「インフレーション理論」ビッグバンをわかりやすくした宇宙論

インフレーション

ビッグバン理論の問題点

 ジョージ・ガモフ、ラルフ・アルファー、ロバート・ハーマンらによって、1940年代に予言されたビッグバンの遺産である『宇宙背景放射(cosmic background radiation)』。

 1964年。
アメリカ合衆国のベル電話研究所のアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが、アンテナの雑音を減らす研究中に偶然に発見したそれは、ビッグバン理論の大きな勝利だった。
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 しかしながら、この理論には明らかな欠点もいくつかあった。
そもそもビッグバン理論が正しいなら、宇宙はおそらく『特異点(singular point)』から始まった事にかるが、そんなもの自体、我々には想像も出来ない。
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一様性問題

 現在の宇宙の、このあちこちに星が密集した銀河というような構造が、いかにして作られたかを説明するのも難しい。
そして遠く離れ、因果関係をあまり持たないはずの、それらの銀河が似通った構造なのはなぜかも、かつてのビッグバン理論では説明が難しい。

 これは『一様性問題(Uniformity problem)』と言われる。
昔からよく言われる。
なぜ宇宙はどこもかしこも似かよってるのか、という問題である。

 むしろ昔から、こんなちっぽけな星から確認できるだけの領域しか知らないのに、我々は何を知っているつもりなのか。
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平坦性問題

 宇宙の膨張速度をグラフ化したとして、その曲率はかなりの精度で0でないと、この宇宙にはならないとされる。
仮に曲率が小さすぎる(膨張速度が遅い)と、宇宙はさっさと潰れ、逆に曲率が大きすぎる(膨張速度が速い)と、宇宙内部の物質の距離が、すぐに開きすぎて、我々のような存在は生まれない。

 仮に創造神がいるとするなら、そいつは、非常に精密な計算に基づいて、この宇宙を作ったのだろう。
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 だが仮に創造神などいないとすると、なぜ宇宙はこれほど都合よく、曲率0なのか。
そういう疑問が『平坦性問題(Flatness problem)』と呼ばれている。

 しかし、単に偶然で片付けていけない事だろうか。

4つの力の統一理論

 自然界には4つの力が確認されている。
重力。
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電磁気力。
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強い力。
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それに、粒子の崩壊を引き起こしたりする力である、弱い力である。

 これらの力は、本来同じ力だったのが、ビッグバン後に、『真空の相転移(Vacuum phase transition)』という現象により、4つに枝分かれしたという説が、今は主流。
そのような説を、『力の統一理論(Unified theory of force)』とか、『大統一理論(Grand unified theory)』と言う。

真空の相転移

 物理学的な真空とは、文字通り空っぽの空間ではなく、量子力学的な最小エネルギーの空間である。
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さらに最小エネルギーであっても、量子は揺らぐ性質を持ち、時々、粒子と反粒子が生成されては、互いに打ち消しあっている。
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 相転移とは何かというと、温度の変化などにより、ものの性質が変わってしまう現象。
例えば液体が冷やされ、個体に変わったりする現象である。
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モノポールが見つからない宇宙

 ビッグバンの直後、小さな領域に全物質が詰め込まれた宇宙は、凄まじい高温であったが、宇宙が広がることによって、その温度は一気に冷やされていく。
そうして相転移によって、たったひとつだった力はひとつ、またひとつと別れ、結果的に現在のような4つになった。

 だが、(おそらくは急激な)相転移で、力が枝分かれしていったなら、電磁気力が誕生した時に、理論上は誕生したはずのある物が、今のところ確認されていない。

 例えば水を急速に冷やしたとする。
すると氷が出来るが、それはあまり整った形にはならないだろう。

 それと同じように、急速に電磁気力が、他の力が枝分かれした時に、理論上は『モノポール』という物が作られたはずなのだ。

 モノポールとはつまり、S極、あるいはN極のみの磁石である。
しかし、そんなものが見つかった事はこれまでにない。

インフレーション宇宙論とは何か

指数関数的膨張モデル。二人の提唱者

 『インフレーション宇宙論』は、ビッグバン理論自体のいくつかの問題点も解決する。
しかしこれは、本来はむしろ、ビッグバン理論と、力の統一理論の(モノポールが見つからないなどの)矛盾を解消する為に考え出された理論であった。

 1981年、佐藤勝彦は『指数関数的膨張モデル』というのを提唱。
そのすぐ後、彼とは独立に、アラン・グースも同じ発想の理論を『インフレーションモデル』という名称で発表した。
このインフレーションという名前は、非常に魅力的な名であるのか、内容は同じだが、現在、この理論は普通、インフレーション理論と呼ばれている。

宇宙を膨張させるエネルギー

 誕生したばかりの宇宙は、空っぽのようだが、その空間自体が、大きなエネルギーを有していた。
そのようなエネルギーは『真空エネルギー』と言われる。

 そのような真空エネルギーこそ、宇宙の膨張を加速させる、斥力となりうる。
特に生まれたての宇宙において、高い真空エネルギーによる、急激な膨張があったとするのが、インフレーション宇宙モデルなのである。

宇宙創成のシナリオ

 インフレーションモデルにおいて、描かれた宇宙初期のシナリオは以下のようなものである。
宇宙が誕生した直後。
10^-44、つまり0.000000000000000000000000000000000000000000001秒後くらいに、最初の相転移が発生。重力と、他の力が枝分かれする。

 その後10^-36、つまり宇宙誕生から、0.0000000000000000000000000000000000001秒後くらいに、強い力も誕生。
インフレーションが起きたのもこの時期だという。
10^-35秒から、10^-34秒後くらいというわずかな瞬間に、宇宙はおそらく10^43乗倍くらいになった。
これはその時に宇宙が原子1個くらいの大きさだったとしても、一気に1000000000000000000000000000000kmくらいの大きさになってしまうくらいの倍率である。

 このインフレーションが起きた時に、宇宙はそれにより急激に冷え、それによってまた真空の相転移が発生する。
その転移により、真空エネルギーは、大半が熱エネルギーへと変わり、宇宙全体の熱は逆に急激に上がる。
そうして、宇宙はビッグバン理論の提唱者であるジョージ・ガモフが『火の玉』と呼んでいたような状態となった。
インフレーションのシナリオでは、宇宙背景放射は、この時に発生した高熱の名残とされる。

インフレーションモデルの利点

 インフレーションモデルで重要なひとつは、急激な膨張により、存在したはずのものが、どこかに追いやられてしまったという可能性である。
例えばモノポールなんてまさにそう。
インフレーションが起こる時に、確かにモノポールは存在していたが、それらが存在していた領域は、我々にまだ光が届いてないような、遥か彼方に、インフレーションで追いやられたというふうに考えられるのだ。

 また、初期宇宙に生じていた小さな揺らぎが、インフレーションによって引き伸ばされる事で、銀河系や銀河団のタネになる場合がある事も示されている。

 平坦性問題も、急速なインフレーションが、曲率を擬似的に0にしてしまった可能性がよく語られる。

無から生じた真空エネルギー。ダークエネルギーか

 ごく初期の小さな宇宙は、真空のエネルギーも少なかったともされる。
しかしそうだとすると、インフレーションが起きた後の、宇宙を火の玉にしたほどの熱エネルギーとなった真空エネルギーは、どこから発生したのか。
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 実は真空エネルギーにはある特殊な性質があるのではないかと、考えられている。
それは宇宙の膨張に対して密度が下がらないのである。
つまり、ある空間が100倍の大きさになったなら、その空間の真空エネルギーも体積が100倍となった分、大きくなるのだ。

 重力で物が加速すると、まるで無から運動エネルギーが生じたようであるが、実は物は元々ポテンシャルエネルギーを持っていて、それが重力によって運動エネルギーに変換されている。

 宇宙膨張が重力による影響のように、宇宙のポテンシャルエネルギーを真空エネルギーに変換している。
そういうメカニズムにより、真空エネルギーも、宇宙のインフレーションに合わせ、インフレーションしたとも言われる。

 また、真空エネルギーはまだこの宇宙に残っていて、それこそダークエネルギーと呼ばれるものなのではないか、とする説もある。
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第二のインフレーション

 これはまた、奇妙な問題とされているのだが、今、宇宙は第二のインフレーション中なのだとされる。
現在の宇宙は加速膨張しているらしい観測データがあるのだ。

 ただそれ自体は、空間の膨張と共に、巨大になるダークエネルギー(真空エネルギー)の性質を受け入れれば、そうおかしな事でもない。
宇宙がインフレーションを起こし、大量のダークエネルギーが熱に変換されたものの、残っていたダークエネルギーが、また宇宙が膨張した事で大きくなってきたのだろう。

 奇妙とされるのは時期である。
現在の知見では、絶妙な量のダークエネルギーでなかったら、二度目のインフレーションは早すぎるか、遅すぎるかで、やはり膨張曲率は、我々を作れないような数値になっていたと考えられているのだ。

 やはり管理者がいるのだろうか?

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