ビッグバン理論とは
一般相対性理論
決定的な始まりは、1916年のアインシュタインの論文だった。
彼は自身が、1905年に発表した、『特殊相対性理論(special theory of relativity)』とニュートンの『万有引力の定理(Universal gravitation theorem)』との矛盾をどうにかしようとして、新たに『一般相対性理論(general theory of relativity)』というものを提唱したのだ。
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一般相対性理論は、万有引力の定理の修正版とも言うべき、『重力(gravity)』の理論である。
どうにかした矛盾とは、万有引力の定理では、物質同士の引力(重力)は即座に伝わるが、特殊相対性理論は、光より速く情報は伝わるはずないというもの。
非ユークリッド幾何学。リーマン幾何学
ところで、紀元前の原論にて完全に確立された、平面上の幾何学である『ユークリッド幾何学(Euclidean geometry)』。
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このユークリッド幾何学と基礎的な部分で矛盾する平面幾何学を『非ユークリッド幾何学(Non-Euclidean geometry)』と言い、『リーマン幾何学』はそのような非ユークリッド幾何学のひとつである。
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リーマン幾何学は、地球上のような球面などの、曲がった空間の幾何学。
例えばユークリッド幾何学において、三角形の三つの角度の和は、必ず180度になるのだが、曲がった空間ではそうとは限らないのである。
アインシュタインは、実はこの現実世界という時空間も、そのような曲がった幾何学が適用されるような世界だと考えたのである。
重力の原因は、質量が時空間を歪ませるという機構で、重力による引力は、重力により空間が曲がる事で、そこに存在する物質に与えられる影響であると、アインシュタインは示したのだ。
彼の計算式は、万有引力の定理よりも、より正確に重力による影響を記述出来る事から、少なくとも、より真実に近いと考えられている。
ブラックホール
しかし一般相対性理論の計算式からは、例えばブラックホールのような、アインシュタイン自身も認めたがらなかったほど奇妙な結論がいくつか導かれてしまう。
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静止していない宇宙論もそのような結論のひとつであった。
皮肉な事に、その静止していない宇宙の機構や、ブラックホールのような天体は現実に証明され、それが一般相対性理論の大きな根拠にもなっている。
遠ざかる銀河系
一般相対性理論の計算式は、どのように計算しても、宇宙空間が膨張か収縮のいずれかの状態を取っている事を証明している。
そこで、宇宙には無限に小さな『特異点(singular point)』と呼ばれる点から、膨張して始まったという『ビッグバン理論(Big bang theory)』は誕生した。
宇宙が膨張しているという事自体は、宇宙のあちこちの銀河系から地球に届く光の分析研究から、そうだと考えられるようになった。
それらの銀河の多くが互いに遠ざかっている事を、光の波長は示していたのだ。
重力で引き合うならともかく、銀河同士は離れていく。
この事に関して考えられる最も簡単な説明が、銀河系の置かれた空間自体が広がっているというもの。
つまりビッグバン理論である。
ちなみにビッグバンという名前は、もともとこの理論に反対していたフレッド・ホイルという人が、バカにしたニュアンスでつけた名前である。
ビッグバンの証拠。宇宙背景放射。初期の水素
かつてビッグバンのような事があったなら、まだ宇宙がそれほど大きくなかった頃に、小さな宇宙全体に広がった大量のエネルギーの名残が、宇宙中に漂う電磁波の形で現在にも残っているはずと考える者達もいた。
そうして、実際に『宇宙背景放射』というそれらしい電磁波も捉えられ、ビッグバン理論はかなり確からしい理論となった。
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宇宙背景放射を最初に(そのつもりではなかったのだが)捉えたのは、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンのふたりとされている。
また、ビッグバン理論が正しいとすると、遠くに見える宇宙ほど、過去の、つまり初期の宇宙、特異点に近しい領域のはずである。
それに、特異点はもちろん、小さな宇宙においても、物質を構成する素粒子は、狭すぎる中でせめぎあい、物質はおろか、原子にもなれなかったはず。
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だが、宇宙がある程度広がると、全体のエネルギーも広がった空間に分散し、素粒子は集まって原子を作る。
しかし、最初に作られるようになるのは最も単純な原子である水素のはず。
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つまり初期の宇宙には水素ばかりが大量にあるというのも推測できる。
そして遠くの領域の光の分析研究は、やはり遠くの、つまり初期の宇宙には水素が溢れている事を示しているのである。
インフレーション理論
宇宙はどこも似ているように見える。
宇宙が徐々に広がったとすると、ここまであちこち似たような領域にはならないのではないかという批判がかつてあった。
そこで佐藤勝彦やアラン・グースに考え出されたのが、宇宙の初期に、急激な空間の膨張があったとする『インフレーション理論』である。
佐藤勝彦の提唱した時の名前『指数関数的膨張理論』はセンスのない名前だとされているが、インフレーションよりこっちの方が言わんとしている事はわかりやすいと思う
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残された謎
銀河系。ボイド領域。ダークマター
宇宙がビッグバンで始まったのだとして、この宇宙の銀河系などの階層構造はどのようにつくられたのであろうか。
銀河系は宇宙の全てではない。
実際のところ、宇宙の大半、少なくとも地球から我々が観測出来る範囲の大半は、『ボイド(空洞)』と呼ばれる、何もなさそうな領域である。
そんな中で、恒星が群れをなしてるような銀河系は、どのように出来たのか。
普通、銀河系の中心には巨大なブラックホールが存在するらしい事がわかっている。
そのような巨大ブラックホールの引力が、恒星を引き付け、銀河を成すのであろうか。
だが、巨大ブラックホールが銀河系を作り維持しているなら、当然その引力は、そのブラックホール付近、つまり銀河中心の方が強い事になろう。
ところが、銀河系に及んでいるらしい重力は、中心付近も、外側もあまり違わない事がわかってきてしまう。
そこで銀河系構造を維持する重力源として、我々には認識できない謎の物質『ダークマター』が提唱される事となった。
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特異点と宇宙の始まり
ロジャー・ペンローズとスティーヴン・ホーキングにより、一般相対性理路が正しいならば、特異点も必ず存在するという事は、実は数学的に証明されてしまっている。
特異点というか、始まりがあったというのはどういう事だろうか。
宇宙が始まる前とは何か。
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特異点は集約された点だとすると、それはこの宇宙全てを詰め込んだ質量という事になる。
そんな状態があるとして、それに現在考えられてるような物理法則は適用できないのは、ほぼ間違いない。
なぜなら、仮にそんな膨大な質量の点がありえるならば、それはブラックホールどころでない。
広がりようがない。
だが、広がるとはどこにひろがっているのか。
空間が広がっているのが空間でなく、少なくとも我々が知るような空間でないとするならどうか。
そこがどういう原理で成り立つのかを我々が知らない以上、案外あまり問題でもない可能性はあろう。
特異点が無ならどうか。
つまり無からこの宇宙が生じたのだとしたら。
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そっちもけっこうありえないように思える。
無から有が生じるなど、実にバカバカしい。
しかしそのような考えも、この時空間内の常識に縛られてるが故のイメージかもしれない。
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ビッグバンは宇宙創造の唯一の方法か
ビッグバンは神が宇宙を創造した技だとされる。
カバラを解き明かした先に、このような(点から膨張させる事で宇宙を作る)方法が導き出されたというような記録がないのは残念である。
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ここで、この宇宙がビッグバンで作られたのだとして、宇宙を作る方法がビッグバンだけなのかという疑問が浮かぶ。
仮にこの宇宙がシミュレーションのようなものなら、ほぼ確実にビッグバンは単にシナリオのひとつにすぎないであろう。
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では、宇宙がどこかで自然に出来るものならばどうか。
ビッグバン以外のシナリオはありえるか。
それがどのようなものかはわからない。
しかし逆に、こう考えてはどうか。
もし宇宙がビッグバンでしか出来ないなら、それは何を意味しているか。
それはつまり、この宇宙を、例えば完全には再現できない事を意味する。
つまり、あらゆる条件が、現実の宇宙にしか思えないようなシミュレーションを始めたとする。
そのシミュレーション内で、そのシミュレーションの宇宙が本物の宇宙だと信じる存在、
そんな存在がありえない事が示されているのかもしれない。
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ビッグバンでなく、高温時期の証拠か
ビッグバン理論の有力な証拠とされる、宇宙背景放射や、水素原子の比率。
これらは、ビッグバンの証拠というより、おそらくは100億~150億年くらい前に、我々が観測できる範囲の領域で、凄まじい高熱が発生していた証拠である。
だが、この宇宙内部に、そのような広範囲を同時期に高温化する原理があるとは考えにくい。
「サイクリック宇宙論」繰り返す宇宙モデルの基礎知識
ビッグバン理論が正しくないとするなら、やはりこの宇宙は、外部のコントロール下にあるものなのではないだろうか。