オルフェウスとディオニュソス教
ゾロアスター教のマギ。現実と非現実の二元論
magic(マジック。魔術) という言葉の語源は、古代ペルシア文明の中で発生したとされている『ゾロアスター教』において、司祭を意味するマギから来ているという説がある。
ペルシアの聖典「ガーサー」によると、古く、至高なるアフラ・マズダなる存在が、双子を創造した。
そして、その双子の一方が現実を、一方が非現実を創造したのだという。
ゾロアスター教のひとつの解釈は、我々が物質世界、精神世界と呼ぶような二元であろう。
「意識とは何か」科学と哲学、無意識と世界の狭間で
魔術とか超能力とか呼ばれる現象の原因を、術者の思い込みの強さや、意志の強さなどにするのなら。
あるいはそうでなくても、そういう要素が関係するとするのなら、それは、術者が精神世界へ及ぼした影響が、物質世界に作用することで発生する、というようにも考えられよう。
ヘロドトスの記述
紀元前5世紀頃の、ギリシャの歴史家とされているヘロドトスは、自身の書いた、そのもの「歴史」という本で、ゾロアスター教についても記述している。
ヘロドトスは、ゾロアスター教のマギに関して、「彼らは神々を偶像化せず、寺院も祭壇も作らない。彼らはただ、高い山の頂に登り、そこで偉大なる天と、太陽や惑星に、生贄を捧げるのだ」
ゾロアスター教の教義は、同時期に誕生した説もある、ギリシアの『オルフェウス教』のそれと、いくつか似かよっていたとも言われる。
伝説的な歌い手オルフェウス。
彼の創作した様々な詩は、宇宙の卵から生まれた世界というイメージを共有しているという。
エレウシスの秘技
オルフェウス教に関しては謎が多いが、混合されがちだった『エレウシスの秘技』が、大きなヒントになるとも言われる。
エレウシスは、アテネより西に20キロほどの地点にあった町で、穀物の女神デーメーテールが、その娘であるペルセポネ(コレー)と再開した場所とされている。
オルフェウスの儀式は、しばしば、このエレウシスで行われたという。
エレウシスの秘技は、まず浄めの儀式を行い、それから、教えの基礎を説く。
さらに、自然や様々な物事に関して、意識で悟る。
さらに、用意された通路などを歩くなど、いくつかの儀式の後、最後に、栄誉の花輪を首にかける。
これは幸福者への入門の儀式である。
古代の宗教は、現代的な観点からすると、普通に秘密結社と言える。
狂乱した女達。魔女の起源か
オルフェウス教は、トラキアの地において、ディオニュソス信仰と合わさったともされる。
紀元前7世紀ぐらいから、酒の神として、ギリシアに急速に広まったとされるディオニュソスの祭りは、愉快な音楽や踊りが中心であり、特に女性に人気だったとも言われる。
ディオニュソス信仰には過激な面があり、人を狂乱へと導く場合もあった。
山や丘を走り、出会う生き物を手当たり次第に切り裂き、それらの肉を生で食ったともされる。
一説によると、このディオニュソスに心酔していた過激な女性の一派が、魔女術を発明した。
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あるいは黒魔術信仰の起源になったのだという。
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ただし、黒魔術を使う典型的な魔女のイメージは、もっと後の時代の、キリスト教徒の妄想である可能性が高い。
ディオニュソスは牛と関連が深いとされていて、悪魔の生やす山羊の角などとの関連が言われる事もある。
しかし、実際には、ディオニュソスの教義が、キリスト教に影響を与えたのだろう。
「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束
だから、実際には、ディオニュソス信仰と、魔女術の繋がりは、どう言っても、せいぜい間接的なものと考えるのが妥当かもしれない。
神秘主義者ピタゴラスとピタゴラス教団
実在した最初の魔術師
ピタゴラス教団は、オルフェウス教の影響を受けていた節がいくつもあるようである。
ピタゴラスと言えば、魔術師というより、哲学者、数学者のイメージが一般に強いが、魔術師は、時に科学的である。
「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎
「錬金術」化学の裏側の魔術。ヘルメス思想と賢者の石
まして、時代を考慮するなら、むしろ彼の教義は魔術的であったと指摘される事もある。
神秘主義者(オカルティスト)、魔術師の中には、ピタゴラスを「実在した最初の魔術師」と称する者もいるという。
これは、最初の魔術師とされるヘルメスなどを架空の人物と考えての事である。
だから、「実在した」なのだ。(コラム)
(コラム)釈迦、老子、孔子
ピタゴラスと同じくらいの時期(紀元前6世紀頃)に、別の地域に誕生した釈迦や、老子、孔子も、同様に「最初の魔術師」であったと考えるのは面白いかもしれない。
「釈迦の生涯」実在したブッダ、仏教の教えの歴史の始まり
「老子の言葉。道の思想」現代語訳、名言、格言。千里の道も一歩から
その場合は、実は彼らに繋がりがあったとか。
ただ、例えばモーセや太公望などは、彼らよりも古い人物とされている事は、知っておこう。
「太公望」実在したか?どんな人だったか?釣りと封神演義と
エジプトの都市にて、マギと交流した?
ピタゴラスは、サモス島の出身とされている。
商人の息子だったが、その類まれなる才に魅了された、サモス島の統治者ポリクラテスが、推薦状を書いてくれたので、エジプト王アマシスのもとで、秘技の教えを受けれる事になったのだという。
いくつかの試練をクリアし、都市テーベにて、ピタゴラスはエジプト語を学びながら、ペルシア人のマギとも交際して、その影響を受けたとされている。
また、「ピタゴラスの定理」をはじめとして、数学の基礎を神官達からよく学んだとも考えられている。
「ピタゴラス数」求め方、見つけ方の公式。ピタゴラス方程式とは何か
ピタゴラスの秘密結社の敵
ペルシアからエジプトへの侵略があり、ピタゴラスはペルシア王の命令でバビロンに送られ、そこで10年ほどを過ごしたという。
メソポタミアの秘技を学び、また、インドや中国から来た賢者達にも学んだ、と考える人もいる。
彼の哲学には、独自の輪廻転生信仰があったとされ、それは東洋の思想の影響だと言うのである。
ピタゴラスは、エジプト、バビロン合わせて、30年以上を海外で過ごした後に、ギリシアに戻ってきた。
それから植民都市クロトンで、弟子達を集い、ピタゴラス教団を立ち上げたのである。
これは、最初の科学の秘密結社ともされる事もある。
しかし、信者の多い彼に嫉妬した敵も多く、結局ピタゴラス教団は、敵対する一人が煽動した暴徒達の襲撃を受け、ピタゴラスは、放たれた火で焼け死んだそうである。
ピタゴラスのオカルト伝説
タレスと共に、ギリシア哲学の父とされる一方で、やはり彼には、
神秘的な(あるいは荒唐無稽な)伝説がつきまとう。
ピタゴラスはあらゆる動物を自在に操れたという話がある。
彼は、野生のクマを、その耳に何か囁いただけで飼い慣らしたり、空中からワシを呼び寄せ、自分の手首に止まらせたりしたのだという。
「猛禽類」最大の鳥たちの種類、生態、人間文化との関わり
彼は、予知能力も有していたようだった。
ある時、ピタゴラスと弟子は、入港してくる船を見ていた。
弟子が、「あの船には、何が積んであるのだろうか」とこぼすのを聞いたピタゴラスは、船の積み荷が、故郷で埋葬するために送られてくる、ふたり分の遺体である事を、見事に言い当てたそうである。
また、彼は年老いても、その体は屈強であり、拳闘(ボクシング)の大会で優勝し、周囲の者を驚かせたという話まである。
一方で、彼には魔術師らしい、イカサマ師的な一面もしっかりあったという人もある。
ピタゴラスはある時に、「死者と話をしに黄泉の国へ行く」と言い残し、しばらく姿をくらませた。
実は彼は、とある洞窟にしばらく隠れていて、その間に、超自然的な手段で、離れていたはずの世の中の最近の出来事を知ったという演技をするため、母親から、世間の近況を手紙で教えてもらっていたのだそうである。
テュアナのアポロニオス。キリスト教に敵視された哲学者
ピタゴラスの神秘主義的な面を最も強く受け継いだとされる一人が、一世紀頃に活躍したというテュアナのアポロニオスである。
彼はピタゴラス主義の哲学者であるが、普通にオカルト能力を有する魔術師でもあったと伝えられている。
アポロニオスはある時にデルポイ神殿にて、自らの名が「後世に残るか?」と神に問いかけた。
「確かに名は残るだろうか、それは悪口を言われる存在としてだ」と巫女から神託を受けた彼は、大いに不機嫌になり、神託の書かれた紙を破ったという。
そして、彼には残念な事に、神託は当たり、彼は後の世で勢力を広げたキリスト教徒達から、キリストの敵であるペテン師として、悪口ばかり言われるようになったそうである。
確かに彼の能力は、キリストと似ているような感じがする。
伝説によると、彼は死者を蘇らせたり、千里眼によって物事の様々な真実を見抜いたのだという。
また、ある時、彼の友人でもあった、弟子のメニップスが紹介してきた花嫁を、アポロニオスは即座に吸血鬼だと見抜き、さっさと別れるよう、警告した。
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しかしメニップスが花嫁の方を信じたので、仕方なくアポロニオスは、 結婚式の場に登場して、自身の魔術により、その場のご馳走などが全て、吸血鬼女の幻想であった事を明らかにし、彼女に、メニップスを食らうつもりだった事を白状させたのだった。
ただし、この話は、人間に真剣に恋した吸血鬼の恋路を、頭の固い哲学者であったアポロニオスが邪魔した、というような話として語られる場合もあるという。
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