「道教」老子の教えと解釈。タオとは何か、神仙道とはどのようなものか

道家、道教の思想

 広大な中国大陸で誕生したとされる、『道教どうきょう(Taoism)』という思想は、本来、物質主義、現実主義だったという説がある。
今日の次には明日があり、春の次には夏がある。
そして生きている者は、その次に必ず死ぬことになる。

 全ては必ず決まっている変化へと向かう。
それは、全てを縛り付けている「時間」というものが、一定方向にひたすら流れ続けるものであるからだ。

 道教の思想に基づき、 万物を操作する者たち、すなわち『道士どうし』と『仙人』は、その時間の流れに逆らう術を求めた。
特別な修行や薬によって、周囲の者や、時には自分自身の性質を変化させることで、彼らは世界の時間を部分的に止めるのだとも言われる。
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万物の根源はタオ

 道教の始祖は、春秋時代しゅんじゅうじだい(紀元前8世紀~紀元前5世紀)の老子ろうしとされている。
だから道教の思想は、彼の教えをまとめた書とされる『老子道徳経ろうしどうとくきょう』の哲学と大いに関連しているのだという。
老子のタオ 「老子の言葉。道の思想」現代語訳、名言、格言。千里の道も一歩から 西の城 「周王朝」青銅器。漢字の広まり。春秋時代、戦国時代、後の記録
 老子は、万物の根源は、すなわち『タオ(道)』なのだとしている。
これが漢字通りの、歩いたりする道でないことだけはほぼ間違いないことだが、具体的にはどのような類のものであるのかについては、古くからずっと議論が続いている。

 老子は、「これはタオ、いつも通りのタオなんてない。名前なんてない。天地の始めには名前はなく、現れた万物に名がついた」というふうに述べているという。

 また、タオを根源とする思想を有する者たちは、単に『道家どうか(Taoist)』という。
ここに実践的な呪術要素が加えられた思想が、道教ともされる。

神仙か、真人か

 道士は、仙人を目指し修行する者たち、いわば仙人見習いである。

 仙人は、『神仙しんせん』、『真人しんじん』 とも呼ばれる。
女仙人の場合は、『仙女せんにょ』と呼ばれる場合もある。

 古代中国人(周の時代の中国人)は、神話を特別な領域として区別しなかったともされる。
神と人間の区別も曖昧である。
歴史上に存在したとされる多くの偉人たちも、後の時代には神として祀られた。
日本でも似たような例はあるが、偉人が神と化すこちらに対し、あちらは偉人がそもそも神と近しき存在なのだともされる。
夏王朝 「夏王朝」開いた人物。史記の記述。実在したか。中国大陸最初の国家
 神仙は、神々のことだが、真人は、神に近い存在までの高みに到達した者たち。
あるいは、神仙は神人と仙人とを合わせた総称。
このような考え方からすると、人が修行して神に近しくなった存在が真人、元々神である存在が神仙(神人)ということになる。

老子の哲学

 タオという概念は、道教の専売特許ではない。
これは中国の古くからのあらゆる思想の中に深く根付いていて、解釈も非常に多彩に富んでいる。

 万物の根源と言われるのは、あらゆる要素を結局はタオとして還元して考えられるからともされる。

 だが、結局タオとは何か。
典型的な説明としては、あらゆる存在と非存在の双方を成り立たせる原理。
ある種の精神的領域の境目。
宇宙に広がるエネルギー、あるいは根源的な気とする説などがある。
素粒子論 「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ
 また、哲学の文脈においては、タオは生きる目的や、方法そのものとして扱われる場合もある。

道教における基本的解釈

 論理的思考ではタオは解釈できるものではないという見解もある。
タオはそもそも何かであって何かではない。
つまり第一原因ですらない。
単に現実に存在する全てのものの、最も根本原理だというのなら、そういう解釈(第一原因)でいいのかもしれないが、タオはすべて、つまり非存在でもある。
時間や空間といった枠組みに囚われているものでもない。

 タオは、原因と結果という因果律から完全に独立していて、時空間に溢れる場に存在しながらも、時空間それ自体を超越しているもの、という概念なのである。

 タオは全てを包む万物の「たい」。
だがそこにあるあらゆる動き、あらゆる物質、あらゆる出来事、それらの形を具体的なものにしているのは、満ち溢れる気(エネルギー)である。
意識もまた、タオが気によって具体化したものだが、ここから還元的に、タオを操作する試みがある。
つまり意識により、あるいは意識的に行う物質の動作により、気を操って、まるで入れ物の内部の要素がその入れ物を逆に動かすように、タオを動かし、形を変えらせることもできるのではないか、という発想。
通常、神仙の術は、このような原理を根本としている。
コネクトーム 「意識とは何か」科学と哲学、無意識と世界の狭間で

タオから神仙道へ

 老子は、タオは説いても、神仙道の成立に関しては関与していないとされる。
(つまり、道家の開祖ではあっても、道教との関わりは薄い)
神仙道は、老子の思想を独自に解釈、または発展させたものであり、彼よりも後の時代の、戦国時代(紀元前5世紀~紀元前221)に成立した。

 後漢ごかん(25~220)の時代には、「太平道たいへいどう」や「五斗米道ごとべいどう」といった、様々な神憑り的な予言や、呪術、学問の神秘的解釈といった神仙道思想により、大衆の人気を集める集団も登場する。
太平道、五斗米道のどちらも、その創始者は、超人的な力を有する仙人という噂があった。
漢の仏教 「漢王朝」前漢と後漢。歴史学の始まり、司馬遷が史記を書いた頃

太平道。黄老思想、太平清領書

 太平道の創始者である張角ちょうかく(~184)は、「黄老思想こうろうしそう」を重視していたようである。

 黄老思想は、君主が素直に天に従い、無理に社会に関わることは避け、そこにむやみに物をつぎ込んだりもするべきでない、とする、道教における政治的思想のひとつ。
伝説的な古代の王、黄帝こうていを始祖としている。

 また、太平道に属していたという于吉うきつ(~200)が、神霊から授かった教えらしい、「太平清領書たいへいせいりょうしょ」が、教典とされた。
于吉は、死後に天に登り、仙人になったという話もある。

 太平道を率いて、三国時代(184~280)の始まりともされる「黄巾の乱」を起こしたのも、張角とされる。
だが乱を初めて間もなく、彼は病死した。
三国の始まり 「魏呉蜀の成立」曹操、孫権、劉備。三国時代を始めた人達の戦い

五斗米道。鶴鳴山、符術

 五斗米道を開いた張陵ちょうりょうは、より謎が多いという。
ただ彼は、桓帝かんていの治世(146~168)の生まれらしい。
官僚を養成する機関である「太学たいがく」で、広く学問を学んだこともまた確かとされる。

 張陵は信者に対して、5斗(9リットルほど)の米を要求したそうだが、五斗米道という団体名はそこからである。

 張陵自身は、しょく鶴鳴山かくめいざんで、仙人の修行を積んだと主張していたという。
彼は呪文を書いた「(お札)」を浮かべた神水を飲んでもらうことで、病気を治療することができたと伝えられている。

仙人の技という魔法

 太平道の于吉や、五斗米道の張陵は、仙人とされていたが、そのイメージはすでに、今日の我々が創作などでよく見るような、超人的な力を持っている存在であったようである。

 仙人が持っていた超常的な力とは、すなわち以下のようなもの。
・自らの姿を消す
・水上を歩く
・空を飛ぶ
・獣を使役する

 古今東西、我々が言う魔法なるもののイメージは、なかなかワンパターンらしい。
音楽魔術 「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎 月夜の魔女 「黒魔術と魔女」悪魔と交わる人達の魔法。なぜほうきで空を飛べるのか
 仙人はまた(于吉や張陵に関してそう伝えられているように)符や神水を用いた術により、病気を治療したとされる。

易経、五行思想

 (言ってしまえば)老子が説いた単なるタオは、神仙道になるに至り、魔術めいた要素を強めた。
一方で、哲学思想的な面でも、 ずいぶん飛躍があったようである。

 やはり古代の神である伏羲ふっきが著したとされる『易経えききょう』。
さらには、 古代における自然哲学とも称される『五行ごぎょう』の思想も取り込み、より物質的な超常的力、現象の根拠にもなった。

 易経の思想においては、対極なる陰陽おんみょうから生じる『しょう』、あるいは『八卦はっけ』により、宇宙のシステムを説明する。
宇宙は4つ、あるいは8つの象で、八卦はそれがとりうる形を示した記号という説もある。

 五行は、 古代中国的原子説とも言えよう。
万物は、互いに影響を及ぼし、組み換わることで変化し、天地の空間を循環するという、火、水、木、金、土の5つの元素を基盤として成り立っているという思想である。
実験室 「原子の発見の歴史」見えないものを研究した人たち
 また、易や五行は広く人気で、日本の陰陽道にも強い影響を与えた。
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仙界の階級制度

 仙人の世界は階級社会であり、真人、神仙といった、そのいくつかの呼び方によって区別がつくという説もある。
それらの呼び方は、誕生した時期がバラけていて、そこに見られる階級も、現実の社会の発展に合わせて、複雑化の傾向があるという。

 そう(960~1279)の時代の、道教書である『雲笈七籤うんきゅうしちせん』には、「上仙じょうせん」を最上位とする、以下のような階級が設定されているという。
上仙>「高仙こうせん」>「大仙たいせん」>「玄仙げんせん」>「真仙しんせん」>神仙>「霊仙れいせん」>「至仙しせん

天を舞う人、山の人

 仙人はもともと、『僊人せんにん』と表記されていたそうである。
僊という漢字には、普通に「山で修行を積む仙人」の意味合いがあるとされるが、むしろ、「軽やかに天を舞う人」というような意味が強かったともされる。

 仙人が仙人と書かれるようになったのは漢(紀元前206~紀元220)の時代かららしい。
こちらの字(仙)の方が、はっきりと「山の人」という意味を有していて、仙人が山で修行するというイメージは、この頃に形成されたのではないか、という見解もある。

 『老荘ろうそう』というふうに、老子(老子道徳経)とまとめられることがあるほど、道教(道家)において重要な書とされる『荘子そうし』では、真人、それに『神人』という表記も見られる。
真人は、タオを体得した理想的な人物。
神人は、様々な理を超越した、神的な人物とされる。
どちらも、水に濡れず火で燃えないような超人なようで、実質的には似たような存在のようである。
違いは、修行によって仙人になる真人、先天的に仙人の資質を有する神人という感じらしい。
老子は、真人の典型的例なようである。

 神仙という言葉は、単に神と仙人を合わせた呼び方ともされるが、元は「生まれながらの仙人」という意味もあったという。

 荘子の著者である荘子(紀元前369年~紀元前286)は、老子の道家思想をより発展させた人として知られている。

天仙、地仙、水仙

 『天仙てんせん』、『地仙ちせん』、『水仙すいせん』という、能力や、住んでいる領域に関連している区別もあるという。

 空を飛べるのは天仙だけであり、地仙や水仙より上とされることも多い。

 地仙は、天仙でないだけでなく、まだ修行を終えていない仙人ともされる。
天仙と比べると、特別な才がなくとも、努力次第で誰にでもなれるという説がある。
老子は地仙だったのかもしれない。

 水仙は、河などの近く、あるいは水中で生きている仙人で、地仙や天仙とは独立した存在のようなイメージもある。
天仙や地仙と優劣をつける場合でも、諸説がある。

仏教との関わり

 道教(神仙道)を開発し、広めた者たちは貪欲で、民間信仰の中の呪術や占いなどのほか、完全に学術的な哲学や医学、それに、異国の宗教の要素までも取り込んだとされる。

 特に仏教の呪法や修行法、宇宙論などは、道教にも大きく影響を与えているとされている。

 ただ、道教思想の中では、あらゆる根源はタオであるのだから、結局仏教はもともと道教であるとも言われる。

 釈迦しゃか(だけでなく、世界中のあらゆる宗教、哲学思想の開祖)は、太上老君たいじょうろうくん(神格化された老子)の化身とする説まである。
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仙人になる方法

 実際の歴史の中にも、不老不死を得たという仙人の記憶はあるという。
しかし実際問題、数百歳とか数千歳とかいう人が、確かな形でこの世界に存在していたとする根拠は、まったくと言っていいほどない。

 仙人となった者は、この世のあらゆるしがらみから解放されて、昇天するというような、不老不死とはやや矛盾するような考え方もあるが、このようなパターンはむしろ、現実との矛盾を解消するためのものともされる。

食事、呼吸、交わり、様々な修行法

 仙人になるための特別な修行法は、いくつか具体的に示されているが、いくらかは現在の健康療法にも繋がっているかもしれない。

 まず、穀物を食べず、キノコや木の実、薬草などのみを食す『辟穀へきこく』。
より多くの気を自らに取り込むための、特別な呼吸を行う『胎息たいそく』。
体を屈伸させたりして、血の巡りなどを活性化させる『導引どういん』。
様々な薬を服用する『煉丹れんたん』。
体の各部分に神を想定して、意識によってそれを認識する『存思そんし』。
男女の交わりにより、気を高める、あるいは活性化させる『房中術ぼうちゅうじゅつ』。

 上記のいずれも、仙人になるための方法であり、永遠の命を得るためのプロセス(過程)と考えられていた。
ただし、例えば房中術のように、流儀流派によっては懐疑的に捉えられるものもあったようである。

道教におけるミクロコスモス

 存思に関してだが、そもそも人体そのものが西洋錬金術などで言うような、ミクロコスモス(小宇宙)であり、 そこのいたるところに神々が生き潜んでいるという考え方が、道教にはある。

 ただその数自体には諸説ある。
体のかなり細い各部分に対応した、3万6000もの神々が存在しているという説。
季節に対応した24の神々が存在しているという説などが、よく言われる。

 ミクロコスモスは、広大なマクロコスモス(つまりは宇宙)と感応するので、 人の行動が宇宙そのものの動きにも影響を与えるというような考え方も、錬金術などと似ている。
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代表的な宇宙観

 道教学者の間でも、なかなか意見の一致しない道教的コスモロジー(宇宙観)であるが、それでも、代表的とされるパターンはいくつかある。

永遠に繰り返される天地の分離と合体

 『太上霊宝天地運度自然妙経たいじょうれいほうてんちうんどしぜんみょうきょう』という書曰く。
宇宙の始まりの頃に、天地がまず分かれた。
天と地は3600兆年ごとに分離と合体を繰り返してきたのであるが、その合体時には、火が天地全てを焼き尽くし、その後は水によってすべて平らとなる。
その合体の時に、全てはなくなるはずなのだが、徳(善行)を積んだ神仙だけは、その姿を変えて生き続けることができる。

 天と地は9万離れていて、地の中央には、仙人たちの世界(あるいは修行の場)である『崑崙山こんろんざん』があり、その周囲には、4億2万6250里の大地が広がっている。
崑崙山の上には9つの天があって、それぞれに神々が住まう。
人間は死ぬと、生きていた頃に積んだ徳によって、それに対応した天へと昇るわけだが、そこでその天の神々の支配を受けることになる。
ただし、徳をあまり積まなかった者は、崑崙山の地下、すなわち『地獄』へと堕ちることになる。
地獄は9層の地、9層の水、9層の風を越えた最下層であり、地獄王(閻魔大王?)の宮殿の周囲を、鬼たちがひしめいているような世界だという。
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 里は、時代や国によって変化してきたが、だいたい1里で500メートルくらいとされている。
(ただ時期と地域により1里の長さは、400メートル~4キロくらいまでとけっこう幅がある)
とすると天と地の長さは4万5000キロくらい。
地球の直径(1万3000キロほど)の3.5倍。
地球と月の距離(38万4000キロほど)の1/9ほどか。

 大地の大きさは、2億キロ。
つまりは地球の円周(4万1000キロほど)の5000倍くらいだろうか。
太陽の円周(437万9000キロほど)の46倍くらいでもある。
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天の三十六階層

 雲笈七籤では、天界が『欲界よくかい』、『色界しきかい』、『無色界むしきかい』に大別できるとしている。
さらには天界は、上記の「三界」に属する28天と、その上位である8天の、『三十六天』でもあるという。

 三界に二十八天というのは、仏教由来の概念とされ、そこにさらに上位の8天を設定することで、道教の優位性を強調しているという説もある。

 欲界は6天あり、下から順に、「太皇黄曽天たいこうこうそてん」、「太明玉完天たいめいぎょくかんてん」、「清明何童天せいめいかどうてん」、「玄胎平育天げんたいへいいくてん」、「元明文挙天げんめいぶんきょてん」、「七曜摩夷天しちようまいてん」。
場合によっては、地上や地獄も、この欲界の領域とされる。
欲界の天は、主に、殺生や盗み、その他様々な暴力などの、悪いことをしなかった者たちが行けるところであるらしい。
そこでの寿命は1万年程とされる。

 欲界の次の色界は18天で、下から、「虚無越衡天きょむえつこうてん」、「太極蒙翳天たいきょくもうえいてん」、「赤明和陽天せきめいわようてん」、「玄明恭華天げんめいきょうかてん」、「耀明宗飄天ようめいそうひょうてん」、「竺落皇笳天ちくようこうかてん」、「虚明堂曜天こめいどうようてん」、「観明端靖天かんめいせいたんてん」、「玄明恭慶天げんめいきょうけいてん」、「太煥極瑶天たいかんきょくようてん」、「元載孔升天げんさいこうしょうてん」、「太安皇崖天たいあんこうがいてん」、「顯定極風天けんていきょくふうてん」、「始黄孝芒天しこうこうぼうてん」、「太黄翁重天たいこうおうじゅうてん」、「無思江由天むしこうゆうてん」、「上揲阮樂天じょうせつげんがくてん」、「無極曇誓天むきょくどんせいてん」。
生前に、欲張ったり、怒ったりしたことがない人が行けるという(つまりほぼ全ての人は、ここにすら来れないと思われる)。
寿命は1億万年(1兆年?)とされる。

 色界のさらに上の無色界は4天。
下から、「皓庭霄度天こうていしょうどてん」、「淵通元洞天えんつうげんどうてん」、「翰寵妙成天かんちょうみょうせいてん」、「秀楽禁上天しゅうがくきんじょうてん
嘘や、計算づくなお世辞などを一切言わなかった人が来れるという。
寿命は1億こう年。
劫というのは、とにかくとてつもなく長い時間を表しているらしい。

 三界での生涯の間にも、徳を積むことはでき、上の天に移ることもできるとする説もあり、その場合は当然、無色界で徳を積めば、八天にも行けることになる。

 八天もまた、無色界のすぐ上の『上四天じょうしてん』、その上の『三清境さんせいきょう』、そして最上最高の天界である『大羅天だいらてん』とに分けられる。

 上四天は、下から「無上常融天むじょうじょうゆうてん」、「玉隆騰勝天ぎょくりゅうとうしょうてん」、「龍變梵度天りゅうべんぼんどてん」、「平育賈奕天へいいくかえきてん」の4天。
ここからは、火、水、風の三災が及ばず、永遠の生命ばかりがあるという。

 そして三清境は、「大赤天だいせきてん」、「禹余天うよてん」、「清微天せいびてん」。
この三天の並びは、特に違っている場合が多くあり、いまいちはっきりしない。
やはり諸説あるが、太上老君はこの領域とする説がわりと有力。

 大羅天は、麒麟きりんりゅうといった、ありがたい霊獣れいじゅうたちが住まう世界で、 その中央には森羅万象の都があるとされる。
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さらにその都の中央には、『玉京ぎょくきょう』という宮殿があり、道教の最高神として名高い、元始天尊げんしてんそんが住まうという。
この宇宙に関するすべてのことは、そこからコントロールされているとも言われる。
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三清、三宝君。元始天尊、太上老君、太上道君

 元始天尊は、太元(天地の始まり)の神格化ともされ、太上老君、それに、タオそのもの神格化とされる太上道君たいじょうどうくんと合わせて、『三清さんせい』とも称される。
そういうわけで、元始天尊は、太上老君、太上道君と共に、三清境を納める『三宝君さんぽうくん』と同一視される。

 三宝君とは、玉清境ぎょくせいきょう(清微天)の天宝君てんぽうくん上清境じょうせいきょう(禹余天)の霊宝君れいぽうくん太清境たいせいきょう(大赤天)の神宝君しんぽうくん

伝説、あるいは実在する霊山

三神山。蓬萊、瀛洲、方丈

 黄河こうがが注ぐ渤海ぼっかいには、仙人たちが住まう理想郷である『三神山さんしんざん』があるという伝説があった。
現在は蜃気楼だったのではなかろうかと推測されているが、岸辺に立って東を見た時に、突然に島影が見えることがあったのだという。
(しかしもちろん、そこにたどり着いて、また帰ってきた者はいなかったとされる)
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 三神山とは、すなわち『蓬萊ほうらい』、『瀛洲えいしゅう』、『方丈ほうじょう』の3つの山で、いずれも壺の形をしているらしい。
そのため、三壺山さんこさんと呼ばれる場合もある。

 そこは地上だけなく、天まで含まれたすべての川が流れ込んでくる領域であり、壮大な山々の頂上には、仙人たちが住む宮殿が広がっている。
動物たちは純粋なる白色をしていて、木の実は究極的に美味しい上に、不老不死の薬の核でもあるという。

 かなり大きいともされていた。
山々は9000里(4500キロくらい)に広がっていて、その周囲はさらに、3万里(1万5000キロくらい)ほどのスケールなのだという。

 古くは「岱輿たいよ」と「員嶠いんきょう」を加えた五神山だった、とする説も後世には唱えられた。

崑崙山。古くから信仰されてきた領域

 三神山は、崑崙山と同じく、仙人たちが住むとされる伝説上の山だが、より新しい時代に想像されたものと考えられている。
つまり崑崙山の方が、古くから知られている。

 少なくとも、老子よりさらに古い時代から伝わるという民間信仰における神仙(の元となった)思想において、最高の霊山とは、崑崙山であった。
また、四川省しせんしょうの方に、実際に崑崙という山脈があるらしいが、伝説のそれとはあまり関係がないようである。

 東の海上にあるとされる三神山に対し、崑崙山は遥か西の地にあるとされる。

 また、最高位の仙女である西王母せいおうぼが暮らしているらしいが、これは、他の山に置かれた最高位の仙人に呼応しての後付けという説がある。

五岳。泰山、華山、衡山、恒山、嵩山

 実際に存在し、道教の広まりと共によく信仰されてきた霊山として、山東省の「泰山たいざん」、陝西せんせい省の「華山かざん」、湖南省の「衡山こうざん」、山西省の「恒山こうざん」、河南省の「嵩山すうざん」の『五岳ごがく』がある。
それらは、実際には存在しない(?)ために、決してたどり着くことのできない神山に代わって、現実的な信仰の対象とされた山々であったとされる。

 五岳は、実際に存在している山であるために、現在の民間信仰においても、なかなか重要視される傾向が強い。

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