「アトランティス」大西洋の幻の大陸の実在性。考古学者と神秘主義者の記述。

幻の大陸

大西洋の失われた大陸

プレートテクトニクス

 プレートテクトニクスの理論(大陸移動の説)が一般的になってから、かつて海に沈んだ(失われた)大陸の強力な証拠とされていたものの多く、例えば、「陸地のような海底地形」、「山で見つかる水生生物の化石」、「海に隔てられた複数の大陸のどちらでも見られる同系統の生物種」などについての一般的な見方もかなり変わったろう。
おそらく、地質学の研究が進み、地球の年齢が、以前に考えられていたよりもずっと長く見積もられがちになったことも重要と思う。
実際、(例えば聖書を参考に)地球が造られてから、まだ数千年か数万年程度の時間しか経過していないのだとしたら、原因はともかくとして、先に挙げた各証拠を説明するのに、古い伝説にあるような急激な大陥没(あるいは隆起)を想定する必要もあるかもしれない。
プレート地図 「プレートテクトニクス」大陸移動説からの変化。地質学者たちの理解の方法 「ムー大陸」沈んだ理由、太陽神信仰の起源、忘れられた世界地図、機械仕掛けの創造宇宙

プラトンのティマイオス、クリティアス

 大西洋上に、かつて存在し、しかし海に沈んで消えたとされているアトランティス大陸の伝説の起源は、古代ギリシャの哲学者プラトンに遡ると考えられている。
プラトンは、『ティマイオス』、『クリティアス』という、自然の説明、解釈をテーマとしているような対話篇で、アトランティスという、かつて存在したらしい大陸の話を紹介した。
それらの対話篇自体は、主にティマイオス、クリティアス、ヘルモクラテスなる人たちが、ソクラテスに「いろいろ語ろう」という内容だが、クリティアスのおそらく途中(というより最初の方)までしか現存していない。話の流れから言って、おそらくさらに続きとして『ヘルモクラテス』があったと思われるが、それも残っていない。
「プラトンの哲学」書評、要約。理想主義か、知的好奇心か
 曰く、ギリシア七賢人(伝説的な7人の哲学者たちらしいが、メンバー構成には諸説ある)の中でも第一人者のソロンが、その実在を保証しているらしい。ソロンは、クリティアスの曾祖父ドロピデス(先代クリティアス)と親族の関係で、そしてソロンから聞いた話を老祖父からさらに聞いたクリティアスがさらにソクラテスに語るというのが、対話篇の内容(アトランティス関連の話は、基本的にクリティアスの語りだが、実は失われたヘルモクラテスの部分でも、それについて触れられていた、という陰謀説も一応ある)
曰く、ソロンは、エジプトの、ナイル河の分岐する頂点にあたるサイス州で、アテナイ(ギリシア人の国家)が非常に尊敬されていることを知って、理由を聞いてみた。すると、エジプトの神官は教えてくれた。これまでに何度か人類は滅びかけてきたが、その最後の大災害により、アトランティスという大陸(あるいは大きな島)が沈んだ。そしてアトランティスには、強力な国家があり、世界征服を成し遂げそうだったが、その進撃を初めて止めたのが、古代アテナイだったのだと(ようするに、アトランティスは、もしそれが架空の国だったのだとすれば、ギリシャ人の古代の国の偉大さを表現するための、引き立て役の敵国)。
ちなみにアトランティスという名は、ギリシャ人にわかりやすいようにした翻訳の産物で、厳密には違う名称らしい。

 アトランティスが大西洋にあったというのは、「ヘラクレスの柱(ヨーロッパ大陸とアフリカを隔てるジブラルタル海峡の地中海から大西洋への出口にあたる岬)の前方にそれがあった」というプラトンの記述が最初の根拠。同じく、それがが一夜の大洪水で海に消えたというのも、プラトンの記述にすでに見られる。

フィクション説。風刺か陰謀か

 そもそも「ティマイオスやクリティアスは、プラトンのフィクションだから、アトランティスもフィクション」という主張も時にあるが、別にプラトン自身が「この話は私の創作」とはっきり述べている訳ではない。
対話という形式も、文字を読むのが苦手な人たちに語って聞かせる場合に、理解しやすいというメリットもある。

 1つ興味深いことに、「アトランティス伝説などフィクション」と主張した最初期の人物のひとりは、プラトンの弟子だったアリストテレスともされる。
どうも彼は、「アトランティス神話は、単に戦争ばかりのギリシアの者達に対して、堕落を戒めるために、プラトンが創作した物語にすぎない」というふうに主張していたらしい。
「アリストテレスの形而上学」第一原因を探求。哲学者の偉大なる挑戦
 アリストテレスに関しては、別の説もある。それはよくあるような陰謀論。
おそらくは偉大な師への嫉妬のため、アリストテレスは、アトランティス神話の事実を隠蔽した、というような。
つまり、実のところプラトンは、全三編の対話篇をしっかり完成させていたが、アリストテレスが、二篇目(クリティアス)の後半と、三編目(ヘルモクラテス)を隠匿いんとくしてしまった、とか。

文明一元論。幻の大陸文明は全ての起源か

 人類最初期の文明とされる、シュメールやメソポタミアやエジプトの、さらに前に、すでに(後に他の全文明に派生していく)文明と言えるような何かがあった、という説がある。幻の大陸アトランティスは、まさにその文明の真の発祥地とされることもあった。
その大陸は、海で閉ざされていたアメリカ大陸と旧大陸の間にあったとして、アメリカ側の文明の起源にもなったという、ある種の一元説を唱える人もいる。
例えばアステカ人たちの神話における、彼らの先祖の故郷らしいアストラン(Aztlan)というのは、実はアトランティスの事だとも言われる。ただ名前の発音的な近さに注目するなら、まずアトランティスというのが、おそらくそもそもプラトンがギリシア風に変えた名前であることには注意である。
また、新旧両大陸の様々な地域で語り継がれる洪水神話も、アトランティスを襲った悲劇の記録なのではないか、という説がある。しかし、そもそも農耕を軸とした定住社会は水辺で始めるのが簡単でもあるだろう(そして、古代の人たちにとって、大洪水はどれほどに恐ろしい災害だったか)
古代エジプトの歴史 「古代エジプトの歴史」王朝の一覧、文明の発展と変化、簡単な流れ 「マヤ文明」文化、宗教、言語、都市遺跡の研究。なぜ発展し、衰退したのか
 イグネイシャス・ドネリー(Ignatius Loyola Donnelly。1831~1901)の『Atlantis: The Antediluvian World(アトランティス。以前の世界)』は、上記のような、文明一元論的なアトランティス観を広めた有名な本であり、よく参考にされている印象。

後世に付け加えられたファンタジー設定

 19世紀くらいからは、エドガー・ケイシー(Edgar Cayce。1877~1945)などのオカルティストにより、アトランティス大陸は飛行船や潜水艦のような機械技術すら有していた、という(多分)妄想もよく語られるようになった。
離陸 「航空管制の仕組み」流れの管理、飛行機が安全に飛ぶために 潜水艦 「潜水艦の構造と仕組み」空気と海水。浮力と推進力をいかに得るか
 アトランティス大陸の国では、オリハルコンという、(少なくとも当時の人達には)未知の金属が利用されていた、という話は、プラトンも言及している。しかし後のオカルティストたちによると、そのオリハルコンこそ、まさしく超技術を可能にする魔法の金属だったそうである。

 しかし飛行機や潜水艦を有するほど高度な文明が、島が沈むのに合わせ、ついでみたいに全部滅んでしまうだろうか。
オリハルコンは、アトランティス大陸でしか使えない、という制約でもあるのだろうか。

プラトンが紹介した物語

 対話篇の内容を文字通りに受け取るとするなら、アトランティスについて語ったのはプラトンでなく、彼の師ソクラテスの友人たちである。彼らはまたソクラテスの弟子でもあるらしいから、もし実在した人物というなら、プラトンの同門のなかまということになる。
また仮に、彼らが、プラトンが創作したキャラクターなのだとしたら、ティマイオス、クリティアス、(それに現存してはいないが)ヘルモクラテスは、それぞれ自然世界の異なるスケールでの哲学を論じるというような構成だったようだから、この3人はそれぞれプラトンの3つの興味の具現化というような演出なのかもしれない。

 対話篇に登場する者たちがみな実在の人物だとするなら、プラトンは、現代で言うなら、様々な研究者の興味深い発見を幅広い人たちに伝える、ポピュラーサイエンスの書き手のような存在でもあったろうか。
アトランティスと、それと戦った偉大な古代国家のアテナイの話も、ある種の興味深い研究成果だったのだろうか。

 また、すでに述べたように、クリティアスの記述はおそらく序盤しか残っていない。アトランティスに関する記述も中途半端である。

そもそも対話編は科学的だったか、神秘主義だったか

〔(クリティアス)……人類の滅亡ということは、いろいろの形でこれまでにも多々あったことでもあり、今後もあるだろう……大地をめぐって天を運行するものの軌道の逸脱と、長期間をおいて間々起こる、大火による地上の事物の滅亡……他方また、神々が洪水を起こして大地を水で浄めるような……
しかしながら事実として、過度の寒さや暑さが生存を邪魔しないなら、多かれ少なかれ、いつもどこにも、人間の種族は存在している〕
ここで、天の運行の狂いの結果による地上の災害を、占星術的な考え方で認識することもできるかもしれない。しかし、隕石の衝突のようなものと推測することもできるだろう。
ただ、プラトンがどのような立場だったにせよ、彼はその点(天の運行の狂いによる悲劇?)をクリティアス(正確にはエジプトの神官)に語らせる際、先に「ヘリオス(太陽)の軌道に勝手に馬車を乗せたが、うまくコントロールができずに、大惨事」となった神話の一説を持ち出し、それは史実が神話の形として残ったものとしている。
プラトンは、神話というものの、少なくともいくらかを、説明可能な自然現象がまだ理解できなかった人たちの空想みたいに考えていたようである。ここでの場合、天の運行の影響が、例えばマクロコスモスとミクロコスモスの対応というような、現代の人から見るとオカルト的な内容であるとしても、当時は1つの世界システムとして一般的に科学的だったかもしれない。なにしろプラトンは、ニュートン(Isaac Newton。1642~1727)の登場よりもほとんど2000年くらい前の人である。
「ニュートン」世界システム、物理法則の数学的分析。神の秘密を知るための錬金術
 実質的に彼の最後の作品になったのだと思われる三部作(?)の対話編は、この世界そのものがテーマであるような印象も強い。プラトンなりの物理学や生物学的な仮説を踏まえて、宇宙そのものの構造の起源を考察しているというような(おそらく重要なことは、彼が、本の内容に関して、決してオカルトでなく、学術的に考えていた可能性が高そうなことだ)
アトランティス大陸というのは、そのような本の中で語られている伝説なのである。本当に全てが創作の産物だったのだろうか? 海に沈んだ巨大な大陸ではなかったとしても、元ネタとなった何らかの史実があったと考える人が多いのも、それほど奇妙でないと思う。

世界征服しようとした強大な国家

〔(クリティアス)……(※エジプトで大事な保管されてきた古代記録の)文書は、とてつもなく大きな勢力の侵入を、あなた方の都市がかつて阻止した史実を語っているが、これは、外海アトラスの大洋(大西洋)を起点とし、一挙に全ヨーロッパとアジアに向かって、押し渡って来ようとしていたものだ。当時、あの大洋は渡航可能で、あの大洋には、あなた方が「ヘラクレスの柱」と呼んでいるものの先に、1つの島があったのだ。この島はリビュア(アフリカ)とアジアを合わせたよりもなお大きなものであった……
さて、このアトランティス島に、諸王侯の強大な勢力が出現し、その島の全土はもとより、他の多くの島々と、大陸のいくつかの部分を支配下におさめ、加えて、海峡内のこちら側でも、リピュアではエジプトに境を接するところまで、またヨーロッパではテレニアの境界に到るまでの地域を支配した……たがその時、ソロンよ、あなたの都市は……その勇気と強さを持って、あらゆる都市の先頭に立ち……侵入者を制圧し、勝利の記念碑を建て、強大な国家に隷属せられていた者たちを自由にしてやったのだった〕

 15世紀くらいに、ヨーロッパ人たちがアメリカ大陸を発見した時、新大陸とも呼ばれたその広大な大陸が、まさに「プラトンの語っていたアトランティスなのではないか」という説もよく議論されたようであるが、「アジアとアフリカを合わせたより」とかいうようなスケールの話なら、無理もない。
しかし、またクリティアスの話を信じるなら、このアトランティスというのが、全ての文明の始まりの地、場合によっては人類が誕生した土地だというような、後世の考え方は、ちょっと奇妙かもしれない。
そもそも人類世界がこれまでに何度も滅びかけているとしたら、アトランティス大陸はその最初でなく何度目かだったのでなかろうか? それに強大なアトランティス国家は、世界征服を行おうとしたようだが、つまりアトランティスとは別にあちこちに国もあったはず。後にムー大陸を有名にしたチャーチワードは、「その始まりの地(彼によると、それはアトランティスではなく、太平洋に存在するムー大陸であったが)の巨大な国家は他の全ての土地を植民地としていた」というように語ったが、少なくともプラトンの話では、アテナイなるという都市国家はその支配を免れている感じである。

神々と、大地の分配の謎

 (宇宙そのものの構造、存在理由などについて考察しているようである)ティマイオスには、物事の創造に神々と言えるような存在が関わっていると思える記述もあるが、その神々も含めた世界、この宇宙すべてが、ある種の機械仕掛けのような印象も受ける(神話についていくらか懐疑的なところも見られるが、結局どのように考えるのが正しいのか)。
地球は惑星というよりも、宇宙の中の大地と呼べるような領域(これは、古代ギリシア哲学における考え方として、かなり一般的だったと思われる)。生き物が生まれて、生きていくその大地は、どのように造られて、そして分けられたのか。
大地が浮かび上がる様子 「ギリシア神話の世界観」人々、海と大陸と天空、創造、ゼウスとタイタン
〔(クリティアス)……さきほどぼくは神々の国土分配について、「神々は全大地を大小さまざまの地域に分配され、自分のために社と生贄を準備された」とお話ししたが、ポセイドンもまた同じようにしてアトランティス島を受け取りたまい、人間の女に生ませた自分の子どもたちを、この島のつぎのようなところに住まわせたもうた。すなわち海岸から島の中央部にかけて平野があって、それは世界中のどの平野よりも美しく、たいへん地味の肥えたところだったという……大地から生まれた原住民のエウエノルと妻のレウキッペに、クレイトオというひとり娘があった。両親が世を去ったとき、この娘はもう婿をとる年ごろになっていた。そこでポセイドンは彼女への欲望に駆られ、いっしょになりたもうて、彼女の住む丘のまわりの大地を砕きとり、海水と陸地からなる大小の環状帯を交互にめぐらし、丘のまわりをお囲みになった。つまりポセイドンは、島の中央を軸として、二つの陸地環状帯と三つの海水環状帯とを、輪のようにぐるりとめぐらされたわけだが、これらの環状帯はどこも等しい幅となるようにつくられていたから、人間どもは真ん中にある島「クレイトオの住まい」へは渡って行けなかった。その当時は船もなかったし、航海術も知られていなかったから。次にポセイドンは、神だから、当然のことではあるが、地下から二つの泉(その一方は源より温水が、他方は冷水が湧きでるもの)をもちだしてこられたり、大地にありとあらゆる作物を豊富に実らせたりして、この中央の島をいとも容易に飾った。
ポセイドンはまた五組のふたごの男の子を生み、育てられた。そしてアトランティス島全体を一〇の地域に分けたまい、最年長のふたごのうち、さきに生まれた子に、母の住まいと、その周辺のいちばん広いもっとも地味の肥えた地域を分け前として与えて、かれを他の子どもたちの王として立てた。他の子どもたちには、それぞれに多くの人間どもを支配する権限と広い地域からなる領土を与え、その領主とした。かれは子どもたち全員に名前をおつけになったが、そのさい、初代の王となった最年長の子におつけになった名前が「アトラス」だった。だから島全体も、その周辺の海も、「アトランティコス(アトラスのもの)」と呼ばれるようになった〕

 神という存在についての、興味深い記述の1つではある(魔法のような特殊な力よりも、むしろ人間の女に惹かれることで、人間の子、あるいは特別な人間の子たちを生ませるというのは、つまりどういう存在か)が、それはともかくこの辺りの記述からも、アトランティスが一番初めの人類の土地というような印象はあまりないのでなかろうか(最初の土地だとしても、これだけが最初の土地ではないように思う)。

幻の金属オリハルコン

 曰く、王たちの統治のもと、アトランティスの民たちは、中央都市(メトロポリス)を囲む海水環状帯に橋をかけ、王宮に出入りする道をつくった。
また、張り巡らされた水路網が、外海を行き来するどんな巨船でもらくに入れる広さの、港に繋がっていたそうである。
アトランティスには豊かな資源があって、それが国家の強力な基盤となっていた(例えば「ゾウのような大型動物もたくさんいた」というような記述が、おそらく後世における、アトランティスにマンモスが生息していたという説にも繋がったのだと思う)。
現在の我々の興味をひきがちなのは、やはり失われた大陸と同じように、失われてしまった金属らしい”オリハルコン”の記述であろう。

〔(クリティアス)……かれらが莫大な富を所有し、諸施設を完備しえたのは、かれらの支配権のゆえに海外諸国からかれらのもとに多量の物資が寄せられたからだが、それだけでない。まず生活に必要な諸物資の大部分がこの島には最初からあった。硬・軟両質の地下資源がことごとく採掘され、そしていまはただその名のみが伝わる「オレイカルコス」の類いは、そのころ金につぐ貴重な金属でありった〕

 もちろん、アトランティスに飛行機械のテクノロジーがあったとかは、それこそ後世の創作と思われるが、その強力なテクノロジーの核的な役割を果たしていたとされる謎の物質オリハルコンについても、後世の後付けは過剰かもしれない。
ただ、「金に次いだ貴重な金属」ということはわかっていても、実際どのような性質を持っていたかは完全に謎(どうとでも後付けしやすい)と言える。プラトン自身が、それは名前しか残っていないと書いているわけだから。

シュリーマンの秘密の研究。伝説の捏造の典型的な例

 古代ギリシャの伝説的な都市であった、トロイアの遺跡を発見したことで有名な考古学者シュリーマン(Johann Ludwig Heinrich Julius Schliemann。1822~1890)が、それを表に示すことはなかったものの、アトランティス大陸の謎に強い関心を持っていた説がある。
彼が、アトランティスという国家が古代に確かに存在した、ということの強力な証拠を発見したが、しかし生前に公表はしなかったらしい。という話が、アトランティスに関して肯定的な本で時々見られるのである。
しかし、どうもこれは、いたずら好きなジャーナリストの捏造記事が発端の、噂話にすぎないようである。

 問題の記事は、怪しげなオカルト雑誌とかでなく、アメリカの普通の新聞「ニューヨーク・アメリカン」の1912年10月20日の号に掲載されたもの。自称ハインリッヒ・シュリーマンの孫であるパウロ・シュリーマンが、偉大な考古学者が親族にだけ伝えていた衝撃の真実を公表するという形。
その内容は以下のようなもの。
〔私の祖父ハインリッヒ・シュリーマンは1890年、死の数日前、封印した包みを親友の一人に渡し、ナポリで保管してもらうように頼んだ。包みには「この包みを開けるのは、わが家族の誰かが、ここに書きつけられた指示による仕事の継続に、生涯を捧げることを誓った場合にのみかぎられる」と上書きしてあった。
死の一時間前、祖父はエンビツと紙をくれるように頼み、ふるえる手でようやく書いた。「封印された包みへの附言。フクロウの頭のついた壺を砕け。中に含まれるものを調べよ。それはアトランティスに関するものである。サイスの神殿の廃墟から東にあたる場所と、シャクンの死者の野とで発掘を行え。汝はわが理論の正当さの証拠を見出すであろう。夜が訪れる。達者で」
このメモを祖父はさきの同じ友に渡し、これらはみなフランスの銀行に保管された。私は数年間ロシア、ドイツおよびオリエントで働いたのち、わが栄光ある祖父の仕事をつづける決心をした。それで1906年、私はついに秘密の包みの封印を破った。
現れた書類には次のように書かれてあった。
「この包みを開く者は、私が始めた仕事をうけつぐ誓いをたてなければならない。私はアトランティスがアメリカと西アフリカおよびヨーロッパとのあいだの領域を占めていたのみならず、われわれの共通の文化の揺籃でもあったという結論に達した……
……私ことハインリッヒ・シュリーマンは1873年にヒサルリックでトロイの廃墟の発掘を行い、二番目の層にすばらしいブリアモスの宝を発見したが、その発見された財宝のなかに驚くほど大きな青銅の壺を見出した。そのなかには小さな粘土の器や像、細かい金属細工、および石化した骨でできた品々が入っていた。その壺やこれらの品々のあるものにはフェニキアの象形文字で「アトランティス王フロノスより」という銘が書きこまれてあった……
……1883年、私はルーブルで、アメリカ大陸のティアワナコで発掘された品々のコレクションを見出した。それらのなかに私は同じ型の粘土の器や、石化した骨でできた品々を発見した。それらは私がヘブリアモスの宝から出た青銅の壺のなかに発見した品々とそっくりであった。このような一致は偶然ではありえなかった……
私はティアワナコに出土した幾つかの土器の破片を手に入れることができたので、化学的、顕微鏡的分析をおこなってみた。その分析の結果、中部アメリカの壺も、トロイの壺もともに同じ材料で作られ、その材料は古代フェニキアか中部アメリカか、いずれかから出たものであることがわかった。私は金属製の品々も研究に出し、分析の結果、それはプラチナ、アルミニウム、および銅の合金でできており、この合金は古代のどの国にも見当らず、今日でも未知のものであることがわかった。ブラトンが書いているオリハルコンでできているのではないだろうか?
……〕
と、このような調子が続く。まるで冒険小説のプロローグの手記のようである。

 この記事は他の言語にも翻訳され、世間の注目を非常に集めたそうである。シュリーマンの仲間の考古学者までが、彼の秘密の研究に関する質問に答えなければならなかったほど(その答は、記事の内容以上のことは、それ(シュリーマンのアトランティス研究)について何も知らない、というものだったとか)。

 基本的に科学的な研究対象としてのアトランティスを扱った本の多くは、プラトンの記述の(書かれた時代の)現代的解釈と、あとは文明一元論みたいな、(たいていアトランティスを持ち出さなくても、全体にあまり影響のない)作者の仮説の紹介にすぎない。ドネリーの有名な本も、明らかにその系統であるけれど、近代におけるアトランティスの研究ブームの火付け役になったために、それは今でも注目されがちな1冊となっている。
シュリーマンの捏造記事も(しかし仮にこれが捏造でないとしても)、たくさんの人に、アトランティスへの興味を持たせたとされる。そういう意味では重要であろう。

海底調査の初期の時代

 19世紀は、確かにアトランティス(というか海底に沈んだ大陸の)研究が加熱(あるいは再熱)した時代だったのかもしれない。
1882年に出版されたドネリーの本は、その内容のほとんどが、世界中の文化や神話の共通要素の考察であるが、当時における、最新の海底研究の成果も少し紹介されている。主にチャレンジャー号の(1872~1876年の)調査についてである。
チャレンジャー号の海底調査は初期のものとされる。以降も、各国の調査は続き、海底の凹凸な地形や、大気中で形成されたと思われる岩石群もたくさん見つかった。

 また1912年のシュリーマンの記事から半年経った頃、フランスの地質学者ビエール・テルミエ(Pierre Marie Termier。1859~1930)が、パリの海洋研究所でアトランティスに関する報告を行った。
彼は、海底で見つかった熔岩の破片が、間違いなく大気中で、熔岩流の上部においてのみこのような形に固まるもの、と述べた。
熔岩は、噴出が正常な気圧のもとで起るなら、タキライト(Tachylite。ある種の火成ガラス)と呼ばれる構造を作る。ところが熔岩は熔岩流の内部で、または1000~3000メートルの水圧のもとで冷えるときは、別の構造になる。
テルミエは、大西洋中央部のアゾレス群島から、北へ900キロの大西洋の底をなす地域はかつて陸であったに違いなく、しかも、それが海に沈む速度は(3000メートルの深海へ沈むまで、熔岩流による凹凸が維持されていたのだから)かなり急速であったに違いないと推測した。もし陸地の沈没がゆっくりだったなら、大気による風化や、海の波が、とがった縁をなめらかにし、全表面を平らにしたはずと。
テルミエは他にも、離れた大陸同士で共通している、生物種の化石などについての、生物学者の報告も参考にしていた。

 ピエール・テルミエは、アルフレッド・ウェーゲナーの大陸移動説に反対した権威の1人でもあったという。そして彼は、プラトンのアトランティスの物語が真実である可能性が高いと語った、有名な学者の最後の、または最後の方の人だったとされている。

大衆にとってのアトランティス

 失われた大陸というアイデアは、おそらくプラトン以前からもあったろう。しかし、そのような幻の大陸の中で最も有名なアトランティスについての、現存する一番古い情報源がプラトンというのは、立場に関わらず大多数の共通する意見である。
もしも、そのアトランティスなる幻の大陸がプラトンの創作だったなら、以降の(大量にある)全ての情報も、単なる二次創作みたいなものなのであろうか。

 古代の記録の中で有名なのは、例えば(謎の人物であり、彼の記述も引用でしか知られてないが、どうも1世紀頃ぐらいの人らしい)マルセルス(Marcellus)という人のもの。彼は外なる海、すなわちアトランティス洋に存在していた7つの近寄り難い鳥の記録を書いたとされる。それらの島の住民は、きわめて大きな鳥と考えられていた驚くべき国アトランティスの記憶を、少なくとも彼の時代まで受け継いでいたとか。

 アトランティスに比べれば、他に有名なレムリアとかムーとかは、比較的、近代に生まれた伝説である。それらが、アトランティスと関連付けられて考えられることも珍しくはない。
しかし、今でも失われた大陸と聞いて、多くの人がまず頭に浮かべる名前は、やはりアトランティスのようだ。
2013年には、日本とブラジルの共同の研究グループが、大西洋の海底に、おそらく陸地が起源と思われる大量の花崗岩(これもある種の火成岩)を発見した。この発見は、明らかにプラトンの語っていたアトランティスの発見とは言えないだろうが、日本でもブラジルでも、マスコミは記事の見出しに「アトランティス大陸発見」と平然と書いて、話題となった。

魔術と超科学。オカルティスト的なアトランティス

 失われた大陸の伝説に関しては、オカルティスト(神秘主義者)たちの関心も強いようである。
特にアトランティスに関しては、神智学会とか、薔薇十字会とかいった、オカルトコミュニティの教義の中でも、その伝説が語り継がれてたりする。
最初のプラトンの記述からは読み取ることが困難な、超科学や魔法の文明といったアトランティス伝説は、明らかに神秘主義者の世界観に由来している。
ただし彼らは、古代の記録を漁る考古学者ではない。彼らの重要な根拠は基本的に、時空の壁を無視する光を捉える千里眼による直接的な観察とか、アトランティス人の幽霊に貸した自身の体に語らせたり、書かせた記述などからきている。
音楽魔術 「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎 アカシックレコード 「サイコメトリー」実在性と仕組み。人智学と神智学の機構
 千里眼とか幽霊とかに頼る研究を、信用するのは難しい。普通に、超能力とか霊魂とか自体の、存在の根拠があまり強くない。
しかしSF的なお話としては、興味深いと感じる人もいると思う(ただし、語り手ごとのバリエーションがそれほどあるような感じではないが。もっとも、普通の創作においても、テーマが同じならば、作者が違っても似たような話が多いだろう)
以下、1つの例として、神智学の系譜にいるらしい、有名な予言者エドガー・ケイシーの言葉をいくらか紹介しておく。
(ケイシーは、1877年3月に、ケンタッキー州ホプキンズヴィルの農場に生まれ、幼い頃から不思議な知覚力を有していたという。彼は教科書を額の上にのせて眠ることで、その内容を記憶する術をあみ出し、学校の成績を上げた。
1898年、21歳の彼は、文具のセールスマンとなっていた。この頃から喉の筋肉が徐々に麻痺し始めて、物理的にあまり喋れなくなっていくが、原因は不明だった。しかし少年時代と同じように催眠によって自らの症状を克服する術を学んだ彼は、見事に声を取り戻す。
それから彼は超能力を使う医者となって、数多くの患者を治療したらしい。
一方でまた彼は、その第六感的な認識により得た、世界の様々な情報をよく口述し、(リーディングと称されている)その速記録を残したのだが、アトランティスに関する彼の話は、基本的にリーディングの中にある)

「……人間が地球に住んだこの時以来、多くの陸がこの時代に現われては消え、現われては消えた。その時代に、今はサハラ、チベット、モンゴル、コーカサス、ノルウェーとして知られるもののみ、アジア、ヨーロッパに現われていた……
地球上の当時の人間の魂の数は1億3300万人であった。今からさかのぼって世界の存在した時代は1050万年前のことである。人が天体の長となって地球に出現した時、人は同時に五つの場所に、五つの感覚、五つの理性、五つの天体、五つの発展、五つの国を持って出現した」
「創世記として知られる初めの時、カルパチア、コーカサス、あるいはエデンの園において、今は多くが砂漠となり、また多くが山岳となり起伏に富む地形となっているその地において、最北端は当時南部であり、つまり極地が当時は熱帯、亜熱帯域を多く占める所となっていた……大西洋海岸沿いの地方がアトランティスの外辺部、底地を当時作っていた。アンデス山脈、南米の太平洋岸はレムリア大陸の最西部を占めていた。ウラル山脈とその北部は熱帯地となっていた。モンゴル砂漠はまだ肥沃であった……
アトランティスに起きた激変と、極の転換に伴い、南方に移住する人たちがいた。白人と黄人はエジプト、ペルシア、アラビア、インドの方に多く移った」
「約9万8000年前に、アトランティスに一人のアミリウスが住んでいた。彼は地球のその場所に住んでいた者たちが別々な実体、あるいは個人となって男女に分かれるのを見た最初の人であった。物質的意味でのその体形について言うと、これらはむしろ念体の性質を持ち、想念によってその発達が形をとる方向に自分を押し出すことができた。今で言うと、淀んだ入江や湖に住むアメーバの方法にも似ていた。これらが物質的な状況をその身に付け加え、形成しようとの欲を満たすことによって形をとるにつれて、今でいうカメレオンの如き仕方でその環境を帯びた色を伴い、当時の人体の形に固まり始めたのである」
「神の子らが、地上界における人間の物質的出現について共に集まり議論した時、この実体は全世界への使者として選ばれた人々の中にいた」
「この国に動物界からの侵略がなされる時代が始まった。これが、彼らを退治するための国際会議を召集させることになったのである。そうしなければ、人間が動物に侵略されることになったからである。この動物界の侵略が、人類をして破壊兵器の開発に向かわせ、この時代に携帯爆弾が開発され、人類は多くの場所を徘徊していたこれら動物の形を持つ者たちに対抗し始めた。次にこれら破壊兵器に伴って、さまざまな方法で肥えた人間を犠牲にするため祭壇の火が初めて使われ出し、人身御供がここに始まった」
「破壊兵器が開発され出す前のアトランティスで、この実体は空中も水中も航行できる破壊兵器の輸送に従事していた」
「(最初の破壊以前のアトランティス人に関して)その形について言えば、先ず動物界からの投射体であった者たちがいた。というのも想念の体が次第に形をとり、家畜や鳥、魚などの支配者、神として自分を分類する様々な力の結合が生じたからである。部分的には今の人間の形に似ていた。大きさも多く異なりがあって、小人から巨人までいた……最も役立つようになった人々は理想的な身長を持つ、両性具有の人々であった。この中でアダムは最も理想的であった」
「物質的人々の快楽のために霊的なものを使うことによって、大陸に最初の破壊をもたらした紛争に先立つ時代のアトランティスは、「神の子らが人の娘たちの美しいのを見た」と記されている世界であった。」
「発展しつつある中心地が他にもまだあった。というのも、投射は数多く始められ、影響力を生み出すという点では、今の人体と全く同じであったとは言い難いが、人間と呼ばれる形の結晶化、投射が五つの中心地で始められたからである。それで、ポセイディア時代に遡って解釈すると、これは幾つもの集団の内の一つにすぎなかったこと、しかもその特殊な時代における霊魂の地上滞在において最高の進歩の見られた場所であったことを理解せよ……
彼らは物質的なことをその源が何であるかも考えず、人の苦しみも考えずに自分のためのみに使うことに満足していた者たちである。換言すれば、今で言う道徳心に欠けた者たちだったのである。そのベリアルの子らは、自分以外、自我の満足以外何も基準を持たなかった」
「魂は定められた時に、神によって、あるいは外なる源によって精神的、霊的自己の投射体として生み出されるものである。これは神の掟の子らの基準であったが、しかしベリアルの子らには無視された」
「アトランティスで神の掟が退けられ、ベリアルの子らが台頭し始めた時代、彼らは神の掟の子らに対抗して建造された神殿の巫女であった。太陽光が結晶体に向けられて高圧の放射力が生み出され、地球内部の力との接がりを作った時代である」
「アトランティスでその地に破壊や分裂が起きてきた最初の破壊期に、その実体は地球内部各所の火を誘う爆弾の製造を助け、これが破滅の力と化した」
「当時の名をディアルと言う。その実体は、情報を記録し、それらの力を誘導することを仕事としていた。これらの力は、太陽光を結晶体によって増幅し、それらを結合したものであった。
これは我々が今、光や熱、動力、放射活動、電気的結合、蒸気、ガス等と称するものに使われていたのである。このディアルは、こうした力を食物や着物を生産する者たちの生活の一部に組み込もうとしたのである。今でなら機械人間とでも言うべき者たちのためにである。
ベリアルの子らが持ち込んだこうした装置の使用が最初の爆発を招くことになり、あるいは神の掟の子らによって使われていた太陽光をそのことのために結晶体に誘導することになったが、それが我々の言う火山噴火を招来した」
「アトランティスで知識の誤用を招いた反逆の最初のものが起きた時代、建設的に用いられたはずの力が破壊活動に使われた時代に、その実体は他の国々に増大していた動物を殺そうと破壊兵器を引き出したベリアルの子らに加担した」
「その地の人々により優れた便利さを活用する方法、手段が大きく拡大されていた時代のアトランティスで、今でいう航空機などの輸送機があったが、これらは空の船というべきものであった。空中のみならず他の元素の中も同様に航行したからである。」
「人々が宇宙諸力の法則を理解していた頃のアトランティスにおいて、その実体は宇宙を通して他国に情報を伝えることができた」
「ポセイディアと呼ばれる地で、その実体は神殿の音楽家として楽器から生み出されるあらゆる種類の音を奏でた。文明は物質的には我々よりも優れていて、その人はその地の人々から讃えられるほどの地位にいた」
「より高度な文明が開いた時代のアトランティスで、その人は心理学的思想と研究の、特にエーテルを通しての想念伝達の教師であった」
「アトランティスのペオスという町で、その人は生命の夜の側あるいは地球における否定的力を応用する知識を得た人々の中に、またその時代の人々に声や音や映像といったものを送る手段に多くの知識を得た人々の中にいた。」
「ポセイディアで、その実体は大結晶体からの動力を貯める役の人々の中にいた。光線は濃縮されて海上や空中の船を誘導し、テレビや、録音にも使用された。」
「場所から場所へと飛行機で輸送し、遠くから写真をとり、遠くからでも壁を通して文字を読み、重力そのものを克服し、恐ろしく巨大な水晶体を操る電気的力が発展した時代のアトランティスで……この多くが破滅をもたらした」
「アトランティス第二の破滅期に、その実体は他国に逃れる人々の助言者であった。」
「国の第二の爆発あるいは異変の後に人々の活動を再建せんとの試みがなされた時代のアトランティスで、その実体は電気的力を物理的に応用した」
「第三の崩壊前のアトランティスで、その実体は記者アルタが国の歴史をまとめるのを助けた」
「ポセイディア、アトランティスの最終的崩壊が迫っていることを神の掟の子らが知ったことによって、多くの指導者たちが様々な国に移住を始めた。」
「国民と王家とアトランティスからの移入者たちとの間で紛争の起きた時代のエジプトで、その実体は後に神官の再起に伴い、すでに犠牲宮を通して付属物を体から除き去った人々と精神的な関わりを持つ「物」たちの治療を美宮と犠牲宮において助けた」
「再建期のエジプトでその実体は犠牲宮で、アトランティス人が提供した装置を使って活躍していた。そこでは体の付属物や、脳に反応を起こさせるそれらのものを除去するための電気的な力が使われていたのである。」

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