「イカ」墨、吸盤、知能、生態の謎。タコとの違いと共通点

イカはどんな生物か

軟体動物の頭足類に属する

 イカ(Squid)は、「軟体動物なんたいどうぶつ(Mollusca)」の「頭足類とうそくるい(Cephalopoda)」に属する一群いちぐん
生物史的にはシルル紀(Silurian period。4億4370万年前~4億1600万年前)にかなり繁栄したが、その頃の頭足類は基本的に殻を持っていたという。

 イカとタコは似ているが、両者は、デボン紀(Devonian period。約4億1600万年前~約3億5920万年前)くらいから殻を退化させていった頭足類内の同族と考えられている。
殻の退化した頭足類は「鞘形亜綱しょうけいあこう(Coleoidea)」として分類されているが、イカはさらに10本足の「十腕形上目じゅうわんがたじょうもく(Decapodiformes)」として、8本足のタコと区別される。
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 近しい生物だから当然だが、外見だけでなく、心臓が3つあることや、視覚が優れているなど、イカとタコの共通点は多い。
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触手と吸盤。8本足のイカはいるか

 正確にはイカは10本足というより、8本足と2本の「触手しょくしゅ(Tentacle)」とされる。
しかし、結局触手とは、一般的に無脊椎動物の口近くの手足のことなので、実質的にはイカが10本触手、タコが8本触手というのが正しいのかもしれない。

 タコイカ(Gonatopsis)やヤツデイカ(Octopoteuthidae)のように、生まれた時には2本の触手も持っているが、成長とともに失われ、8本足になるイカもいる。

 イカの足の「吸盤きゅうばん(Sucker)」は、タコのそれに比べると、吸い付くというより、捕らえるに近い働きをするとされる。
細い筋肉の収縮によって吸い付きを行うタコのそれに対し、イカの吸盤は、それに配置された細かいギザギザ構造により、対象にくっつく。
その構造から、タコに比べてイカの吸盤は、本体が死んでしまった後も、その吸引力がけっこう残るとされている。

色を変化させる細胞

 イカは素早く自らの色を変化させる。
この能力は基本的には、タコのそれとほとんど同じようなものである。

 イカの皮膚には「色素胞しきそほう(chromatophore)」 と言う 色素をコントロールする細胞が大量にあって、光の反射する量なども合わせて調節し、体色変化を実現しているのである。

 体の色を変えるのは、捕食者から逃れるためのカモフラージュはもちろんのこと、逆に獲物に気付かれずに近づくときや、コミュニケーションの手段などとしても使えるとされる。

 また、イカが死に、死後硬直が進んだ場合、色素胞の集合部分の筋肉も縮み、結果的にイカの体は白くなるらしい。
つまり、しっかり色が付いてるイカほど新鮮とも言える。

発光するイカはどれくらいいるか

 ホタルイカ(Watasenia scintillans)が「発光(luminescence)」することはよく知られている。
だが実はこの能力は、イカの中において、それほど珍しいものではないらしい。

 細かい点を見るといろいろ種類があるようだが、基本的に発光は、化学反応により光を放出する『発光細胞 (BioWare Brite)』に、反射板やフィルターなどが備わった『発光器(bioluminescent organ)』という器官から発せられる。
あるいは「発光バクテリア(luminescent bacteria)」を共生させ、必要に応じ、墨のフィルターをとって光を放たせたりするイカもいるという。

 ホタルイカの属するホタルイカモドキ科(Enoploteuthidae)は、どれも光るが、発光器の数や配列などが異なっているため、詳しい人は発光パターンで種類を見分けられるそうである。

 バクテリア頼りの者も含めると、知られてるイカの種の内、半分くらいは光るようだが、一方で光るタコは数種類程度だけだとされる。

遺伝的には巻貝に近い

 タンパク質のアミノ酸配列や、遺伝子の塩基配列を基準とした解析、いわゆる「分子系統学ぶんしけいとうがく(molecular phylogenetics)」的解析によると、頭足類は腹足類ふくそくるい(Gastropoda)に近いらしい。
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腹足類とは、陸生のカタツムリ(Snail)やナメクジ(Slug)が有名な、いわゆる「巻貝(Conch)」である。
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外套膜の秘密

 一般的なイカの形状を見ると、腕がついた頭に、さらに「エンペラ(squid fin)」と呼ばれるヒレがついた、ロケットみたいな部分があるが、それは「外套膜がいとうまく(Squid mantle)」と呼ばれている。

 外套膜はよく、イカの胴体どうたいと言われる。

 また、タコにはヒレがない種が多いが、ジュウモンジダコ(Grimpoteuthis)のように例外もあるので、ヒレの有無はイカかタコかの判断基準にはならない。

イカの甲は、殻か骨か

 タコと同様に、イカの殻は退化しているが、その痕跡がないわけではない。

 コウイカ(Sepiida)の場合、外套膜の内部に、『こう(cuttlebone)』という殻の退化したものが入っている。
このイカの甲はどうも、水中での浮力ふりょくを得るための「き(float)」として機能しているらしい。

 コウイカの甲はまだ普通の殻と同じような「石灰質せっかいしつ(Calcareous)」、つまりは炭酸カルシウムを主成分とする岩に近いもの。
しかし、ケンサキイカ(Uroteuthis edulis)やツツイカ(Teuthida)の甲は、石灰質でなく、むしろプラスチック(樹脂)みたいになっている「軟甲なんこう(gladius)」である。
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イカは基本的に骨を持たない軟体動物であるが、軟甲は俗に「イカの骨(Squid bone)」とも呼ばれている。

ジェット推進

 外套膜には、イカが『すみ(Squid ink)』などを吐く『漏斗ろうと(hyponome)』という器官がついている。

 外套膜をポンプ代わりとして、漏斗から水を噴射することで、イカは強力な推進力を得たりもする。

 移動のための器官としての重要度は漏斗がかなり高く、エンペラはあくまで方向転換を補助するためのサブ器官だとされている。

イカの墨は囮

 イカが漏斗から墨を吐くのは有名だが、その墨は、『墨汁嚢ぼくじゅうのう(ink sac)』ヒレの間くらいにあるという袋に入っている。

 漏斗からは糞も出されるが、墨汁嚢は「直腸ちょくちょう(rectum)」に沿った配置になっているともされる。

 タコと比べると、反射でなく意図的であり、意識的に吐いたり止めたりできるともされる。
また、タコのそれに比べると粘性が高く、広がりにくいようで、役割としては目くらましよりも、捕食者の気を一時的に引くおとりの意味が大きいらしい。

 深海の種であるギンオビイカ(Sepiolina nipponensis)やヒカリダンゴイカ(Heteroteuthis Stephanoteuuthis)などは、 墨でなく光る液を吐くという。
また深海のタコは墨を吐かないらしい。
暗い深海では、目眩ましの意味があまりないからだろう。

寿命は1年くらい

 イカの寿命は人に比べたらかなり短い。
ケンサキイカや、ツツイカに属するスルメイカ(Todarodes pacificus)などは、1年ほどしかないとされる。

 脊椎動物せきついどうぶつ(Vertebrata)の耳の内側にある耳石じせきは、炭酸カルシウムの結晶組織である。
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この組織は、聴覚ちょうかくだけでなく「平衡感覚へいこうかんかく(sense of equilibrium)」に関連している『平衡石へいこうせき』の一種である。

 そして、魚類の平衡石は、木の「年輪ねんりん(growth ring)」のように、一定期間ごとに円状の跡が増加していくから、それを確認することで、年齢を確かめられる。
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 同じようにイカの、外套膜付近にある平衡石にも、1日ごとに増えてく跡(日輪にちりん)が確認できるようで、イカがどのくらい生きるかはかなり正確に判明している。

 しかし巨大なダイオウイカ(Architeuthis dux)などは、確認できる例が少なく、どれくらい生きるかに関してはまだまだ謎なようだ。

社交性が高いイカ、孤独を好むタコ

 タコもそうだが、イカは無脊椎動物としては例外的な巨大で複雑な構造の脳を持っている。
つまりかなり賢い。
実はその、目の間くらいに配置されている脳は、魚や両生類、爬虫類よりも賢いと言えるかもしれないくらいの発達具合なのである。
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 また、タコについてもイカについても、その知能についてはいろいろな議論が熱いが、どちらかと言うとタコの方が上と考えられがちなようだ。
そしてタコの方が、社会性がかなり低いように見える分、なぜ賢いのか余計に謎とされている。

 イカはタコに比べると、海を回遊する種が多いようである。
スルメイカなどは、その短い生涯の間に、日本周辺のかなり広い範囲を旅する。
また、ツツイカなどは、かなり社会性が高いとされる。

 考えてみれば人間にも、社交性の高い人と、孤独を好む人がいるが、そういうのも知能というのに関係してるのだろうか。

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