「マロリオン物語」感想と考察。ファンタジーもSFもパワーアップした完結編

ベルガリアードの続編。やはりどこかの惑星の話

 デイヴィッド・エディングスの「ベルガリアード物語」の続編であり、完結編。
「ベルガリアード物語」紹介、感想と考察。箱入り少年少女の成長と戦いの話
 ベルガリアード物語は、田舎の農園で育った少年ガリオンが、実は生まれた時から定められていた通りに、西の大国の王となり、対立し合う光と闇の、光側の選ばれし者として、闇の神トラクとの戦いに挑むという話。
このマロリオン物語では、そのまま光の子として、わりとすぐさま現れた、新たな闇の子との新たな戦いが描かれる。

 前作も結構、 物語全体の構図とか、物理的なアクションシーンより精神的な描写を重視している感じが、指輪物語に影響を受けているような感じだったが、今作はより指輪物語ぽさが強まっているように思う。
王の帰還 「指輪物語」ホビット族。剣と魔法と仲間たち。ひとつの世界のファンタジー
 前作に続いて今回も、基本的にはRPG的な仲間たちとの冒険描写を基本にしているが、何人かの仲間が残念ながらパーティーメンバーから外れる。
代わりに新キャラがいくらか加わるわけだが、前作では敵対する立場だった者や、そういう立場の者の関係者なども仲間になったりして、なかなか熱いかもしれない。
あと今回は、仲間にならないというか、一時だけ登場するゲスト的な立場の奴に魅力的なキャラが多いような感じする。

 とりあえず物語自体も繋がってる上に、前作に出てきたキャラはほぼ総登場するので、読むのなら前作から読んだ方がよいのは間違いないと思う。

 ユーモアのある会話なども魅力の一つとされているが、その点に関しては前作よりもパワーアップしてると言えるかもしれない。
結構シリアスなシーンのセリフでも、なかなかウィットが効いてたりする。
例えば既存キャラにとっては予想外的な者ばかりが仲間になっていくのだが、それに関して、光の子に語りかける予言の意思的な声が、ちょっと悪戯小僧的な描かれ方をしたりもするのが、けっこうユーモラスだったりする。

 それと、前作でもそういうのは少しあったが、今回はそれ以上に、「舞台が完全に架空の世界というわけではなく、地球と似たような、しかし地球ではないどこか別の惑星」と思わせるような描写が結構ある。

結構長いが、あまり大筋と関係ない話も多かったりする

 全5巻なのだが、1巻の半分くらいは本編とあまり関係ない話だと思う。
というか全体的に見れば、物語の大筋的にはあってもなくてもいい話が結構多いわけだが、一巻のその前半半分くらいに関しては、そもそも途中の番外編的な話とかそういうわけでもなく、無理やり引き伸ばしたプロローグという感じすらする。

 ただ、全体的にいろいろちょっとした話がたくさん挟まれてるからこそ、終盤での仲間たちのやりとりが、特に感動的になるともいえるか。

 最序盤は、前作で結婚した女魔術師のポルガラと、鍛治屋のダーニクの新婚生活と、一緒に暮らすポラガラの父でもあるベルガラスの気苦労とかが描かれる。
次には、やはり前作で結婚したガリオンとセ・ネドラの夫婦生活の危機や、元は一介の農民にすぎなかったガリオンの王としての苦労、そういういくつかの問題が解決するまでが描かれ、それと平行するように、光と闇の戦いに関する新たな予言の謎が現れてくる。

個人的に興味深かった場面

エネルギー保存則。宇宙規模のバタフライ効果

 とりあえず近場の国同士の戦いを、天候を変える魔術で脅したガリオンに対し、ベルガラスが叱った場面。
「お前は氷河期というのが何なのか知っているか」とか言われる。
温度 「気温の原因」温室効果の仕組み。空はなぜ青いのか。地球寒冷化。地球温暖化 スノーボールアース 「スノーボールアース」生物への影響。火山による脱出。地球は凍結したか
 とりあえずこの小説はまず間違いなく、何らかの惑星が舞台であり、一ヶ所の天候を大きく変化させたために、他の地域の天候まで乱れてしまったりしてしまう、というような説明があるわけである。
惑星内という閉ざされた系における、エネルギー保存の法則を意識しての描写であろう。
渦巻く風 「風が吹く仕組み」台風はなぜ発生するのか?コリオリ力と気圧差 熱力学 エントロピーとは何か。永久機関が不可能な理由。「熱力学三法則」
 バタフライ効果を意識してのことかもしれないが、それならば、他に使ってはいけない魔術が結構多くなくてはならないような気もする。
それにこの作品においては、魔術は破壊することには決して使えない、という描写もあるために、保存則が意識されていることはほぼ間違いない。

 ただやはりベルガラスの台詞である、「その変化が宇宙的災害になるかもしれないのだ」というのはどう解釈すべきなのか。
宇宙の秩序的な話なのかもしれないけど、そうだとしたら、やはり天候を変えるのだけがダメというのがちょっとよくわからない。

無知は罪であるか

 熊神教というわりと危ない感じに描かれている宗教集団に対し、怒りを燃やしたガリオンに、ポルガラが「彼らは無知な人たちや、騙されてる人たちで成り立っていて、狭い視野の考えに取り憑かれてしまっている」と説得したのも印象的。
「その愚かさゆえに彼らを虐殺するのか?」と問われるわけだが、これは実際に難しい問題と思う。

 ある社会における平和をどうしても得たいなら、そのような危険な集団と化した無知の人たちは、文字通りいなくなってくれた方がいいだろう。
だがそれではまるで、バカだから悪いみたいだ。
実際社会というのはそういうものなのかもしれないが。

 無知な人はそれゆえに酷い行いに走りがちだというようなセリフもあるわけだが、実際にそうであろうか。

パンデミック描写と細菌に対する意識

 疫病とパンデミックの描写が出てくるのだが、体の中のあちこちを巡る病原菌に対して、適用させなければならない細かな範囲が広すぎるために、それを魔術で回復させることができないというような描写がある。
「ウイルスとは何か」どこから生まれるのか、生物との違い、自然での役割
これもまあまあ興味深い。

 例えば、仮に意識の力で何か不可思議なことを引き起こすような力があるする。
コネクトーム 「意識とは何か」科学と哲学、無意識と世界の狭間で
その場合に、全身から病原菌を一掃するというようなことが実践できるのかどうか思考実験してみたらいかがであろう。
何でも思い通りになる世界があるとしても、大まかな部分以外は自分の意思とは違うようなところで、言わば機械的に設定する必要があるのかもしれない。

 万能というものが本当にあるのかどうか、考えたくなってくる。

ドラゴンや悪魔の設定

 これはどういうことかって思うかもしれないけど、ドラゴンが出てきたのがわりと興味深かった。
そもそもこの話、ファンタジー的な世界観を描いてるわけだけど、ベルガリアード物語においては、あまり幻獣的な存在は出てこなかったんだよね。
「西洋のドラゴン」生態。起源。代表種の一覧。最強の幻獣
今作ではドラゴンに加えて悪魔とかちょっとトロール系の鬼的なやつとかも出てくる。
悪魔の炎 「悪魔学」邪悪な霊の考察と一覧。サタン、使い魔、ゲニウス 妖精 「妖精」実在しているか。天使との関係。由来、種類。ある幻想動物の系譜
 しかし、ドラゴンとか悪魔とかの存在が結構信じがたい存在みたいに描かれているというか、そもそも何千年も生きている魔術師とか、選ばれし光の子とか、その辺も迷信的だと考えている人が結構いたりする。
個人的には、実際にそういうものが存在してきたような世界において、そこまで懐疑主義的な人が多く育つかなと疑問に思わなくはない。
なんせそういうものが実際に存在していないと考えられているこの現実世界においても、古い人達は結構そういうのを信じていたりしたわけだから。
モンスターおりがみ 「幻獣のまとめ」ファンタジーの魔物一覧。特に興味深いモンスターの分類
 ちなみにドラゴンに関して、空飛ぶトカゲなのではなく、どちらかというと鳥の仲間というふうに説明される。
砂漠のトカゲ 「爬虫類」両生類からの進化、鳥類への進化。真ん中の大生物 風切り羽 「鳥類」絶滅しなかった恐竜の進化、大空への適応
小説の書かれた時期(1988?)を考えるに、恐竜的な発想からかもしれない。
恐竜 「恐竜」中生代の大爬虫類の種類、定義の説明。陸上最強、最大の生物。
 特に悪魔に関しては、地獄という別の宇宙の住人というような感じに説明される。
物語的には、予言が示している話はすべて、この宇宙の理に関連しているものであるから、別の宇宙からの介入によって崩れたりする危機を思わせたりもする。

 しかし単純に別の住人というだけでなく、普通に伝承的な悪魔としての側面も強く描かれたりする。
それは例えば、悪魔たちの階級とか、こちらの世界の者と悪魔との契約とか、その代償に永遠の苦しみをプレゼントされるとか。
月夜の魔女 「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか 魔女狩り 「魔女狩りとは何だったのか」ヨーロッパの闇の歴史。意味はあったか

気持ち悪いというのは、本能的なのか文化的なのか

 ガリオンの妻セ・ネドラは、前作から出ていた幻獣的種である、木の化身的なドリュアドなわけだが、人間的な部分があるなら、異種族の結婚や交配などに関してはあまり問題ない世界観のようである。
ただ遺伝の話などが出てきたりもするから、深く考えると、この辺もなかなか興味深いかもしれない。

 しかしセ・ネドラは、木の化身的なものであるから、以前は野生児的な面も描かれてたりしたのに、この辺りは虫がやたら多いとか聞いてビクッとしたりとかする。
こういう完全な架空世界、でなくとも、このような地球とは別の世界を描いてるような話に置けるそういう描写は、例えば虫嫌いの人が多いというのは本能的なものなのか文化的なものなのかという、なかなか興味深い議論を思い出させてくれたりもする。
虫取り網 「昆虫」最強の生物。最初の陸上動物。飛行の始まり。この惑星の真の支配者たち
 他にも彼女は、コウモリにすごくビビったり、あんなのただの飛ぶネズミと説明された時にネズミも嫌、みたいな感じの場面があったりする。
月夜のコウモリ 「コウモリ」唯一空を飛んだ哺乳類。鳥も飛べない夜空を飛ぶ ネズミ 「ネズミ」日本の種類。感染病いくつか。最も繁栄に成功した哺乳類
どうもこの世界においては、コウモリもネズミも同じ哺乳類であるということはしっかり認識されているようだ
並ぶ哺乳類 哺乳類の分類だいたい一覧リスト

正気な人間とは何なのか

 かなり些細な場面だが、世界の正確な重さの研究をしている学者に対し、「そんな問題とっくの昔に解決したよ」と嘘をつくベルガラスの会話がなかなか面白かった。

 彼の話が嘘でないと思ったガリオンは、実際に世界はどれくらいの重さなのか、と聞くわけだが、ベルガラスは正直に答える。
「わしが知るわけないだろう。そんなことを考える奴が正気とは思えんな」

 こういう話は特に、人間という生物の面白さを感じさせてくれるのではなかろうか。

占星術や錬金術の描写

 ベルガリアード物語ではあまりなかった、幻獣などの登場が結構あると書いたが、もう一つ、一般的な魔術以外の種類の魔術、あるいは魔術の派生、あるいはオカルト技に関する話も今回は結構出てきたりする。
例えば占星術とか錬金術とかが出てくるわけである。
占星術 「占星術」ホロスコープは何を映しているか? 錬金術 「錬金術」化学の裏側の魔術。ヘルメス思想と賢者の石
 占星術に関しては、この話がどこか地球でない別の惑星の話ということを考えた時、その考察がわりと興味深くなるかもしれない。
錬金術に関しては、魔術というよりも、科学的なものとして描写されていたように思う。
化学反応 「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か

学校の問題点

 大学が出てくるのだが、 「親の望みで入った奴も多い。そういう奴らはたいてい勉強よりも遊びを好む。そしてそういう奴らがいるせいで、真面目に勉強したいと考えていたやつらまで、結局勉強よりも遊びに走ったりしやがる」とかいう説明はなかなか、勉強の場としての学校の問題点をよく突いていると思う。

 学校に錬金術教室があるのは、個人的には、中世的というよりもファンタジー的って感じがする。

予言の物語としての面白さ

最後に必ず誰かが死ぬ

 普通に物語的に注目すべきなのは、やはり旅の仲間の数やその特性的なものが指定されることであろう。
最終的には光と闇が対峙して、どちらかが勝つ結末になるというわけだが、光側が勝つ場合であっても、その過程で仲間の一人が死ぬと言う予言は、文字通りかなり終盤まで引っ張られることになる。
無駄な話が結構あるというようなことを書いたが、これは作者が、仲間のどのキャラも読者に印象付けて、必ず誰かが死んでしまうという悲劇的な予言への不安をより高めさせる狙いがあるのかもしれない。

 ちなみに、置いてかれるキャラと見せかけ、「案内人ってのは俺しかいないだろ」と詐欺師王子のシルクが告げるシーンや、彼の一巻での活躍や、単に性格などから、個人的には死ぬ可能性が一番高いのは彼だと思ってました。
当たってたかどうかはここには書きません。

光の子の後継者

 ベルガリアード物語では、やや謎の少年的に描かれたエランドが、エリオンドという名前に変わる。
けっこうガリオンともいい感じの仲間になっていて、むしろ設定的に、ちょっとダブル主人公みたいになるのかな、と思ってたけど全くそんなことはなかった。

 かつてのガリオンのようにエリオンドはポルガラの世話になっていたわけだが、ガリオンが、エリオンドは今はもう悪戯に水に飛び込んだりしないのに、なぜポルガラはかなり気をつけてるんだ? というようなことを聞いた時の返しとか、なかなか微笑ましい。

 ちなみに最後の対決は、もはや新しい光の子に受け継がれるとかいう感じの予言もあったのだから、エリオンドはその新しい光の子になるんだろうなと思ってました。
これも当たってたかは書かないでおきます。

丁寧に描かれる仲間たちとの絆

 いよいよ最終決戦が始まる前の日。
シルクが言うところの、「センチなさよなら合戦」が なかなか感動的だったように思う。
ようするに、予言にある、犠牲になる人物が自分だろうと、みんながみんな主人公に告げて最後の別れを話していくシーン。

 それに加えて、(結局それほど大層な活躍はしなかったが)、ついて行ってはいけないと予言されているにもかかわらず、なら少し離れたところを追跡して、危機の時だけ駆けつけるならいいんじゃないか、とかそういう理屈で何とかしようとする、仲間外れの仲間たちもけっこうよかったと思う。

 友情を描いた、いいお話だと思う。

 ただ、なぜ多くの作家が、やたら物語の終盤で色々なカップルを成立させたがるのか。
個人的には、恋愛とかいうものはあまり必然的な感じのするものではないと思う。
特にこういう、ある程度現代的なというか、科学的な観点から多少見れるような物語においては、特にそうだと思う。
まあそういうのが好きな人が多いんだろうけど。

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