「クトゥルフ神話」異形の神、生物の伝記。宇宙的恐怖のための創作神話

目次

創作ながら、多くの人に愛されてきた神話体系

 ファンタジー小説の世界観において参考にされる様々な神話や民間伝承。
クトゥルフ神話はその中にあって、普通にそれ自体が創作されている伝説だということがわかっているものとしては、おそらく最も人気高い。

 クトゥルフ神話は元々、怪奇小説作家のハワード・フィリップス・ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft。1890~1937)が創作した神話体系で、彼を慕っていた友人たちが、それに便乗したことで始まった、ある種のシェアワールドとされる。
ただ一般的なシェアワールドとして考えた場合、世界観の中での要素の使い方がかなり自由なのも特徴であり、魅力の1つとされる(ただそのために、各作品間の矛盾点とかも結構多いようだ)

 架空の神話体系とはいえ、現実の伝承や、歴史上の様々な出来事、人物なども広く取り入れられている。世界観をメタ的に言うなら、現代世界に味付けをしていったローファンタジーというような感じである。
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異形の神々について

 広大な宇宙の主役は人間ではなく神々であり、人間というのはただ一時だけ存在し、後は破壊されるだけのちっぽけな存在にすぎないというのが、クトゥルフ神話における基本的な宇宙観、人間観、神観である。

外なる神。宇宙の真の支配者たる存在

 宇宙の中心か、外側の混沌領域、高次元から全宇宙を支配しているという『外なる神(The Outer GODS)』は、名前を付けられたことで神性を得たエネルギー、あるいは概念そのものだともされている。
だがそんな、人の理解を超えているような外なる神々であっても、神性を与えられたためか、あるいはそれはもともとなのか、立ち位置や役割のようなものがあるようである。
また外なる神には、狂ったような曲を奏でる、楽器演奏家の従者たちが付き従っているとも。

グレートオールドワン。旧支配者と呼ばれる、惑星にて眠る宇宙生物

 太古の時代の地球に、外宇宙の暗闇から飛来してきた『旧支配者(Great Old Ones。グレートオールドワン)』たちは、『地殻変動(Crustal movement)』や、『星辰せいしん(celestial bodies。星の配列?)』による影響などを受けて、地上で活動することを止めた。そして地球含む、各惑星の地下で眠りについた。
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ただ眠りについているとは言っても、ただ暗闇の中で動きもせず、しかし意識は持ち続けているらしい。広大な領域を埋める思念により感知した、宇宙の様々な出来事に関して思いを巡らせているという。

謎が多い旧き神、大地の神

 さらにこの宇宙には、外なる神やグレートオールドワンだけではない。それらの敵、または中立的な立場にある『旧き神(The Elder GODS)』という謎めいた神性も存在している。その主神はノーデンスともされるが、しかしそのノーデンスというのは、ただの1柱にすぎないという説もある。

 また、外なる神、旧き神の他にも、『大地の神(Gods of Earth。地球本来の神々)』などの神性が登場する作品もあるようだが、基本的には謎が多いという。

 そしてそうした、この宇宙の正体とも言えそうな、あるいは集合することで宇宙を作っているような神々を総称して、『異形の神々(The Other Gods)』、あるいは『蕃神ばんしん(The Foreign GODS)』という場合もある。

代表的な異形の神々の紹介

 異形の神々について、世間一般にあまり知られていないのは、それらの信仰者たちが秘密を強く守ってきたことに加えて、長らく世界中で大きな影響力を持ってきたキリスト教会(カトリック)が、それらの神々を邪悪なる存在として、記録ごと抹消しようとしたためという事情がある。
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 また、たいてい様々の異名がある。

アザトース。創造と破壊のどちらも司る、外なる神々の総帥

 「愚かな盲目の神(The Blind Idiot God)」、「深淵の愚かもの(Abyssal Idiot)」「混沌の核(Nuclear Chaos)」、「万物の王(Lord of All)」、「眠れる混沌(Sleeping Chaos)」

 宇宙創生以前より存在し、その中心部において膨張を続ける原初の混沌、アザトース(Azathoth)は、外なる神々の総帥ともされる。
その思考によって宇宙のすべてを創造したクリエイターでもあり、それはまた恐るべき宇宙の『原罪(original sin)』でもあるという。
ビッグバン 「ビッグバン宇宙論」根拠。問題点。宇宙の始まりの概要 インフレーション 「インフレーション理論」ビッグバンをわかりやすくした宇宙論
 さらに狂ったような音楽を奏でるその従者たちそれぞれも、強大な力を持っている怪物だとされる。

 アザトースが現れた所では、創造と破壊が入り混じった混沌が吹き荒れ、あらゆる生命に破滅がもたらされる。
火星と木星の間の小惑星帯は、かつてそこにあった星が、召喚されたアザトースによって砕かれた成れの果てとも言われる。
アザトースを見てしまっただけで、そのものは存在の根底を破壊されてしまうとも。

ニャルラトテップ。神々の意思の代行者たる、這い寄る混沌

「這い寄る混沌(The Crawling Chaos)」、「這い寄る霧(The Crawling Mist)」、「千の形を持つ神(God of a Thousand Forms)」、「顔なき神(Faceless God)」、「暗黒の王(Black Pharaoh)」、「黒の売春婦(The Black Whore)」、「ふくれ女(The Bloated Woman)」、「闇の住人(The Dweller in Darkness)」

 アザトース自身が何かをするということは普通はない。基本的には、神々の使者たるニャルラトテップ(Nyarlathotep)が代行者となって、その意思を遂行する。
アザトースだけでなく、外なる神々の総意ともされる。
千の異名、化身、従者が存在していて、あらゆる時空に好きに現れることもできるという。 時には普通に人間の姿になって、魔女やマッドサイエンティストを教え導いたりすることもあるようだ。
大地の神々を保護しているという説もあるが、そうだとしても理由がけっこう不明。

 ニャルラトテップは、特に後に歴史上から存在を抹消されたという、ネフレン=カ(Nephren-Ka)の治世において、ローマ教皇がかぶるような『三重冠(Triregnum)』をつけた顔なしのスフィンクスの姿で知られ、様々な邪な神々と共に崇拝されていたという。
また、『星の智慧派(Church of starry wisdom)』、『銀の黄昏教団(Masters of the Silver Twilight)』、『獣団(Brotherhood of the Beast)』、『黒王団(Brotherhood of the Black Pharaoh)』、『血塗られた舌教団(Cult of the Bloody Tongue)』など、多くの秘密結社の者たちに崇拝されている。

 ネフレン=カは、おそらくはエジプト第3王朝の、最後のファラオともされる。
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ヨグ=ソトース。宇宙のすべての時間の全情報

 「敷居に潜みしもの(The Lurker at the Threshold)」、「向こうの存在(The Beyond One)」、「道を開くもの(Opener of the Way)」、「唯一なる全て(The All-in-One)」

 過去、現在、未来の時間と、無限に蓄積されている世界の記憶そのもの、「宇宙の実体(The cosmic entity)」でもあるという、福王ヨグ=ソトース(Yog-Sothoth)は、球体の集積物のような姿を装っているとも、無定形だが触覚を持っている怪物ともされる。

 それは外なる宇宙と、こちらの宇宙を隔てる門であり、その門の鍵にして、守護者にして、宇宙の秘密そのものであるのが、このヨグ=ソトースなのだという説もある。
これはまた、宇宙の全情報とも、全記録ともされる。
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大いなるクトゥルフ。海底都市ルルイエで眠りにつく、恐ろしき存在

 「旧支配者の大司祭(High Priest of the Great Old Ones)」、「水の深淵の王(Lord of the Watery Abyss)」、「星の子(The Star Spawn)」、「偉大なる夢みるもの(The Great Dreamer)」

 クトゥルフとは、普通は『大いなるクトゥルフ(Great Cthulhu)』のこと。 そしてそれは旧支配者の中で、人類から最も恐れられている、恐ろしい怪物でもある。タコに似た頭部を持った、擬人化されたドラゴンのような恐ろしげな風貌というように語られる場合もあるが、実態的には特定の決まった形を持たない存在、神ともされる。

 昔、暗黒の『ゾス星系(Xoth system)』を、眷属けんぞくたちを引き連れて旅立った、この大いなるクトゥルフは、宇宙を旅した後に地球へとやってきて、『いにしえのもの(Elder Thing。Old One)』と戦った末に古代文明『ムー大陸(Mu)』を支配した。
しかし星々の動きの影響や、それのための地殻変動によって力を失ってしまい、太平洋に水没した海底都市ルルイエの石造りの棺にて、深い眠りについた。

 大いなるクトゥルフは、人類史の初期において、古代ムー大陸で崇拝されていたのみならず、その後の世界各地の文明の伝承にも影響を与えたとされている。

 海底都市に眠っているためなのか、大いなるクトゥルフは現代においても、海神ダゴン(Dagon)やその眷属である『深きものども(Deep Ones)』のような水生種族によく崇拝されていて、人間の中でそれを崇拝している者も、多くは海に関する職業についている者たちだという。特に熱心な信者は、「星辰の座が正しい位置に復帰した時に、大いなるクトゥルフは長き眠りから目覚め、地球の支配者に返り咲く」という予言の実現を夢見ているという。

 また単に、地、風、水、火の四大元素のうち、水と関わりの深い神とも。

 ルルイエ(大いなるクトゥルフと眷属たち)は、 夢などを通して、不死の指導者たちが率いるクトゥルフ系の教団に命令を伝えたりもする。
深きものどもを崇拝する組織としては、「ダゴン秘密教団(Esoteric Order of Dagon)」が有名。

父なるダゴン、母なるハイドラ。海の王たる怪物

 ダゴンは、旧約聖書の士師記ししき16章などにも記述のある、ペリシテ人が崇拝していた神だという。
基本的には半人半魚の姿とされ、特に巨大に成長した、父なるダゴンは、水中の種族である深きものどもの長老。

 また、父なるダゴン(Father Dagon)には、母なるハイドラ(Mother Hydra)という配偶者もいて、深きものどもは、みな2柱の子たちともされる。

 ダゴンは、時には世界のどこかの海で、謎の怪物として目撃されたりすることもあるようだ。
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ハスター、シュブ=ニグラス。アルデバランの風の神と、地母神

 牡牛座の星アルデバラン(Aldebaran)付近の暗黒星にあるという『ハリ湖(Lake Hali)』と関連付けられることもあるハスター(Hastur)は、「名伏しがたきもの(The Unspeakable One)」や「邪悪の皇太子(Prince of Evil)」などとも呼ばれている旧支配者。
豊穣の女神、地母神じぼしんなどと よく関連付けられる女性の神格、シュブ=ニグラス(Shub-Niggurath)の夫とされることもあるという。

 ハスターは、四大元素のうち、風と関連付けられることも多く、ロイガー(Lloigor)、ツァール(Zhar)、イタクァ(Ithaqua。ウェンディゴ)など、風の精霊たちを束ねる頭領ともされる。
大いなるクトゥルフの半兄弟と呼ばれることもあれば、それと敵対関係にあるという説もある。
また、有翼の爬虫類か蜂みたいな姿の宇宙生物ビヤーキー(Byakhee)は、ハスターの奉仕種族のようである。

 シュブ=ニグラスは、古代ケルト文化のドルイド信仰のような、深い森の地域の宗教において、根強く信仰され続けているとも。

ノーデンス。旧き神々の最高神

 「大いなる深淵の大帝(Lord of the Great Abyss)」ことノーデンス(Nodens)は、白髪の老人だが筋肉が目立つ老人の姿をよく見せる旧い神だという。その声は深淵から轟くような響きで、怒りは恐ろしい雷になるともされる。

 現実世界より、夢の国において存在が知られているという。
旧支配者でも、外なる神でもなく、旧き神と言われる全く別の神々の最高神とも。
また、人類にわりと友好的なノーデンスは、ニャルラトテップと敵対しているという話もある。

 『ドリームランド(Dreamlands。夢の国)』のングラネク山を守護する、顔なしの夜鬼(Night-gaunt。ナイトゴーント)らに崇拝されていて、ノーデンスが乗る戦車を引っ張る獣は、ナイトゴーントが姿を変えたものという説もある。

その他、様々な神々

 アブホース(Abhoth)
かなり古い時代に外宇宙から地球に舞い降りたという神。 巨大な原形質(細胞構造)みたいな塊で、不浄な怪物を次々と生み出し続けている。そして生み出した怪物たちを自ら貪り喰らっている。
人間と会話することもあるという。

 クトゥグァ(Cthugha)
魚座の口のあたりの部分で、青白い光を放っている一等星。その恒星において存在している「炎の精(fire vampires)」とも呼ばれる旧支配者。
ニャルラトテップの天敵で、それに脅かされた場合に、召喚する事が対抗策になりえるようだ。

 ツァトゥグァ(Tsathoggua)
土星から飛来したとされる旧支配者。
多くの記録は失われたが、古代の地球上のあちこちで崇拝されていたようである。生け贄を求めたりしたことはあったものの、旧支配者として穏やかな部類とされる。
熱心な信者には、貴重な知識や、魔法の品物を授けることもあったという。

 アトラック=ナチャ(Atlach-Nacha)
蜘蛛に似ている旧支配者。
地下の巨大空間に蜘蛛の巣をかけ続けている。その蜘蛛の巣を完全にかけた時に世界が終わるという伝説もあるという。

 ラーン=テゴス(Rhan-Tegoth)
北極付近に君臨した神。ロンドンの神秘主義者ジョージ・ロジャース(George Rogers)の博物館には、この神を含めた様々な旧支配者たちの姿を模した蝋人形が展示されているという。ラーン=テゴスが死ぬと、旧支配者たちは復活ができなくなるという伝説もあるようだ。

 イタクァ(Ithaqua)
「風に乗りて歩むもの(The Wind-Walker)」、「歩む死(Death-Walker)」、「大いなる白き沈黙(The White Silence)」などとも呼ばれる、宇宙にまで吹く風を渡る大気の神。北米先住民の間ではウェンディゴ(Wendigo)と呼ばれる精霊。
遭遇した者を地球外の大地にまで連れ回して、凍死させてしまうという恐ろしい存在でもある。

 イグ(Yig)
「ヘビの父(Father of Serpents)」とも呼ばれている蛇神。普通は蛇たちに危害を加えない限り穏やかな性格、しかし秋になると荒れ狂うこともあるという。ムー大陸や古代のアメリカ大陸では崇拝されていた。
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 チャウグナー=フォーン(Chaugnar Faugn)
ある種の鉱物で作られているという、象をかたどった生ける石像。生贄の血を求める忌まわしい存在ともされる。中央アジアの方で、自ら創造した亜人類たちに崇拝されているという。

 バースト(Bast)
ニャルラトテップとともに古代エジプトにおいて崇拝されていた、猫たちの女神。その神官の子孫たちはイギリスのコーンウォールに生き残っているとも。

 ダオロス(Daoloth)
ユゴス(冥王星)において崇拝されているという神。地球上でこの神を崇拝する者はあまりない。

 雲頭様わんずさま
福井県、岐阜県の県境の山中の水源から日本海に注ぎ込む『九頭竜川くずりゅうがわ』。その下流地域にて崇拝されてきた、土着信仰の神性。
これは海神だが、幸神でなく禍津神(悪神)の類だったそうだ。

クトゥルフ世界におけるさまざまな種族

古のもの。様々な地球生物を作り出した、最初の人類的存在

 古のものは、10億年ほど前に、外宇宙から地球に飛来し、南極大陸に石造りの巨大都市を建設した知的生物たちだったとされている。その国家体制は社会主義に近いもので、五芒星型の紙幣を流通させ、世界各地で都市国家を発展させた。
触手を生やしてたり翼を持ってたりと、人間からすると異常な姿だが、ある種、地球人よりもさらに古い地球人と言えなくもないようだ。

 古のものは労働力を確保する目的で、様々な生物を作り出したようだが、そのうちショゴス(Shoggoth)という生物の細胞が、やがて人類に進化していったのだとされている。
アメリカ大陸が隆起を始めた頃(3億5000万年前)ぐらいに宇宙より飛来したらしい、大いなるクトゥルフとの間で激しい戦いを繰り広げ、陸上から一時期消え去ったが、後に和平が結ばれ、太平洋の大陸をクトゥルフが、海洋と以前から存在した大陸を古のものが、それぞれ分割統治することになった。
地殻変動により大陸が太平洋に沈み、大いなるクトゥルフがルルイエで眠りにつくと、再び古のものは地球を支配したが、ジュラ紀の頃に冥王星から飛来した『ユゴスよりのもの(Fungi from Yuggoth。ユゴスの菌類)』との戦いの末に弱体化。その後も氷河期の到来や、『イスの偉大なる種族(Great Race of Yith)』など様々な種族との戦いなどを経て、さらに衰退。現在においては南極の巨大都市跡に数少ない生き残りか確認できるのみだという。

ショゴス。万能変異のスライム

 ショゴスは、おもちゃのスライムみたいな粘着性の塊だが、構成細胞のひとつひとつには進化の性質が備わり、様々な形態や器官を生成することができる。
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古のものは、これを催眠暗示によってコントロールしていたが、その細胞から様々な地球上の生物を作り出しもした。
元々水中で活動する存在であったが、陸上に上がる能力や、様々な知恵を得て、2億5000万年前から度々、古のものに対して反乱を起こしてきたという。

ユゴスよりのもの。翼を持つカニと、類人猿の姿

 ユゴスとはつまり冥王星のことなのだが、ユゴスよりのものと言われるのは、そこから飛来した知的生物とされる。バーモント州の山岳地帯、アンデス高地などの場所に活動拠点を築いているとも。

 これが飛来したのはジュラ紀の頃だが、当時の地球を支配していた古のものと戦い、彼らを北半球から追い出した。
時々目撃されるヨゴスよりのものは、翼を持つかにみたいな姿をしているようだが、菌類に近い生物らしい。南北アメリカの他、ネパールにも存在していて、そこでは甲殻類型とは別の種族である類人猿の姿をしている者が、イエティの名前で恐れられているという。
ちなみに、イエティに対し、翼蟹形の方は、ミ=ゴ(Mi-go)と呼ばれてるようだ。
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 高い科学技術を有していて、地球に訪れる目的である希少鉱物の採掘に協力的な人には、その高度なテクノロジーを伝授してくれるともされる。

イスの偉大なる種族。不滅の精神種族

 イスの偉大なる種族は、超銀河宇宙イス(Yith)から、4億8000万年前に地球に飛来したという、長い肉体寿命(平均寿命5000年)の生命体群。当時のオーストラリア大陸に相当する地域で栄えていた円錐生物に精神を送り込んで、高度な科学技術を利用した機械都市『ナコタス(Pnakotus)』を建設した。

 何事も客観的に捉えるようで自分たちが穏やかに生きれるようにということばかりを考えているという。過去や様々な未来の知的生命体との精神交換で膨大な知識を集めていて、都市の中央記録保管所にその記録を集積し続けている。
そのためか彼らは、自分たちの現在の肉体がいつ滅ぶかということもわかっていて、その度にまた新しい体に精神を移行させるということを繰り返すのだという。地球の寿命が尽きる時には、水星の球根状植物へと移住する予定らしい。

深きものども。クトゥルフを崇拝する危険な水生生物たち

 深きものども、というのは、大いなるクトゥルフを崇拝する水生生物たちだが、その血を引いている人間もいる。そういう人間は、生まれてからある程度の期間は普通の人間と変わらない感じだが、同族との接触や極度のストレスなどをきっかけに、深きものども特有のカエルみたいな姿へと変化することがある。そして歳をとるに従って、さらに人間離れした姿形へと変化していく。

 深きものどもみたいな、つまりカエルみたいな顔をしてる場合、それは「インスマス面」と呼ばれることもあるが、インスマス(Innsmouth)というのは、彼らの血筋が支配しているという、マサチューセッツ州エセックス郡の港町。

グール。地下鉄を利用した大規模なネットワーク

 食屍鬼しょくしき(ghoul。グール)は、墓を荒らして死体を食らう鬼のような、あるいはただれた皮膚のゾンビのような存在。犬みたいな顔立ちで、手には鉤爪を備えている。
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 古くは墓場と隣接している納骨堂の奥などの潜んでいたが、20世紀以降は、様々な大都市の地下や、地下鉄のトンネルを利用して、大規模なネットワークみたいなものを作ってもいるという。

 かつては人間で、その頃の記憶を持っている者も珍しくなく、普通に言葉を喋ることができる場合もある。

ティンダロスの猟犬。別の時空軸の怪物

 基本的に人間は、時間の角ではなく曲線に沿って生きているらしく、ティンダロスの猟犬(Hound of Tindalos)は、遥か過去の時間の角に潜んでいるという獰猛な怪物。
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文字通り次元が違うところの怪物なので、普通この生物と遭遇する危険はあまりない。しかし何らかの方法で過去の時間に遡っていくようなことをすると、この猟犬の嗅覚によって捉えられてしまう可能性もあるという。

 現実の肉体を備えてはいない存在で、酵素のない細胞によって構成されているともされる。
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 この猟犬が空間に姿を表す場合にはとても悪臭がするので、そのことを知っている者には出現を察知することもできるが、しかしそうだとわかった時にはたいてい手遅れだから、あまり意味がない。
また、彼らの住居は外宇宙の彼方という説もあるという。

夜鬼(ナイトゴーント)。時にニャルラトテップを恐れさせる存在

 ングラネク山やドリームランドの各地に群れを成して生息しているという。キリスト教世界の悪魔のような風貌で、のっぺらぼうのようだとも。
ノーデンスを崇拝し、ングラネク山の守護を任されているともされる。また、グールとそれなりに友好関係を築いているという話もある。

 時にはノーデンスの意思に逆らい、外なる神や旧支配者たちの意図を妨害することもあるという。そのために、ニャルラトテップに奉仕している種族などに恐れられることもあるようだ。

その他、様々な種族や怪物

 シャンタク鳥(Shantak)
ドリームランドに時々現れるという、馬みたいな頭を持つ巨大鳥というような見た目の飛行生物。外なる神、あるいはニャルラトテップに仕え、崇拝者はこれを乗り物として使うことも可能だという。

 蛇人間(Serpent People)
恐竜の時代よりも古くに知性を進化させた爬虫類人。 それなりに文面も気付いていたが恐竜の出現によって衰退していったともされる。
それでも現在まで、僅かに生き残っており、人間社会に溶け込んでいるとも。
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 ガグ(Gugs)
ドリームランドの地下に住むという、縦に裂けた口と4本の前足が特徴的な巨人族。かつては地上に住んでいて、しかしその儀式が忌まわしいために、大地の神々の怒りによって地下に追いやられた。

 盲目のもの(flying polyp)。
ポリプ状(固着に適してるような体の構造)の飛行生物で、地球含むいくつかの惑星に生息し、黒い玄武岩の都市も築いていたようだ。地球においては、古くはイスの偉大なる種族との戦いに敗れ、一度は地下に追いやられたが、しかしそれでは絶滅せず、やがては逆に、偉大なる種族であった円錐状生物を絶滅させるとされる。

 ドール(Dhole)
星を壊滅させることもあるという巨大なイモムシのような生物。ドリームランド地下の、『ナスの谷(vale of Pnath)』の底でその巨体をくねらせていて、ティンダロスの猟犬と関係があるという説もある。ただ直接的に地球に姿を現したことはないようだ。

神秘的な土地、領域、小世界

 基本的にクトゥルフ神話における地名は、有名なのは北米に多い感じだが、中米やヨーロッパ、アフリカ、アジアなど、もちろん世界中に、様々なクトゥルフオリジナルの地名がある。オリジナル以外でも、神秘的な噂がある場所や、有名な過去文明の遺跡とかは、何かと異形の神々の伝説と結びつけられたりしやすい。

ドリームランド。深き夢の世界

 人が見る夢より、さらに深淵に存在している世界とされている。
地球含むいろいろな惑星に、その星のドリームランドがあるようである。
とりあえず地球においては、夢の中で見つけた巨大な階段を70段降りて、『焔の洞窟( Cavern of Flame)』とも呼ばれる神殿をまず見つける。その神殿のナシュト(Nasht)とカマン=ター(Kaman-Thah)と呼ばれる二人の神官に送り出され、次に階段を 700段降りると、『深き眠りの門(Gate of Deep Sleep)』と呼ばれる扉があり、その先がドリームランドなのだという。
その行き方を知っている者は「夢見る人(Dreamer)」と呼ばれることもあるが、しかし地球外のドリームランドに行けるものとなると相当珍しいようだ。

 夢の世界と呼ばれるだけあり、現実とは物理法則的に全く異なるような、まさしく魔法の世界で、そこで生まれ育った生物や、たくさんの文明もあったりする。
基本的には現実の世界の鏡像(mirror-image)ともされる。

 ドリームランド北の方の雪原地帯にあるともされる『カダス(Kadath)』という地の宮殿には、大地の神々がいて、ドリームランドの住人たちによく崇拝されているという。
大地の神々は、あるいはそのいくらかは、ニャルラトテップや、ノーデンスに庇護下に置かれているとも。

セイレム。神話に取り入れられた、恐るべき史実

 『セイレム(Salem)』は、マサチューセッツ州北東部の町で、 最初に集落が建設されたのは1626年だという。この町のケスター図書館には、様々な貴重な魔術書も所蔵されているとも。

 1692年の大規模な魔女裁判(Salem witch trials)が非常に有名。200人を超える住民が魔女の疑惑を受けて逮捕され、獄死した者を含めて25人ほどが死んだとされる。
無実の者も殺されたらしい一方で、『アーカム(Arkham)』や『ダンウィッチ(Dunwich)』といった他の町に逃れた、本物の魔術師たちもいたとされる。
この時に難を流れた魔術師としては、キザイア・メイスン(Keziah Mason)、ジョゼフ・カーウィン(Joseph Curwen)、エドマンド・カーター(Edmund Carter)などがよく知られている。
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 ドリームランドの研究で有名な神秘学者のランドルフ・カーター(Randolph Carter)は、エドマンド・カーターの子孫らしいが、カーター家はさらに古くから続く魔術師の家系ともされる。

アーカム。クトゥルフ神話における最も重要な都市

 マサチューセッツ州エセックス郡の地方都市。
17世紀くらいに、改革派教会の押し付けを嫌って、 ヨーロッパから移住してきた人たちが この町の基盤を作ったのだとされている

 1692年にセイレムで魔女裁判騒動が発生した時は、その逃亡者らを屋根裏部屋にかくまったりもした。セイレムと共通の地名がいくつか存在していて、逃れてきた魔女たちが夜ごと狂宴きょうえんを開いてるという噂もある。
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 18世紀には貿易拠点として、19世紀以降は工業都市として発展した。しかしいつまでもオカルト系の物語が風化することなく残ったりしてるために、「時の止まった街」などと言われることもある。

ミスカトニック大学。重要人物を何人も輩出している、アーカムの名門

 アメリカ合衆国北東部のエリート校いくつかの総称としてアイビー・リーグ(Ivy League)というのがあるが、アーカムには、そのアイビー・リーグの名門とされる『ミスカトニック大学(ミスカトニックだいがく、Miskatonic University)』がある。
マサチューセッツ工科大学やコロンビア大学シカゴ大学などに並ぶとされている、この名門大学は、1765年に創立されたという。
町の名士であったジェレマイア・オルヌ(Jeremiah Orne)が、莫大な遺産と、900冊ほどの蔵書を残して死んだ後、その遺言に従って創立された『ミスカトニックリベラルカレッジ(Miskatonic Liberal College。ミスカトニック一般教養大学)』がその前身。

 地理的な便利さと、研究資料の数から、優秀な人材も集まり、やがて本格的な研究機関に成長した。南北戦争後に総合大学に昇格し、それから、ミスカトニック大学と呼ばれるようになった。
1878年に改築された、ゴシック模式のミスカトニック大学付属図書館は 40万冊を超える貴重な資料の保管庫でもある。その中には、おそらくはクトゥルフ神話オリジナルの魔術書として最も有名な、ネクロノミコンのラテン語版もあるという。
ただし、ネクロノミコンをはじめとしたいくつかの貴重な資料は、盗難防止のため、一般公開はされていない。

 後に、対邪神組織『ウィルマース・ファウンデーション』を創設したアルバート・N・ウィルマース(Albert N. Wilmarth)。1930年の南極探検、1935年のオーストラリア南部砂漠探検などでリーダーを務めた地質学者ウィリアム・ダイアー(William Dyer)。イスの偉大なる種族に精神を交換されるという異常体験をした心理学者ナサニエル・ウィンゲイト・ピースリー(Nathaniel Wingate Peaslee)など、クトゥルフ神話世界において、よくその名前が知られている大学教授も多い。

インスマス。深きものどもの血筋、ダゴン秘密教団に支配された街

 19世紀には東洋貿易の港として繁栄していたのだが、その頃の街の有力な貿易商の一人オーベッド・マーシュ(Obed Marsh)が、深きものどを崇拝する西インド諸島の島の住民に接触したことがきっかけとなり、深きものどもの血筋に支配地域になっていった。

 1840年には、ダゴン秘密教団が創設され、インスマス沖合いの悪魔の暗礁あんしょうにおいて、海底都市の深きものどもとの直接取引も始まっていた。そして1846年、インスマスに押し寄せた深きものどもが反対派の住民を虐殺し、街は彼らに従う有力一族、マーシュ家、ウェイト家、ギルマン家、エリオット家、フィリップス家を中心とした、邪神崇拝の拠点になった。

 ただ1927年に、ウィリアムズという青年から報告を受けた政府が、海軍とFBIの共同作戦によって、数百体の深きものどもを殺害。多くの信者も逮捕された。悪魔の暗礁も、潜水艦の魚雷攻撃で破壊されたという。

その他、様々な地域、街

 『ダンウィッチ』
マサチューセッツ州北部の方。
荒廃した古い村で、ネイティブアメリカンの邪悪な儀式や秘密の集会が、18世紀くらいまで行われていてとも。
この付近一帯の土地や、その住民たちが関わった場所では、時々恐ろしい怪奇事件が起こったりする。

 『ンガイの森(wood of n’gai)』
ウィスコンシン州の北部。リック湖の周辺にある深い森。ここには半人半獣の恐ろしい生物が住み着いているという伝説が、古くからネイティブアメリカンたちに語り継がれてきたという。17世紀には、この地を訪れた宣教師のピアガード親父が、巨大な生物の足跡を発見したが、その記録だけ残して、彼は失踪してしまったという。
しかし20世紀半ば、この森はニャルラトテップの地上での住処であることが知られ、召喚された旧支配者クトゥグァにより焼き尽くされたという。

 『クン・ヤン(K’n-yan)』
アメリカ中西部の地下に広がっているという地底世界。
アメリカのいくらかの地域に複数の入り口が存在しているとされる。
ここの住人は、大いなるクトゥルフをトゥルーと呼んでいて、それが地球に飛来した時に連れてこられた種族だったとされる。
青く輝く領域と、赤く輝く領域がある。ある時に青の世界ツァスの住人たちが、赤の世界ヨスの種族を征服。それからは、住人数はツァスに偏っているようだ。

 『ブリチェスター(Brichester)』
イギリスのグロースターシャー州セヴァン峡谷の近くにある街で、優れた学術機関であるブリチェスター大学も有名。わりと近代的な雰囲気もあるようだが、アーカムと似ていて、古くからの伝説を色濃く残していたりするという。

 『ゴーツウッド(Goatswood)』
ブリチェスター郊外、原始的なシュブ=ニグラス信仰が盛んな町。
近くの森の空き地に立っている金属の塔には、17世紀頃に惑星シャッガイから到来した巨大昆虫が住み着いているというが、どうも地球にやってきた際に、その大気に含まれた何らかの成分の働きで、他の世界へと移動することができなくなってしまったようだ。
その昆虫たちはアザトースを強く崇拝しているという。

 『シュトレゴイカバール(Stregoicavar)』
ハンガリーの山奥にあるという地図には載ってない村。謎の巨大石碑があって、それは巨大な城の先端だという説もある。また、そこには文字らしきものも書かれているが、解読されていない。

 『ナコタス』
オーストラリア西部の方の砂漠において、先住民族アボリジニたちが、巨人ブダイの伝説と関連付けて考えている巨石群は、実はイスの偉大なる種族の都市ナコタスの地上部分ともされる。

 『ガールン(G’harne)』
探検家ウィンドロップが、北アフリカから持ち帰った粘土板によって明らかになったらしい謎の地底都市。その粘土板は、どうも古のものが記録したもので、ガールン以外の地球上の古代遺跡や、いくつかの天体の情報も書かれているという。
そしてこのガールンには、クトーニアンという、這い回るイカのような怪物が巣くっているとも。

 『無名の都市(Nameless City)』
虚空(ロバ・エル・カリイエ)と呼ばれる場合もある、アラビア地域南部の砂漠に埋まっているという謎の地底都市。
古くは海底にあったこの都市では、大いなるクトゥルフを崇拝していた爬虫類人間たちが社会を築いていた。しかし地殻変動によって地上に浮上した後、砂漠の侵食を受けて徐々に衰退していったという。
しかし基本的に忘れ去られたはずのこの都市は、アラビアの様々な部族において、特に理由もわからぬまま禁忌きんき(タブー)の領域となっているとも。

 『レン高原(Plateau of Leng)』
「隠されしレン」とも呼ばれる。様々な伝説や、魔術書などにおいて、存在しているはずの場所として記述されてきた謎の土地。
邪悪な宗教がはびこる領域とか、特殊な時空連続体など、ここが実際にどのような場所なのかは諸説ある。

古代から受け継がれし魔法体系を語る魔術書の数々

 ここに紹介したもの以外にも、例えばジェームズ・フレイザー(James George Frazer。1854~1941)の金枝篇きんしへんなど、現実に存在している様々な魔術系の書物も、クトゥルフ神話と関わってきたりもする。
「金枝篇」類感呪術と感染呪術。森の祭祀と。金の枝の謎の探求
 『ネクロノミコン(Necronomicon。死霊秘宝)』
アラビアの詩人魔術師、アブドゥル・アルハザード(Abdul Alhazred)が730年に書いたとされる魔術書。異形の神々への言及などもあるという。
後にいろいろな言語に翻訳されたものが出回ったりもしたが、基本的には一部の章が欠損している。
アラビア魔術 「中世アラビアの魔術師たち」イスラム神秘主義、占星術と錬金術
 『エイボンの書(Book of Eibon)』
ハイパーボリア(Hyperborea)という古代大陸北方の半島、ムー・トゥーランに館を構えていたエイボンという魔道士が書いた魔術書。
原書はハイパーボリア語で書かれ、 その大陸に関連する出来事や神々の話が多いようだが、後世に様々な言語に翻訳される内、信頼性が低くなったりもしているようだ。
ただ内容としては、ネクロノミコンと似たようなことが多い上に、さらに古代の禁断の知識や、太古の呪文なども記されているとされる。そのため、ネクロノミコンと一緒に読むべき第一の書物としてもよく知られている。

 『妖蛆ようしゅの秘密(Mysteries of the Worm)』
16世紀の半ば頃。ベルギーのブリュッセル近くの埋葬所廃墟に隠遁していた錬金術師ルドウィク・プリン(Ludwig Prinn)が書いたとされる魔術書。
プリンは、第九次十字軍唯一の生存者とも自称している、謎の人物。1541年に宗教裁判にかけられ処刑されたようだが、死ぬ前に獄中で書き上げたのがこの魔術書とされている。

 『ルルイエ異本(R’lyeh Text)』
人類以前の言語で書かれていたという、大いなるクトゥルフとその関わり深い様々について書かれた書物。
現在知られているものは中国語の写本で、研究家のエイモス・タトルが、チベット奥地からやってきた中国人から10万ドルで購入したもの。
フランソワ・プレラーティという魔術師が翻訳したイタリア語訳を、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルト(Napoleone di Buonaparte。1769~1821)が所有していた説がある。

 『ナコト写本(Pnakotic Manuscript)』
断片的記述の寄せ集めであるという古代の書物の写本。
氷河期以前の極寒地帯のロマールという地において、より古くに栄えた生物の残した断片的な記録を、いろいろ人間の言葉に移し替えたものとされる。
催眠を使った精神操作や、時間遡行そこう薬の製法などの他、イスの偉大なる種族などに関する記述などもあるようだ。
古くからの情報の寄せ集めのためか、とにかく情報量が多いとも。

 『無名祭祀書むめいさいししょ(Nameless Cults)』
19世紀前半。世界各地の遺跡を巡り、秘密結社との関係を持ったドイツの神秘主義者フリードリヒ・フォン・ユンツト(Friedrich von Junzt)が、長い時間かけて収集した様々な伝承や秘技などをまとめた集大成的な研究書。
しかしほとんどの部分がかなり曖昧な書かれ方をされていて、狂人の戯れ言のような感じとも。ある種の知識に通じている者ならば、その暗号のようなものを解いて、隠された真実の情報を得られるという話もある。
『黒の書』とも呼ばれている。

 『黄衣こういの王(The King in Yellow)』
古代都市カルトスを舞台にした戯曲で、著者や成立年代は不明。ただ、二幕構成で、一幕目は無害だが、二幕目を読んでしまった者は、気が狂ってしまうのだとされている。

 『屍食教典儀ししょくきょうてんぎ(Cults of the Ghouls)』
フランス貴族フランソワ=オノール・バルフォア(Francois-Honore Balfour)が書いたとされる、 フランス国内における人肉嗜食じんにくししょく(カニバリズム)、屍姦しかん(ネクロフィリア)などに関して記述した本。
人肉食の実践による、不老長生の秘法などについても書かれているようである。

 『水神クタアト(Cthat Aquadingen)』
深きものどものような様々な水生生物についての研究をまとめた書物だが著者は不明。ただ11世紀か12世紀くらいにラテン語で書かれたともされる。深きものどもに詳しいだけでなく、それらが崇拝する大いなるクトゥルフなどの記述もあるという。

 『セラエノ断章(Celaeno Fragments)』
プレアデス星団の恒星セラエノの星系には、旧支配者が旧き神から盗み出した文献を収蔵している図書館があるというが、そこにあった破損していた巨大石版。あるいはその内容を写して書物としたもの。
外なる神や、外なる神と敵対するもの、それらから身を守るための術など、様々な貴重な情報が書かれているという。

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