巨大な山々、中国の伝説、怪物大国の日本
結構高い標高の火山湖などにも、怪物の噂はあったりする。
古くから道教思想が根付いた中国などには、怪物の噂関係なく、神秘的な風景の聖地とされる場所も多い。
また、実のところ日本という国は、国土のスケールから考えると、おそらくブリテン諸島に匹敵するほどの、湖の怪物大国である。
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テンシー。チャイニーズのネッシー
中国の黒龍江省(Hēilóngjiāng Shěng)、吉林省(Jílín Shěng)、遼寧省(Liáoníng Shěng)の東部。
北朝鮮との国境付近にあり、古くから聖なる山として崇拝されてきたという白頭山(Chángbáishān)。
その山頂付近にある「天池(tamun)」という湖には、チャイニーズネッシーとも呼ばれる怪物、テンシー(Lake tianchi monster。天地水怪)が潜んでいるという。
天地という大層な湖の名前だが、その原型は、徐命膺(1716~1787)とかいう朝鮮人学者が付けたという説がある。
1778年。
当時は、中国でも朝鮮でもない辺境の地とされていたらしい白頭山に登った彼は、「ろくに人なんて登らないこの山だが、ついに私は登ってきた。そして大きな池を見つけたが、まだ名はないようだ。天が、私に名をつけよと言っている」などとして、「森羅万象は対極なり」という意味の太一沢なる名を与えたそうである。
(はたして、太一沢が、天地に変化したのかは謎だが)
天地自体は、1702年の火山爆発によってできた湖とされている。
それができた年代自体が新しいことを気にしなければ、10平方キロメートルくらいの面積に、平均水深200メートル(最大水深は380メートル)ほどと、未知の大型水棲生物が潜んでいても、おかしくはないような環境ともされる。
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3~10メートルくらいとされる、その怪物は、ウシかウマ、あるいはイヌに似た頭部に角を持ち、体はワニに似ているという。
頭部に関しては、長い首に人間のような顔だったという証言もある。
また、最初期の記録とされる1903年の目撃は、目撃者3人が、スイギュウのような怪物に襲われたというものだったらしい。
20世紀初頭から目撃が始まったされるテンシーだが、1960年以降は増加傾向にあったという。
ネッシーのような、プレシオサウルス型の怪物にありがちだが、 水面に浮かぶコブらしき部分だけが見えたというような証言も結構多いようで、それらに関しては、単に浮かんできた火山岩ではないか、という指摘もあるようだ。
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神農架の怪物。伝説の王の土地の湖
中国は湖北省(Húběi Shěng)の神農架林区(Shénnóngjià)の湖にも、時折、怪物(Monster of Changtan)が出現するという。
Changtanというのが、おそらく怪物が生息する湖の名前。
神農架は、古代中国の伝説の王である神農が、薬草を得たことにより医学の道を切り開いた場所とされている。
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また、様々な固有種の中には、西遊記でお馴染みのキャラクター、孫悟空のモデルとなった猿、キンシコウ(金絲猴。Rhinopithecus roxellana。Golden monkey)もいるという。
怪物はといえば、灰色の皮膚に扁平な(つまりは平べったい)頭、巨大な目、前肢に5本の指を持っている巨大生物らしい。
青海のドラゴン。虹色に輝くウロコ
中国は青海省(Qīnghǎi)の、「青海湖(Qīnghǎi Hú)」は、中国最大の内陸湖とされる。
青海湖は、表面積4583平方キロメートル、最大水深33メートル。
絵に描いたように鮮やかな紺碧色の湖。
通常、目撃されるこの生物は、ヘビに似た頭部に、日差しがあたると綺麗な虹色に輝くウロコ(鱗)を持つ、龍かドラゴンとのこと。
長さが10メートルほどともされる。
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一時期、中国のネット上で、この生物を撮影したと考えられる映像が話題になったことがあるようだが、後に工業用のエアバックだと判明したらしい。
カナスの巨大魚。チンギス・カンが守ろうとした生物
中国、新疆ウイグル自治区(Shinjang Uyghur Aptonom Rayoni)の北。
カザフスタン、ロシア、モンゴルとの国境近くにあるという、アルタイ山脈のカナス湖には、 日本においてはカッシーの名でも知られる、かなり巨大な魚の怪物(Kanas lake monster)が生息しているという。
その正体に関して、2メートルほどにも達するとされる、サケ科の大型淡水魚タイメン(アムールイトウ)でないかという説もある。
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カナス湖は、表面積46キロメートル、最大水深188メートルほどとされる。
この湖付近で多数民族なのは、トゥバ人(Tuvans)とカザフ人(Kazakhs)とされるが、特にトゥバの人たちには、この巨大魚はホブフク(Hobzhk)と呼ばれているらしい。
その名は、「奇妙な」とか「変質」というような意味だそうである。
さらにこの怪物は、水が地下へと消えてしまわないように、湖の底の穴を防ぐ役割を担っている、なんて伝承もあるという。
1985年には、地元の新聞が、体長10メートル以上の大きな魚が大学の生物学教授と、その生徒たち20人ほどに目撃されたと報じたそうである。
怪物はまた、かなり狂暴ともされ、湖に近づいてきたウシやウマなどをとらえて、水中へと引きずり込んでしまうこともあるという。
チンギス・カン(Cinggis qagan。1162~1227)が、この湖の巨大魚を保護する目的で、軍隊を周囲に配置したという伝説があるらしい。
それが本当なら、この湖の怪物伝説は、少なくとも13世紀まで遡れることになる。
ウェンブーの怪物。湖の情報が謎
チベットはクンザ郡の「ウェンブー湖(文部湖。Wenbu Lake)」の怪物(Wenbu lake monster)は、地元にはそれを直接見たという人が結構いて、その内容もわりと一致しているそうだ。
ただ(文献の情報的な意味で)「クンザ郡の文武湖」とやらが、実際どこにあるのかがけっこう謎である。
どうも水面標高が4535メートル、面積835平方キロメートルとのことだが、これはおそらく、チベット自治区ナクチュ市ニマ県の「タンラ・ユムツォ湖(Tangra Yumco)」の情報である。
とにかく、このウェンブーの怪物は、通常は、巨大な体で、首が長く、頭は比較的小さいとされる。
渦を起こして、イカダに乗っていた人をイカダごと、あるいは近くにいたウシなどを湖に引きずり込んだとかいう話もあり、なかなか恐ろしい。
最初期とされる1940年代の記録は、地元民が1人殺されてしまったというものだという。
ピン川のピンシー。17個の卵
タイは、バンコク北方の「ピン川(Ping River)」において、1980年5月に目撃され、結構な騒ぎになったらしい怪物。
ピンシーは、その時に新聞が報じた名前らしい。
釣りに行った漁師たちが、まず見慣れない、スイカほどの大きさの卵を17個発見した。
卵は全てすでに割れていて、かなり悪臭が漂っていた。
そしてその次の日の夜。
川から謎の声が響き、確認してみると、ヤシの木ほどの大きさと思われる、トサカのついた蛇のような怪物が、その姿を見せていたのだという。
この生物に関しても、情報はかなり乏しい。
タセクベラ、タセクチニのドラゴン。古代都市を守るもの
湿地帯で繋がりあうという、マレーシアの「タセクベラ湖(Tasek Bera)」と「タセクチニ湖(Tasek Chini)」にも、怪物の噂があるという。
基本的には巨大なヘビのような生物らしい。
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タセクベラは、表面積700平方キロメートル。
タセクチニは、表面積50平方キロメートル。
1950年頃。
(おそらくタセクベラの方で)警官が湖で水浴びをしている時に、5メートルくらいもあるだろう首が、葦から出現するのを目撃したそうである。
しかし、怪物の古くからの伝承は、むしろタセクチニの方にこそある。
マレー半島の先住民族であるオラン・アスリ(Orang Asli)は、その湖に生息するというNaga Seri Gumumなるドラゴンの伝説を語り継いでるらしい。
その生物はまた、(コブラという意味らしい)ular tedongと呼ばれることもあり、湖の底にあるという、古代都市クメールを守護しているのだという。
パテンガンの怪物。よく知られた恋愛物語の噂
インドネシアの西ジャワ、「パテンガン湖(Patenggang Lake)」にも怪物の噂があるという。
おそらくは巨大な魚か、カメらしい。
パテンガン湖は、表面積450キロメートル。
かなりエキゾチックな雰囲気があり、観光客向けのツアーとかもわりとあるようだ。
パテンガン湖は怪物より、むしろ恋愛の伝説がよく知られている。
どうも、湖の中心の方にある小島Batu Cinta(愛の岩)にて、長い間会えずにいた、愛し合う2人が再会するという昔話があるらしい。
そして、その島を一周したカップルは、永遠の愛を持てるのだとか。
アパタニスのブル。すでに絶滅していた巨大爬虫類
インドのアッサム地方、アパ・タニス峡谷の沼沢地には、巨大な爬虫類ブル(Buru)が生息しているという。
一般的には、ワニのような生物か、普通にワニだとろうとされる。
そもそもブルという名前自体にも、本来、ワニという意味が含まれているという説もある。
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1940年代くらい。
オーストラリアの民俗学者フレール・ハイメンドルフ(Christopher von Fürer-Haimendorf。1909~1995)は、地元の人たちであるアパタニ(Apatani)から、この生物の話を聞いたそうである。
しかし、すでにその時には、その生物は絶滅していたそうだ。
最後のブルは、家族のため、水を汲んでいた女の子に見られた個体らしい。
コッコーリのアイダハル。水を浄化する存在
カザフスタンの「コッコーリ湖(Kök-köl lake)」に生息するというアイダハル(Aidakhar)は、 プレシオサウルスのようだとも、竜脚類恐竜(ブラキオサウルスとか)のようだともされる。
ヘビのようだったとか、ドラゴンのようだったとか、あるいは首の長いラクダのようだったという報告もあるそうである。
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1975年(あるいは1977年)。
旧ソビエト地理学会会員のアントレイ・ペチョルスキー(Anatoly Pechersky)が、この生物を目撃しているが、それはだいたい頭部が2メートルくらいで、体長は15メートル程の水棲獣だったという。
地元においては、水の浄化能力を有するという噂があるそうで、この生物を見かけた場合、急いで水を汲み取るらしい。
屈斜路のクッシー。子供たちによる複数目撃
日本の北海道は屈斜路湖のクッシーは、1970年代以降から、よく目撃され、日本では比較的知名度が高い未確認動物である。
屈斜路湖は、 表面積80平方キロメートル、最大水深117メートル。
最初の目撃報告とされるのは、1973年7月の、近くに住む林業家の報告。
突然に、木材を運ぶウマが動かなくなったと思うと、湖にキリンのような怪物の首が見えたという。
怪物が沈むと、ウマもまた動き出したらしい。
さらにその最初の目撃と同年の8月には、遠足に来ていた40人ほどの中学生たちの多くが、すごいスピードで泳いでいる、キリンのような首に、背中にコブのようなものがある生物を同時に目撃。
この複数人による目的によって、怪物クッシーは一気に有名になったとされる。
多くの目撃証言があるが、それらの情報を合わせると、その姿はプレシオサウルス形というよりは、ナメクジのような感じと考えられるようだ。
池田のイッシー。アメリカ軍の音波探知機が捉えた巨体
日本は、鹿児島県指宿市の池田湖にもまた、プレシオサウルス型怪物の噂がある。
その名もイッシー。
池田湖は、最大水深233メートル。
約2万年前に、開聞岳の噴火でできたという、九州最大のカルデラ湖である。
クッシーと同様、この生物が公に知られるようになったのは1970年代以降とされている。
しかし、この池には主たる怪物がいて、人が溺れ死んだ場合、それに食われてしまうために、決して死体は上がってこないという言い伝えは、結構古くからあったともされる。
また、どうも1961年に、アメリカ軍のジェット機がこの湖に墜落したことがあって、その機体を捜索するために使われた音波探知機が、海底に動く謎の巨大物質を探知したという噂もある。
この生物自体が有名になったきっかけは、1978年9月の、近くに住むいとこ同士の2人の少年の目撃だとされている。
キャッチボールをしていた時、水面の黒いこぶ状の何かに気づいた少年たちは、親や親戚などをすぐ呼んだ。
そして結果的に20人ほどが、5メートルほどの間隔を置いて並ぶ、(水面に出ていた)大きさ自体もそれぞれ5メートルほどであろうと思われる、2つのコブを目撃したのだった
ちなみに、湖の怪物がネッシーにちなんだ名前を名付けられることはよくあるが、日本は特にその傾向が強いと思われる。
クッシー、イッシーは特に有名だが、他にも、北海道は洞爺湖のトッシーやら、 山梨県は本栖湖のモッシーやらと、とりあえず湖の怪物は「~ッシー」がスタンダード。
大鳥池のタキタロウ。それと高浪の池のナミタロウ
山形県と新潟県の県境近い朝日連峰の以東岳の麓。
ブナの原生林に囲まれた、大鳥池には、タキタロウ(Takitaro)なる主がいるという。
これは 2~3メートルくらいの巨大な魚で、上顎に食い込むほど下顎が長く、かなりグロテスクな顔をしているという。
超常的な性質を持っているのか、捕らえられそうになると、雲を呼び、嵐を巻き起こすらしい。
大鳥池は、最大水深68メートル。
謎の生物ではあるが、明らかになっている(とされる)ことが結構多い。
かなり警戒心が強いのに加え、直射日光をかなり嫌い、極力海底付近で暮らすという、「見つかりにくいのはこのためですよ」と言わんばかりの生態を有する。
ただ、エサあさりなどの目的によって、水面付近に上がってくる時は、通常、複数で群れをなしているという。
また新潟県の糸魚川市の白馬岳の高浪の池でも、(おそらくタキタロウよりも大きい)巨大魚がいるという噂があり、そちらはナミタロウと名付けられたそうだ。