「マルコ・ポーロの東方見聞録」東方のモンゴル帝国。奇妙な生物、魔術師

13世紀の世界中の旅行記録

 13世紀頃。マルコ・ポーロ(Marco Polo。1254~1324)という人が、地球上の様々な地域を巡って、各地で見たこと、聞いた話を記録したとされる書物。

前書きの最初には「諸国の皇帝陛下、国王殿下、公侯伯爵閣下、騎士および市民各位よりはじめ、およそ人類の諸種族や世界各地域の事情を知りたいと望まれる方ならどなたでも、まあこの書物を読まれるがよい。この書物には広汎な東方諸地域、大アルメニア、ペルシア、タルタリー、インド、そのほか数多い諸国の最大の脅威やとても珍しい事柄を収めてるが、それらは全て懸命にして尊敬すべきヴェニスの市民「ミリオーネ(百万の。百万長者のマルコ、または何でも百万みたいに言うホラ吹きの意とされる)」ことマルコ・ポーロ氏が親しく自ら見聞したあらゆることを、彼の語るがままに記述したものである。中には彼の目撃しなかった事柄もあるが、それらとて、信用できる人から彼が直接に見聞したものである……」などとある。

 この記録が紛れもなく真実であるということが、あまり必要もなさそうなのに書かれていたりして、当時からその内容が怪しいと考えられる類のものだったのは間違いないと思われる。
また、マルコ・ポーロは(モンゴル帝国が支配していた)中国に滞在していた期間が長かったとされるが、複数の言語をマスターしていたとされながら、中国語にはあまり馴染みがなかったともされる。このことから、当時のモンゴル世界に外国人のコミュニティが、それなりに栄えていたのかもと推測されることもある。

フビライ・カーン、プレスター・ジョン。奇妙な記述は多いか

 奇妙な生物とかの描写ばかりがピックアップされがちだが、結構、普通の動物とかの話もある。しかしだからこそ、非現実的と考えられるような部分がより際立っているとも言えるか。
アジアかアフリカに存在するとされた伝説的なキリスト教国家、あるいはその指導者たるプレスター・ジョン(Prester John)について、フビライ・カーン(Qubilai qaghan。1215~1294)と敵対したウンク・カンという遊牧民の王だとしたり、噂の真相暴露みたいな話も多い。
プレスター・ジョンに関しては、その末裔らしい人の話とかも少しあるが、カーンに許されて故国の一部を支配し、やはりそこにはキリスト教徒が多いとか、そのような感じ。

 インドが世界で最も不思議なことが多い国とされていて、そこでの記述が始まる前には、特に「知らない人が聞いたら仰天するようなことが多いだろう」という注意書きが挟まれている。

偉大なる君主フビライ・カーン

 始祖たるアダムの時代以来、フビライ・カーンは最も広大な領土を得た王として、わりとページを使って、その人柄や政治などについて説明されているが、特に驚くべきは彼の前にライオンが連れてこられた場合の話。ライオンすらも彼を君主と認めているのか、恭順の意を表明するかのごとくその場にうずくまるのだという。

 狩猟を楽しむ際に多くのペットを使ったが、特に大型のワシを使って、オオカミを追い詰めるというのが、豪快である。

 カーンは、支配領土の美しい娘という娘を自らの宮廷に招き、妻としていたが、それは彼に娘を差し出す親としては名誉なこととされていたとも。
また、それなりに各地の宗教に寛容であったが、やはり最もキリスト教徒に近かったであろうというように、どちらかと言うと、大国を支配する王として、その人物像をどうにか好意的に解釈しようという意図が見て取れるかもしれない。

 カーンの少し迷信深いところも。
例えば当時のモンゴル帝国では雷が恐れられていたようだが、カーンは雷が原因で不幸になった者は(神の怒りに触れたとか)不吉とし、税とかを免除したとか。
多くの人が従来する公道の両側に並木を植え、遠くからでも人々(商人や旅人など)がそこに道があるとわかりやすいようにした。その土質が適う限りは樹が植えられたものの、不毛な土地の道においては、代わりに石柱などを立てて道標としている。カーンは数名の官吏にそれらの公道が常に良好な状態であることを監視させている。実は占星術師たちが、「木を植える者は長寿を保つ」と進言したためとも。

天上の大都市の大魚

 キンサイというのは、「天上の都市」という意味で、まさしくこの都市はその名にふさわしい、壮麗無比な大都会である。とか語られる、世界第一だろうという豪華で裕福な都市の話。
その説明は、マンジ王国の王妃から、征服者たるバヤン将軍にかつて提出した記録文書の内容に即しているという。バヤンからその文書を受け取ったカーンも、その町のあまりの壮麗ぶりに感銘を受け、ついに破壊と荒廃を免れたというほどらしい。

 清澄せいちょうな淡水湖と、大きな河に挟まれてるようにあるというこのキンサイは周回160キロメートルぐらいの広さ。幅の広い街路や運河が数多くて、よく市場が開かれる広場が至る所にあるからこその大きさでもあるようだ。張り巡らされた大小無数の運河は、城内の汚物をことごとく運びさるから、市中の空気はいつも清潔。運河と共に街路も張り巡らされ、荷車や荷船が自由に行き来し、市民の必需品を運搬する。巨大な橋がかかっているところもあるが、巧妙な設計で高いアーチとなっているので、大型の船でもその下を通ることができる。そして橋の高さにもかかわらず、街路はかなり平坦にされていて馬車も動きやすい。
町の一端にはかなり幅の広いほりがあるが、これは歴代の君主が、増水時の備えとして用意したものらしい。結果的には防壁のような役割も果たしている。

 他、インドやその他の地方からやってきた商人たちの商品を保管するための、石造りの巨大倉庫。健康のためのしきたりとして水浴びの習慣があるのだが、そのための冷水浴場も結構あったりする。
市民の家は木造が多いが、火災が発生した時のための石造りの避難所もある。

 ここで書いたもの以外にも、この都市の説明は長く、かなり詳しい感じがある。
そして最後には、この都市で起きたとんでもない奇跡の話がある。それはバヤン将軍が都市を包囲した時に起こったこと。ファクフール王が逃げ出した時、多数の市民も船に乗り込んで河から脱出を試みたが、その最中に川の水が干上がってしまう。バヤン将軍がそこに来て、市民たちを都市に帰還させた時、見るも奇怪な1匹の魚が川床の彼方から、乾いた山のような巨体を横たえているのが見いだされた。その怪魚は30メートルほどの長さで、しかし幅はかなりふつりあい。全身を毛に覆われていて、何人かの男たちがこの肉を食ったが、ほとんど死んでしまった。
マルコ・ポーロは、偶像教の寺院で、その魚の首を目撃したという。

異国の地でのキリスト教の奇跡

靴屋の祈り。ひそかに改宗していたカリフ

 1225年に、バウダックとモスールの間でキリストの奇跡が起きたとされる。バウダックの当時のカリフはキリスト教を忌み嫌い、改宗できないならば皆殺しにしたいと考えていて、そこで領土内のキリスト教徒たちを(大した数ではなかったが)すべて集めた。
カリフはキリスト教徒たちに福音書を朗読させてから、そこに書かれていることは紛れもなく真理であるとも語らせた。
さらにカリフは、「ならその厚い信仰心を持って神に祈り、2つの山を動かしてみろ」とも。もしできないなら不信心者として死を免れるわけにはいかない、キリスト教徒らに与えられた猶予は10日間。
彼らは文字通り神にすがり、ひたすらに祈ったが山が動く気配はない。しかし8日目の日に、最も聖者に近かった司教の前に天使が現れて、「隻眼の靴屋のもとに行き、彼に祈らせろ。そうすれば、山などたちどころに動くであろう」と託宣した。
その靴屋は、とても無垢な正直者で、断食やミサの参加など必ず欠かさず、自分の可能な限り貧しき人たちに物を分け与えたりという生活をしていた。 彼の目が隻眼だったのも、福音書の一節に「もし汝の目が汝をよろめかせ罪に陥れるようなら、その目などくり抜けばよい」とあるからで、というのも、ある日彼の店に美しい婦人が来たが、邪な思いを抱いてしまったことを恥じた彼は、自らその目をえぐったらしい。
十字架「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束「新約聖書」神の子イエス・キリストの生涯。最後の審判の日の警告  そしてその靴屋に祈ってもらうと、指定された山は、崩れながら前方に1.5キロメートルほど移動したのだった。
それでイスラム教徒たちの中には、キリスト教に改宗する者もいて、カリフ自身も、表向きは秘密にしていたが、死後に首に十字架をかけているのが発見されたのだという。
イスラム「イスラム教」アッラーの最後の教え、最後の約束

宙に浮いた石材

 サマルカンという都市も、例によってキリスト教徒と、イスラム教徒がいて、 フビライ・カーンとは仲が悪い甥(実際には従兄弟とも)が統治していた。
そしてここでもキリスト教の奇跡があった。

 カーンの兄弟であるチャガタイ王は、キリスト教に改宗、サマルカンのキリスト教徒たちは喜び、洗礼者聖ジョージを記念する大教会を設立したが、その素材にはイスラム教徒が所有していた特別な石材が使われていた。
チャガタイの死後、イスラム教徒たちは石材を返すように要求し、王位を継いだカーンの甥はそれを認めた。キリスト教徒の者たちは悲観に暮れて、どうしようもなかったが、しかし奇跡が起こった。
石材が使われていた円柱が宙に浮かび、しかもそのままの状態が維持されたわけである。

 しかしその驚愕的な奇跡によって、石材を渡すことが免除されたかは書かれていない。

異教徒の描写に関して

 イスラム教に関していろいろ説明されているが、わりと悪意を感じる所も結構あるかもしれない。
例えばトーリスという町では、イスラム教徒はとても信用できない。 イスラム教においては、教徒が死んだ場合、単にイスラム僧侶がやってきて、「なんじはマホメットが真に神の預言者であると信じるか」と問い、それに対して「信じます」と答えさえすれば十分だと見なされているから。だからイスラム教では手軽に罪を犯せる。改宗している人も、そんな理由が多いとか。
またペルシアのイスラム教徒たちは、教律で禁止されてるはずの酒を飲むが、酒を少し火にかけて甘みを少し蒸発させて、(味が変わったから)もはや酒ではなくなるというような理屈なのだとされている。

インドへ向かう商船

 インドに行く時に商人たちが使うという船に関する説明。
素材にはモミ(樅。Abies firma)とマツ(松。Pinus)を使用している。甲板は一層、甲板の上に普通なら60の船室があって、船室ごとに商人1人ずつが楽に過ごせるようになっている。舵は1つ、マスト4本が基本、さらに必要に応じて自由に立てたり倒しせる補助マストが2本用意されている。
大型船になると頑丈な板をしっかり繋ぎ合わせた13の水槽のような船房が内部にある。船が岩礁に衝突してしまったり、あるいは船が泡立てる海水を獲物と思って襲いかかってくる飢えたイルカ(海豚)の一撃を食らって、船体の一部が破損した場合に、それらの部屋のいくらかに海水が流れてくるが、部屋同士はきっかり分けられているために、全てがあっという間に浸水してしまうということはあまりない。各部屋には水父たちが物品を置いていることもあるが、もしも海水が流れ込んでくるのが確かめられた場合、すぐさままだ無事な部屋にそれらは移される。もちろん、そうして複数部屋の仕組み(応急措置)で時間を稼いでいるうちに、彼らは急いで穴を塞ぎにかかる。
船の耐久力を高めるために、船体周囲には二重の厚板がめぐらされてる。そうした二重の外廊の間隙には、内側、外側にきっちりものが充塡じゅうてんされ、鉄釘を打ち込んで強度を高められている。
インドの方には瀝青れきせい(アスファルト)がなく、それで加工できないが、代わりにそれ以上の効果がある別の塗料があるとも。つまり細く切った麻と石炭とある種の樹脂を混ぜることで鳥黐とりもちのような粘着力がつく。それを塗料として使うと、瀝青と同じ効力を発揮する。
南海の島々はよく激浪にさらされていて、大型船を停泊できる規模の波止場はとば(港にあって、波を防ぎ船を停泊させ、荷物移動の通路にもなる、海中から突き出した構築物)がないから、(昔はもっと大型の船を使っていたのに)小型の船が主流になっていった。
海船に使われるかい(パドル)は、1本ごとに4名漕ぎ手がつく。
大型船舶は、2、3艘の小型船を同伴するが、そうした小型船でも1000籠分の胡椒を積載できるし、水夫も60~100名くらいいるし、その上で多数の商人を乗せている。
小型船が縄で繋いだ大型船を曳航えいこうすることもある。ただし風向きが後ろからの順風の場合は、大型船の帆の方が先行する小型船の受けるはずの風を遮るので、意味がなくなる。
普通、大型船は10隻ほど、小型船もいくらかはしけ(本船と波止場の間を行き来し乗客や貨物を運ぶ小舟)を備え、それらは錨の上げ下げや、魚の漁獲などの役割を与えられもする。
大型船は、1年の航海の度に補修されるが、その度に外廊が追加され、6層になった船は、廃棄処分となる。

 船の出航に際して(毎年ごとに?)行われる占いが奇妙。
ヤナギ(柳。Salicaceae)で編まれた簀子すのこを、8方向からのヒモで結び、それらのヒモをさらに長い綱にも結ぶ。そして簀子には適当に探してきた狂人を縛り付け、強風にさらしてそれを空中に上げる。綱を上手く引っ張れば、簀子は順調に真っ直ぐ上がり、それならばよし。しかしまっすぐ上昇しそこねた場合は、不吉とされる。

魔術師たちが重要な立場である文化

特別扱いされていた占星術師たち

 モンゴル帝国(元朝)の国都カンバルックには、占卜者、占星術師の数がキリスト教徒、イスラム教徒、カタイ人を合わせて5000人ほど。カーンは貧者に対してはよく物資援助をしたが、同じように占星術師にも毎年衣食を支給し、そして彼らはその市内においてそれぞれ術を行う。
彼らはそれぞれに独自の天体観象儀を持ち、1年における惑星の記号、時刻、位置が記載されているというそれから、ある期間における運勢など読み取る。
ちょっと興味深いことに、星の配置と関連するあらゆる現象に関する予測性について、神の力を借りることで増減が可能だとされている。
占星術「占星術」ホロスコープは何を映しているか?

山賊の暗闇の魔術

 レオバールという平原には、多くの都市や集落があるが、そのいずれも城壁に囲まれている。その地方を荒らしまわる『カラウナス』という山賊に備えてのこと。彼らは黒人種とされているインド人を母として、白人種とされるタルタール人(モンゴル人)を父として生まれたハーフで、真昼間でも暗闇へと変えてしまう魔法の呪文を体得しているという。その暗闇の範囲は結構広く、彼らは略奪する土地を決めると、その範囲を暗闇で覆い、大群で一気に襲うそうである。

 彼らの暗黒、および太陽の光をくらます魔術はマーバール人から伝授されたとされている。

簡単に嵐を起こす

 テベット地方の人は、カーンの発行する紙幣や硬貨を使用しないで、塩を通貨としている。彼らの身なりは貧相で、言語も固有のもの。また偶像教であり、広大な地方にはいくつも国、都市、集落がある。国同士の境界には山賊がかなり多い。砂金を大量に出す川や山岳があって、女性は偶像へ贈る飾り物として人気な琥珀やサンゴも市場でよく見かける。

 この地方の国の魔術師や占星術師は、独自の巧妙な技術を持つ。彼らはその魔力を使って意のままに嵐を起こしたかと思えば、あっさりそれを止めたりもする。彼らの行う奇跡は実に多彩で、驚くべきものだ(しかし読者が驚きすぎるといけないという理由で、具体的な説明はなし)
音楽魔術「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎  住民は野蛮らしい。ロバくらいの大きさの猛犬を飼っていて、それらはこの地の野獣を仕留めるのによく使われているという。

山の老人とアサシン教団の噂

 ムレヘットという国の話では、イスラム世界のアサシン教団に関わる伝説として有名な「山の老人」が紹介される。
マルコ・ポーロは多くの人々からその話を語り伝えられた。

 その老人の名前はアラオディンと言った。彼は山に、実に美しい庭園を作り、黄金や絵画で着飾られたような宮殿を用意した。さらには美しい女使用人を用意して、彼女たちに様々な楽器を演奏させた。まさにそこには、この世とは思われない光景があった。
老人はこの世に天国を作った訳である。
そして彼は、適当に有用そうな若者を選ぶと、薬をもって、宮殿へと連れ去った。 目覚めた若者たちは そこに用意された天国を存分に楽しむが、それは全ては罠なのである。
老人はその驚くべきほどの快楽を報酬とし、彼らを自分の手足となる、暗殺者に仕立てあげるのである。老人はさらに、その暗殺者たちに互いを見張らせることで、コントロールを完全なものにするとも。 たとえ一国の王であっても、老人に標的にされてしまった場合、死から逃れることはできない。

 山の老人のような存在が幅を利かせれたのは、当時の人々があちこちで政治的に統一されていなかったからでないか、と推測されてもいる。

神々の啓示

 ダクロイアンという独立王国には、(悪習とされている) 病人の病気が治るかどうか、魔術師を召喚し、魔法と呪文と偶像の力によりそれを判断してもらう。彼ら自身は魔法に関わってはいないという。ただ神々の啓示を受けているだけだと。
そして病人が助からない運命だと判断された場合は、次に病人の始末を職業とする男たちを呼ばれ、彼らは病人を押さえつけ、その口に物をあてがい窒息死させる。
そうして死んだ病人を、家族の者たちは調理して、親戚一同集めて何もかも食べる。死者の肉体を少しでも残してはならないと考えてるから。肉体から生じる蛆は、しかし普通はほどなくして死ぬ。だがさらなる死を招くのは深い罪であり、死者の魂に祟りが生ずるかもしれない。そこで、全部食べてしまうわけらしい。

精霊たちに惑わされないように

 ロプ市の周辺に広がる大砂漠(ロプ砂漠)は、一方の端から端まで至るためには1年ほどもかかると言われるほど広大な砂漠。最も幅の狭い道で会っても、横断に1ヶ月ほどはかかる。
この砂漠には山、砂、谷があるばかりで、食物は1つとして見当たらない。一応、冬なら飲料水のある中間地点の泉地(オアシス)がいくつかあるが、水量には限度があって、あまり大人数だととても足りない(ただし家畜を連れて100人くらいの集団なら大丈夫な程度の水はあるらしい)。
オアシスの中には苦味を帯びた黒ずんだ水の場所もあるが、ほとんどは水質がよい。動物もその砂漠では見られないが、1つ不思議なことがある。
途中で眠ってしまったり仲間からはぐれたりした者はよく、語りかけてくる多数の精霊の声を聞くことがある。そして旅人はしばしばそのような声に惑わされ、どこか見当はずれの方向に導かれ、行方知れずとなってしまう。
精霊たちの声は昼間でも聞こえてくる。場合によっては様々な楽器の音が聞こえる。精霊に惑わされないようにするには、ウマの首に鈴を吊り下げるのがいいらしい。

巨大生物はどのくらいに巨大だったか

 その種として、通常知られているよりも大きい動物がよく紹介されているが、別の似たような大きな動物の勘違いでは片付けにくそうな記述も結構ある。

飼い慣らされることもあるゾウサイズのウシ

 カンプチュー市から5日ほどの行程で、エルギヌールという国だが、その途上では精霊のささやく声が特に夜にはよく聞こえる。
エルギヌールから東南方向にはカタイ国の領域、それにシリンジューという都市、シリンジューと呼ばれる地域がある。
この地にはゾウくらいの大きさのウシが多数生息していて、このウシは背中以外の全身が(20センチメートルくらいの)長い毛で覆われている。白色と黒色の2種類が存在しているようだ。絹糸のような感じで、マルコ・ポーロが少しヴェニスに持ち帰ったたそれは、見せられた人々を驚かせたという。
このウシは地元民に飼い慣らされることもあるが、普通のウシの2頭分の仕事をするとも。

 東方見聞録における多くの描写において、奇妙な生物は野生生物に多い。文明人に飼いならされていたりする生物としては、普通によく知られる動物の名前がよく出てくるわけである。しかしこのゾウくらいの大きさのウシというのは、十分に奇妙な生物にも思えるが……

巨大ヘビと書かれるワニ

 カラジャン地方には、話を聞いただけで唖然とするような巨大なヘビがいる。それは長さ3メートル、太さ75センチメートルくらい。 頭部近くに2本の短い足があって、3枚の爪がある。頭が非常に巨大で目も大きい。人間を丸呑みできるようなその口から見える歯も大きい。
このヘビは巨大で、しかも獰猛で、人間を恐れることもない。
このワニは昼間は暑さを凌ぐために地中に潜み、しかし夜になると餌を求めて出歩く。そして手当たり次第にどのような動物でも襲う。川や湖で水を飲むこともあり、その体の巨大さのあまり水辺を求めて歩いた砂地には 大きな溝ができている それは鮭の詰まった樽が引きずられたかのようである。
地元の人たちは、このヘビが水辺へ向かうルートがわりと固定であることを知っていて、歩いた跡を見つけると、罠を仕掛けて捕獲、あるいは殺すこともある。
このヘビの肝は薬の材料になるようだが、「狂犬に噛まれた時や、難産の婦人などに効く」とある。

 説明からして、この巨大なヘビとはつまりワニのことだろうとされている。だが昼間は地中生活というのは、巨大ワニとしたら奇妙か。

麦粉がとれる大木

 ファンスール王国の樟脳は世界でも最良質である。
また、奇妙なことは、この国には麦粉がとれる樹がある。この地方にはとても丈の高いある種の喬木きょうぼく(高木)があって、その幹の中には麦粉がぎっしり詰まっている。この樹の木質部は指三本幅の厚さをした樹皮からなり、それ以外は全て木髄もくずいと言えるようなもので、この木髄がすなわち麦粉。取られた粉は水を張った桶に入れて、棒でかき回される。そうすると屑や芥は水面に浮かぶが、粉は底に沈む。そして水も放出して粉だけをとると、調味料を加えて、我々が麦粉から作る、例えばパンのような各種の食品も作成する。その味はとても美味である。

 その樹は鉄のように固く、水に浮かばない。竹のように梢から根元まで一直線に裂くこともできる。粉以外の木質部も、投げ槍の素材にされることがある。その投げ槍の先を尖らせ、少しばかり火で焦がすと、鉄製のものよりも鋭利になるという。

幻獣の真相

サラマンダーという鉱物

 ギンギンタラスという地方の人たちは、偶像教徒、イスラム教徒、ネストール派のキリスト教徒に分かれる。
北の方のある山は、鋼鉄、オンダニック、そしてサラマンダーの鉱脈を持っているという。
というわけで(当たり前とも書かれている)物質の源となる四大元素の火の中から生まれる、あるいはその中で生きているとされるサラマンダーの正体は、そもそも動物ではなく、ある種の鉱物とされている。そしてここで紹介されてる話以外は全て虚偽だとはっきり書かれる。

 その鉱物サラマンダーは、打ち砕くことで羊毛状の糸となるのだが、普通にはなかなか上手くいかない。そこでまず採取したそれを乾燥させ、綺麗に砕いた後で水洗いにかける。すると無用な砂が除かれ、綺麗な糸となる。さらにその糸で布を作ると、まだ綺麗な色ではないが、少しだけ火にかけると雪のように見事な白となる。
サラマンダーの布は、それが汚れたりした場合でも、火に投じさえすれば、再び綺麗な雪の色に戻るのだという。

 このサラマンダーは、(柔軟で強靭な繊維質であるため)中国でも古くからよく重宝されてきたという、繊維状ケイ酸塩鉱物、いわゆる石綿(asbestos)のこととされている。

伝説と正反対の一角獣と、実は存在しない小人

 (小ジャヴァ島の)バスマン王国には独自の言語を有する住民たちがいて、彼らは野獣とまではいかなくても、とにかく掟を知らない。一応自分たちはカーンの臣下と称しているという。
この地方においては野生のゾウや、ゾウよりやや小型の一角獣が多数生息しているとされ、「この一角獣は、スイギュウのような毛をしていて、足は象に似ている。額の中央に大きな黒い角を持っているが、この角はあまり攻撃には使われない。怒ると攻撃的になるが、その場合、膝で相手を押さえつけて、その長い舌で傷つけようとしてくる。頭はイノシシのように常に伏し目がち。泥沼を好む。見るからに恐ろしげな動物で、ヨーロッパにおいて空想されたりする、乙女の膝で眠るような一角獣とは似ても似つかぬ。 それはヨーロッパ人が伝えているものとは正反対の動物である」などと描写される。
「ユニコーン」伝説の生物である一角獣。実在するイッカク  この地には多くの種類のサルもいる。 ある旅行者たちが侏儒(小人)を連れ帰ってきて、インドから直接連れてきたものだと主張することがあるが、それはでたらめである。彼らが小さな人間とするそれらは、実はこの地に生息する人間によく似た顔の小型サルを使って作ったものなのである。
小型サルを捕獲したら、ある種の膏薬こうやくを用いて、生殖器の部分以外の体毛を全て落とす。そしてサルの顎に長い髭を植え付けて乾かす。皮膚が乾くと毛を植えた穴が収縮するから、まるで自然に生えた髪髭そっくりになる。さらに手足などをより人間らしくするために引き延ばしたり、型にはめたりする。それからそのサルを日にさらすと、樟脳(カンフル)などを塗布して、人間に見間違うまでに工作する。

グリフォンか、ロック鳥か

 マーバールからモグダシオ島までは、20日くらいの距離だが、南からの海流のせいで、帰りは3ヶ月ほどかかる。その帰りは常に同じ方向に動いていて変化しない。それよりも南に位置する他の多数の島々には、海流の関係から船が自由に行けないが、そこには怪鳥グリフォンが毎年決まった時期に飛来するという。しかし例によって、ヨーロッパで一般に信じられているような鳥ではないとされる。
「我々はこの怪鳥を、半分が鳥、半分がライオンというふうに描いているが、実際には、ただの巨大なワシ(かそれに似てる鳥)である」
翼開張9メートルくらいらしいこの鳥は、その爪でゾウを掴んで飛び、地上に叩き落として殺し、食べるとされているが、完全にアラビアンナイトのロック鳥である。当然であろうが、地元住民はその鳥をルクと言うらしい。
サンダーバードロック鳥。ビッグバード。鳳凰。コンガマト「未確認動物としての巨鳥、怪鳥」

他、いくつかの気になる記述

 物資が豊かで、特に木綿の産出に富むヤルカンという国の住民の大部分はイスラム教徒。特に住民の大部分が足の片方が大きく、片方が小さい。しかしそれでもうまく歩行できる。また喉にコブがある。それらの特徴の原因は飲料水のせいらしい。

 カタイの地では、ある種の黒色の石がよく取れるのだが、その石は不思議なことに薪のようによく燃える。この地方の人たちは風呂が好きで火をよく使うのだが、そのために木材だけでは足りない場合などに、この石が重宝される(石炭の話とされる)

 主に香料や薬の原料として用いられる麝香じゃこうは、ジャコウジカの腹部からの分泌物を乾燥させた(そうすることで、最初についている不快な臭いが取れるとされる)ものだが、この麝香が得られる動物として、地方ごとにいくつかの名前でジャコウジカ(だろう動物)が紹介されている。
麝香は、香水の素材として甘い香りを持続させたり、興奮作用や強心作用、男性ホルモン作用などの効果を発揮する薬に原料として、日本、中国などでもよく使われてきた。
ジャコウジカ自体は、麝香のために殺されすぎて、現在は絶滅の危機である。

 ジパングは日本のことだとされているが、これは大きな島で、住民たちの皮膚は白く、性格は礼儀正しく、偶像教徒で、独立国をなしている。至る所で黄金が見つかるものだから、国民は誰でも莫大な黄金を所有しているとされる。そうした黄金の話を聞いたカーンが侵略しようとしたが、暴風のせいで失敗したとも。ただ、一時期首都を征服したかのような記述があり、勘違いとされる。
また、ジパングの人は、捕虜が身代金を払えない場合、家に招待して殺し、それを調理して食べるらしい。

 ランブリ王国の、多くの男には、なんと8センチメートルくらいの尻尾が生えている。尻尾には毛がないという。また、この地には一角獣が多く生息している。

 アンガマン島の住民には王がなく、偶像を信仰しながら、野生動物のような生活をしている。驚くべきは住民たちは(嘘偽りなくとされている) その頭がイヌである。その性質はかなり残忍で、人を生け捕りにした場合は、同種族でない限り、食べてしまう。

 マーバール地方の家屋かおくには、タラントゥラと呼ばれる、トカゲに似て壁をはいのぼる小動物が知られる。これは毒を持っていて、噛まれまれた場合は大変である。この小動物はまた、「シス」という人声のような声を発する。その声が聞こえた場合、その聞こえてきた方向によって、吉か凶かの前兆と考えることができるらしい。
住民は軽い寝台を、縄で吊り上げてるが、 これはタラントゥラその他の毒虫予防のため。

 セイラン島には、キリスト教徒やイスラム教徒らの伝えるアダムのとされる墓があるが、キリスト教徒ではなかったらしいその聖人の物語は釈迦の伝説そのままである。
釈迦の宮殿「釈迦の生涯」実在したブッダ、仏教の教えの歴史の始まり  コマリ島には、変わった獣が多いが、中でもサルは特に変わっている。人間と見間違えるようなサルもいる。

 エシエルという都市では非常に魚が豊富だが、この地のヒツジ、ウシ、ラクダ、ウマといった家畜は、基本的にどれも魚肉らしい。そしてヒツジには耳がなく、そこに当たる部分に角が生えている。

 カイドゥ王には、アイジャルックという娘(王女)がいたが、背が高く筋肉ががっしりしたこの王女は、自分より強い者でないと夫には取らないとして、何人もの貴族の若者を力比べで打ち負かしていた。あまりに強くて誰も勝てず、そして彼女が戦場に出た場合もその活躍ぶりは凄まじかったという。