「首長竜」恐竜時代の海の覇者。種類、進化、化石の研究記録

プレシオサウルス

日本でよく発見される首長竜

 日本ではあまり恐竜の化石は見つかっていない。
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しかし海生爬虫類はよく見つかっている。
特に北海道では、保存状態のよい首長竜(クビナガリュウ)やモササウルスの化石が、白亜紀の地層から多く発見されている。
史上最古候補の魚竜化石も発掘されている。
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日本の首長竜化石の重要性

 そもそも首長竜とは、双弓亜綱そうきゅうあこう(Diapsida)、鰭竜類きりゅうるい(Sauropterygia)、首長竜目(Plesiosauria)に属する水生爬虫類のグループの総称である。

 白亜紀に生息していた首長竜の代表格である、エラスモサウルス科は、ジュラ紀の末に登場して、前期白亜紀の時代は、北米を分布の中心としていた。
しかしやがて、一部が北太平洋の沿岸伝いにアジアへ。
また、別の一部が、北米から南米の沿岸に沿って、オーストラリアやニュージーランドに生息地域を広げていった。

 エラスモサウルスは、完全な外洋性というわけではなく、岸伝いに、比較的浅いところを移動していた。
そしておそらくは、当時の日本の辺りは、アジア側へのルートの上に重なっていた。
というふうに考える研究者もいる。
 そうだとすると、日本の首長竜化石は、動物地理学的、進化史的に、重要な意味を持つとされる。

恐竜との系統的な大きな違い。首の短い首長竜もいる

 首長竜という名前だが、首が短い種もいる。
ただ首が長いのも短いのも、基本的には四肢がヒレになっていて、胴体のシルエットは亀に似ている。

 ペルム紀には恐竜の祖先と分岐していたと考えられている。
恐竜の他に、翼竜、鳥類、ワニなどを含む主竜類には属していない。
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進化系統的には、ヘビやトカゲに近い生物と考えられている。
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首長竜への進化。どいつが祖先か

 首長竜は、ペルム紀(2億9900万~2億5100万年前)の後期に生息していた、半水棲の爬虫類クラウディオサウルスか、それと近しい仲間から進化したと考えられている。

 最初に陸に上がった魚が両生類となり、その後に、爬虫類や哺乳類が生まれたわけだが、ペルム紀の中頃には、水中生活へと逆戻りしようとした爬虫類のグループも結構いた。

 体の細長いトカゲのようだったとされる、ヤンギナ、タンガサウルス、ホヴァサウルス、タデオサウルス。
しかしいずれも進化の袋小路に入ってしまったようで、先祖らしい先祖は見つかっていない。
 おそらくは首長竜に進化したクラウディオサウルスは、数少ない成功例だったようである。

クラウディオサウルス・ゲルマイニ

 マダガスカル島南部のレオポサで、石油会社の技師が個人的に収集していたクラウディオサウルスの化石に、最初に注目したのはフランスのピヴェトーという人だった。
 1955年のこと。
ピヴェトーは、クラウディオサウルスを首長竜の祖先候補として紹介した。
ただしこの時、まだその化石の生物には名前が付けられていなかった。

 20年くらいしてから、ピヴェトーの依頼を受けたカナダのロバート・キャロルは、その化石を6年かけて調べ、それが鰭竜類の直接的祖先かもしれないと結論。
彼はその生物を1981年に、クラウディオサウルス・ゲルマイニという名前で記載した、というわけである。

ノトサウルス類の登場

 やがて三畳紀になると、手足が水かきとなった、ノトサウルス類が現れる。
さらにこのノトサウルスの仲間から、手足が完全にヒレとなり、水中生活に対応した、首長竜の代表格であるプレシオサウルス類が誕生したという流れである。

 クラウディオサウルスと原始的なノトサウルスは、頭頂部の形態に類似が見られるという。
 また、クラウディオサウルスが、 首長竜の祖先である証拠の一つとして 、手の骨が退化しつつあったこと、が挙げられる。
さらに骨盤こつばん(腰の骨)と脊椎せきつい(背骨)の繋がりが弱くなっている。
これらの骨のつながりの弱体化は、ノトサウルス、首長竜となるにつれて、より顕著となっていく。
明らかに自らの体重を支える力の必要を失っている、 つまり水中生活に対応していっている証拠である。

海洋への進出

 クラウディオサウルス以前の化石記録から、水中生活に対応しようとした爬虫類は、まず体をくねらせる泳ぎ方を覚えただろうことが、推測できる。
 それからだんだんと体を動かさせ、体をくねらせるのでなくて、足を使って、機動性の高い泳ぎを実現する者が現れ始める。

 もちろんいきなり完全水生になったわけでなく、最初は水辺を中心とした半水生の者が、やがては陸に戻らないようになり、同時に塩分濃度の濃い水にも対応するようになり、海へと進出していった。
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 そしてノトサウルスが誕生したわけである。

パキプレウロサウルス、セレシオサウルス、ピストサウルス

 ノトサウルス、あるいはノトサウルスと近縁な種の中でも、 比較的原始的とされるパキプレウロサウルスの時点で、頸椎けいつい(けいつい)の数の増加が見られるそうである。
つまりすでに、首を長くしようとしていたのだ。

 より進んだノトサウルスとされるセレシオサウルスになると、しっぽが短くなっている代わりに、手がやや太くなってくる。
特に指骨の数が増え始めていて、それが首長竜の段階になると、多数の指骨が一枚の板(太いヒレ)を形成するようになる。

 セレシオサウルスと、同時代の生物の可能性も高いようだが、さらに首長竜に近い形質を備えているとされるのがピストサウルスである。
ピストサウルスはかつては、すでに首長竜ではないかと言われることも多いくらいに、首長竜的な特徴を備えているという。
ただし、プレシオサウルスでは消滅してしまっている鼻骨を有しているなど、違いもあるようだ。
 ピストサウルスは口蓋こうがい(口の上の部分)が、ノトサウルスよりも原始的だという意見もあり、実は他のノトサウルス以前の共通祖先から枝分かれした種の可能性がある。

 もしピストサウルスが首長竜の祖先であり、ノトサウルスに含まれないなら、首長竜はノトサウルスから進化したわけではなく、ノトサウルスとの関係は 進化系統上の姉妹ということになる。

首長竜の種類、進化系統

ジュラ紀の首長竜。白亜紀の首長竜

 首長竜全体の総称としても使われることも多いプレシオサウルス類は、おそらくは知られている最古の首長竜であり、最初に化石の発見された首長竜である。
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 一般的に、プレシオサウルス類はジュラ紀の首長竜であり、白亜紀になると、より巨大なエラスモサウルス類や、プリオサウルス類が出現して、中性代の海を支配した。
 それらの首長竜は最大で15メートル程に達した。

 首をプレシオサウルス以上に長くしたエラスモサウルスとは対照的に、プリオサウルスは首を短くし、顔を大きくした。
プリオサウルスの見た目は、クジラ類にやや似ていたとされる。
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プレシオサウルスは原始的な首長竜か

 プレシオサウルスは亀のように平たい胴体に、完全にヒレとなった 前後の長さがほぼ等しい四肢を持ち、水中での運動性能は極めて高かった。
尻尾はノトサウルスよりさらに短くなり、もうほとんど機能的な意味はないと考えられている。

 平均的なノトサウルスでは20個くらいだった頸椎の数は、プレシオサウルスでは倍の40個ほどになっている。
その長い首は、かなり自由に動かすことができたようである。

 プレシオサウルスの肩帯けんたい(前足を支える骨。肩)には、左右を結びつける間鎖骨かんさこつが残っているが、後の時代の首長竜では、それは消失している。
また、肩帯の肩甲骨がまだ左右に分かれているが、これも後の首長竜においてはくっついている。
 以上のようなことから、基本的にはプレシオサウルスは、首長竜の中では原始的とされる。

最大のプリオサウルスは海の王者

 プレシオサウルス類から分化していったと考えられる首長竜だが、その進化には二つの大きな流れがあったとされる。
長い首をさらに長くしたエラスモサウルス科と、顔を大きくしたプリオサウルス科である。

 顔が華奢きゃしゃなエラスモサウルスに比べると、プリオサウルスはより恐ろしい捕食者だったと考えられている。
特に頭骨が3メートルほどもあるという、最大級のクロノサウルスは、おそらくはシャチのような、海生生物の生態系ピラミッドの頂点にいたのではないか、と考えられている。

エラスモサウルスの長く自由な首。首長竜と竜脚類恐竜の違い

 時に首が長いために首長竜と一緒ごたにされてしまうこともある竜脚類りゅうきゃくるい恐竜だが、確かに首の長さでは負けていないかもしれない。
ただし、竜脚類に限らず、これまでに存在した首の長い多くの生物は、たいていが頸椎を長く伸ばすことで、首を長くしている。

 一方で首長竜は、首の骨を形成する一つ一つの頚椎の、数自体を増やしている。
そういうわけなので、エラスモサウルス類は、おそらくこれまで地球上に存在した全ての生物の中で、最も頚椎の多い動物と言える。

 特に最大の種になると80近い頸椎を有していたようである。
長くするのでなく、頸椎の数自体を増やすというのは、首のコントロールの性能を引き上げれる、という点において重要である。
 エラスモサウルスはその長い首で、ヘビのようなとぐろを巻くことすらできた、と考えられている。
竜脚類恐竜には、そんなこと、まず間違いなくできなかった。

首長竜と翼竜

 エラスモサウルス類の胃の化石から、翼竜の化石が見つかることもある。
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これは彼らの首が、海面に近づいてきた飛行生物を捉えることができるほどに、自由に俊敏に動かせたことを示している。

 しかしプリオサウルスに比べたら、エラスモサウルスの口の力は、おそらく全然大したことがないとされていて、主食はせいぜいイカか柔らかな魚だったとされている。
翼竜は、軽量化した骨と極細の皮な、柔らかな生物だからこそ、獲物にできたのだろう。

プレシオサウルス、エラスモサウルス、プリオサウルスの関係

 プレシオサウルス、エラスモサウルス、プリオサウルスの進化系統上の関係がどうなっているのかは、議論が果てしなく続いている。

 面白い説として、恐竜恒温動物説で有名なロバート・バッカーの提唱した、「プレシオサウルスがまずエラスモサウルスとプリオサウルスに別れ、その後、ジュラ期末にエラスモサウルスが絶滅。白亜紀になってから、生態系内で穴が空いていたかつてのエラスモサウルスの地位に、プリオサウルス起源の第二次エラスモサウルスが現れた」というようなものもある。

 実際に、ジュラ紀型のエラスモサウルスと、白亜紀型のエラスモサウルスは明確に区別できる、という意見もそこそこあるそうである。

首長竜の生き残りはいるか。水棲未確認動物との関連

 ネッシーやシーサーペントのような未確認動物の正体として、よく首長竜が挙げられることがある。
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 ネッシーは典型的なイメージが、まず首長竜そのままであり、シーサーペント(大海蛇)も大海蛇と間違えられるぐらいだから、これらはまず間違いなく、プリオサウルスでなく、エラスモサウルスの系統であろう。

 しかしネッシーはともかく、シーサーペントなどはよく、古い絵などで、船をひっくり返したり、人をくわえて持ち上げたりするような描写が描かれている。
これは首長竜の専門家たちからすると、かなりナンセンスな話らしい。
 これまでに発見された、どのプレシオサウルスも、どのエラスモサウルスも首の力自体は弱く、おそらくは人が一人しがみついただけでも、もうろくに動かせなくなっただろうと考えられている。
当然、その長い首で船をひっくり返すことなど、できるわけがないのである。

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