「ナノテクノロジー」未来、錬金術、世界征服。我々は何をしようとしているか

ナノというスケール

 そもそもナノとはどのくらいの大きさであろうか。
とりあえず1ナノメートルとは、0.0000000001(10億分の1)メートルのことである。
つまり、0.000001ミリメートルのこと。

 参考までに、原子1個の大きさは、1オングストロームほどだとされている。
つまり0.0000001ミリメートルである。
よって1ナノメートルは、原子1個の10倍ほどの大きさということになる。
化学反応「化学反応の基礎」原子とは何か、分子量は何の量か  そしてナノテクノロジーとは、そのスケールの機械(マシン)、システムを利用した工学技術(テクノロジー)のこと。
実際的には、原子や分子を意図した形で動かし、調整したりするシステムこそが、ナノテクノロジーである。

トップダウン、ボトムアップ

 ナノテクノロジーは大まかに二つのタイプに分類されると考えられている。
ある物体や構造を、単純に小型化していく『トップダウン式(Top-down approaches)』とか「削り込み方式」とか呼ばれる方法。
それに、微小な原子や分子自体を直接部品として、極小構造を作っていく、『ボトムアップ式(Bottom-up approaches)』とか「組み上げ方式」と呼ばれる方法である。

 どちらにしても、我々がマクロな領域(目に見える程度の領域)で、古くから実現してきたような工学技術を、より小さなスケールで実現しようという試みである。
(スケールの小さな機械工学である)

 例えば、木の家と、木の船は、どちらも紀元前からあると考えられている。
その時代の技術者Aは、木の家を破壊して、その木材をリサイクルして船を作ることもあったろう。
ナノマシンが、木材から抽出した炭素を使って、ダイヤモンドを作るのは、技術者Aがやってたことと本質的には変わらない。

 我々はいろいろ部品を使って構造物を造るが、実はその部品も構造物なのであって、ナノテクノロジーとは、その部品1つすらも、しっかり構造物として扱う分野とも言えよう。

1ミリに、100億冊の情報量

 かの有名な物理学者リチャード・ファインマン(Richard Phillips Feynman。1918~1988)は、かつて述べたという。
「底にはまだまだ余裕がある。実のところ、1インチ(2.54cm)の1/200の立方体には、2400万冊の本に書かれた全情報を詰め込むことができる」

 まず2400万冊というのは、国際的な大図書館の蔵書の数などから算出された、全世界に存在する、有意義であろう本の数(ファインマンの時代の話)。

 ファインマンは、原子5個ぶんくらいの大きさのアルファベットを想定して計算し、上記の結果を導きだしたのだそうである。

日本語で考えてみる

 アルファベット言語なんてどれほどのものだろうか。
日本語の国で育った人の中には、この言語こそ、最も何かを記述したり、表現したりするのに理想的な、素晴らしい言語だと考えている人も多いのでなかろうか。
では日本語で考えてみよう。

 普通、日本語の文章を書くのに必要な単体文字は、ひらがな全部に、カタカナ全部に、漢字全部。
ひらがなとカタカナなんて大した数でもないだろうが、問題は漢字である。
大規模な漢字の辞典では、5万文字ぐらいが掲載されているらしいが、実際には、10万文字を超えるとも言われる。
では大げさに100万文字と考えよう。
(実際問題、日本語のありとあらゆる文章を記述するにあたり、それだけの漢字なんて別に必要ないのはかなり確実である)

 では、仮に原子100個入る領域を文字とする。
50の原子の配列でそれらを区別すると、そのパターンは全部で10^29くらい。
これは1じょうという大きな数よりも上で、100万なんて余裕で超えている。
つまりは、控えめに言って、日本語の文字を表現するのに、原子100個が並ぶスペースさえあれば、十分すぎるわけである。

 原子1個は0.0000001ミリメートルくらいとされてるから、100並ぶスペースということで、0.00001ミリメートルの長さで1文字ということになる。

 日本語では、10万文字で文庫本1冊くらいと言われる。
つまり上記のスケールの文字を使った場合、文庫本1冊に書かれた情報量は、1ミリメートルの長さの中に入ることになる。

 その1ミリがとても細いのは簡単にわかるであろう。
その小文庫本で、同じだけの高さと奥行きの立方体をつくろうと思ったら、10万×10万となる。
そしてその数、10000000000が、1ミリ×1ミリ×1ミリの立方体の、上記のスケールの文庫本の最大容量となる。

 つまり1立方ミリメートルには、少なくとも日本語の文庫本100億冊くらいの文字情報は保存できるわけである。

電子書籍という大発明

 世界中に存在するどんな名著であろうとも、はっきり言って空間の無駄遣いなのかもしれない。
ファインマンの言う通り、底にはまだまだ余裕があるようだから。

 ところで、原子1個1個をコントロールするというようなレベルにはまだないものの、コンピューターというのは、ある意味で大雑把なナノテクノロジーである。
少ない空間に、大量の本の情報と言うのも、 まだまだ理想的なものではないだろうが、かなり実現されてきている。
コンピュータの操作「コンピューターの構成の基礎知識」1と0の極限を目指す機械1ビット「ビットとは何か」情報量の原子は本質的にも原子であるのか  一般的な電子書籍端末は、その内部に、機械語に翻訳した多量の文字データが保存されている。
それらは1冊の本(と定義された量)ごとに、まとまったデータ領域(ファイル)として区別されていて、利用者が読みたいと思った本の文章を、モニター画面上に、細かな光の点の組み合わせで表現、表示する。
レンダリング中「ブラウザの仕組み」レンダリングはいかにして行われるか?  まるで魔法である。
音楽魔術「現代魔術入門」科学時代の魔法の基礎  しかし、本当にコンピューターを、ナノテクノロジーでなくとも、それと似たような類のものと考えてしまうと、還元主義的には(つまり原子論、素粒子論的には)、結局全てのものがナノテクノロジーと同義になってしまうかもしれない。

 この宇宙はもしかしたら、ナノテクを利用したコンピューターかもしれないわけである(本当に物質の本質が原子にあるなら、そう考えるのはあまり奇妙でもない)
宇宙プログラム「宇宙プログラム説」量子コンピュータのシミュレーションの可能性

ナノテク・アセンブラーシステム

 ナノマシンに関する問題は、「グレイグー(薄気味悪い)問題」と呼ばれることがある。

科学時代の錬金術

 ナノテクノロジーこそ神の御業であるという説もある。
地球で確認できる物質というものは、今のところ、みんな原子の組み合わせでできているようだから、そのスケールでの正確なコントロールが可能なナノマシンシステムが完成したとすれば、我々は実質的に、あらゆる物質を好きに作り出すことができるようになるだろうからだ。

 そういうシステムの呼称として、実用的ナノテクシステム概念の提唱者ともされるエリック・ドレクスラー(Kim Eric Drexler)の、『ナノテク・アセンブラー』というのがある。

 考えてみたら、よく言われる、医療に使えるというのもちょっと控えめな言い方で、実際的には、我々はナノテクノロジーによって不老不死を獲得できる可能性すらある。

 万物を作り出せる能力、不老不死、まさしく神の力である。
錬金術「錬金術」化学の裏側の魔術。ヘルメス思想と賢者の石カバラ「カバラ神秘主義」セフィロトの樹の解説と考察。神様の世界創造魔術 (聖書によると)我々は特殊なリンゴをかじって知恵をつけたから永遠の楽園を追放されてしまったが、その知恵を極めることで、自分たちでそれを作ろうとしているのかもしれない。
(そうなったら聖書の神は、本格的に悪者扱いになるかもしれない)
十字架「キリスト教」聖書に加えられた新たな福音、新たな約束  ナノテクノロジーという名称自体は、ドレクスラーよりさらに以前、谷口紀男たにぐちのりお(1912~1999)の提唱とされる。

奴隷になるべくして造られる人造人間

 不老不死もけっこうだが、我々にとってもうひとつ理想的なことがある。
つまり、元々いる動物や植物を殺すことなく、我々は生きるための糧、ようするに肉や野菜といった食べ物を生成することができるようになるかもしれない。
倫理学「人間と動物の哲学、倫理学」種族差別の思想。違いは何か、賢いとは何か なんて凄い。
我々は食べるために働かなくてよくなるかもしれない。

 しかしナノテクノロジーが本当に、そんな手軽な錬金術なら、それを利用して作られた、世界は本当に理想になりえるだろうか。

 誰でも欲しい物が手軽に手に入る世界なんて言えば確かにとてつもないが、そこにホムンクルス(人造人間)とかが現れてしまった時、恐怖を感じる人は多いのでなかろうか。

 実際問題、不老不死なんてものが実現できるなら、おそらく生物の生成もナノテクノロジーで可能だろう。
当然、人間1人を作ることもできるはず。

 最初に人間を作るのは純粋な好奇心ですらない可能性もある。
そんなナノマシンが実用化されてるような時代の我々が、まだ我々のままだというのなら、最初に作られる人間は美少女かもしれない。
そんな事になってしまったら、もしかすると未来の世界の住人は、基本的に父親か母親のどちらかが人造人間なのが普通、ということになってしまっておかしくない。
美人のファッション可愛い子はずるいのか?「我々はなぜ美しいものが好きか」

世界を支配する力

 そもそも今のように、普通に妊娠して、母から子供が生まれるのが普通でなくなるだろうか。
子供がそうやって作るものになってしまったのなら親子関係と言う概念は消え失せていくかもしれない。
というより消えてくれてた方が、恐くないと思われる。
卵「胚発生とは何か」過程と調節、生物はどんなふうに形成されるのかの謎  なぜなら、本当にそんなふうに好きなように人間を作れるようになってしまったとして、やはりその時点で、我々が我々のままなら、必ず下衆な欲望をそこに絡ませてくる輩が大勢いるだろうからだ。
極論的かもしれないが、子供を作った理由に関して、純粋に子供が欲しいからという親よりも、奴隷が欲しいからという親の方が、増えるかもしれない。

 だが我々は我々のままでいれるのだろうか。
ナノテクノロジーで人間が作れたり、不老不死になれたりするということは、我々という存在も、しょせんは物質の相互作用にすぎないということの証明でもある。
とすると、最初に大規模なナノテクノロジーシステムを手に入れた者(か者たち)は、文字通り神のような存在になって、世界自体を自分の好きなように作り変えることができるようになる可能性もある。
「オートポイエーシスな生命システム」物質の私たち。時空間の中の私たち  怪我を治すとか、病原菌を取り除くとか、食べ物を作るとかならいいが、この心という人間だけは絶対に作れるのはまずいであろう。
少なくとも、その恩恵を受ける(おそらくは一部の)人以外にとっては。

ひとつの崩壊のシナリオ

 実は最も理想的とされるようなナノマシンシステムにおいても、我々は本当の神からはまだまだ程遠い。
結局のところ我々は、それで物理法則を破れるわけではない。
光より速く動けることはないし当然のことながら本当に何もないところから 質量を生み出すことはできないまま死んで肉屋人間を作る時そこには必ず変換される前の資源が必要になる。

 そして人類の暴走も問題だが、機械の暴走も問題である。
仮にナノマシンが、我々に楽させてくれるために、食べ物をオートで作ってくれるシステムが完成したとしよう。
だがもし、何らかのプログラムミスや、人為的な悪戯(なんて表現するにはやばすぎる悪戯)なんかで、 その過程のコントロールが効かなくなってしまったらどうだろうか。
必要もないのにひたすらに肉を続けるナノテク・アセンブラーは、 止めることができなければ、地球の資源全てを(もしかしたら人類も含めて)肉に変えてしまう可能性もある。
全部を肉に変えるとは、ある意味で核爆弾よりも恐ろしい話である。

 あるいはもっと映画的に、ひたすら膨らんでいく肉が、都市を飲み込んでいく、というような様を想像する者もいるという。

ナノテク戦争に正義はあるか

 実際的に機械の暴走は未然に防ぐ手段が数多くあるだろうとされる。
単純に根本的なプログラムとして、ある数以上に達した時に、自動停止するようにしておくとか。
あるいは、システムを動かすのは、物理的に完全に密閉された空間、例えば真空の領域に囲まれた実験室とかに限定するとか。

 未来には、何でもいいから物を入れたら、それを素材として、内部のナノテクシステムが、好きなものを作り、排出してくれる箱なんかがあるかもしれない。

 やはり問題は人間の方である。
(本当に我々がただの物質(原子の相互作用)なら)ナノテクシステムを最初に得た者は、世界を支配できるというのは大げさな話ではない。
これが核兵器に比べてより恐ろしいのは、やはり現象のスケールの調整が行いやすいからだろう。
仮に、物質を好きに組み替えるテクノロジーを、自分だけが持っているとしたら、と想像してみれば、 そうでない者など1人残らず、玩具と同じようなものだということは明白になろう。

 おそらく、ナノテクノロジーで、最も優先して開発すべきものは、ナノテクシステムに対抗するためのセキュリティである。

アクティブシールド

 例えば、体内から異物や病原菌を消去していく、我々の免疫機構は、身体を守るための、天然ナノテクセキュリティと言えなくもない。
このような防御システムを、人工的に開発することができれば、逆にナノテクの攻撃を防ぐための手段となりえるかもしれない。
花粉症マスク「アレルギー発症のメカニズム」なぜ起きるのか?なぜ増えたのか?  危険なナノマシンに対抗するためのナノマシンシステムは、「アクティブシールド(活動盾)」と呼ばれることがある。
やはり、ドレクスラーの提案らしい。

世界の実態と、物質の扱い方に関して

 極論を言えば我々を含め、すべての物質は分子化合物である。
そして、人工的にせよ、天然にせよ、今のところ、原子1個をそれ以上のスケールのシステムの基盤とする例は発見されていない。
ナノマシンと呼ばれるものも、本質的には我々と同じような分子化合物である。

 例えば『DNA』というのは、生命体を構築する天然ナノマシンでないか、というふうに言われることがある。
それも、「デオキシリボース(C5H10O4)」と「リン酸(H3PO4)」。
それに4つの塩基と呼ばれる分子、「アデニン(C5H5N5)」、「チミン(C5H6N2O2)」、「グアニン(C5H5N5O)」、「シトシン(C4H5N3O)」が組合わさった構造の、やはり分子化合物である。
細胞分裂イメージDNAと細胞分裂時のミスコピー「突然変異とは何か?」

最小のものに、情報を持たせられるか

 もし原子1個に、意図した形で機械的な要素を与える技術が開発されたら、それはおそらくナノマシンとは呼ばれないと思われる。
そもそもそんなこと可能であろうか。

 我々は、様々な情報というものが重要であるということを理解しているとしても、実際問題、それらが空間(もしくはそうでないどこか)をどのように占めているのかを全然知らない。
ならば原子と言わず、もっと小さな、文字通り宇宙で最小の素粒子ですら、コントロールするために必要となる情報をもたらせれる可能性はなくもない。
量子「量子論」波動で揺らぐ現実。プランクからシュレーディンガーへ素粒子論「物質構成の素粒子論」エネルギーと場、宇宙空間の簡単なイメージ  また意図した形で動かすだけなら、もっと大きなスケールから可能かもしれない。
実際、我々が手を使って小さな玩具を動かしている時、それは意図した形で、自分たちよりも小さな物体(玩具)を動かしていると言えないだろうか。

バルク状態にあるもの

 物質は基本的に他の物質と触れ合っている。
例えばテーブルに置かれた、水の入ったコップは、テーブル、水、空気と触れ合っている。
あなたがコップの水を飲もうと思えば、多分あなた(の皮膚)にも触れることになる。

 しかし我々が普段見ているような物質の大半は、その大部分、 自分自身と触れ合っているとも言える。
水も空気も、たいてい自分たちでふれあっている。
「視覚システム」脳の機能が生成する仕組みの謎。意識はどの段階なのか  しかし実際、ある物質というのはどこで区切るべきであろうか。

 とにかくそのように、自身とのみ触れあっている領域は『バルク(Bulk)』という。
というか、ある物体のバルクとは、基本的に表面以外の部分と考えていい。

 曖昧な基準だが、質量全体において、バルクをわりと持ってるような物体は「バルク状態」、バルクがあまりないような物体は「非バルク状態」と呼ばれる。
ナノスケールの物体には非バルクが多い。

 同じ原子の、似たような集まりであっても、バルクか非バルクかで、けっこう性質が異なってくることもある。
例えば、金をナノサイズの微粒子にして、ガラス上に散りばめると、淡い赤色を発したりするとされる。

必要なのはマテリアル

 『フラーレン』、『ナノチューブ』、『ナノコーン』などに代表されるような、ナノスケールの物体は、それ自体、より上の段階のシステムの要素、つまりは『ナノマテリアル(ナノ素材)』になりうる。
それらには、バルクな物質には見られない特性が備わっていることも、わりとある。

 例えばバルク状態の炭素化合物は、基本、電導体とされる。
しかしナノスケールの炭素物質である「カーボンナノチューブ」は、その構造によって、半導体の性質を持ってたり、容易に電子を放出したり、水素を貯蔵したりできるという。
雷「電磁気学」最初の場の理論。電気と磁気の関係電気回路「電気回路、電子回路、半導体の基礎知識」電子機器の脈  半導体として有名なケイ素化合物シリコンも、特に発行する性質などはないが、これが、ナノスケールの穴とされる微細構造を有する「ポーラスシリコン(多孔質シリコン)」となると、発光性質を持つようにもなるのである。

小さな領域限定のこと

 性質が変わる理由に関して、ナノスケール(非バルク)の物体は、表面積が大きいために、原子の移動などによる影響も大きいことがまず考えられる。

 また、電子の状態が変化して、『量子サイズ効果』と呼ばれるものを発生させているのだともされる。
バルクで発光しないのに、ナノスケールでは発光したりする原因はこれらしい。

現に存在するナノサイズの物体

ナノコーン、ナノベルト、ナノメタル

 ナノテクノロジーにおいて最も重要なことは、ナノサイズのマテリアルの製造や加工と言われることも多い。

 各種ナノマテリアルの名称は、その形状由来のことが多いようである。
1985年に発見されたとされるフラーレンは、原子が集まって、サッカーボールに似ているとされる球体構造を成したもの。
ナノチューブは、原子同士の配置関係は似ているものの、球体でなく筒状(チューブ)の形。
ナノコーンは、そのチューブの先端が細くなっていき、全体的にはコーンのような形をしている。

 フラーレンの呼称は、バックミンスター・フラー(Richard Buckminster Fuller。1895~1983)という人の建築物である、ジオデシック・ドームに由来するようである(注釈)
つまりフラーレンは、そのジオデシック・ドームとやらによく似た形状というわけである。

 『ナノワイヤー』、『ナノシート』、『ナノベルト』といった、薄い膜状の形のナノマテリアルもあり、それらも基本、形状を参考として、それぞれの名前を付けられている。

 また、三次元構造(バルク状)の物体であっても、ナノスケールのコントロールを駆使することで、従来では考えられないような特性を与えたり、あるいは性質を強めたりできる。
実際にナノ粒子をコントロールすることによって、 本来のそれよりもメリットを有する『ナノセラミックス』、『ナノメタル』、『ナノガラス』などが作られている。

(注釈)宇宙船地球号の概念

 バックミンスター・フラーは、「宇宙船地球号(Spaceship Earth)」 という概念を世に広めることに貢献した人として有名(提唱した人ではない)。
彼曰く、我らのこの惑星は、太陽というエネルギー炉を利用して機能を発揮する宇宙船で、我々はみんな宇宙飛行士らしい。

フラーレン。五角形と六角形

 最初に発見されたフラーレンは、炭素原子60個のもの。

 ある特定の原子のみで構成される物質を「同素体(allotrope)」と言うが、フラーレンは、炭素だけで構成される同素体の安定したものとして、ダイヤモンドとグラファイトに続く、第3のものであったという。

 原子が環状になった型を員環いんかんと言うが、フラーレンの球状構造は、5員環と6員環の表面で構成されている。

 当然と言えば当然の話だが、形状的には、5員環が五角形、6員環が六角形となる。

 最初に発見されたC60フラーレンは、、5員環が12面、6員環が2、6員環が20面の、 32面体であった。
より幾何学的に正確に言うなら、「切頂せっちょう二十面体(truncated icosahedron)」という形。

 切頂二十面体とは、正二十面体の各頂点を切り落とすと現れる形とされる。
つまりは、一般的なサッカーボールの形状である。

 どうもフラーレンというものは、それを構成する5員環の数が必ず12でないとダメらしい。
しかし6員環の数は どうでもいいらしく、なんならなくてもいいらしく、理論上最小のフラーレンは、、5員環のみで構成された、12面体のC20となる。

 一方で6員環の数を増やせば、大きなフラーレンを作れる。
例えば、安定状態で単離できる高次フラーレンとして、C70やC96などが知られている。

 球体の内部には金属原子2個程度を入れれる自由空間をもつともされ、不安定な原子を支えるカプセルの役目を果たすこともできるとされる。
また、曲面状に形成された電子ネットワークは、他の荷電粒子などを受けいれるスポンジ的な使い方もできるという。

 カプセルとして使用する場合の容量は、当然大きなサイズのフラーレンほど大きい。

カーボンナノチューブ。特に実用性が高い

 フラーレンに続く、重大な発見とされる、この円筒状ナノスケール物質は、カーボン(炭素)の名前通りに、やはり炭素だけで構成されている安定同素体である。
炭素原子が螺旋状の配列なのも、特殊な特徴だという。

 実用面でかなり重要なこととして、電気的特性、引張強度(引っ張る強さにどれくらい耐えれるかの限界)、復元性、 熱伝導などに優れているとされる。

 後に実験でちゃんと実証されたようだが、チューブのサイズや構造を変化させることで、半導体性質を持たせられることが、理論計算で示されると、ナノスケール電子デバイスのための要素として、特に注目されるようにもなった。

 その強度の強さから、将来、軌道エレベーターのワイヤーに利用できるのでないか、と考える人もけっこういる。

ナノスケールでの開発

走査型プローブ顕微鏡

 ところでナノという、単体原子から、そう変わらないようなスケールの物体の、フラーレンやらチューブやらという形は、どう確認されているのであろうか。

 現在、原子レベルでの形を測定するための顕微鏡として、一般的には『走査型そうさがたプロープ顕微鏡(Scanning Probe Microscope。SPM)』というのが知られている。

 ゲルト・ビーニッヒ(Gerd Binnig)とハインリッヒ・ローラー(Heinrich Rohrer。1933~2013)が、この顕微鏡の最初のバージョンを完成させたのは、やはり1980年代のこととされる。

 この顕微鏡は、それ自体も小さな触覚センサー(先端を尖らせた針)で、小さな物体の表面をなぞるように動かし、表面が作っている形を確認し、あとはモニターなどに拡大表示させるというもの。

 顕微鏡のような拡大装置が、対象を識別する能力を「分解能ぶんかいのう(Optical resolution)と言うが、走査型プローブ顕微鏡の空間的分解能は、通常の光学顕微鏡に比べると、かなり高いとされている。

 代表的なSPMとしては、物体表面を流れる微小な電流を利用する「走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope。STM)」。
原子間力を利用する「原子間力顕微鏡(atomic force microscope。AFM)などが知られている。

ナノマシニング、 光ピンセット、ポジションアセンブラ

 ナノスケールの構造を作るための、『ナノマシニング』という技術、あるいはそれを行うナノマシンは、SPMの応用と言える。
ようするに形を調べるために極細い針を使うのでなく、動かすためにそれを使うのである。

 その操作アーム(細い針)には、『光ピンセット(Laser Optical Tweezers。LOT)』と呼ばれるレーザー光が使われる場合もある。
それはレーザーの放射圧を上手く使って、誘電体微粒子を動かすものとされる。
光ピンセットを使う場合、物体に、実質直接触れなくても、その操作が行えると考えられるので、(操作による影響を極力なくしたい)生物関連の分野では特に重要ともされる。

 針にせよ、光にせよ、ナノスケールでの物体組み替えを実行するようなオートシステム(プログラム)、あるいはそれの実行プロセスには、『位置組み替え(Positional assembly。ポジションアセンブラ)』という総称がある。
そしてこの手法は、明らかにボトムアップ方式である。

 理論的には、ポジションアセンブラは、その過程を計算し尽くして実行することにより、その素材と、完成品が安定できる環境がある限り、どんな分子化合物もおそらく作れる。
しかし現時点では、そんなレベルに到達するのはまだまだ未来だと考えられている。

CVD法、レーザーアブレーション、光学リソグラフィ

 大きさや形状をいかに制御するか。
いかに効率よく大量生産を実現するか。
また「自己組織化(Self-organization)」、つまりは、ある種の条件下での自発的なナノ構造形成などの開発技術も、重要とされる。

 ナノ構造を作る方法としては、レーザービームをバルク物質に照射して、分解蒸発させて、小さな微粒子や、薄い膜を発生させる『レーザー照射法(Laser Illumination)』などもよく知られる。

 同じように、アーク放電(空気など絶縁を破壊するような放電)や、高温により分解したりもする。

 特に各種のガスを、高温で化学反応をさせて、微小な物体を形成させる方法は『CVD法(化学気相成長法)』と呼ばれる。

 ところで上記のレーザー照射法は、物体(たいてい個体)に、 レーザービームを照射し、表面の要素を削る『レーザーアブレーション(Laser ablation)』という技術も同じである。
カーボンナノチューブの取得は、精密に調整しなくとも、少しなら得れることが多いという。
この場合は、目当ての形の破片を、適当にぶっ壊した岩石の破片群から探しだすような感じとも言える。
しかしレーザーアブレーションは、もっと意図的な形で、加工技術として利用することもできるとされる。

 ようするに、光を型取り機のように使うことで、 ある特定のパターンの物質を意図的に作ることができる。
そういう技術は、『光学リソグラフィ(photolithography)』とか言われる。
これはカメラの写真現像技術の応用ともされる。
カメラ「カメラの仕組み」歴史。進化。種類。初心者の為の基礎知識 また、ナノテクノロジー分野で利用される場合は、『ナノリソグラフィ (Nanolithography) 』とも呼ばれる。

 光学リソグラフィは、「集積回路(integrated circuit。IC)」の製造過程で利用されることも有名である。

 光学リソグラフィのような方法は、トップダウン方式とされ、現在のナノテク開発においては、こっちが主流とされる。