「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応

風切り羽

空を飛べる生物

 昆虫を除けば、空を飛ぶ能力を得た生物は、脊椎動物の爬虫類哺乳類、そして鳥類(aves)だけと思われる。
 滑空を、飛ぶと言うなら、魚類のトビウオや、両生類のカエルも飛ぶと言うべきかもしれないが、それはなしと考える。
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 空気中を漂うのを、飛ぶと言うなら、微生物や植物にも飛ぶ者がいる事になるが、それもなし。

 昆虫と爬虫類の(既に絶滅してる)翼竜。哺乳類のコウモリ、そして爬虫類から誕生した恐竜から誕生した鳥類のみが、獲得した「飛ぶ」とは、空中に浮きながら、自在に行きたい方にいけるという意味での、『飛行能力(flying ability)』。
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 そして鳥類、鳥は、そのような飛行能力を会得した生物の中で、最もよく知られたグループである。
 また、猛禽類などは、現生する飛行生物の中でも最大級として知られている。
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そもそもなぜ飛べるのか?

アルキメデスの原理

 むしろ水中で考えてみたらわかりやすいかもしれない。
単純に水に浮くものと沈むものの違いは何か?
その物体に動きがないならば、水に沈むかどうかは、その物体がどのくらいの重さかによる。
水のような流体は、一定の範囲を押しのけられた場合に、その奪われた一定の範囲を取り戻そうとする。
 つまりそこに圧力が生じる訳だが、この圧力こそが水の浮力の正体である。
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 そのような押しのけられた流体の圧力は、押しのけられる流体の重さが大きいほどに強くなる。

 というような原理があるが、これを『アルキメデスの原理(principle of Archimedes)』と言う。

気嚢(きのう)システム

 実は空気でも同じ事である。(つまり空気は流体だから)
ただ、水に比べたら空気の方が軽いから、同じ量押しのけたとしても、空気の浮力は、水よりもかなり弱い。

 それでも軽い物なら、アルキメデスの原理が働き、空気でも浮力を得られる。
 しかし空気より軽いなど、相当な軽さである。
鳥は見かけよりはだいたい軽い。
 鳥類には『気嚢(air sac)』 というシステムがあるのである。
これは、極簡単に言ってしまうと、骨などを空洞にし、空気の通り道とする事で、呼吸効率を上げると共に、全体を軽量化するというもの。
 これで鳥は、軽さと、空気の薄くなる空高くでも、平然と息をしながら飛べる訳である。

ベルヌーイの定理とエネルギー保存則

 しかし鳥は軽いと言っても、普通に空気はさらに軽い。
そこで、新たな発想を用いる。
下からの圧力が弱いのを補う為に、上からの圧力をさらに弱めるのである。
 
 既に述べたように空気とか風とかは流体である。
そして流体には、ある方向に加速した分だけ、その加速方向側面の圧力が弱まるという性質があるのだ。
 そのような性質というか、決まりを『ベルヌーイの定理(Theorem of Bernoulli)』と言う。
人は流体力学により、その理由を説明してきた。
 流体というのも、実はミクロ的には原子の集合体。
そして空気の圧力も、実はその原子ひとつひとつの合計の力である。
ここにまた『エネルギー保存の法則(The law of conservation of energy)』というのがある。
ある領域内のエネルギーの内部に変化があっても総エネルギーは変わらないという法則である。

 つまりベルヌーイの定理の理由はこういう事だ。
ある一定範囲を流れる流体があったとして、その流体の全体の圧力(エネルギー)の合計は、ある一点の方向の圧力が(加速して)高まっても、変わらない。
だから、強くなったある方向以外の方向の圧力は、保存法則を守る為に、弱まるのである。

翼上下の非対称性が鍵

 鳥類や飛行機の翼を見ると、その形は丸みなどがあり、上下には対称的ではない。
 これらのいずれの翼も、前方などに動いた時、風が吹き抜ける際に、上側の風速(流速)が、下側より早くなるようになっている。
それで、結果的に上側の圧力が弱まり、羽ばたきや、自身の加速と相まって、飛べる訳である。

(注釈)ベルヌーイの定理を実感する手軽な方法

 鳥を観察したり、飛行機に乗るより、ティッシュペーパーの1枚でも使ったらよい。
両手でもってぶら下げたティッシュペーパーのやや手前側の上方などから、息を吐くと、その息を吐いた方向の空気が加速する事で、圧力の弱まった手前側へティッシュペーパーは曲がり上がるはずである。

その鮮やかな羽、美しい声

羽毛について

 鳥類と言えば『羽毛(feathers)』であるが、この羽毛であるがはケラチンというタンパク質が主な素材である。
それは哺乳類の毛や、爬虫類の鱗と同じ。
 羽毛はまず間違いなく先祖である獣脚類恐竜(Theropoda)から受け継がれたものである。
いつ頃からか、おそらくはジュラ紀(1億9960万年前~1億4550万年前) くらいの次期に、獣脚類の中に、鱗を羽毛に変化させた種が現れ始めた。
 
 羽毛の構造は、流体力学的観点からすると、肌にくっついた鱗よりも隙間(空気の通り道)を作りやすく、飛行に向く。

 羽にはいくつか種類がある。
比較的丈夫な、翼となる『風切り羽(quill)』。
断熱効果の高い、ふわりとした羽。
ディスプレイとして使われる羽は、カラフルに色付けされてる場合もある。
 最初に獣脚類が獲得したのは、ふわりとした羽であっと思われる。
いきなり飛行能力を得ようとした進化だったのではなく、多分断熱目的だったのだと考える方が、明らかにありえそうだからだ。
 いわゆる羽毛を備えてはいるが、飛べはしなかったと考えられる羽毛恐竜の化石群が、その事を物語っている。

 ちょっと怪しいが、最初の鳥類候補でもある、ジュラ紀の始祖鳥も、滑空ぐらいしか出来なかったという説が有力である。

羽づくろい、衣替え

 羽毛はいろいろと便利なようだがデメリットもある。
断熱性が高い、暖かい。
それは微生物や寄生虫にとって快適な居住空間にもなるのである。

 それでたいていの鳥が、尾の辺りに、『尾脂腺(uropygial gland)』という、寄生虫避けの為の油を分泌する機構を持ち、嘴を使って、それを羽に塗りたくる。
 つまり羽づくろいをする訳だ。

 寄生虫から逃れる為に、水や砂と戯れる鳥も多い。
種によっては、アリを羽に招き入れ、寄生虫を掃除させる方法を取る事もあるという。

 また、多くの鳥が、年に一度のペースで、全ての羽を一新する。
つまり全部抜けて、新しく生える。
その事を『換羽(molting)』と言う。
 ガンやウミスズメなど、風切り羽を一時的に失い、一時的に飛べなくなる鳥もいる。

鳥のさえずり

 呼吸も食事も口を通して行う我々のような生物は、食べ物が食道でなく、気管に入ってしまう危険性がある。
そこで食べ物や飲み物が、気管に入るのを防ぐ弁の役割の『喉頭(larynx)』というものがある。

 鳥類を除き、喉頭は発声器官の役目も果たしている。 
 哺乳類の犬猫や鯨類、両生類のカエルなどは、この喉頭がよく発達しているので、立派な声を発せられるのである。

 人間は、喉頭を通常よりも下の方にする事で、口内や胸部の広い範囲を反響室として、自由自在に様々な声を出せるようになった。
ただし人間は代償として、喉頭の本来の役目である弁の機能が弱くなり、食事で窒息しやすくなってしまったらしい。
また、男性の場合、なぜかこの喉頭は脹らみ、喉仏を作る。

 そして鳥類だが、鳥類はこの喉頭を完全に弁としてしか使わず、代わりに『鳴管(syrinx)』という新たな発声器官を発達させた。
さらに、多くの鳥類は、気嚢による空気の豊かな振動で、その鳴管を震えさせ、バリエーション豊富な鳴き声を発する。

始祖鳥、鳥の起源(?)

鳥とワニは似てる

 ダーウィン(1809~1882)の「種の起源(On the Origin of Species)」が出版された1859年からわずか12年後(1861年)に、始祖鳥(Archaeopteryx)の最初の化石は発見された。

 それ以前にも、爬虫類と鳥類の類似性については、よく議論されていた。
『ふ蹠(Tarsus)』と呼ばれる鳥の足の膝や脛あたりには、爬虫類のそれのようなウロコもある。
はっきり言うなら鳥の足はワニに似ている。

 ダーウィンが種の起源を書いていた頃の、化石記録のレベルでも、爬虫類の歴史が鳥類よりはかなり古いらしい事は明らかだった。
地質年代的に言うならば(そして獣脚類恐竜を鳥類に含めないならば)、鳥類は、脊椎動物の中では、新参者の若造である。

翼竜よりもずっと鳥

 ハトより少し大きいくらい。
トカゲを思わせる全体像。
鞭のような長めの尾。
かなり翼になっている長い前肢。
 1860年代当時には既に発見されていた、空飛ぶ古代爬虫類、翼竜とは明らかに違う。
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まさに空飛ぶ爬虫類である翼竜に比べて、それはまさに鳥だった。
羽毛に包まれた翼を持つ、やや爬虫類ぽい鳥であった。

 ドイツ南部ゾルンホーフェンの採掘場で発見された始祖鳥は、ヘルマン・フォン・マイヤー(1801~1869)によって報告されたという。

 しかし進化論が多くの生物学者に嫌われていた当時、始祖鳥は単に変わった鳥だと考える人が多かった。
 1863年には、著名な古生物学者であるリチャード・オーウェン(1804~1892)が、「それは紛れもなく単なる鳥」だと述べた。
この人は「dinosaur(恐竜)」という言葉を発案した人でもある。
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 しかし常識的に考えるなら始祖鳥は進化論の証拠であり、爬虫類と鳥類の間のミッシングリングになりうる生物であった。
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羽毛恐竜

 大量の進化の痕跡を認めなかった頑固な生物学者の典型であったオーウェンに代わり、始祖鳥は紛れもなく爬虫類と鳥類を結ぶかもしれない生物だと考えたのは、トマス・ヘンリー・ハクスリー(1825~1895)であった。
 平和主義者気味なダーウィンと違い、進化論を庇護する為に争いも辞さなかったハクスリーは、1868年の論文で、オーウェンを大いにバカにしたという。

 そして恐竜が、鳥に進化したという説は、20世紀末頃から羽毛の痕跡を持った恐竜化石が、発見され出した事から、現在ではより強力な説になっている。

 ただし羽毛恐竜の羽毛の痕跡とされているものは、単に羽毛ぽい皮膚や毛の痕跡にすぎないのではないかという指摘もある。
今、我々は、哺乳類の毛と羽毛くらいしか、毛を知らないが、そういうものが便利なら、1億年以上も大繁栄した恐竜の中にも、そのようなものを持つ者が現れても、何も不思議はないであろう。

鳥類進化。もうひとつのシナリオ

 しかしここにひとつ疑問がある。
それは始祖鳥が発見されたのがジュラ紀の地層であるという点である。
 そして羽毛恐竜の多くは白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)の地層から見つかっている事だ。

 普通に考えるなら、始祖鳥は爬虫類ぽい鳥で、羽毛恐竜は鳥っぽい爬虫類である。
つまり進化の順番的に、「恐竜→羽毛恐竜→始祖鳥→完全な鳥」というように続いているはずである。
 どうも始祖鳥と羽毛恐竜は発見される地層を間違えてはいないだろうか?

 という訳でこんな説もある。
実は、鳥類は恐竜に進化したのではない。
鳥類は恐竜と共通の祖先から分岐進化した生物グループだという説。
 時代の前後関係なく、鳥っぽい恐竜と、恐竜っぽい鳥がいるのは当たり前である。
それらは収斂進化なのだ。

 この説にはもうひとつ重大な根拠がある。
それは三畳紀(2億5100万年前~1億9960万年前)には、既に獣脚類含む竜盤類グループと分岐していた、鳥盤類というグループに属する恐竜にも、数は少ないものの羽毛の痕跡らしきものが見つかっている事である。

 恐竜が三畳紀に既に羽毛を持っていたとは考えにくい。
だから後に鳥盤類恐竜が獲得した羽毛は、まず間違いなく収斂進化の羽毛である。
なら竜盤類恐竜の羽毛も、真の鳥との収斂進化だった可能性はあるのではないだろうか。

今後の鳥類と恐竜研究

 ただ、鳥類誕生がいつ頃の事にしろ、類似性から考えて、鳥類と爬虫類が別れたのが、哺乳類と爬虫類の分岐よりは後だろう事は間違いないと思われる。

 普通に現在考えられてるように、トカゲやヘビとカメの分岐よりも後、最も早い段階で考えたとしても、ワニの分岐の頃かと考えられよう。
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 問題は、ワニと恐竜が分岐する時に、鳥類の祖先も誕生したのか、もっと後に恐竜が鳥類になったのか、という事だ。
今後、様々な種類の恐竜に羽毛が見つかる度に、特に鳥盤類の恐竜にもっと見つかったならば、それは「羽毛の獲得」という進化がごく珍しいものでない事を意味するであろう。
 鳥類と恐竜を巡る謎はさらに深まる事と予測出来る。

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