しいとされる。
他にリーン・モンスター、それにオウルマン(Owlman)という未確認生物などは、実は最初の情報の出所が、彼である可能性がわりと高いという。
正確には、彼はさらに別の誰かから情報を仕入れているようだが、その辺りからして捏造の可能性がある。

 シールズは50年代後半にコーンウォールのセント・アイヴスに引っ越してきて、その時は画家だったという。
どうもシュルレアリスムな人だったようだ。
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1960年代になって、ポンサヌースという町に引っ越してきた彼は、 少年時代に、父と祖父から手ほどきされていたステージマジックに目覚める。
そして、The LinkingRingやThe Budgetといった、マジック関連の雑誌に記事を投稿するようにもなった。
興味深いのが、この時に特撮映画の巨匠レイ・ハリーハウゼン(Ray Harryhausen。1920~2013)、その友人であったSF作家のレイ・ブラッドベリ(Ray Douglas Bradbury。1920~2012)へのインタビューをしているらしいことであろう。

 やや意味不明でもあるが、ポンサヌースで住みはじめてからしばらく。
彼は地元の魔女集会の協力を得て、「monster-raising(怪物育成)」を始めたらしい。
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この後、おそらくは彼が計画的に名を広めたいくつかの未知動物が、そもそも彼の創作であるのか、彼はただマイナーな怪物を有名にしてやっただけなのかは、それらのこと自体が謎というわけである。

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