「芸術の基礎知識」絵画を理解するための手引き、アーティストたちの派閥リスト

目次

基本事項。最低限のその他知識

芸術、美術。art, fine art

 「芸術」も「美術」も、英語のartの訳語だが、芸術と美術は同義というイメージはあまりない。

 普通、芸術は、絵画や彫刻などのアイデアで、思想や感情を表現するための想像力の使用というように言われる。
あるいは、実在的世界に意図的な変化を与えることで、精神的世界にも変化を与えようとする行為という感じ。

 美術は基本的に『造形美術(Plastic arts)』とされる。
つまり、絵画のような、変化性に乏しく、かつ視覚的に訴えかけるような芸術を指す。
もっと単純に、形とか色により、心が美しいと感じるような表現を目指す試みと言ってもよいと思われる。
そういうふうに考えるなら、美術は芸術の1手段とも言えるかもしれない。

空間、時間、時空間芸術。Spatial, Temporal, Space-time art

 一般的に、作品が物質的材料を媒介として、実在的空間性を有し、さらに製作者から独立した存在となる芸術を「空間芸術」という。
空間芸術とは、例えば、二次元の絵画や平面装飾、三次元の彫刻や建築など、いわゆる造形美術の全般。

 音楽や文章のような、(その美術性に関して)実在的な空間性を持たない芸術は、「時間芸術」。
映像、演劇、舞踊などの空間を有しながらも時間的発展性も持つ芸術を、「時空間芸術」という。
タイムトラベル 「タイムトラベルの物理学」理論的には可能か。哲学的未来と過去
 時間芸術と時空間芸術は、基本的に演奏者、朗読者、役者など、製作者とは別の人を媒介とした再生産性を有する。
そこで、それらは『再生芸術(Regenerative art)』とも呼ばれる。

アート、デザイン、イラスト、グラフィック。Art, Design, Illustration,

 「アート」は、元のartとも違い、ほぼ和製英語ともされる。
芸術の柔らかな印象の(あるいは堅苦しさを軽減した)言い方みたいな感じ。

 「デザイン」は、何か目的を持っての設計全般のこと。
あるいは設計されたもの。
この言葉の本来の意味は、かなり幅広いもので、例えば『ライフスタイル・デザイン』というように、豊かな人生計画みたいなのも含まれる
しかし日本においては、単に美しくみせる飾り程度の意味で使われることもある。

 「イラスト」は、『イラストレーション』の略。
芸術に限らない単に絵のことともされるが、本来は、 情報を伝達するため、あるいは文などの理解を容易にするための絵のことだったようである。
いわゆる『挿し絵』とかである。
芸術性より、実用性に特化している絵画といってもよいか。
もちろん優れた『デザイン性』が要求される場合があるが、それはつまり、人の目を引くためとか、そういうわけであり、何かを表現するためというようなことではない。

 「グラフィック」は、広告とか映像とかゲームのような、媒体にのせられ、利用される画像のこと。
イラストとは違い、絵とは限らず、絵が使われる場合でも、「描いたイラストで作るもの」というようなイメージが強い。
コンピューターで作られたものは『コンピューターグラフィックス(Computer graphics)』というが、 この言葉自体はコンピューターで作る技法の意味で使われることが多い。
グラフィックのデザインをコンピューターで行うことは『DTP(Desktop publishing)』と呼ばれる。
コンピュータの操作 「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械

ギャラリー。Art gallery

 ある個人、あるいは組織がコレクションしている芸術作品を並べて展示している場。
展示されているものが販売品である場合もある。

 扱っている作品が、基本的に絵画作品の場合は、『画廊がろう(Picture gallery)』と呼ばれる。

 ギャラリーの語源は、おそらくイタリア語で「回廊」を意味する『ガレリア(galleria)』。

エキシビション。レセプション。Exhibition, Reception

 エキシビションと言えば、公式の記録とはしない、公開演技や試合などの意味でよく使われるが、通常、芸術の文脈では、いわゆる『展覧会(Art exhibition)』のこと。

 「レセプション」は、「歓迎」の意味で、展覧会などの関係者を招いて行われるパーティーのこと。

パトロン。Patron

 特定の能力を持った人を、経済的に援助して支える人。
才能はあっても世渡り下手で、金持ちの家に生まれたわけでもない『芸術家(Artist。アーティスト)』が、職業芸術家として最低限生きるためには、「パトロン」は欠かせないといえる。
特に、生前にその名を売れなかったが、作品は多く残している芸術家に、パトロンがいなかったなんてこと、ほぼない。

 金持ちに家に生まれた芸術家も、ある意味で、親がパトロンとも言えよう。
元の語源も、ラテン語の「pater(父)」とされる。

キュレーター。Curator

 美術館や博物館のような公共文化施設において、貯蔵資料の鑑定、研究の役目を担う専門職。
展覧会の学術的観点における責任者。
「学芸員」と訳されることが多い。

 展覧会を開く芸術家と、社会の普通の人たちとの、橋渡し的な役割を担う者たちと言われることもある。
展覧会に参加する芸術家を選別し、テーマを用意し、その意義を納得させる。
一方で、芸術に関する知識が浅い人たちに対して、カタログ文章や、口頭などで、わかりやすい説明を提示したりする。

 美術教師や評論家としての仕事を兼業するキュレーターも多いようである。

 キュレーターという語は、元々、「未成年の世話をしている人」、あるいは「司祭」というような意味だったともされる。
「文化施設の担当役員」というような現代的な意味で使われるようになったのは、17世紀くらいかららしい。

パテント。Patent

 特許、著作権のこと。
製作品それ自体のみならず、 独自性の高い機構や機能などにも、「パテント」は得られる場合がある。

 元は「公開」を意味する言葉らしい。
また、ヨーロッパの中世(5世紀〜15世紀)では、 何かの事業とか発明とかを独占したい場合、「littera patens(公開手紙)」なる王の許可証が必要だったともされ、Patentはその略だったようである。

レプリカ。贋作。Replica, Fake

 「レプリカ」は複製品のことだが、詐欺目的でなく、単に練習用に模写した作品とかもこう呼ぶ。
というか元々は、作者自身が量産した作品のことだったらしい。

 明確に作者以外の者が、模作した偽物の芸術品は「贋作」と呼ばれる。

ハイ、ロー、ミドルブラウ。High, Low, Middlebrow

 教養のある人に対する「ハイブラウ」、ない人に対する「ローブラウ」という呼び方がある。
ちなみにどちらとも言えない人は「ミドルブラウ」。

 芸術分野においては、「ローブラウ」は、美術的センスのない者、 芸術が理解できない者に対するバカにした言い方。
一方で「ハイブラウ」に関しても、ただの誉め言葉というわけでもなく、「知ったか野郎」みたいなニュアンスが含められる場合もあるらしい。

パブリックアート。Public art

 美術館とか画廊といった専用的な空間でなく 街中や公園など公共の場で作品を展示すること。
あるいはそのような展示された作品そのもの。

 古くは、記念碑などが、権力誇示の目的に設置されたりした。
現在では、どちらかと言うと、「なるべく多くの人に見てもらいたい」というような希望が関係していることが多い。

キネティックアート、オプティカルアート。Kinetic art, Optical art

 「カイネティックアート」とも呼ばれる「キネティックアート」は、動きを取り入れたアート作品のこと。
計算された動きなのかどうかは、あまり関係ない。
動きとして光をコントロールしたり、動力を使ったものとかもある。
実は動いていないが、動いてるように見えるというものもある。

 「オプティカルアート」、あるいは「オプアート(op art)」は、光の調整などにより、視覚的な錯覚などを利用したアート作品。
動きを取り入れたものも多いから、キネティックアートと深い関係がある。

トロンプ・ルイユ。Trompe-l’œil

 意味は「眼をだますもの」
日本では「騙し絵」とも。

 実物がいかにもそこにあるように描かれた絵画。
本物みたいなのに本物でないからこそ実現できるような、特異な題材や、不思議な組み合わせ。
単に、錯覚の面白さを強調するような作品も多い。
「視覚システム」脳の機能が生成する仕組みの謎。意識はどの段階なのか  

アウトサイダー・アート。Outsider art

 正規の美術教育を受けていない者が作るアート作品。
アウトサイダーアーティストとしては、完全に独学の趣味人の他、精神障害者や、刑務所内に捕まっている人などがけっこういるとされる。

 精神を病んでいる人などへの治療として、芸術表現を対話や癒しに利用したりする『アートセラピー(Art therapy)』というのがあるが、よくそういう場で、アウトサイダーアートは誕生する。

肖像画、自画像、人物画。Portrait, Self-portrait, Figure painting

 「肖像画」とは、ある人の姿、形、場合によってはその性質を描き出した絵画のこと。
単に、見たままの外面だけでなく、描かれる人の内面性、心の動き、本質的、感情的要素も、十分に考慮されたりする。
写真が開発される以前は、実用的に記録的な意味合いが強い肖像画も多くあったようだが、その場合、写実的に描かれるより、むしろ理想的に改編、解釈して描くことも多かったとされる。
おそらく、現代で、写真写りをよくするように工夫したり、写真自体に加工を施したりしているようなものだったのだろう。

 「自画像」は、作者自身を描いた肖像画であるが、自らは意識できない、あるいは意識してるつもりのはずの内面、本性を捉えようとする試みともされる。

 「人物画」もまた、人を描いたものであるが、どちらかというと、人を純粋に風景の一部や、風景の前に置かれる物として、 その外面を捉えて描いているようなものをいう。

静物画、博物画。Still life, Natural illustration

 その名称通りに、動かない物、例えば食べ物や、道具、死骸、建物などを描いた絵画を「静物画」という。

 一方で「博物画」は生物を描いた絵画で、さらに細かく『植物画(Botanical art)』、『動物画(Zoological art)』と分類される。
人物を描く場合と同じように、外面を重視する場合と、内面(感覚で捉えた本質)を重視する場合がある。
外面重視の場合は学術的、解剖学的目的のため、あるいはそういう知識に基づいている場合が多い。

 植物の絵は、静物画として扱われることも多い。

風景画。Landscape painting

 
 絵画の中に描かれる風景とは、古くは歴史や神話の物語の舞台でしかなく、基本的には理想的に作られたものだった。
「風景画」というジャンル自体は17世紀のオランダで生まれたとされているが 現実の風景 を完全に捉えた 作風は 19世紀のフランスからのことだとされている。

 フランスでは、素敵な自然の風景を求めて、ルソー(Henri Julien Félix Rousseau。1844~1910)やフランソワ・ミレー(Jean-François Millet。1814~1875)など、多くの画家が、フォンテーヌブローの北西にある、バルビゾンという村に集まったとされている。

 日本では葛飾北斎かつしかほくさいの作品があまりに有名。

文人画

 みん(1368~1644)、しん(1644~1912)の中国で盛んであった、官僚など知識層の素人画家たちが描いた絵画。

 日本でも、江戸時代(1603~1868)の中頃には、ある程度影響力の強いジャンルとなる。
日本では、「形式より、技術より、心を大事にする」という精神がより強く強調され、特定の階級に限らない、様々な人たちが素人画家となって、文人画を描いたとされる。

絵を描くため、演出するための道具

紙、キャンバス、パネル。Paper, Canvas, Panel

 動植物から得られる、細長くしなやかな『繊維せんい(fiber)』という素材がある。
一般的な「紙」は、その繊維を絡ませ、薄く平らにしたもの。

 繊維とは、 どちらかと言うと、素材よりも形体を重視している定義である。
なので、薄く平べったくされた、絡まる繊維状の形成物であるなら、素材は何であっても、一応は紙とする場合も多い。

 他、描くための媒体として、「キャンバス」と呼ばれる布。
「パネル」と呼ばれる板などがポピュラー。
またそれらを、 絵を描きやすいよう、固定するための道具を『画架がか(Easel。イーゼル)』という。

 キャンバスは、通常、アマ(亜麻。Linum usitatissimum)やアサ(麻。Cannabis sativa)といった植物の繊維が素材。
Canvasという言葉も、「麻」を意味するギリシア語に由来しているそうである。

 パネルは、なかなか幅広い意味で使われる言葉であるが、芸術の文脈では、普通は画板の1つ。
元はラテン語の「pannus(布)」らしい。
キャンバスよりも歴史がかなり古いパネルは、だんだんとキャンバスに元の役割(絵を描くための媒体の役割)を取られていったとも。

顔料、染料。Pigment, Dye

 「顔料がんりょう」は基本的に、特定の『溶媒ようばい(solvent)』、つまり溶かす性質を有する物質に溶けにくい色素のこと。
染料せんりょう」は逆に、溶媒に溶けやすい色素。

 発光性を有する顔料、染料は『蛍光剤けいこうざい(Fluorescent agent)』と呼ばれる。
発光性の原因は、普通は、物質が吸収した余分な光を、不安定性ゆえに再放出する『フォトルミネセンス(Photoluminescence)』という現象とされる。

 必ずしもそうではないが、顔料と呼ばれるものは、鉱物のような無機物からよくとれる。
一方で染料は、動植物などから取れる有機物が多いとされる。
有機性の顔料、あるいは化学変化により不要性を得た染料は、『レーキ(Lake)』とも呼ばれる。
化学反応 「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か
 現在では人工的に化学合成されたりもする。

 染料、顔料は描くための道具の、色成分として欠かせない。
そして、それらに適切な化学成分を加え、紙などの表面に、色として塗れるようにした流体を『着色塗料ちゃくしょくとりょう(Colored paint)』という。
流体 「流体とは何か」物理的に自由な状態。レイノルズ数とフルード数
 塗料(ペイント)は、着色のために限らず、防腐やつや出し目的のものもある。

絵具。Paints

 ようするに着色塗料。
「絵具」の構成成分の内、色素は『顕色剤けんしょくざい(Color developer)』
色素を均等に分散させたり、描く媒体に定着させたりするための化学成分は『展色材てんしょくざい(Vehicle)』、あるいは『バインダー(Binder)』と呼ばれる。

 その化学構成の違いによる多くの分類がある。

 たいてい、『防腐剤(Preservative)』や『乾燥促進剤かんそうそくしんざい(Drying accelerator)』なども、補助的成分として含めている。

水彩。Watercolor

 主に水を溶剤とする絵具。
水に対して顔料が溶けやすくするするため、バインダーとして、水溶性や粘性が高い『アラビアガム(Gum arabic) )』がよく使われる。
アラビアガムは、アカシア属アラビアゴムノキという植物の樹皮からとれる成分。
固形化しても、わりと簡単に、再度水に溶かせられるところは、メリットにも、デメリットにもとられる。

 「水彩すいさい」のさらに大まかな分類として、透明性の『ウォーターカラー』と、不透明な『ガッシュ(Gouache)』がある。
透明性は粒子構成の、光の屈折率に関係しているとされ、屈折率が低いほど、透明性は高い。

 ガッシュというのは古くは、不透明な『水彩画(Watercolor painting)』を描く技法のことだったともされる。
ただ、古い時代の水彩は、光の屈折率を低くするのが技術的に難しかったために、むしろ不透明性が高いのが基本であったとも。

 なるべく安価な成分を使った、低価格のガッシュは、『ポスターカラー』と呼ばれる。

 『アクリル樹脂(Acrylic resin)』という合成樹脂(人工素材)を含めた、『アクリル水彩』、『アクリルガッシュ』は、水溶性を有しながら、乾燥後は耐水性となる便利なもの。

 水彩画の歴史は非常に古く、先史時代(紀元前3千年以前)の洞窟壁画にまでさかのぼれるとも。

油絵具。Oil paint

 酸化作用(酸素との結合)などにより、空気中で徐々に固まっていく油を、『乾性油かんせいゆ(Drying oil)という。
その乾性油を主なバインダーとした絵具。

 使われる乾性油は、アマ属アマという植物の種子から得られるという『リンシード(Linseed oil)』が基本的。

 疎水性の高い油を使う関係上、普通は薄めるための水を併用することもできない。
水彩を薄めるのに水に溶かすように、油絵具は油に溶かす。
まだ水彩に比べると、乾くまでの時間が長いとされる。
完全に乾ききると、再び溶かしたりするのは難しいので、重ね塗りに関しては、水彩よりもはるかにしやすい。

 紀元7世紀頃のアフガニスタンでは、バインダーとして油を利用する術がすでに知られていたようだが、ヨーロッパにしっかり伝わったのは10世紀以降と考えられている。
そして、『油絵(Oil painting)』というジャンルが本格的に広く評価されるようになったのは、15世紀以降と考えられている。

 アクリル絵具は、水彩と、油絵具のいいとこどり、と言われることもある。

パステル、チョーク。Pastel, Chalk

 粉末顔料と白色粘土を固めて作った絵具。
ナイフで削ったりして粉末に戻し、手やスポンジで塗ったりする。
また、「パステル」を使って描かれた、柔らかく淡いイメージの色を『パステルカラー』という。

 パステルはフランス語で、「練り合わせ」というような意味。

 「チョーク」は、よくパステルと一緒ごたにされがちな画材として。
チョークというのは、白亜という石灰岩の1種のことで、それはもともとの原材料。
今、チョークといえば「炭酸カルシウム」のもの、「石膏カルシウム製」のものがある。
石膏カルシウムチョークの方が、やわだとされる。
また、塗装された塗料が劣化して、白い粉末になったりして欠けたりすることを『チョーキング(Chalking)』という。

クレヨン。Crayon de cire

 一般的に、常温程度では個体であるくらいに融点が高めな油系物質を、『ろう(Wax)』という。
「クレヨン」は、顔料と蝋を溶かし、混ぜて、棒状に固めたもの。

 あまり尖ったりしないし、鉛筆削りのような余計な道具もいらないので、鉛筆よりも幼児に無害として重宝されやすい。

 フランス語のCrayonは、描くための道具全般を意味する言葉だから、日本人にとってのクレヨンを示すためにはcire(蝋)をつける必要がある。

 『クレパス』とも呼ばれることがある、クレヨンに油などを含ませた『オイルパステル(Oil pastel)』は、クレヨンとパステルの長所をあわせ持った、あるいは中間的なものとされる。

インク。Ink

 顔料、染料を含んだ、やはり描くための液体やジェル。
絵具の色素は主に顔料だが、インクは染料とされる。
性質的に、こちらの方が、描く時点では綺麗にしやすいが、色の劣化がしやすいとされる。
芸術よりも、ただの筆記とか、簡単なイラストとか、実用的な目的のために使われやすい。
少なくとも、長期的な保存性が求められる絵画のためには向いていない。

 知られる最も古いインクの候補として、少なくともいん(紀元前17世紀~紀元前1046)の時代にまで遡れるらしい、古代中国の『すみ』がある。
殷の玉座 「殷王朝」甲骨文字を用いた民族たち。保存された歴史の始まり
墨は、炎や煙から得られる炭素微粒子である『すす』を、動物から取れる『にかわ』などで塗りかためたもの。

 イカの墨は『セピア(Sepia)』という。
古くは古代ギリシアの時代(紀元前8世紀~紀元前146)から、インク素材としても知られてはいたが、悪臭や、薄まりやすすぎるなど使いにくかった。
しかし、アルカリで溶かし塩酸に沈め乾かすと、茶色系の顔料としてそれなりに使えると気づかれてからは、セピアは芸術の世界に返り咲いた。
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鉛筆、色鉛筆。Pencil, Colored pencil

 「鉛筆」は、普通は木製の軸に、顔料を細く固めた芯部分を入れたもの。
軸が機械式になっているものは『シャープペンシル(mechanical pencil)』と呼ばれる(シャープペンシルも、それを略した「シャーペン」も、和製英語)
基本、文字の筆記のための道具だが、絵の下書きなどにもよく使われる。

 原理的には、削って露出させた芯を、紙などに擦りつけることで、その摩擦力により、微粒子の軌跡を描く。
鉛筆を消すための道具である『消しゴム(eraser)』は、その、紙の上に付着した微粒子をはがしとるためのもの。

 黒鉛筆の場合に『カーボンブラック(carbon black)』とも呼ばれる「グラファイト(黒鉛)」という炭素化合物が顔料として使われているのは非常に有名。
昔は、黒鉛は炭素でなく、鉛だと考えられていたので、名称的にちょっとややこしいことになっている。

 「色鉛筆」は、芯の製法が異なっている。
通常の色鉛筆は、蝋や油成分で顔料を固めて、芯としている。
一方で、水溶成分を使った『水彩色鉛筆』もある。
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木炭(Charcoal)

 木材を炭化させ(つまり炭素成分を高め)、棒状にした「木炭」も、鉛筆的な使われかたがよくされる道具。
材質が柔らかく、繊細な表現に向いているとされる。

 鉛筆よりももろく、あっさり磨り減っていくとされる。
単体では定着率も弱いが、だからこそ、指でこすったりするなどしての微調整が容易だったりもする。

 素材となる木の状態などによって、単体ごとに結構、性能が違ってきやすい。
『木炭紙(Charcoal paper)』と呼ばれる専用紙は、凸凹構造により木炭の定着率を高めている。

 木炭は最も古い筆記具という説がある。

フィキサチーフ。Fixative

 絵画用定着液。
パステル、鉛筆、木炭のような、粉末状のために固着率が弱いとされる道具で描かれた絵などを、しっかり定着させるために使う。

 スプレーなどを使い、吹き付かせるのが基本。
当たり前の話だが、固着させる代償として、削って消去することが難しくなる。

 「フィキサチーフ」は、成分的には、合成樹脂を石油やエタノールで溶かしたもの。
パステル用には、石油式。
鉛筆と木炭用には、エタノール式が効果的とされる。

ガラス。Glass

 古くから人造品として知られていて、古代エジプト(紀元前3000~紀元前30)、フェニキア(紀元前16世紀~紀元前8世紀)、ギリシアなどの遺品が現在にまで残っている。

 基本的に透明で、表面が滑らかなために汚れを落としやすく、かつ硬くて、摩滅まめつ(すりへり)に強い。
用途が多いというだけでなく、プラスチックが登場するまでは、他の物で代用することも難しい、独自性の高い素材でもあった。
欠点として、衝撃や、温度の急激な変化には弱い。
プラスチック 「プラスチック」作り方。性質。歴史。待ち望まれた最高級の素材
 美術評論家のラスキン(John Ruskin。1819~1900)は「ガラスデザインの特徴は、透明性、それに溶融ようゆうのしやすさからくる流動的な形体」というように指摘していたらしい。

 『珪砂けいしゃ(Quartz sand)』や『珪石けいせき(Silica stone)』のような酸化ケイ素の化合物、『炭酸ソーダ(Sodium carbonate。炭酸ナトリウム)』、『石灰石(Limestone)』などを主成分とする。
それらに、『鉛丹えんたん(red lead,)』、『亜鉛華あえんか(Zinc oxide。酸化亜鉛)』などを、用途に応じて配合し、高熱で溶かして好きな形を作る。

 その成分構成や特徴とかにより、『ソーダ石灰ガラス(Soda-lime glass)』、『カリガラス(Potash glass)』、『クリスタル・ガラス(Lead glass)』、『ホウケイ酸ガラス(Borosilicate glass)』、『石英ガラス(Fused quartz )』など、いろいろ分類される。

 アート的には成形後の方が重要であろう。
ガラスが溶けない程度の熱で顔料を『焼き付け(Baking)』したり、意図的に『腐食(Corrosion)』させたりして、模様や、制作元のロゴをつけたりとかする。
高圧力の空気で『研磨剤けんまざい(Abrasive)』を吹き付かせて作る、傷を線としたデザインもよくある。

屏風、襖

 「ふすま」も「屏風びょうぶ」も、木の骨組みに、紙や布などを貼り付けたもの。
部屋の仕切りなどによく利用される。

 襖は、開閉のための取っ手などがついていて、完全に仕切り用。
おそらく日本産とされ、 平安時代(794~1185)には利用されていたとされる。

 屏風は、折りたた式のパネル群的にしたもので、単に飾りの役を与えられてることも多い。
屏風は、中国では、漢(紀元前206~紀元220)の時代にはすでに、風よけのための道具として存在していたらしい。
漢の仏教 「漢王朝」前漢と後漢。歴史学の始まり、司馬遷が史記を書いた頃
日本でも(おそらく7世紀くらいに) 伝わってからしばらくは実用的な役を担ってたり、儀式用としての利用が主だったようだが、中世以降は、装飾用、観賞用としても一般的となっていった。
そして、大画面の絵を描く媒体として、襖と共に絵描きたちに重宝されたわけである。

 パネル6枚、6つに折り畳める構成のものを『六曲屏風ろっきょくびょうぶ』。
さらに、六曲屏風が対になった1セットを『六曲一双ろっきょくいっそう』という。
日本美術史においては、屏風といえばほぼ、そのような六曲一双らしい。

 また、屏風とかなり似たようなものに、『衝立ついたて』というのもあるが、こちらは基本的に折りたためない構造。

 日本における『風俗画(Genre painting)』の始まりは、安土桃山時代(1568~1600)の屏風絵ともされる。

掛軸

 壁などに飾り、絵画や書を観賞するための、作品を『表装ひょうそう』、つまり紙や布で張ったもの。
表装とは、書や絵画を「掛軸かけじく」に仕立てることを言うが、屏風、衝立、襖に仕立てる場合もこの言葉を使う。

 中国はとう(618~907)の時代に登場した形式とされる。
日本には奈良時代(710~794)の頃に伝わったらしい。
もともとは仏教の教えを広めるための道具で、 『仏画(Buddhist painting)』が描かれているのが基本であった。
「唐王朝」最も安定していたとされる治世、中国唯一の女帝の影 お寺 「仏教の教え」宗派の違い。各国ごとの特色。釈迦は何を悟ったのか

照明。Lighting

 光が必要十分でない場に、人工的に用意した光を置いて、照らし出すこと、そのような技術を「照明」という。
照明自体を利用したアート作品もあるが、その制作過程においても、モデルを適切に照らし、演出効果を高める役割を担ったりもする。

 必要な環境や雰囲気をもたらすための室内照明は、『アンビエント照明(Ambient lighting。環境照明)』とも呼ばれる。

芸術作品を彩る要素

ミリュー。Milieu

 ある系の現象を規定する外部因子、あるいは環境因子。
テーヌが提唱した、「ミリュー説」によるという。

 ミリューは、風土などの自然的因子、集団内の階級などの社会的因子、宗教や哲学などの文化的因子などの集合体。
そして、ある時代、ある民族の芸術の形式に大きな影響力を有している。

 芸術史を考える上でも、欠かせない要素ではある。

モチーフ。Motiv

 ラテン語の「moveo(動かす)」が由来らしい。
もともとは、創作作家が作品を作るための動機というように定義されていたようである。
転じて、作品の構想などにおける核的、モデル的な要素とされるようになっていった。

 音楽においては、作品の最小の特徴(つまり最小単位と言える音符の並び(小節))
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オーナメント。Ornament

 飾り、装飾品のこと。
様々なインテリアの小物、キャラクターグッズなどを含む場合もある。
「クリスマスオーナメント」と言えば、クリスマスツリーの飾り。

 芸術分野においては、建物など部分的な装飾。
装飾の役割を担っていても、全体に比べて大きな規模のものは、あまりオーナメントとは呼ばれない。

 建築家オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones。1809~1874)は、1856年に出版された『飾りの文法(Grammar of Ornament)』にて、「役に立たない、あるいは余分な装飾品など、決して見つけられない。すべての装飾品は、『表面(surface)』から自然に、静かに生じる」と述べている。
また、建築史家のサマーソン(Sir John Newenham Summerson。1904~1992)は、自身のエッセイにて、オーナメントとはつまり『表面変調(surface modulation)』と定義しているらしい。

 オーナメントは古くから、建築芸術と深い関わりを持ってきたが、特に19世紀には、新しいスタイルを模索する建築家や、批評家たちが、オーナメントの許容性、正確な定義などを、熱く議論したという。

色の三要素。Three principal color elements

 基本的には、『色相しきそう(hue)』、『明度めいど(value)』、『彩度さいど(chroma)』の3つの要素。

 人間が心理的に理解できる色というものを、定量的に定義するための体系を、『表色系ひょうしょくけい(color system)』という。
その表色系の中でも、美術教師でもあった画家のマンセル (Albert Henry Munsell。1858~1918)が考案した『マンセル・カラー・システム(Munsell color system)』は、アート分野においてかなり一般的。
そしてそのマンセル・カラー・システムにおいて、 その時々の色を 決定している数値として示せる3つの要素が、上記の3要素(色相、明度、彩度)。

 色相は、青、赤、緑、黄とかの種類の違い。
光学的には、色相自体は、光を波長として定義した場合の波長領域の違いであり、その時の色相とは、目立っている特定の波長領域とも言える。

 明度は、色の明るさ。
光学的には、光の反射率、吸収率とも言える。
理想的には、光を全反射する場合は、すべての波長を合わせた白。
光を全吸収する場合は黒(というか真っ暗闇)となる。

 彩度は、色の鮮やかさ、強さ。
感覚的概念の雰囲気が強いため、光学的に定義するのは、3要素の中でも、おそらく最も難しい。
色相以外の波長領域の量による影響の度合いとでも言えるか(どう定義しても明度との違いがややこしい。芸術は感覚だ)
とにかく、混じり気なく、純色と呼ばれるような場合が、最も彩度が高いとされる。

三原色。Three primary colors

 赤、緑、青の『光の三原色』。
シアン(青ぽい緑)、マゼンダ(赤ぽい紫)、イエロー(黄色)の『色の三原色』がある。
どっちにしても、3つの基本的な色と、それの混ぜ合わせで、人間が知覚できるあらゆる色を表現できるという、基礎の考え方は同じ。

 光の三原色は、単純に光を混ぜることによって表現される色。
テレビや蛍光灯など、発光物の光を、視覚が直接的に捉えて、認識した場合の三原色とも言える。
一般的に全ての(光の波長を我々が認識した場合の)色が合わさった色は白なので、光の三原色がすべてフルに混ぜ合わさった時の色は白となる。
基本的に光の足し算なので、『加法混合式』とか言われもする。
「テレビ」映像の原理、電波に乗せる仕組み。最も身近なブラックボックス
 一方、色の三原色は、光に照らされた時に現れる色。
たぶん周囲の 発光体を全部消してしまえば体感できるだろうが、多くの物体は、他の場所からの光がないと真っ暗闇に溶け込んでしまう。
そういう多くの物体に、光を当てて、その反射光を視覚が捉えた時に認識される場合の三原色。
伝統的な絵画は、基本的にこの三原色により色を表現する。
絵の具のような色をつけるための道具は、どの光を吸収するか、あるいは反射するかを決定づけるための要素なわけである。
当然、色の三原色がフルに混ぜ合わさった時は、すべての光が吸収されるはずなので、真っ暗闇の黒となる。

 文化的、歴史的に、シアンは青、マゼンダは赤との違いが曖昧なところがあり、古く、絵画における三原色といえば、青、赤、黄とも。

色彩、色調。Colors. Color tone

 「色彩」というのは、色とほぼ同義語。
どちらかと言うと、あちらが単体の色そのものを指す場合が基本なのに対し、色彩というのは組み合わさった作品(ある系)全体の色あい、『配色(Color scheme)』、つまり色の組み合わせを指すことが多い。
何かの色を感覚的に表現する場合、おそらくは色彩という言葉を使うほうが、哲学的なイメージが薄れる。
感覚で捉えられる、色のよさこそが色彩である。
またこれまで、光学の大家ニュートン(Sir Isaac Newton。1642~1727)にはじまり、多くの知識人たちが色彩の調和(ハーモニー)について、独自理論を展開してきた。
詩人ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe。1749~1832)や、化学者のシュヴルール(Michel-Eugène Chevreul。1786~1889)、オストワルト(Friedrich Wilhelm Ostwald。1853~1932)などが代表的。
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 「色調」、あるいは「(カラー)トーン」は、明度と彩度の数値により、分類される色の具合。
トーンが最大の色はやはり純色であり、つまり原色、あるいは混じりあった原色そのままのもの。
トーンが最低のものは、『無彩色(Achromatic color)』と呼ばれる。
一般的にトーンが高いほど、明るく、温かく、生き生きとしていて、若々しく、派手な感じがする。
もちろん低いほどその逆、暗く、 冷たく、死んでいるようで、老いた雰囲気で、落ち着いているとされる。
最も、色相によっても、わりと印象変わってくる。

ベース、ドミナントカラー。Base, Dominant color

 「基調色」と訳される「ベースカラー」は、配色において、大分量を占める色。
背景色などが、実質ベースカラーとなることが普通。 

 ドミナントカラーは「主張色」と訳される。
ある配色において、全体を支配しているような色。
色相の幅を限定することで、全体的に統一感を出す技法の名称としても使われる。
ドミナントはそのまま、「支配的な」とか、「優勢な」というような意味の言葉。

アクセント、アソート、セパレーションカラー。Accent, Assort, Separation color

 「アクセントカラー」は「強調色」と訳される。
量的には少量だが、全体的なイメージに対し大きな影響を与えている色。

 「サボーディネートカラー」とも呼ばれる「アソートカラー」は、「従属色」、「配合色」と訳される。
ベースカラーやドミナントカラーを引き立てる役を担う色。

 「セパレーションカラー」は、配色をより効果的に演出するため、色同士の間に、挟み込まれた別の色。
無彩色や、光沢のある色を使うと効果的とされる。

モノクローム。Monochrome

 「唯一の色」という意味。
よく「モノクロ」と略される。
基本的に1色で描かれた絵画、あるいは写真など。

 基本的に、表色系において定義される意味での、本当の(色の三要素が全て同じ数値という)1色ではない。
色調か、明度はわりと自由。

 また、背景色(ベースカラー)がまずあり、そこに描くための色は別の1色なのが普通だから、色相的にすら2色。
その2色でグラデーションを演出することにより、像を浮き彫りにするわけである。

 たいていのモノクロ画の2色は白と黒だから、よく『シロクロ』などとも呼ばれる。
モノクロの絵画作品に関しては、『単色画(monochrome painting)』と呼ぶ場合もある。

グラデーション、リピティション。Gradation, Repetition

 「グラデーション」とは、要素が一定の割合で強さを増減させながら連続していく構成のこと。
例えば色彩において、明るい色から暗い色へ連続的に変化していったりするもの。

 グラデーションと同義的に使われることもある言葉に 「グラディエント(gradient)』というのもある。
基本的には、グラデーションは「色集合体」。
グラディエントは「各領域点ごとの変化具合」とも。

 「リピティション」は、グラデーションのような様々な色の集合でなく、固定されたわずかな色の集合。
いわゆる『連続模様(Running pattern)』のように、ある要素、構成、モチーフなどが繰り返すデザインのこと。

コントラスト。Contrast

 「対比」、「対照」の意。
極端に異なる要素を並べた場合の、その明らかな差による効果。
例えば、明度が高い色と低い色、彩度が高い色と低い色などを並べた時に、「コントラスト」が生まれる。

 極端なものは「ハイコントラスト」。
変化程度の低いものは「ローコントラスト」と呼び分ける流儀もあるようである。

マチエール。Matière

 「素材」を意味するフランス語。
この言葉は、絵画の領域においては、絵の具や素材の使い方によって生まれる『絵肌』、つまりは、絵の手触りとか質感のことを指す。

 ヨーロッパの古い時代。
絵画とは、つまり表面が滑らかに仕上げられたものというイメージが強く、あまり深く研究できるようなものでもなかったようだが、19世紀くらいからは、画風を決定する1つの要素として広く認知されていった。

シンメトリー、アシンメトリー。Symmetry, Asymmetry

 「シンメトリー」は、移動や反射による左右対称、回転による放射、拡大による動的対称など、様々な対称性の表現。
我々自身(人間)をはじめとして、自然界の多くの物体はシンメトリーの性質を有していて、おそらくは我々にとって居心地がよい。

 「アシンメトリー」は逆に、不均一、不均衡、非対称的な表現。
シンメトリーに比べると、デザインや配色に変化を感じやすいとされる。

プロポーション。Proportion

 全体と部分の要素の、比例や割合のこと。
要素の比率が、美しさをよく演出している時、「プロポーション」がいいとかと言われる。

 要素の比率が『黄金比(golden ratio)』と呼ばれる数理的性質を有している場合、全体は美しく見えるとされるが、それもよいプロポーションの一例である。

コンプレックス。Complex

 心理学における、抑え込んでいるはずの無意識が、意識に紛れ込んできているような感情(例えばどうしようもない劣等感)とは、全然違う。
もともと、この「コンプレックス」という語には、「複雑な」とか「複数が混ざった」みたいな意味がある。

 美術の分野においては、いろいろ混ぜてみて表現した、あるいは自然的な様に反した、複雑な色を『コンプレックスカラー』。
複雑な色の配色を『コンプレックス(カラー)ハーモニー』とか言ったりする。

 1960年代末頃には、コンプレックスカラーのブームがあったとされる。

サイケデリック。Psychedelic

 幻覚剤によって得られた(気になれる)超感覚世界的な、派手な色や芸術作品を、「サイケデリック」と言うことがある。
幾何学的な渦巻き模様のようなイメージが強い。
あるいは、独特な浮遊感というのが、特徴としてよく言われる。

 系統的には、精神の内面をさらけ出した、あるいはそれを参考にした芸術表現というように言えるかもしれない。
幻覚剤により変化した意識の再現ともされる。
コネクトーム 「意識とは何か」科学と哲学、無意識と世界の狭間で
 サイケデリックという言葉を考えだしたのは、精神科医のオズモンド(Humphry Fortescue Osmond。1917~2004)で、ギリシア語の「psychē(魂)」と「dēloun(明らかにする)」の組み合わせらしい。

アニソトロピー。Anisotoropy

 我々の認識する能力の不安定さのために、理解できる空間に、本来は存在しないはずの変化が現れる場合がある。
例えば、同じ長さの棒のはずなのに、水平に置かれている場合と、垂直に置かれている場合で、長さが違うと感じたりすることがある。
このような錯覚性、異方性を「アニソトロピー」という。

エキゾチズム、エスニック。Exoticism, Ethnic

 エキゾチズムとは、つまり「異国趣味」
特に作品を作る者にとって、なかなか行けないような遠い国や、すでに存在していないような滅びた文明などへの憧れ。
また、そのような憧れから生じたテーマ。
「外国」を意味するギリシア語が語源らしい。

 外国では限らないが、作品に取り入れられる、国というよりも民族の性質は、「エスニック」と呼ばれる。

 また、様々な文化における模式の、よいものばかり取り入れた表現は、『エクレクティシズム(Eclecticism)』という。

他、雰囲気の要素。Ambience element

『シュパヌング。Spannung』
作品の構成要素の相互的配置の関係から喚起される緊張感、注意。

『シック(Chic)』
しゃれた雰囲気、品があるような感じ。
普通、「シック」な配色といえば、素敵な感じの色彩というような意味合いが強い。

『スポーティ(Sporty)』
 活動的な雰囲気をイメージさせるような感じ。

『ユニティ。Unity』
全体的な統一感。
基調となる要素(ベース)、従属する要素(アソート)、強調される要素(アクセント)など、 それぞれの特性を活かしつつも全体の秩序を保った状態。

『フェミニン(Feminine)』
女性的な感じ。

『マニッシュ。mannish』
男性的な感じ。

『アーバン(Urban)』
「洗練された」というような意味。
都会的な感覚や、ライフスタイルなどを指す用語。

ハレーション。Halation

 写真や、テレビの画面などに、光が反射したせいで、画面が見にくくなったりする現象。
色のコントラストが強い場合にも起こりやすいとされる。

 元は上記のようなことを指す言葉なのだが、現在では、様々な局面における悪い影響とか、副作用の意味で使われることもある。

 また、光の量によって、モノクロ写真は現像時に白黒が反転してしまう場合があり、そのような現象は『ソラリゼーション(Solarization)』と呼ばれる。
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絵描きたちのテクニック

フレスコ、テンペラ。Fresco, Tempera

 油絵具の開発前。
絵画技法とは、つまり「フレスコ」か「テンペラ」という時代もあったらしい。

 簡単には、フレスコは、顔料を水で溶かし、それを直接、壁などに塗った後、乾燥させて定着させる技法。
テンペラは、卵のような『乳化作用(emulsification)』を有する物質をバインダーに使って描く技法。

 乳化(emulsion)とは、化学的原理により、本来は混ぜにくい物質同士を、混ぜやすい状態へと変形させたりすること。

 フレスコは、イタリア語で「新鮮な」という意味。
テンペラに比べて、鮮やかな色や透明感を表現しやすいことから、このように呼ばれるようになったらしい。

 テンペラは、ラテン語の「temperare(正しい混ぜあわせ)」が語源とされる。
現代では、卵をバインダーにした絵具を『テンペラ絵具』と呼んだりもする。
古くは、水とされるもの以外をバインダーにすることが、テンペラだったという説もある。
卵が主流になったのは、調製のしやすさの他、油を加えるアイデアも、いつからか登場し、汎用性を増したためと思われる。

デッサン、素描、ドローイング。dessin, sketch, drawing

 通常、鉛筆や木炭などにより描かれた、『輪郭線りんかくせん(Outline)』や、明暗表現による下絵を、「デッサン」とか「素描そびょう(スケッチ)」、あるいは「ドローイング(線画)」という。

 色をつけることを前提とした下絵以外に、作品の方向性を決定づけるための『試作品(Prototype)』、的確な表現や描く対象の構造を学ぶための『練習品(Practice product)』、時にはそれ自体が1個の作品として完結している場合もある。

 使い分けとして、デッサンは、比較的長い時間をかけ、空間や物の構造を明確に理解した上で、じっくり描き込まれたものを指すことが多い。
単に線で形を描くだけでなく、書き込みによって立体感や質感もかなり正確に表現していく。

 素描は、対象物の特徴を大まかに捉えて表現する描き方で、デッサンよりも、適当感が強い。
細かなものは省いても、重要な特徴はしっかり捉えることが求められる。

 ドローイングは、線表現が主体であるものによく使われる。
特に、動きのあるものを描く対象として捉えたい場合には有効だったりする。
とにかく、いったい何を描きたいのか、何を描こうとしているのか、その目的が見える形で表現できればよいともいえるが、素早い時間でそれをするには、高い画力、表現力、空間認識能力が必要と言われる。

 特に素早く描かれる素描は、『ラフスケッチ』や『クロッキー(Croquis。速写画)』と呼ばれる。
また、デッサンを描く際などに、平行線を連続的に用意し、あるいはクロスさせて面を表現することを『ハッチング(hatching)』という。

彫刻、レリーフ。Sculpture, Relief

 「彫刻」は、木とか石のような素材を、彫り刻み、立体アートを作り出す技法。

 「レリーフ」は、素材の平面を彫って作り出す浮き彫りで絵を表現する技法。
あるいはそれによって作られた浮き彫りの絵。

 堀り削って作品を作るのは、彫刻もレリーフも同じ。
表現するものが三次元の像か、二次元の絵かの違い。
レリーフでも、深く掘る削ったものは、かなり立体的。

版画、印刷。Art print, Printing

 「版画」とは、彫刻刀などで削ったりして作った、溝や出っ張りの輪郭を有するはん(板)に、インクで色をのせ、紙に転写して、絵を作る技法。
あるいは、それによって作られた作品。
版を用意し、紙を重ね、『バレン(馬楝)』などで押し当てるのが基本の方法。

 バレンとは、竹の皮などで作ったヒモを渦巻状にして固め、紙を何重にも重ねて、皮で覆った、基本的に版画のための道具。

 版画作品の製作過程は「印刷」と呼ばれる。
実際には、版画と印刷という日本語名はかなり曖昧な面がある。
機械化された印刷過程がかなり普及しているので、そういう場合を印刷、手作業による版画を版画とすることも考えられるか。

 版のパターンの違いにより、『凸版とっぱん(Relief printing)』、『凹版おうはん(Intaglio printing)』、『平版へいはん(Lithography)』、『孔版こうはん(Screen printing)』と、大まかな分類がされる。

 凸版は出っ張り、凹版は溝を使う。
平版は、平らな板を使うが、例えば水性インクをはじく油などで『マスク』、つまり部分的に非存在的にしたりする。
孔版は、インクを通すための穴をあけた版を使う。

 他に、『銅版画(Copperplate print)』、『木版画(Woodblock print)』といった、版の素材による分類もたまに使われる。

 その制作過程のため、同じ作品を量産しやすいのは、版画の最も重要な特徴ともされる。

シルクスクリーン。Silk screen

 木や金属の枠に張った、『メッシュ(Mesh)』と呼ばれる細かな網目の布に、インクや絵の具を塗布して刷るという、よく知られた孔版画の技法。

 初期にはシルク、つまり『きぬ』の布がメッシュとして使われていたから、この名称となっている。
今は、「スクリーン印刷」とか、シルクという名称を避ける場合もある。

 1960年代のアメリカで発達し、商業美術として使われていたこの技法を、純粋に美術作品に応用した最初期の1人は、マルチアーティストのウォーホル(Andy Warhol。1928~1987)とされる。

他、版画の技法。Printmaking technique

『エングレービング(Engraving)』
のみに似た『ビュリン(Burin)』という工具で、銅版などに線を刻み、インクを埋めて刷る凹版技法。
線が明確になりやすいとされる。

『ドライポイント(Drypoint)』
尖った針のような、そのまま『ニードル(needle)』、あるいは『ポイント』と呼ばれる工具で描く技法。
掘る道具の形状の関係で、線上に、『まくれ』と言われる細かな刻み(穴)ができ、独自の雰囲気が出る。
また、版画技法の中では、特に普通に鉛筆で描いているような感覚に近く、初心者向きともされる。

『エッチング(Etching)』
防蝕効果のある、『グランド(Ground)』と呼ばれる化学薬品を塗った板の、薬品コーティングを削ることで描き、腐食液に浸すことで画を生成する技法。
コーティングが削られたために生じた腐食部分に、インクを入れて印刷する。

『メゾチント(Mezzotint)』
まず『ロッカー』という、金属製のブラシのような道具を使って、銅板に細かい網目、まくれを刻む。
そうしてできたまくれを、『スクレイバー(Scraper)』や『バニッシャー(Burnisher)』といったへらのような工具で、削ったり、滑らかにしたりして、グラデーションを作っていく
特に明暗を表現しやすいとされる凹版技法。

『アクアチント(Aquatint)』
エッチングとメゾチントを合わせたような技法。
コーティングのための薬品の他、マツの木から取れる天然樹脂の『松脂まつやに(Pine resin)』を粉末にして、版に振りかけ、熱したりして定着させる。
松脂の細かな粒子が、メゾチントのまくれのような役割を果たす。
松脂の散布量と、熱による定着具合の調整で、細かく色を調整もできる。

『リトグラフ(Lithograph)』
ようするに平板画。
他の版画の方法に比べて、難しく時間もかかるとされるが、細かく調整した描写が可能とされる。

ステンドグラス。Stained glass

 時代とともに建築技術の発展により、それほど壁を厚くせずとも、安定な建物を作れるようになって、特に聖堂などには大きな窓が作られるようになっていった。
色付きガラスを鉛の枠で接合し、絵柄を作り上げていく「ステンドグラス」は、そのような建築技術とともに発展した技法。

 それを透過する光は色彩豊かになり、聖堂内を明るく、神秘的な雰囲気へと変える。

 技法自体はローマの時代(紀元前753~476)から存在していたが、その効果がピックアップされるようになったのは、ゴシック期(12~15世紀)からだとされている。

モザイク。Mosaic

 四角に切った石や、ガラスのかけらなどを集め、定着させて、絵柄を表現する技法。
古くローマ時代は、大理石のモザイクが床の装飾などに使われていた。
その後、ビザンチン帝国(330~1453)において、ガラスのモザイクが発達したとされる。

染色、ステンシル。Dyeing, Stencil

 糸や布などの繊維に染料を浸透させて、着色させること。
あるいはそれによって絵を描く技法。

 主に、染料を溶かした液体に浸す『浸染しんせん』。
染料に粘りを付けて、直接塗りつける『捺染なっせん』という2種の方法が一般的。

 捺染の場合、絵を切り抜いた『型紙(pattern paper)』のような「ステンシル」を使う場合が多い。
ステンシルとは、つまり型を切り抜いた板状のもの、あるいはそれを使った技法。
版画にもよく利用される。

グリザイユ。Grisaille

 モノクロームの絵画。
あるいはそれを描く技法。
その名の由来は、フランス語で「灰色」を意味する「gris」。
そしてその由来通り、基本的には灰色か、そうでなくても灰色っぽい色で描かれる。

 グリザイユは、それ単体でモノクロの作品として完成とされることもあるが、基本的には下絵である。
すでに下絵の段階で、明暗を単色で塗り分けることにより、 さらに色を重ねた完成品に、立体感を与えやすくなるとされる。
あるいは、光の表現において重要とも。

 特に、それ自体完成作品としてのグリザイユには、メイン以外にも、少しは他の色が使われる場合もある。

 また、モノクロ絵画に使われる単色として、灰色以外には、茶色や緑も少数的に好まれ、茶色の場合『ブルナイユ(Brunaille)』、緑の場合『ヴェルダイユ(Verdaille)』などと呼ばれもする。
それらの言葉は元々、ステンドグラス職人にとっての着色料の名称だった説がある。
グリザイユも、起源的には灰色のガラス着色料だったが、フランスにおいて、意味が拡大されたそうである。

 この技法をよく活用した画家として、ブリューゲル(Pieter Bruegel。1525~1569)やレンブラント(Rembrandt Harmenszoon van Rijn。1606~1669)などが有名。
「レンブラント・ファン・レイン」光と影のエピソード。完璧主義な画家として

キアロスクーロ。Chiaroscuro

 「明暗法」とよく訳される。
 明暗のコントラストを利用して、遠近感や立体感を表現する技法。

 その名称は、イタリア語の「chiar(明)」と「oscuro(暗)」を組み合わせたものだが、 そのイタリアではグリザイユと同じような意味で使われる場合もあるらしい。

 キアロスクーロは、ルネサンス時代のアーティストたちの模索に端を発するともされるが、実際の起源は古代ギリシアの『スキアグラフィア(skiagraphia)』とされる。
スキアグラフィアとは、影を描くこと、あるいは影の輪郭をなぞる術であったらしい。

 「キアロスクーロ」をよく活用し、研究した画家として、ダヴィンチ(Leonardo da Vinci。1452~1519)やカラヴァッジオ(Michelangelo Merisi da Caravaggio。1571~1610)、レンブラントなどが有名。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ」研究者としての発明、絵画と生涯の謎

遠近法。Perspective

 絵画において、二次元でありながら、三次元的な距離感、立体感を演出する技法。
『パース』と呼ばれることもある。

 単に「遠近法」と言えば普通、『透視図法(Perspective drawing)』、あるいは『(線的遠近法(Linear Perspective)』のこと。
それは、画面内に『消失点(Vanishing point)』と呼ばれる点を設定して、そこに向かって収斂する複数の基本線、直行している水平線に基づき、物を配置していく技法。

 その他にも、遠近法には、以下のような様々な種類がある。

『鳥瞰図法。(bird’s eye view)』
空を飛ぶ鳥が見下ろした景色のように描く。
風切り羽 「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応
『虫遠近法(worm’s-eye view)』
あるいは『カエルの遠近法(Froschperspektive)』は、鳥瞰図法の逆に、低い所から見上げるように描く。

『消失遠近法。(Disappearance perspective)』
 遠くにある対象物ほど、ぼんやりとした感じに見えることを利用する。

『空気遠近法(Air perspective)』
遠くの風景ほどぼやけ、青みを帯びて見える現象を利用する。

コラージュ。collage

 「コラージュ」は、「糊ではりつける」の意味のフランス語。
すでに絵が描かれた何かの切り抜きとか、それ以外にも様々な小物など、とにかくいろいろなものを組み合わせて、芸術を表現する技法。
ピカソ(Pablo Picasso。1881~1973)やブラック(Georges Braque。1882~1963)が、広告や商品のラベルなどを切り抜き、絵画に張りつけた『パピエ・コレ(papier collé)』がその始まりとされる。

 様々な立体の断片を使う場合は、「寄せ集め」を意味する『アッサンブラージュ(Assemblage)』という呼び名が使われることもある。

 また、主に写真を使ったコラージュは、『フォトモンタージュ(Photomontage)』と呼ばれる。

オートマティスム。Automatisme

「自動記述」と訳される。
完成した内容を想定せずに、頭に浮かんできたことをひたすら書き、描いていく技法。
詩や絵画を通して、特に無意識下の自分を発見し、表現するために使われるとも。

 硬めの紙の塗りに、他の材料を密着させて、転写させる『デカルコマニー(Décalcomanie)』。
岩、木材、金属といった、表面がザラザラした素材に、紙や布などをあて、鉛筆などでこすって転写していく『フロッタージュ(Frottage)』などの技法も、「オートマティスム」とされることが多い。

 つまりランダム性が重要なのかもしれない。

他、絵画の技法。Painting technique

『ぼかし』
水の比率などを利用して色を濃くしたり薄くしたりして、影などを演出する技法。
日本画によく見られる。

裾濃すそご
上を薄くしておき、下にいくにつれどんどん濃くしていく技法。

『エンカウスティーク(Enkaustik)』
ミツバチから取れる蝋成分、いわゆる『蜜蝋みつろう』を着色し、焼き付けて描く技法。
ハチミツ 「ミツバチ」よく知られた社会性昆虫の不思議。女王はどれだけ特別か
『スフマート。Sfumato』
ほぼ同じ色や、透明な層で重ね塗りし、徐々に暗く変化させて、深みや丸みを表現する技法。
ダヴィンチが考案したとされている。

『エンファシス(Emphasis)』
例えばアクセントカラーのような部分的な強調を使い、変化や、全体的に引き締めた感じを表現する技法。
空間デザインにおけるワンポイントのインテリアなども「エンファシス」

『点描画法(Pointillism)』
点にまで分割した色彩で、画面を新しく構成していく技法。
19世紀のフランスにおいてよく使われた。
この技法を徹底して使った画家として、スーラ(Georges Seurat。1859~1891)が有名。

『アクソノメトリック(Axonometric)』
 下敷きに、直接的に高さ情報を付加して、立体図を作る技法。

『カットガラス(Cut glass)』
日本では「切子きりこ」とも呼ばれる。
ガラスの表面を削ることで、表現を浮き彫りにしていく技法

『升目描き』
時代を先取りしたような奇想天外なアイデアや、幻想的な画風で知られる伊藤若冲いとうじゃくちゅう(1716~1800)が開発したとされる技法。
升目ますめ」描きの名称通り、非常に細かく用意した升目それぞれに色をつけていく、デジタル表現的な技法。

蒔絵まきえ
落葉高木のウルシから採取される『うるし(Toxicodendron vernicifluum)』で模様を描き、その上から、細かく切った金属片や粉で絵柄をつくる技法。

トリミング。Trimming

 写真の必要な部分のみを切り抜きすること。
普通、コンピューターの画像に対する処理を指す。

 基本的には、ソフトウェアのペンツールなどにより、輪郭線を描いて、そこからはみ出してる領域を切り捨てることで、必要な部分を抽出する。

 トリムの意味は「整頓」。

パフォーマンス。Performance

 1950~60年代にかけてのアメリカで始まったとされる、既成概念の打破を目指した、新しい芸術の形式。
最初は『ハプニング』、後には「パフォーマンス」と呼ばれるようになった。

 演劇やダンスとかオペラみたいな、役者たちが演じる様を見せる時空間芸術を発展させたもの。
より自由な演劇ともいえるかもしれない。
例えば、車に塗ったジャムを観客に舐めてもらったりして新しい作品を生み出したりした。

 日常世界に無理やり持ってきた芸術とも言える。
あるいはそれらの境界を曖昧にしたアイデア。

インスタレーション。Installation art

 時が流れても残り続ける芸術という考え方への疑問から始まったらしい、ようするに一時的に作品を用意し、一定期間の後に撤去するという作品展示の方法。
単に空間そのものを要素として利用した作品を指す場合もある。

 普通の造形作品と比べると、作られた世界観に直接入り込んで、体験できるという点は、わりと重要かもしれない

 特に自然の素材を存分に用いたインスタレーションは、『ランドアート(Land art)』。
さらに規模が大きいランドアートは、『アースワーク(Earthworks)』などと呼ばれたりする。

 また、パフォーマンスも、インスタレーションの1種とも。

CG

 コンピューターグラフィックスの略。
コンピューターによって映像や画像を作り出す技術のこと。
特に1970年代後半くらいから研究されるようになった。

 特に今は、ゲームや映画などの分野で、仮想的な世界を表現するのによく利用されている。
この技術のおかげで映像化が不可能と言われていた多くの作品が、実は可能であったことを証明した。

 1993年の映画『ジュラシックパーク』において、CGで作られた恐竜の映像が与えた影響はとても大きい。

アーティストグループ、アートスタイル

浮世絵、ジャポニズム。Ukiyo-e, Japonisme

 安土桃山時代あづちももやまじだいの風俗画から発展し、江戸時代に登場したとされる絵画形式。
遊郭や芝居小屋、美人や役者の絵などから、次第に風景画など、その描く対象も広げていった。
さらに、幕末や明治初期には、ニュース写真的な「新聞絵」など、ジャーナリズム的な役割も大きく担うようになったため、歌舞伎の残虐なシーンを描いた「血みどろ絵」とか、かなり何でもありのカオス状態であったともされる。

 江戸時代の「カラー浮世絵」は、 出版までに以下のようなプロセスを辿るのが普通であった。
『版元』の人が企画を提案→『絵師』が絵を描く→『彫師』と『摺師すりし』が絵師の絵を使って版画を制作→絵師の指示のもとで、彫師が版に色をつけ、摺師が浮世絵を完成させる。
普通、浮世絵の作者として名前が知られるのは絵師である。

 初期の『墨摺絵くろずりえ』は黒一色で描かれたが、後に多色化もされていき、1765年には、カラフルな『錦絵にしきえ』が登場した。

 19世紀中頃の万国博覧会をきっかけに、ヨーロッパ各国で発生した空前の日本ブーム、浮世絵ブームは、「ジャポニズム」と呼ばれる。

フォークアート。Folk art

 「民衆芸術」
民衆の中の運命の誰かが 作り出した芸術 個人的主観的表現でなく、属する集団内で共有される思想や理念、夢などをモチーフにする場合が普通。

 民衆のための民衆の芸術とも言えるから、実用性が重視される傾向もあり、値段がつくとしても安いのが基本

ルネサンス。Renaissance

 中世のヨーロッパではキリスト教がとてつもない権威を誇っていて、様々な価値観や世界観に強い影響を与えていた。
この頃、ヘレニズム的、つまり古代ギリシア的な美術や学問も異教の文化として、はなから嫌われていたのだが、アラビア世界に伝わっていたそれらは、12世紀頃に、ヨーロッパに逆輸入されるようにもなったとされる。
特にメディチ家が台頭していたイタリアにおいて、ヘレニズム的な自然科学や、哲学への関心が高まり、その流行りは芸術文化にも広がっていった。
そのような、新ヘレニズムとも言うべき、14~16世紀くらいの文化復興運動が「ルネサンス」である。

 ルネサンスとはフランス語で「再生」の意味。

 特に14世紀のチマブーエ(Cimabue。1240~1302)やジョット(Giotto di Bondone。1267~1337)といった人たちにはじまる、芸術家たちは、解剖学的に正確な人体表現、空間の奥行きを表現する遠近法の研究、開発に取り組んだ。
そしてその分野はダヴィンチ、ミケランジェロ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni。1475~1564)、ラファエロ(Raffaello Santi。1483~1520)などの時代に、いよいよ完成形に達したのだとされている。

マンネリズム。Mannerism

 同じ形式、同じ手法をやたら繰り返し、そこからの発展を試みもしない停滞状態。
この状態に陥っている限り、作品に独創性というものは生まれる余地がない。
純粋な芸術家なら避けるべき。

 模式的には、『マニエリスム』と呼ばれる、ヨーロッパ(特にイタリア)における1530~1600年くらいの芸術群。
ルネサンス模式からバロックへの過渡期の頃くらいに、よく見られたという画風を指すことが多い。
ダヴィンチやミケランジェロといった、後期ルネサンスの大芸術家たちにより、芸術はいよいよ完成したのだという風潮も存在していた。
また、この頃、多くの画家たちが、「早く安く豪華な作品を」と求めていた貴族たちの要求に応えるために、一定の型に固執するという妥協をしたのだとされる。

ロマネスク。Romanesque

 8~12世紀くらいにかけて広がった、ヨーロッパの美術模式。
全体的にいかにも中世という感じの、どこか暗く重たいようなイメージ。
空想的で、怪奇的な植物や動物などもよくモチーフにされた。

 ロマネスクという言葉には、現在は、想像力によって描かれた幻想的な超現実というような意味合いもある。

ゴシック。Gothic

 12世紀から北フランスを中心に広まった美術様式。
その当時からこの名称で呼ばれていたわけではなく、ルネサンス期のイタリア人たちが馬鹿にするようなニュアンスで、「ゴシック(ゴート人の)」と呼んだのが、この名の始まり。

 ゴート人は、もともと北欧の方のゲルマン民族で、5世紀にイタリアで王国を築いた。
この歴史のために、イタリア人にとっては、野蛮な侵略者たち、というイメージが強かったものとされる。

 ゴシックとロマネスク建築の違いはわかりにくいともとれるが、一般的に、窓や扉の形が円形アーチ型ならロマネスク、尖頭アーチ型ならゴシックとされる。

 パリのノートルダム大聖堂や、ドイツのケルン大聖堂などが代表的なゴシック模式建造物。

バロック。Baroque

 16~17世紀くらいにヨーロッパで広まった、歪みを含んだ過多な装飾の芸術模式。
無限に上昇するかのような空間表現、うねるような造形、極端な明暗の対比などが特徴。
「バロック」は、ポルトガル語の「バローコ( ゆがんだ真珠)」に由来するとされる。

 大げさでドラマチックな表現は、16世紀、プロテスタントの宗教改革の際の、カトリック教会の美術的な対抗策ともされる。
基本的にプロテスタントは「聖像の崇拝を禁じ、聖書の言葉のみに耳を傾けよ」と指摘していたが、カトリックは、学のない庶民に対しては、聖書の言葉で語るより絵や彫刻で宗教思想を伝えようとしたとか。
十字架 「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束
 バロックの創始者は、カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio1571~1610)ともされる。
他、ルーベンス(Petrus Paulus Rubens。1577~1640)などが有名。 

ロココ。Rococo

 華やかな宮廷文化美術として、それ以前の時代のに比べると、繊細で遊び心にあふれるような模式とされる。
軽快で曲線的なフェミニンな感じ、異国趣味も目立つという。
ヨーロッパの18世紀自体が「ロココ」の時代とも言われる。

 バロックの時代に、庭園の意匠いしょう(工夫的デザイン)として流行った、『グロット(grotto)』という、怪奇趣味の石造りにおいて、 貝殻などで飾られた「ロカイユ(rocaille)」という岩があったらしい。
ロココの語源はそのロカイユとされる。

 ロココ期の芸術家として、ヴァトー(Antoine Watteau。1684~1721)、ブーシェ(François Boucher。1703~1770)、フラゴナール(Jean Honoré Fragonard。1732~1806)などが有名。

古典主義。Classicism

 ルネサンス以降、芸術の世界で、常に大きな派閥を作ってきたもされる、古典文化を崇拝する傾向。
そもそもルネサンス芸術は、古典主義的。

 通常は、古代ギリシア、古代ローマなど、西洋の古い形式を理想とするとされるが、中国などでも、定期的に古い文化は理想化されて、掘り返されたりしていて、それも古典主義とされる。

新古典主義。Neoclassicism

 18世紀後半~19世紀にかけて、ヨーロッパで再び起こった、古代ギリシア、ローマの影響下の美術の再ブーム。
特にギリシアが重視され、『荘重そうちょう』、ようするに重々しいような雰囲気もよく求められた。

 その英雄主義的な観点より、宣伝工作が得意だったとされる皇帝ナポレオン・ボナパルト(Napoléon Bonaparte。1769~1821)が好み、広まりに一役買ったとされる。

 ダヴィッド(Jacques-Louis David。1748~1825)やアングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres。1780~1867)が代表的,

ロマン主義。Romanticism

 ヨーロッパにおいて、新古典主義とかなり同時期、18世紀後半~19世紀にかけて発生した、古典主義(新古典主義)と対になるともされる芸術運動。
感覚、主観を重視して、理性や合理主義に対し否定的であったことから、『産業革命(Industrial Revolution)』への反動ともされる。

 ロマン主義は直接的には、「人間は幸せになるために生まれてきている」と説いた思想家ルソー(Jean-Jacques Rousseau。1712~1778)が始めたという説がある。
知性では決して捉えることができない、人間の内面の潜在能力を信じて、自分自身を含む自然を、心で探る重要性を彼は語ったともされる。

 ゴヤ(Francisco José de Goya。1746~1828)やドラクロワ (Ferdinand Victor Eugène Delacroix。1798~1863)などが有名。

アカデミズム。Academism

 創造性や自由さを犠牲にしてでも、伝統を重んじるような傾向。
また、古典の模範や、保守的で新しさが見られないような作風などを、『アカデミック(academic)』という

 古くは、古代ギリシアのプラトン(Plato。紀元前427~紀元前347)が、アテネ郊外に建てた、哲学を教えるための場を『アカデミー』といい、それが学校や研究所などの意味に転じていった。
アカデミズムの名の由来もアカデミー。

オリエンタリズム。Orientalism

 トルコやアラブ諸国と言ったオリエント世界の情景への憧れ。
ルネサンス期には、オリエント的なモチーフはすでにあったが、その傾向が高まったのは交易が盛んになった18世紀以降。
ナポレオンのエジプト遠征の頃からともされる。

 18世紀において、オリエンタリズムな作風は、アングルやドラクロワなど、古典主義、ロマン主義のどちらに属する画家にも、普通に見られた。

印象派。Impressionism

 19世紀後半にフランスで発し、1870年代~1880年代にかけて、パリを拠点とするアーティスト集団が、独自の展覧会を開いたりなどして、有名となった芸術運動

 運動参加者として、ルノワール(Pierre-Auguste Renoir。1841~1919)、モネ(Claude Monet。1840~1926)、セザンヌ(Paul Cézanne。1839~1906)などが有名。
「ピエール=オーギュスト・ルノワール」古きよき時代に憧れ続けた生命力の画家
 印象派という呼び名自体は、モネの『印象・日の出(Impression, soleil levant)』という作品名に由来している。
パリの風刺新聞『ル・シャリヴァリ(フランス語版)』にて、批評家のルロワ(Louis Leroy。1812年 – 1885年)が、皮肉交じりに彼らの展覧会に、この印象派という名を使ったのが始まりとされる。
このように、元々はバカにした呼び方ではあるが、第3回の展覧会からは、自分たち自ら、印象派の展覧会というように名乗るようになったらしい。

 その作風として、比較的小さく薄い場合でも、しっかり目に見える筆運び(筆の使い方)。
開かれた構図に、光や時間などの変化する性質を正確に捉えた描写の強調。
モデルが有する日常的な要素。
人が知覚し、経験するのに欠かせないような動きの包含性ほうがんせい(取り込み)。
逆に異質で斬新な角度からの描写などが、挙げられる。

 『戸外こがい制作(en plein air)』が基本ともされる。

ポスト印象派。Post-Impressionism

 1880年代くらいから、印象派の後に続いた、あるいは元は印象派に属していた画家たちの何人かは、その影響を受けながらも、一方では印象派を乗り越えようとした。
あるいは印象派を学びつつも、さらに新しい世界を模索した者たち。

 このグループのつながりは思想的なものであるから、画風は結構異なってたりする。

 ゴーギャン(Eugène Henri Paul Gauguin。1848~1903)やゴッホ(Vincent Willem van Gogh。1853~1890)が代表的
「フィンセント・ファン・ゴッホ」弟への手紙、信仰心、黄色を愛した炎の画家

外光派。Pleinairisme

 他に印象派の別称ともされるが、それに影響を与えた、特に戸外で風景を描いた画家たちがこう呼ばれる。
ブーダン(Eugène-Louis Boudin。1824~1898)などが有名。

 また、日本においては、フランス留学をして、印象派に影響を受けた黒田清輝くろだせいき(1866~1924)のような画家を指すことも多い。

ナビ派。Les Nabis

 19世紀末くらいのパリで活躍していた。
印象派に大きな影響を受けていたゴーギャンに学んだ、セリュジエ(Paul Sérusier。1864~1927)をはじめ、彼が伝えたゴーギャンの教えにより、間接的な印象派の系譜である画家たち。

 ただし、元の印象派よりも、ポスト印象派の画家たちに直接的に影響を受けていることもあって、作風はかなり前衛的。
絵画作品は本質的には秩序的な色彩の集まりとし、その秩序、画面の色彩の原理自体を追求したともされる。

 セリュジエの他、ドニ(Maurice Denis。1870~1943)、ボナール(Pierre Bonnard。1867~1947)などが代表的。

新印象派。Neo-impressionism

 線に頼らない色彩表現という斬新な試みを行いながら、かなり感覚的で適当な感があった印象派に、科学的理論を持ち込んできた派閥。

 ポスト印象派以降。
印象派が確立したスタイルのために失われてきた、フォルムなどの要素を、復活させようとした試みの1つともされる。

 点描画法をよく用いたため、「点描主義」とも。

 スーラにより確立されたとされる。

象徴主義。Symbolisme

 19世紀後半。
フランスとベルギーより始まったとされる芸術運動。
日常的な光景をよく描いた印象派に対し、幻想的、世界観を描いた。
ファンタジー(幻想的)な芸術作品は、しばしば物質的な豊かさばかり求める、科学文明への反抗とされるが、この運動もおそらく例に漏れない。

 象徴主義という名を定着させたのは、詩人のモレアス(Jean Moréas。1856~1910)とされる。

 モロー(Gustave Moreau。1826~1898)やルドン(Odilon Redon。1840~1916)が代表的。

ラファエル前派。Pre-Raphaelite Brotherhood

 フランスで印象派が登場し始めたのと同じくらいの時期に、主にイギリスで活躍していたアーティスト集団。

 イギリスの美術学校『ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(Royal Academy of Arts。RA)』は、ラファエロにやたら固執していたそうである。
そこで学びながらも、その偏見的な思想に反抗した3人、ハント(William Holman Hunt、1827年4月2日 – 1910年)、ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti。1828~1882)、ミレー(Sir John Everett Millais。1829~1896)が始めた、ちょっとした秘密結社的なアーティスト集団(というより同盟?)。

 『ラファエロ前派』とはいうものの、彼以降の芸術の影響も普通にある。
正確にはラファエロ以外(も)というか、ルネサンス後期の偉人たちの作品を至高とする世論への反抗とも言える。

 その思想や画風から、象徴主義の先駆と見る向きもある。

表現主義。Expressionism

 アカデミズム、印象主義などに対する反動のように、20世紀初頭のドイツで始まった芸術運動。
自然領域を第二義的、芸術家の精神をその上の第一義的とし、現実の再現以上に、精神的体験により得られる本質性を、直接表現しようという思想。

 遠近法などのリアルの演出にこだわらず、輪郭線の強調や、極端な色彩表現などが見られた。

レアリスム。Réalisme

 画家が描くべきは現実であるのだとする主張。
レアリスムはリアリズム(現実主義)のフランス語。
「写実主義(Realism)」とも呼ばれる。

 表現に主観を交えず、目に見えるものをあるがままに表現しようという、19世紀中頃のフランス文学の領域から始まったとされる『自然主義(Naturalism)』が、この前身ともされる。

 最初クールベ(Gustave Courbet。1819~1877)がこの言葉を使い始めたのだとされ、ミレー、コロー(Jean-Baptiste Camille Corot。1796~1875)、ドーミエ(Honoré-Victorin Daumier。1808~1879)など、多くのフランス人画家の傾向を示す用語となった。

シュルレアリスム。Surrealism

 シュルは「上」を意味している。
つまりは「超現実主義」。
ガリレオ(Galileo Galilei。1564~1642)やニュートン以降、20世紀までに、ヨーロッパにはどんどん合理主義の精神が普及していったが、 それに反発した、想像力の解放運動。
ガリレオ 「ガリレオ・ガリレイ」望遠鏡と地動説の証明。科学界に誰よりも業績を残した男
 理性を否定して、夢などの無意識領域をよくモチーフとした。
最初は、ブルトン(André Breton。1896~1966)を中心とした文学者の運動、思想として始まったが、 やがてダリ(Salvador Dalí。1904~1989)、エルンスト(Max Ernst。1891~1976)、ミロ(Joan Miró。1893~1983)などの芸術家たちにも広がっていった。

ハイパーリアリズム。Hyper realism

 あるいは「スーパーリアリズム」。
ありふれた日常などを、一切の主観を排除して、写真のようにそのまま描写するスタイル。
ありとあらゆる妄想から、本当の現実世界への完全回帰的というようにも言われる。

 1960年代頃の、ルーシャ(Edward Ruscha)の作品は、スーパーリアリズム的な最初期作品とされる。
世界をカメラが記録し、コンピューターが作り出す仮想世界に憧れる時代において、絵を描くということ、現実世界の意味などを問いかけてくる、とも言われる。

プリミティヴィスム。Primitivism

 かなり幅広い領域を指す用語。
黒人彫刻や、古代エジプトの壁画のような 民族や文化の本源的な芸術表現の総称。
本源的なものにこそ、純粋な美があるとしているが、いったいどの時代の、何を本源的とするのかはかなり意見が割れるところ。

 クールベ以降のヨーロッパでは、印象主義からシュルレアリスムに至るまで、反古典主義的な前衛運動が次々と興ったとされるが、その影響か、反動によってか、プリミティヴィスムの領域はかなり広くなってしまったともされる。

フォーヴィスム。Fauvisme

 20世紀初頭のフランスで興った芸術運動

 大胆に自由に、単純な形に、色彩を鮮やかにした画風。
最初は大雑把でやたらどぎついだけと、やはり酷評された。
この名称の由来である「野獣(フォーヴ)の檻の中のようだ」と評価したのは、批評家のヴォークセル(Louis Vauxcelles。1870~1943)とされる。

 マティス(Henri Matisse。1869~1954)、マルケ(Albert Marquet。1875~1947)、ルオー(Georges Rouault。1871~1958)などが代表的。

キュビズム。Cubism

 「立体主義」
セザンヌの絵画思想や、原始的な美術に影響を受けて、 20世紀初頭に誕生したとされる思想。
遠近法と決別して、概念的な現実の表現に努めた。
感覚主義ともいえるフォーヴィスムに対する、理性の反対運動ともされる。
また、あちらと同じく、ヴォークセルかこの名称の提案者とも。

 視覚に訴える印象主義的作風の、多角的な再構成と言われたりもする。

 作品が、立方体(キューブ)を積み重ねて作ったかのように見えることから、この名称が使われるようになった

 ピカソのキュビズム時代とは、一般的に1909~1914年くらい。
この実験的な試みは、結局は理論的に行き詰まってしまい、終局したとされるが、モダンアートの出発点の1つとして、歴史的にも非常に重要。

ダダイズム。Dadaisme

 20世紀初頭、第一次世界対戦ぐらいの頃。
それまで普通にあった概念なんてぶっ壊してやろうという気概を見せた前衛芸術家たちが使いはじめた言葉。
まさしく破壊的な芸術運動で、コラージュのような斬新な技法や、パフォーマンスのような自由な発想が次々と取り入れられていった。

 運動自体は、スイスのチューリッヒから始まり、ベルリン、パリ、ニューヨークなどに普及していったとされる。

 デュシャン(Marcel Duchamp。1887~1968)、アルプ(Hans Arp。1886~1966)、ピカビア(Francis-Marie Martinez Picabia。1879~1953)などが代表的。

構成主義。Constructivism

 ロシア革命前から、1920年代にかけて、ソ連で展開された芸術運動。
絵画や彫刻をブルジョワのものとして否定し、工業的に利用される、鉄とかガラスのような素材を使い、造形を構成していくのをよしとした。
産業と現実との一体化、あるいは産業の中の芸術運動とも言えるか。

 ロトチェンコ(Aleksandr Rodchenko。1891~1956)やマレーヴィチ(Kazimir Malevich。1879~1935)などが代表的。
また、先駆者としても知られるタトリン(Vladimir Tatlin。1885~1953)は、後に仲間たちと袂を分かち、「構成主義」の多くを批判したことが知られる。

 完成品に必要な要素を最小限にすることで、テーマをより明確にする、『ミニマリズム(Minimalism。最小限主義)』という発想は、構成主義から生じたとされる。

シュプレマティスム。Suprématisme

 「絶対主義」
文学的、記述的な要素を排除して、絶対的かつ純粋な感情のみを、絵画として表現することを目指す理念。
歴史の記録といった実用的観点や、物語の再現性の重要性を、否定した考え方とも言える。

 後の「構成主義」にも大きな影響を与えた。

 1913年の、マレーヴィッチの提唱に端を発するとされる。

ピューリスム。Purism

 「純粋主義」
造形的言語の純化を目指し、形や色が与える主情的感覚を排除し、それらの表現を組織化しようとした。

 1918年。
建築家ル・コルビジェ(Le Corbusier。1887~1965)と、画家のオザンファン(Amédée Ozenfant。1886~1966)により書かれた『キュビズム以降(Apres Cubisme)』において継承され、1930年代にはかなり広まったとされる思想。

ポップアート。Pop art

 1960年代にアメリカ、イギリスから広がっていった前衛的な美術模式
大量生産されるようなもの、例えば雑誌や広告や漫画などを素材として利用し、主に社会をテーマとする。
雑誌や広告、漫画、報道写真などを素材として扱う。

 芸術という概念にこだわらない、大衆用芸術ともされ、よくも悪くも商売芸術としての感じが強い

 ウォーホル、リキテンスタイン(Roy Lichtenstein。1923~1997)、横尾忠則よこおただのりなどが代表的。

未来派。Futurism

 20世紀初頭に展開された芸術運動。
調和とか統一感というような伝統的な美の概念を否定して、機械文明のスピード感、幾何学的造形イメージを存分に取り込んだ芸術思想。
時空間的要素を捉えようとする表現なども特徴的。
時空の歪み 「特殊相対性理論と一般相対性理論」違いあう感覚で成り立つ宇宙
 詩人のマリネッティ(Filippo Tommaso Marinetti。1876~1944)の提唱が始まりとされる。
ボッチョーニ(Umberto Boccioni。1882~1916)、バッラ(Giacomo Balla。1871~1958)などが代表的。

モダニズム、ポストモダン。Modernism, Postmodern

 モダニズムは「近代主義」。
第一世界大戦以降に広まっていった前衛的な芸術思想。
未来派、キュビズム、シュルレアリスム、ポップアートなど、多くの運動を含めた総称のようでもあるが、正確な始まりに関しては諸説ある。

 ポストモダンは「脱近代主義」。
機能性、合理性を重視したような近代主義への反発から、誕生したとされる。
古典的、歴史的な要素を多く取り入れ、組み合わせた逆に『アヴァンギャルド(Avant-garde)』な作風が特徴。

 アヴァンギャルドとは、前衛的なもののことで、モダニズムの文脈でよく使われ、一般的となっていった用語。

アール・ヌーヴォー。Art nouveau

 19世紀末から20世紀初頭にかけて世界的に広まったデザイン。
ファッション、家具、工芸品、建築、ポスターなど、かなり幅広いジャンルにおいて その思想が取り入れられていた。
この用語の意味は「新芸術」で、ビング(Samuel Bing。1838~1905)が1895年にパリで開いた画廊の名称に由来する。
彼はまた、1900年のパリ万博に、『アール・ヌーヴォー館』を出展し、それが評判となって、名称も定着した。

 とにかく、従来の装飾とは異なる全く新しいような作風が目指されていた。
有機的(いくつもの部分が絡み合って、全体を構成しているかのような雰囲気)で官能的、生物的な曲線を使い、複雑で手工芸的ともされる。

 新古典主義とモダニズムの架け橋ともされる。

アール・デコ。Art Déco

 アール・ヌーヴォーの後に続いてきたとされる、主に直線や幾何学的模様によって構成された装飾模式で、1910~1930年代にかけて流行った。
そのブームのピークが、1925年にパリで開催された、『装飾美術、工芸美術万国博覧会(Exposition Internationale des Arts Décoratifs et Industriels modernes)』とされていることから、『1925年模式』と言われることもある。

 科学文明の発展に合わせてか、生物的な曲線に代わって、機械的表現、あるいは機械そのものをテーマとしたような表現が増えた。

アブストラクトアート。Abstract art

 「抽象芸術」
具体的な対象からではなく、すでに昇華された純粋性、自然から解放されたモチーフなどから出発し、最終的な表現を目指す美術。
20世紀初頭からこの傾向は現れ始めたとされ、アカデミズムやリアリズムに対する反抗とする見方もある。

 マレウィッチ、モンドリアン(Piet Mondrian。1872~1944)、カンディンスキー(Wassily Kandinsky。1866~1944)などは、抽象的形式の傾向が強いとされる。

ネオプラスチシズム。Neo-plasticism

 「新造形主義」
アブストラクトアートの先駆的派閥とも。
極限的なまでに単純化された幾何学的形式を特徴とする。

 元は、モンドリアンが、単純な幾何学線と、原色のみを使った自らの抽象絵画を定義づけるために用意した理論とされる。

 人間の心の純粋な表現を、芸術は抽象的に表現してきた。
そういう方法を徹底すると、表現はやがて具体的な形を必要としなくなる。
複雑な形も色も、真実を隠すフィルターにすぎないので、真なる表現は、最も単純な形式からこそ生まれるはず、というような発想らしい。

コンセプチュアル・アート。Conceptual art

 「概念美術」
「アイデア・アート」とも。

 完成した作品の価値判断に関して、あるいはそれだけでなく、それが完成に至るまでの、作者の考え方、製作プロセスなども、芸術の要素として含めようという思想。

 ある意味、作者自身、あるいは作者の思想自体を要素として含めたインスタレーションアート。

エコールドパリ。École de Paris

 「パリ派」
第二次世界対戦前後 くらいの時代にパリで活躍した各国の画家たちを総称した言い方。
別に流派でもなんでもない。

 キスリング(Moïse Kisling。1891~1953)、シャガール(Marc Chagall。1887~1985)、藤田嗣治ふじたつぐはる(1886~1968)などがよく知られている。

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