「謎の人間たち」旅行者、哲学者たちの噂話。神話、民間伝承の奇形

尻尾を有する人たち

類人猿が失ってしまったもの

 人間と猿は、最も近しい時点での共通祖先を持っていると考えられている。
猿の中でも、チンパンジーやゴリラ、オラウータンなどの類人猿は、人間に近いカテゴリーである。
場合によっては人間自身も、類人猿として扱う場合がある。
というか、遺伝子的には、チンパンジーも一番近い生物が人間なのだから、チンパンジーを人間より遠いゴリラなどと一緒くたにするなら、人間もそこに含めるのが妥当とも言える。
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 人間含めて、類人猿は、他の猿とは明らかに異なるいくつかの特徴を持っているが、そのうちの1つは尻尾がないということ。

 正確には尻尾がかなり退化しているだけともされる。
類人猿の「脊柱せきちゅう(Vertebral column)」、ようするに背骨構造の終端には、その痕跡がある。
つまり、「尾てい骨」とも呼ばれる「尾骨びこつ(Coccyx)」という部分である。

 人の場合は、妊娠2ヶ月目ぐらいまでの胎児に、尻尾が確認できるらしい。
もちろん、このしっぽは勝手に壊れるために、持ったまま生まれる子供は普通いない。

 類人猿は他の猿に比べて、木の上を移動したりする場合でも、枝などをがっしりと掴む手に頼り気味である。
そこで、体を動かす際などにバランスを取るためのものといわれる尻尾が退化したのは、おそらく必要なくなったからだろう、とよく言われる。

インザガニン人の硬い尻尾

 ところが、古い記録の中には、尻尾を生やした人間を発見、あるいはそういう存在と遭遇したという話がわりと残っている。

 古くは、有尾人間の住みかとして、東南アジアの方の『大スンダ列島(Greater Sunda Islands)』や『マレー諸島(Malay Archipelago)』に属する「ボルネオ島」や「ジャワ島」が有名だったらしい。

 正確には、マレー諸島のうち、インドネシアあたりの島々がスンダ列島で、スンダ列島をさらに細かく大と小に分類した場合の、大の方が大スンダ。

 ボルネオは、南シナ海、スールー海(北東)、セレベス海、ジャワ海などに囲まれた島。
ジャワは、ジャワ海やバリ海とインド洋を繋ぐ海峡で、「スマトラ島」や「バリ島」と隣り合う島。
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 ピエトロ・マルティーレ(Peter Martyr)という人は、『インザガニン(Inzaganin)』という地域にいるらしい有尾人間に関して、「彼らはその尾を動かすことができない、それは魚やワニのそれのように硬い」としているという。
彼らは、その硬い尾のせいで、専用の穴の空いた椅子を使う必要があったそうである。

マレー諸島の野人の噂

 『博物誌(Naturalis Historia)』の著者として有名なプリニウス(Gaius Plinius Secundus。23~79)は、やはりアジアの「セイロン島(スリランカ)」に、素早い動きと長い尻尾が特徴的な人間がいるとしている。

 『東方見聞録(The Travels of Marco)』を書いたマルコ・ポーロ(Marco Polo。1254~1324)も、「ランブリ王国(スマトラ)」の山奥には、1パーム(20センチくらい)ほどの毛の生えてない尻尾を有する野人がいる、と語っている。

 ここまでのように、少なくともヨーロッパの方では(記録者によって、その生物の感じも異なってはいるが)「アジアのマレー諸島の方に尻尾のある人間が存在している」という噂は、かなり広く、多分結構真剣に受け止められていたわけである。

 また、中国の山奥にも、そのような生物がいるという噂があったようだが、それに関してはイエレンかもしれない。
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 文献マニアのジョン・アシュトン(John Ashton。1834~1911)が書いた、19世紀末の本である『奇怪動物百科(Curious creatures in zoology)』には、「マレー諸島に、尻尾の生えた毛深い人間がいると語る旅行者は今でも多い」とある。

アシュトンは、ダーウィン(Charles Robert Darwin。1809~1882)とわりと近しい時代の人だが、当然、進化論もしっかり知っていて、人間に進化した猿(例えばキツネザル)は尻尾を持っているわけだから、先祖返りの結果、そういう特徴が現れてもおかしくないはず、というような考え方も書いている。
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モノアイ。一つ目に見える世界

 日本でも、妖怪の一種という形で、一つ目人間は有名である。
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そもそも人間に限らず目が一つだけという生物は、遺伝的な問題などによる奇形を除けば、基本的にはいない。
人間型にせよ、そうでないにせよ、単眼生物、いわゆる『モノアイ(monoeye)』というのは、架空とされている生物ばかりである。

語り継がれる一つ目生物の伝説

 日本では一つ目の妖怪の話が多くあるため、一つ目族の国があるのではないか、という説まである。
有名なものとしては、日本で語り継がれている妖怪である、一つ目小僧(One-Eyed Goblin)や、一つ目入道(One-Eyed Monk)、バックベアード(Backbeard)。
また、おそらくは日本で最初の公式記録の鬼は単眼であった。
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 ヨーロッパにおいては、なぜかやたらと一つ目の巨人が多い。
最も有名なのは、ギリシャ神話に登場する一つ目の巨人キュクロープス(サイクロプス。Cyclopes)であろう。
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他にも、アイルランド神話における、悪意ある巨人族フォモールのリーダーともされる、破壊の力を有するバロル(Balor)も、伝承によっては一つ目らしい。
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スコットランドの民間伝承で語られるファハン(Fachan)は、 目だけでなく腕と足も1本ずつしか持たないという妖精であるが、やはり巨人という説もある。
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スペインのカンタブリアにも、オジャンカヌ(Ojáncanu)という、 巨大な野心的な一つ目巨人が伝わっている。

 一つ目巨人はヨーロッパに固有でもない。
例えばフィリピンには、ブンギスンギス(Bungisngis)とかいう、一つ目巨人の伝説が残っているという。
アメリカ大陸は、ブラジルの民間伝承の怪物マピングアリ(Mapinguari)も、時に、毛むくじゃらの一つ目巨人とされる。
さらに、インドのインドの叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する、顔なしな異形のラークシャサ(羅刹)、カバンダ(Kabandha)も、時に一つ目で描かれるらしい。
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オーストラリアの先住民アボリジニたちの神話にも、両手に持った棒の片方には炎が灯っているらしい一つ目巨人パピニジュワリス(Papinijuwari)が登場する。

 日本以外で、かつ巨人以外の一つ目伝説としては、ギリシア神話の、1つしかない目を共有している三姉妹グライアイ(Graeae)などが有名か。
他に、スラヴ地方(中欧、東欧)でも、リーホ(Likho)なる、不幸をもたらす一つ目の、不気味な女か、小鬼的な存在が伝えられる。
スラヴにはまた、馬の足や、犬の頭を有するプソグラ(Psoglav)という伝説なキメラもいるが、これも一つ目だという。

 一つ目は、人型生物が多いような気がするが、他にいないわけではない。
中国の伝説における、互いに1つの翼と1つの目しか持たないために、オスとメスが助け合わなければ生きていけないという、比翼鳥ひよくのとり。 
アメリカ合衆国で、かつて移民たちを恐怖させたという、スナリーギャスター(Snallygaster)とかいう、一つ目のドラゴンのような生物など。
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なぜ目は複数必要なのか

 通常、人間のような動物が、目を使った感知、つまり視覚システムを上手く使う場合は、必ず2個以上が必要になるというのは明らかなことである。
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我々が視覚によって収集している情報を考えればわかる。
我々が目を開いた時、確かめたいことといえば、周囲に何があるのかということの他に、それらの位置関係、距離感、立体感である。

 通常、三次元世界での、高さ、幅、奥行きの全てを正確に把握するには、2つ以上の視点はいる。
例えば殺風景な中で、10メートルくらいの大きさの箱が見えているとしよう。
しかしそれは実は、ものすごく遠くにある100メートルの箱が、距離の問題で10メートルの大きさに見えているだけかもしれない。
一方で、自分ともう1人の観察者が、その箱に対して三角の形になるような位置関係にある場合、2人の観察から得られた情報を合わせると(というか描ける三角形から)、正確な距離を測ることができる。
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異なる2人の観察者ほど遠くの視点はもちろん無理だが、人の目についた、少し離れた2つの目と、我々の情報処理装置である脳だけでも、周囲の物について、三角を想定して距離感を算出することぐらいはできる。
しかし目がひとつだけでは、この算出はどうしてもできない。
そんなこと、ひとつも角度がわかっていないある三角形を正確に描くくらいに難しいだろう。

 ちなみに、両目それぞれが えられる視覚的情報の、方向的差異は、『両眼視差りょうがんしさ(Binocular parallax)』とか言われている。

 もちろん両目がしっかり見える人でも、単純に片目を隠して過ごしてみればわかるだろうが、目が1つだけでも、距離感などがまったくつかめなくなるということはない。
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 しかし目が2つあるほうが、立体視がしやすいことは間違いない。

 目という器官が、単に光を感知するためのものと定義するならば、最初にそれを持った生物が1つ目だったことはほぼ間違いない。
その情報が少しでも処理されるようになり、視覚というものが誕生したのがいったいいつ頃のことなのかは、かなり謎ではある。

 何にせよ、複数の目があると立体視がしやすい。
このことが有利に働くのは、やはり、多細胞生物の大きめなスケールでの領域での、狩り、あるいはそういうのからの逃走においてであろう。
そういう状況だと、自然淘汰で、しっかりと両目を持つ生物が次世代に生き残りやすいはず。
基本的に目が1つだけという動物が全然いない理由は、進化論的には納得しやすい。
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アリマスポイ族とグリフィン

 紀元前5世紀に、しっかり残っているものとしては世界最古とされる歴史書の著者とされるヘロドトス(Herodotus)は、500年後のプリニウスより、アリマスポイ族(Arimaspi)に関してずっと懐疑的だったようである。

 ヘロドトスは、さらに前の時代のアリステアス(Aristeas)という詩人が残した記録から、この種族のことを知ったとされる。

 アリマスポイ族は、 ヨーロッパのかなり北の方にあったらしい、『リフィアン山脈(Riphean Mountains)』の近くに住んでいたとされる、一つ目人間、あるいは巨人たち。
よくグリフィン(Griffin)という、鉱山の金銀集めが趣味な怪鳥から宝を奪おうと、戦っていたとも。

 また、アリマスポイという人たち、あるいはその記録のルーツは、イラン系の遊牧民国家スキタイ(Scythia)の方にあって、その名前は元々、当時のスキタイにおける、アリアマ(愛)とアスパ(馬)の組み合わせだった。
それを、ヘロドトスか、彼の情報源の誰かが、アリマ(1つ)とスプー(目)の組み合わせだと勘違いしたために、神話的なイメージがついてしまった、という説もある。

 グリフィンに関しては、鳥盤類(Ornithischia)の恐竜の化石から着想されたのでないかという推測もある。
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一つ足は魔術師ばかりか

 スコットランドのファハンのような、目だけでなく他にも1つしかないという部分を持っている存在もいる。
一方で、目は1つではないのだが、他の部分が1つしかないという人形生物は意外に少なめかもしれない。
もっとも、その形があまりにも異形であったなら、もはや人形とは呼ばれなくなるだろうという問題もあるのだろうが。
しかしそういうのもいないわけではない。

インドかエチオピアのモノポッド

 例えばプリニウスは、モノポッド(Monopods)、あるいはスキアポッド(Skiapods。影足)なる、一つ足人についても語っているという。
この生物は一本足しかないにも関わらず、とんでもない俊敏性を有し、高く跳び跳ねられるらしい。
また、日差しがきつい日には、仰向けになって、自分のその大きな一本足を日除けに使うというような習性もあるとか(だから影足)。

 プリニウスは、ヘロドトスと同時代くらいの人らしい、クテシアス(Ctesias)なる人が書いた「インド誌(Indica)」のものが、それに関する最初の記録としている。

 もともとはインドの生物として認識されていたと思われるのだが、後世の記録では、この種が生息するのはエチオピアとする場合も多いようだ。

帽子を取り上げて、奴隷にもできるサチ

 ブラジルの伝承に登場するサチ(Saci)は、黒人かムラート(白人と黒人の混血)らしいので、移民たちが作り上げた、あるいは再解釈した伝説というのはほぼ間違いない。

 サチは一本足。
姿を消すために使える魔法の赤い帽子をかぶっていて、いつもパイプを吸っているらしいとか。
いたずら好きな性格で、よく人に迷惑をかけるが、その帽子をうまく盗むことができれば、返すお礼に願いを叶えてくれもするという。
ただし、その帽子はとても悪臭がきつく、一度でも手に取ってしまった者には、生涯その臭いが残るらしい。

 正確には、サチの帽子を取った者は、彼(?)を奴隷にできる。
帽子を返せば、それで解放となるのだが、サチは奴隷の期間に受けた扱いによって、良き友人にも、恐ろしい敵にも変わるのだという。

 また、この生物は、地表に発生した上昇気流が、砂などを巻き上げる突風現象、いわゆる「塵旋風じんせんぷう(Dust devil)」と関連付けられる。
ブラジルでは、古くは塵旋風というのは、サチの回転ダンスによるものと考えられていた。

後ろに向いた足

故郷を離れられないアバリモン

 足が反対向き(後ろに向いている形)についている人間というのも、遺伝子のバグ以外では考えにくいような気がする。
例によってプリニウスは、インドのヒマラヤ山脈の谷に生きているという、そのような生物を紹介している。

 アバリモン(Abarimon)なる、その反対足人間は、そんな姿にも関わらず、野獣並みに、とてつもなく速く走るのだそうだ。
その暮らしも、野獣たちとともに自然に溶け込んだものだが、かなり獰猛な性格で、捕獲などは難しいらしい。

 ローマの作家アウルス・ゲッリウス(Aulus Gellius。125~180)も、現存する唯一の著作「アッティカの夜(Noctes Atticae)」にて、アバリモンのことを書いているという。

 情報の出典は、アレキサンダー大王(Alexander III of Macedon。紀元前356~紀元前323)の土地測量士ベイトン(Baiton)のものとも。
彼は、アバリモンは自分たちの暮らす谷の空気でしか呼吸ができないために、他の場所へと連れだすことはできない、と語ったとされる。

 また、紀元前4世紀ぐらいのメガステネス(Megasthenes)は、「インド誌(Indika)」という書において、ヌリ(Nuli)なる反対足人間のことを紹介しているらしい。
この生物の1本しかない足には、指が8本あったそうだ。

妖精や人魚的な話

 アメリカ大陸の方にも、後ろ向きの足を持つ人間形の伝承が残っている。

 クルピラ(Curupira)は、ブラジルで語り継がれる、妖精のような、あるいは悪魔のような謎の生物だが、後ろ向きの足を持った小人のような姿で描写されることが多いという。
その名前には「水ぶくれに覆われた」というような意味があるらしいが、そういう感じに見えるのだろうか。
基本的には男みたいで、赤っぽい色の髪をしているともされるが、 地方によって、伝わる姿の差異も結構大きいようだ。
笛のような音を出して幻想を作り、普通の人を狂気に追いやるともされる。

 ドミニカにおいては、シグアパ(Ciguapa)という、やはり後ろ向きの足を有するという人間形の話が伝承されている。
(女性っぽい者が多いようだから、彼女らと言うべきかもしれないが)彼らは、茶色か紺色の肌に、体を覆うほどに長く光沢あるたてがみを持っているという。
夜行性のこの生物は、魔法特性を有し、直接にその姿を見てしまった者には、死が訪れるのだという話もある。
そうでなくても、その美しさで魅了した男を自分のテリトリーへと誘い込み、殺してしまう、恐ろしい存在として語られることも多い。
しかし特別に鍛えた犬を使うことによって、捕獲することも可能らしい。
伝承のパターンから、ヨーロッパ古来の人魚伝説との関連を推測する者も多い。

男でも女でもある第三の性別

 両性具有、つまりは男女両方の性を持っているという特異体質(?)は、創作においてはファンタジーよりも、むしろ、SFに登場する宇宙人などによく見られるかもしれない。

 創生神話などでは、本来が両性具有の始祖が、男女に分かれたというような話が時々見られる。
日本神話における初期の神々や、天照大神も、実は両性具有という説があるという。
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半陰陽、性分化疾患

 通常、受精卵が胚となり、胎児として発生していく過程において、性というのも決定する。
正確には受精卵の時点で、どう発生するかの情報も含むDNAはあるから、その時点で、男女どちらの性別になるか決定はしている。
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 よく知られているように、卵子のX染色体に対し、精子の染色体が同じくXか、Yかで、性別は決定する。
性染色体がXXなら女、XYなら男となる。
細胞分裂イメージ DNAと細胞分裂時のミスコピー「突然変異とは何か?」
しかしもちろん受精卵の段階で、性器はその形を成していない。
男女それぞれに特有の性器は、細胞分裂と変形によって作られるものだ。

 胎児がその形を見せた段階でも、まだ性器は持っていないとされる。
その後に、遺伝情報に応じたホルモンが放出され、発生細胞がそれを認識し、生殖器を生成していくわけである。
ただし、ホルモンに応じた変化は、 元の遺伝子情報自体とは関わりのないプロセスとされていて、かなり稀ではあるが、間違いがおこることがある。
そうした間違いにより、現実に、『半陰陽(Intersexuality, Hermaphrod)』とか『性分化疾患(Disorders of Sex Development)』と呼ばれる現象が発生することもある。

 半陰陽とは、染色体情報とは異なる性別が外見として現れたりする現象。
例えば生殖腺、つまりは卵巣とか精巣といった生殖細胞を作る器官と、外に見える部分である外性器の性別的状態に違いが生じていたりする。

 肉体的な性別と、精神的な性別が異なる、いわゆる性同一障害は、外見的設計ミスな半陰陽とは違い、おそらく神経系のエラーである。

強く素晴らしいアンドロギュノス

 古く、ギリシャでは、両性具有の人のことをアンドロギュノス(Androgynos)と呼んでいたとされる。

 哲学者のプラトン(Plato。紀元前427~紀元前347)は、自身の書いた、『饗宴きょうえん(Symposium)』という対話篇で、詩人のアリストパネス(Aristophanēs。紀元前446~紀元前385)に語らせている。
「性別は今のように2つではなく、もともと3つだった。つまりは、男性、女性、そしてそれら二つが合わさったものだ」
どうも、その合わさった奴は球体の形をしていて、 手も足も顔も全部2つずつ持っている存在だったらしい。
本来、男と女と、その第三の存在の関係は、太陽と月と地球のようなもので、そのためか、その球体の者の本来のものか、人間は神が嫉妬するほどに強く素晴らしかった。
だから神であるゼウスは、その球体生物も、男と女に分裂させてしまい、この世界には2つの生物しかなくなってしまったのだそうだ。

 哲学者のアリストテレス(Aristotelēs。紀元前384~紀元前322)も、右胸が男性で、左胸が女性のアンドロギュノスの話を残しているらしいが、これは多分神話の話ではないと思う。

 ギリシャではまた、アフリカの部族の中にも、両性具有の魔法使いがいるという噂があったともされる、
特にその存在は、思春期の若者に対し、悪い影響を与えたりする傾向が強いと言われていたようである。

 両性具有の者こそが、真に優れた人間であるという信仰は古くから多くの文化で見られるとも言われる。
日本においても陰陽五行が最も調和した存在というふうに、考えられてもいたらしい。

二つの瞳は別れたものか

 一つ目よりも、瞳を2つ持っているという人間たちの方が、多分ありえる。

重瞳、多瞳孔症

 瞳(瞳孔どうこう)とはそもそも、目という器官において、虹彩こうさいという膜により、囲まれた、光を通す孔である。
あるいは虹彩も含めて瞳とすることも多い。
ちなみに瞳の色は、虹彩が含むメラニンという色素の量などに関連しているとされる。

 普通なら瞳が2つあるというのは、つまり、虹彩を複数持っていると言ってもいい。
そして、(おそらく)胚発生段階での遺伝子情報的ミスや、後天的な事故などによる虹彩の分裂などにより、実際に眼球に瞳が2つという状態はありうるという。
病気とした場合の名称として、『重瞳ちょうどう』とか、『多瞳孔症たどうこうしょう(Polycoria)とかがある。
この症状の人は、取り込む光の屈折などの問題で、物が二重に見えてしまったりするともされる。
ただし、本当にはっきりと別れた2つの瞳があるというケースは、相当に稀らしい(実際にあるとしたらおそらく後天的)

 歴史資料などによると、どうも中国の偉人には、重瞳だった人が多いようである。

いったい水とどのような関係があるのか

 例によってギリシャ人たちは、スキタイ地域には、ビュティアエ(Bythiae)と呼ばれる、瞳二つの女性たちがいると噂していたという。

 アナトリアの黒海南岸側の方であるポントゥス(Pontus)の方では、片方の目に2つの瞳を持っている人間はそう珍しくない、というような話も残っているれしい。

 なぜだか、そういう人間は水に沈まないという特異体質を有しているともされる。

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