有袋類の生物学的特徴
お母さんの子育てポケット
カンガルー(Macropodidae)やコアラ(Phascolarctos cinereus)が有名な『有袋類(marsupial)』は、哺乳類の1グループである。
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たいていの種において、雌の腹部に備わった「ポケットのような袋」が特徴的で、有袋類という名前の由来でもある。
この袋は「皮膚が弛く変形したもの」とされている。
袋は『育児嚢(marsupium)』と呼ばれていて、子育てのためのもの。
有袋類の子は、基本的に「未熟児(Premature baby)」の状態で産まれ、ある程度成長するまでの間は、母親の育児嚢の中で過ごすのである。
四足歩行の有袋類の場合、袋の出入口の方向は、前の場合も後ろの場合もある。
単にこれは効率重視で、栄養として母親の糞を食べたりする種の場合、出入口が後ろなようである。
つまり要約すると、有袋類とは、袋を持った哺乳類である。
あるいは有袋類とは、哺乳類の進化の段階、あるいは終着点のひとつである。
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未熟な子
産まれたばかりの子は、母親の身体を自力で這って、育児嚢に到達する。
その為か、新生児は、明らかに前肢部分が発達している。
這うという行為を行う為に、前肢を強く、また、あえて後肢を未熟なままにして軽くしてるのだと考えられる。
また、いくらかの、育児嚢を形成しない有袋類も、子は未熟児の状態で産まれてくるという。
生物の繁殖戦術の大まかな分類方法として、「r-K戦略(R/K selection theory)」というのがある。
1度の出産でたくさんの子を産む事で、自然界における種としての生き残りを目指す「r戦略」。
それに1度の出産で産まれる子の数は少なくとも、安定した環境による次世代育成を目指す「K戦略」。
以上2つの育児戦略分類である。
子が小さな未熟児である為か、有袋類は、はっきりとしたr戦略が目立つ種が多いように思われる。
袋は子宮か?
有袋類の新生児は、基本的に基礎代謝も満足も行えないレベルである。
例えば体温調節が出来ないので、育児嚢は、外部の気温から、子を保護する役目も担う。
育児嚢から、誤って出てしまった新生児はもちろん死ぬ。
その役割などから、育児嚢は、母体の外部に存在する子宮のような、「保護システム(Protection system)」だと考える事が出来る。
しかしだとすると、完全に成熟した母に依存する他の哺乳類のシステムに比べ、育児嚢は危険度が高い。
そういうわけで、かつて育児嚢は、未完成の幼児保護システムだと考えられていた事もあった。
しかし実はそうともいえない。
倫理観というものを一旦脇に置き、単純に生物としての次世代育成を考える場合、育児嚢のメリットも見えてくる。
例えば、母体が危機に瀕した場合に、子を捨てて、その場は生き延び、次の子に賭ける。
という戦法が有効な場合、有袋類は早くから外部に子を出している為に、その選択が選びやすいはずである。
生まれつき永久歯
歯というのは形状的な分類がある。
切歯(通常、英語の「incisors」から「I」と書く)。
犬歯(英語の「canines」から「C」と書く)。
小臼歯(英語の「premolars」から「P」と書く)。
臼歯(英語の「molars」から「M」と書く)。
哺乳類は基本的に、生涯の初期段階で一度、これらの歯を新しい物に変更する(その数は種によって異なる)。
産まれた時の抜ける前提の歯を「乳歯(Milk teeth)」
生え変わった後、ずっと使われ続ける歯を「永久歯(Permanent teeth)」と言う。
他の哺乳類と異なる、有袋類の際立った固有性質のひとつが、生まれつきの永久歯が比較的多い事であろう。
基本的に有袋類は、数本のPしか交換されない。
この事を、「乳歯の永久歯化(Change from milk teeth to permanent teeth)」として、進化の結果だと見る向きもある。
系統分類
最も大規模な分け方として、アメリカの有袋類『アメリデルフィア(Ameridelphia)』とオーストラリアの有袋類『オーストラリデルフィア(Australidelphia)』という分類がある。
アメリカの有袋類
化石記録によると、アメリデルフィア(というより有袋類)は、北アメリカやアジアで誕生した系統らしい。
しかし現在では、アジアには存在せず、アメリカでも、主に南の方にしかいない。
アメリデルフィアは、たいてい、『ディデルフィス目(Didelphis)』と『ケノレステス目(Caenolestidae)』に分けられる。
ディデルフィスは古くからの種のようで、1億年くらい前の地層から、近縁らしき生物の化石が見つかっている。
ディデルフィスといえば、「オポッサム(Didelphidae)」が有名である。
オポッサムはネズミに似てるので「フクロネズミ」とも呼ばれたりする。
ケノレステスもネズミに似た連中である。
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しかもディデルフィスよりも小型で、どちらかというとこちらの方がネズミに(生態学的な意味で)近いとされる。
また、アメリデルフィアでありながら、妙なのがチロエオポッサムである。
オポッサムと名前にあるように、形態的にはディデルフィスであるが、ケノレステスに近い性質も持っている。
また、ミクロビオテリウムという科の、現存している唯一の種でもある。
で、何が妙なのかというと、分子系統学的に、オーストラリアの有袋類に近しい事である。
その為、このチロエオポッサムを、南米に生息する種にも関わらず「オーストラリデルフィア」と呼ぶ向きすらある。
オーストラリアの有袋類
オーストラリデルフィア、最大の謎は、「地上棲生物しかいないようである、有袋類がどのようにオーストラリアに渡ったか?」というものである。
有袋類がアメリカに誕生したとされるのは1億年くらい前。
大陸移動により、その頃オーストラリアは、すでに島として、他の大陸と切り離されてたと考えられているのだ。
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とりあえず、南極にも有袋類らしき化石が見つかっているので、「アメリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸が陸続きになっていた時期があるという説」が有力である。
ただライバルが少なかったのは間違いなかったろう。
有袋類が、現在において、オーストラリアで大きく繁栄出来た理由も、そういう事だと解釈される事が多い。
オーストラリデルフィアの中で、特に有名なのは『双前歯目(Diprotodontia)』であろう。
おそらく最も「有袋類というイメージの有袋類」である、ウォンバット(Vombatidae)やコアラ、カンガルーが属するグループである。
また、まとめて「フクロネコ」と呼ばれるが、全体的には別に猫に似てもいない『ダシウルス形目(Dasyuroides)』。
でかいネズミみたいだから、まとめて「バンディクート(鬼ネズミ)」とも呼ばれる『ぺラメレス形目(Perameles)』。
謎の存在ともされる、モグラに似た「フクロモグラ(Notoryctes typhlops)」を指す『ノトリクテス形目(Notoryctes)』。
など、その生態学的多様性は、アメリデルフィアに比べて、かなり広い。
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ダシウルスは、アメリカのディデルフィスとの類似性。
ノトリクテスは、モグラとの収斂進化の例でありながら、肩の骨の形状的差異から、掘削の動作が異なる可能性が示唆されている事。
などは注目に値する事柄であろう。
Type 1
ケノレステスは、基本的に育児嚢を形成しない。
幾種かのオポッサムと、チロエオポッサム(Dromiciops gliroides)は、育児嚢が時期によって発達する。
子育ての時、一時的に育児嚢が形成される。
そしてダシウルスの多くの種が、完全に袋になっていなかったり、育児嚢自体が未熟。
これらは『タイプ1』の系統とよばれ、出産する子の数が多かったり、育児嚢に頼らず子を育てる為に、巣作りを行ったりする。
Type 2と、Type3
タスマニアデビル(Sarcophilus harrisii)などの、タイプ1でないダシウルス。
ぺラメレス。
フクロモグラ。
双前歯類の幾種か。
などの、発達した育児嚢が乳腺付近を完全に覆っているグループが『タイプ2』である。
発達した育児嚢は、コアラやカンガルーなどの『タイプ3』も同じなのだが、2系統の大きな違いは育児期間の長さである。
タイプ3は育児嚢を利用した育児期間が際立って長い。
この育児嚢の利用法の期間の違いによる分類は、スタンダードかは微妙だが、有袋類の進化を考える上では有効ともされる。
ちなみに比率的には、有袋類の大半がタイプ2である。
進化史
真獣類と後獣類
哺乳類のほとんどは「真獣類(Eutheria)」というグループに属していて、有袋類は少数派である。
有袋類の起源を調べる困難さは、化石記録からは、真獣類と有袋類の違いを判断するのが難しい事にある。
こと初期の有袋類に関してはそう。
一般に有袋類の登場は白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)頃だとされている。
ただ白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)の、原始的有袋類とされている(北米、アジアの)グループと、新生代(6600万年前~現在まで)に現れた現在の(南米、オーストラリアの)有袋類に繋がるグループとの繋がりがいまいち明瞭でないようである。
白亜紀から新生代前半にかけては、後獣類(メタテリア)というグループもそこそこいた。
この「後獣類(Metatheria)」というのは、現在の生物群でいうなら、ほぼ有袋類のグループである。
しかし化石記録も含めた場合、このグループは、「真獣類以外の大半の哺乳類」という、かなり広い意味となる。
後獣類は、有袋類を含む大きなグループであるので、その登場が有袋類以前であるのは間違いない。
しかし初期の後獣類のどれが有袋類に繋がるのかが謎なのである。
白亜紀のデルタテリディウム
後獣類の中でも、アジアでよく発見される「デルタテリディウム目(Deltatheroida )」については化石記録が豊富な為に、よく知られている。
その特徴は真獣類にも、有袋類にも似ているが、その歯に関する特徴(歯並びはもちろん、特異的な、歯の交換パターンの痕跡)が、この種が有袋類(かあるいはその先祖)である事の強い根拠となっている。
デルタテリディウム目は、暁新世(6600万年前~5600万年前)の「グルバノデルタ(Gurbanodelta)」という種を除き、全て白亜紀の種とされる。
もしデルタテリディウムが有袋類に繋がる系統なら、現在の有袋類は「デルタテリディウム系の唯一の生き残り」と言えるのかもしれない。
ただしデルタテリディウムが、単に有袋類と共通祖先を持っているだけの絶滅したグループの可能性も高い。
他、白亜紀の後獣類としては、ホロクレメンシア(Holoclemensia)、パポテリウム(Pappotheriidae)などが確認されている
一応、パポテリウムは真獣類らしく、ホロクレメンシアは有袋類に近しいとされている。
また最古とされる後獣類はシノデルフィス(Sinodelphys)で、この種は、1億2500万年前のアジアで誕生したとされている。
遺伝学的な紀元と真獣類側の記録
有袋類との関連可能性は無視して、とりあえず化石記録の中で最古の後獣類であるシノデルフィスを基準にするなら、真獣類と有袋類の分岐は、1億2500万年くらい前。
では、現生種を用いた分子遺伝学的な解析では、どうだろうか?
答は「分岐年代は古くとも1億3500万年、より古くは2億2000万年くらい」
一方で真獣類の化石記録には、1億6000万年前のジュラマイア(Juramaia)。
1億2500万年前のエオマイア(Eomaia)。
1億1000万年前のモンタナレステス(Montanalestes)。
などがいる。
これらを合わせて考えるなら、やはり白亜紀には、真獣類と有袋類は完全に分岐していたと考えられる。
オポッサムの登場
恐竜を滅ぼした「K-Pg境界(Cretaceous-Paleogene boundary)」、いわゆる「白亜紀末の大絶滅(Cretaceous extinction)」は、後獣類にも大打撃を与えた。
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白亜紀にすでに有袋類の分岐が完了していたという事実は、その系統がK-Pg境界を生き延びたという事を示している。
最初に誕生した現生有袋類がオポッサム類だという事はほぼ間違いないとされている。
有力な候補としては、白亜紀から、始新世(5600万年前~3390万年前)の末まで生きていたとされるペラデクテス(Peradectes)がいる。
ペラデクテスは現生オポッサムと似ているので、真にディデルフィスではないか、と考える者も多い。
白亜紀末の北米には、ネズミみたいなアルファドン科(Alphadon)。
デブのイタチみたいなスタゴドン科とペディオミス科(Pediomyidae)。
などの系統が分布していて、いずれも有袋類との関連性が示唆されている。
特にアルファドンは、ペラデクテスと同様に、オポッサムとの繋がりをよく議論される。
ペラデクテスか、アルファドンか、あるいはそいつらと近縁だった別の何者か。
どれが有袋類になったのかはまだ明らかでない。
しかし、白亜紀末という時代に、既にそこにオポッサムがいたのは、かなり明らかである。
北米の有袋類達とティウパンパ
化石記録、及び分子遺伝学的な研究より、オポッサム以降、現生有袋類に繋がる最初の分岐は、「ディデルフィスとケノレステスの分岐」であるとされる。
その時期は、おそらくは8060万年前くらい。
次に、7650万年前に、ケノレステスから、さらにオーストラリデルフィアに繋がる系統が誕生したのだと考えられている。
だとするとこの3系統は、それぞれ個別にK-Pg境界を越えたという事になる。
K-Pg境界以前に、オーストラリデルフィアの系統は、すでに双前歯類とそれ以外に分岐していたと見る向きすらある。
いずれにしても彼らが有袋類の系統なら、白亜紀の有袋類は北米の生物であり、後に南米にも広がった後、北米に残った者たちは絶滅したという事になる。
また、同じような時代に、南米には「ティウパンパ(Tiu Pampa)」なる生物群がいて、少数ではあるが、有袋類の起源をこちらに求める人もいる。
ティウパンパは種の分類というより「暁新世初期くらいの南米の哺乳類全てを指す総称」である事には注意。
滅びた、有袋類の大型肉食獣
現在でこそオーストラリデルフィアに繁栄度で大きく差をつけられているアメリデルフィアだが、一時期の南米での大繁栄には目を見張るものがある。
特に始新世から漸新世(3400万年前~2300万年前)の頃。
ハイエナに似た肉食獣だった、ボルヒエナ(Borhyaena)。
有名なサーベルタイガー(剣歯虎)によく似た、スパラソドント(sparassodonts)。
などの大型肉食獣か、ディデルフィスやケノレステスと共存していたのである。
しかし鮮新世(500万年前~258万年前)に、南北アメリカ大陸が完全に繋がった事で、黄金時代は終わりとなる。
情けない事に、北米から移住してきた真獣類に競争で敗れ、有袋類の大型肉食獣達は速やかに姿を消してしまう。
しかしそういう意味では、K-Pg境界も乗り越え、北米からの侵略者達にも負けずに生き残ったオポッサム他、現生のアメリデルフィアは、生物的にかなり成功してるとも言えるだろう。
オーストラリアの化石有袋類
アメリカ大陸産であろう有袋類が、どのようにオーストラリアに渡ったかが、謎であるとは既に書いたが、K-Pg境界の時にはもう、オーストラリアに有袋類は存在していた可能性が高い。
オーストラリアには競争相手が少なかった。
もちろん、そんな状況からでしか有袋類が繁栄出来ないと考えるのは、失礼に当たるかもしれないが、実際問題、南米では、競争相手が北から流入してきた途端に有袋類の時代は終わった。
オーストラリアは、太古の昔よりずっと島だったわけではない。
白亜紀には恐竜もしっかりいた。
とすると、白亜紀末期に誕生したオーストラリデルフィアにとって、オーストラリアに競争相手がいなかった時期は、K-Pg境界の直後の時代のみのはず。
実際、(アメリカに比べるとずいぶん乏しい)化石記録は、K-Pg境界のすぐ後から、オーストラリアでの有袋類多様化が始まった事を示しているという。
5500万年前のオーストラリアの化石記録は、すでに現生の4系統(双前歯類、ダシウルス、ぺラメレス、ノトリクテス)が完全に分岐していた事も示している。
この5500万年前の有袋類化石記録は、オーストラリアのものとして確実的な最古のもので、『ティンガマラ(Tingamara)』と総称されている。
チロエオポッサムの謎
ここでやはり謎というか、妙なのが、「アメリカ在住、オーストラリア産の現生種、チロエオポッサム」であろう。
チロエオポッサムは、オーストラリデルフィア系統のミクロビオテリウム類の絶滅していない唯一の種だが、なぜアメリカにいるのか。
2つの解釈がある。
アメリカに残ったオーストラリデルフィア。
あるいは、アメリカに里帰りしたオーストラリデルフィア。
常識的にありえそうなのは前者だと思われる。
分子遺伝学の時代を待たずして、1950年代頃から、一部の優れた観察眼を持った生物学者たちの間で、すでに「チロエオポッサムの形態的特徴はオーストラリデルフィアに近い」という主張は存在していた。
分子遺伝学的な解析で、チロエオポッサムがオーストラリデルフィアに近い事が確実になると、先人の凄さを賛美するのも忘れて、生物学者たちは混乱した。
解析結果から推定された、チロエオポッサムへの分岐が起きた年代は、7200万~6740年前くらい。
K-Pg境界の直前。
だとすると、やはりチロエオポッサムは、やはり、アメリカに残ったオーストラリデルフィアの居残り組だろうか。
しかしティンガマラの中には、かなり現生チロエオポッサムに形態が近しい生物も報告されているのである。
この事は明らかに、チロエオポッサムがオーストラリアで進化し、いつかの時代にアメリカに戻った可能性を示している。
いずれにせよ、チロエオポッサムが、オーストラリア、アメリカ間の有袋類の関係を巡る鍵であるのは間違いないだろう。
再び、有袋類の特徴
理性の尊さ。正しくない正しさ
化石記録も含め、知られている全ての有袋類の「脳頭蓋(Brain skull)」は、同サイズの真獣類に比べて小さい。
脳頭蓋というのは、脳が収まる骨格なので、つまり有袋類の脳は、真獣類よりも小さいのである。
進化学的に考えるなら、これは「有袋類がバカであるというより、賢くなるメリットが少ない」のだと考えられる。
もしかしたら、育児嚢で未熟児を育てる戦略は、本当に母親を守るためのものなのかもしれない。
知能の高さは、しばしば理性と結びつけて考えられる。
しかし仮に、母親だけでも助かるために、子を見捨てねばならない状況になった時、理性は、明らかに邪魔になるではないか。
ある意味で、合理的な選択を選ぶのに、賢さというのは最大の敵になりうる。
育児嚢を支える前恥骨
有袋類の形態的特徴のひとつに、『前恥骨(Prepubic bone)』、あるいは「袋骨」がある。
普通、哺乳類の腰の辺りには、恥骨という骨がある。
有袋類においては、その外側にも、さらなる骨があるのである。
この骨はもちろん育児嚢を支える為の支えであろうが、雄はもちろん、そもそも育児嚢を作らない有袋類も持っている。
真獣類には見られない骨なので、骨格から有袋類か否かを判断する基準にもなる。
カンガルーのジャンプ
真獣類との収斂ばかりが注目される有袋類の諸性質の中で、カンガルーの『二足跳躍移動(Bipedal jump locomotion)』は際立って異質と言える。
このカンガルーの連続ジャンプによるロコモーション(移動)を実現しているのは、「膝より下の、細長い骨格構造」と、「足の筋肉の上手な利用」である。
大腿(ふともも)から下腿(膝から足首くらいまでの部分)にかけての筋肉の動きにより発生させた筋力を、足の関節の動きにより発揮して、カンガルーは跳ぶ。
これはエネルギーをあまり無駄にしない非常に効率のよい移動方法であり、カンガルー類という生物の高性能ぶりを示している。
「制御とは何か」コントロールの工学技術の基礎
またこの移動方法は、どちらかという高速移動時の方がエネルギーを節約できる。
それは謎を生じさせもする。
なぜカンガルーは常に高速で移動しないのか? という謎である。
基本的にカンガルーも平時には移動速度を加減するのだ。
なぜか。